デザインとエンジニアリングを両立させるデザイナーの、UXデザインにおける存在価値 | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

専門分野を絞る必要はありません!ボストンで働くデザイナーのケイティ・ランガーマンは、デザインとエンジニアリングを兼ね備えたジェネラリストのUXデザイナーには役