デジタルファースト時代に向けて、実績あるパーティによる知見が集結。導かれた結論とは
「デジタルファースト時代に向けて」セミナー会場の様子
▪️持続可能な社会づくりには、デジタル化が必然
私たち アドビの戦略とは、デジタルエクスペリエンスを通じて人々にものを創り出す力を与え、ビジネスの競争のあり方を変えていくこと。近年は Document Cloud、Creative Cloud、Experience Cloud というクラウドサービスで、すべての人にクリエイティブで生産性の高い創作環境やビジネス環境を提供しています。では社会のデジタル化、その端緒として政府行政のデジタル化はどのように進められていくのか。政策や技術開発の最前線にいらっしゃる専門家をお招きしてディスカッションするべく、アドビは 2019 年 2 月 19 日(火)、「デジタルファースト時代に向けて」セミナーをキャピトル東急ホテルにて開催いたしました。
自民党IT戦略特別委員会委員長 林芳正参議院議員による開会挨拶
午前中の開催にもかかわらず、会場には国会議員、省庁関係者、民間企業からたくさん来場されました。まず開会の挨拶で、自民党IT戦略特別委員会委員長で防衛大臣、農林水産大臣、文部科学大臣を歴任した林芳正参議院議員が口火を切ります。行政業務改革とデジタル・ガバメント推進は不可分であり、すり合わせに強い日本の良さを生かした公共部門での新ネットワーク構築の議論が、この分野の第一人者であるアドビとの共催で行われることは意義深い、とのこと。新しい知恵が生まれることを期待しているとの締めくくりの言葉に、会場の期待は高まります。
「経済構造改革とデジタルファースト」と題された基調講演では、元内閣府副大臣 平将明衆議院議員が登壇。これまでも先進的な政策をいくつも実現し、政策通として知られる平先生の歯切れの良い語りに、会場はぐっと引きつけられます。いま日本で法制化を控えるデジタル手続き法案の詳細が語られ、ペーパーレスな行政手続きや各行政機関のビッグデータ共有などが実現することで、社会保障の確実性が高まり、税制優遇などの正確な個人カスタマイズが可能になるなど、多くの社会課題が解決していく道筋が示されました。
それを追って登壇したのはアドビ米国本社のグローバル政府渉外・公共政策担当バイスプレジデントを務めるジェイス・ジョンソン。かつて米国上院議員のロビイング担当スタッフのチーフであった経験から、米国行政のデジタル化のための政策や実例について語りました。
最後は、公共部門でのシステム構築の知見に富むNEC 常務理事 戸田文雄氏と、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室参事官 奥田直彦氏を迎え、アドビマーケティング本部副社長 秋田夏実がモデレータを務めるパネルディスカッション。少子高齢化の克服や持続可能な社会の実現など、社会でゴールを共有し、官民が足並みを揃えて実際に結果を一つ一つ可視化してくことが着実な普及への近道との結論でした。
官民の各パーティがそれぞれの強みを持ち寄り、持続可能なデジタル社会を実現しようと試行錯誤しています。個人や組織の生産性のみならず、社会が抱える課題へもアプローチする力を秘めている私たちアドビの技術とサービスには、社会のデジタル化において今後さらに大きな貢献の可能性が感じられました。
では、各講演の詳細を追っていきましょう。
▪️デジタルガバメントが実現するスマートな未来
元内閣府副大臣 平将明衆議院議員による基調講演「経済構造改革とデジタルファースト」が始まると、会場は平先生の歯切れのいい話ぶりにグッとフォーカスし、温度が上がった印象さえありました。
平先生は IT 戦略特別委員会委員長代理、経済構造改革特命委員会事務局長として、これまで日本がグローバル競争を戦うために世界で最もビジネスをしやすい環境を推進するべく「規制のサンドボックス(実験的規制緩和)」型制度や、周波数開放、外国人労働者の新たな就労資格などを提言、実際の政策化を果たしてこられた政策通。現在は政府のデジタル化、デジタルトランスフォーメーションを推進する「デジタル手続き法案」に取り組んでおられます。
会場は平先生の歯切れのいい話ぶりにグッとフォーカスした
デジタル手続き法案とは、基本3原則となる
- デジタルファースト[手続きやサービスはデジタルで完結]
- ワンスオンリー[利用者からの情報提出は一度で終わり]
- コネクテッドワンストップ[官民が連携して複数の手続きをワンストップ化]
によって、電子認証や電子納付など利用者の利便性が上がるだけでなく、マイナンバー利用の普及に伴う社会保障の情報確度や安全性、行政の生産性も上がるなど、少子高齢化の進む日本が抱える様々な社会課題の解決につながるもの。海外在住邦人でもマイナンバーがデジタル交付されれば将来的に選挙権を行使できるようになったり、被災時や保険証がないというときも、デジタル化が進んでいれば保険適用が可能となったりなど、具体的に私たちが助かる場面は数多くあります。日本が経済成長を成し遂げながら既存の社会や経済構造を変えてゆくために、デジタルガバメントの実現が必要であると実感できました。
さらに平先生は「自説ですが」と前置きして、マイナンバーカードをスマホ上で使えるようにすることで、例えばスマホに自治体ポイントを付与し、円と同様の通貨として商業施設で使えるようなフィンテックプラットフォームを作れば軽減税率要らずとなる、とも説明。先進技術を柔軟に政策へ取り込むことを恐れない平先生は、経済構造改革の成長戦略上「今年はデジタルデータ流通の大きな節目になるので、注目していただきたい」と活力ある口調で締めくくりました。
▪️米国の行政デジタル化はこう進む
現在アドビ米国本社のグローバル政府渉外・公共政策担当バイスプレジデントを務めるジェイス・ジョンソンは、かつて米国上院議員のロビイング担当スタッフのチーフであった経験から、米国の行政がどのような問題を起点にデジタル化を進めているか政策と実例について語りました。
「国民は単なる数字ではなく、実態のある人です」との言葉が印象深い
ジョンソンはまず、「国民は単なる数字ではなく、感情と実態のある人間です」と強調します。国民に支援の手を差し伸べ、共感を持って伴走し、最後まで見届けるという人間味のあるプロセスが「いい政府」のあり方であり、人々が求めていることなのです。
人々と行政サービスとのファーストタッチの場面で良い体験(エクスペリエンス)を提供し、ペーパーレス化を進め、かつ人々の心配を共有することで問題解決のコストを下げることができるなど、政府のデジタル化は国民と政府の双方へ多くの価値を生み出します。
ところが、米国民に対して行われた調査では、政府のサービスに対する満足度は著しく低い結果となりました。というのも、民間の EC サイトの利便性やスピードに慣れた人々にとって、政府や州などの行政サービスは PC では使えてもモバイルでは使えないなどシームレスさに欠け、しかもページ読み込みが遅いなど、まだまだ使いにくいものだからです。その背景には、有能な IT 人材が政府よりも民間へ流れてしまっているという問題や、予算が現状システムの更新で精一杯という現実もあります。
政府は、簡便さと信頼を期待する国民の声に応えなければなりません。アドビは既存のPDFフォームのデータを集め、AIによりレイアウトやスタイル、記入ルールなどを既存のPDFフォームと同じように活用できるオンラインフォームを実現しています。また様々なデバイスに最適化されたフォームを提供するとともに、ユーザーの行動を理解するための分析ツールや電子サインをこのフォームに統合しています。これらを活用して、ハワイ州やサンフランシスコ市では行政のデジタル化に着手し、直感的で簡単でペーパーレスなユーザエクスペリエンス、かつ安全で統合されたデータベースが実現して、市民がちゃんと使ってくれるシステムができあがり、各種のコスト削減にも繋がりました。
「国民は、実態のある人間である」とのモットーに立ち返ると、国民のニーズに応える政府のデジタル化は必然なのでしょう。
社会でゴールを共有するのが、デジタル化普及の近道
▪️パネルディスカッション 〜デジタルファースト時代に向けて、ゴールの共有を〜
休憩を挟んだ後半では、内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 内閣参事官 奥田直彦氏、NEC 常務理事 戸田文雄氏をお迎えしたパネルディスカッション。モデレータは、アドビ マーケティング本部副社長 秋田夏実です。
秋田の「デジタルファーストの背景と目指す理念は?」との問いかけに、NEC 戸田氏は 2040 年のとある自治体職員の 1 日を描いた動画「Welcome to 2040」を紹介。「デジタルファーストで目指すものとは、少子化克服・国際競争力・公平公正な社会と、それによる持続可能な社会の実現」と話します。それを受けた内閣参事官 奥田氏も「少子高齢化によって、行政も職員が減るという課題を抱えている。生産性やサービスレベルを下げないためには、デジタル化によって縦割り行政に横断的な連携を導入しなければなりません」と指摘しました。
この縦割り行政による障壁とは、いったいどのようなものなのでしょうか。例えば社会保険事務。従業員は住所や氏名変更があると、自治体と行政機関間や事業者間が分断しているため、自治体への手続きと会社を経由した行政機関への手続きの双方が必要です。しかしこれら機関が横軸で情報共有すれば、手続きを一度で済ませられます。「デジタル化3原則の実現には、既存制度の枠を超えて、社会ニーズを実現するシステムをデザインすることが重要です。そのためにも目指す姿を官民で共有し、一体となった取組みが必要と考えます」と戸田氏。奥田氏も「これまでは手段と目的が混ざってオンライン化自体がゴールとなっていた例もあったが、官民ともに足並み揃えた社会の効率化により、本来行政が関与すべきところへ注力できる体制づくりが望まれます」とコメントしました。
社会でゴールが共有され、実際に利便性高く快適な技術によって結果が可視化されれば、社会は自然とデジタル化を受け入れていくもの。引越しや死亡相続のワンストップ化など、ひとつずつ具体的に実現することこそが普及への近道なのでしょう。生産性高く、暮らしの向上を実感でき、かつ持続可能な社会の実現のために、いよいよ社会全体のデジタル化が待ったなしの時代に直面していることを感じさせられるディスカッションでした。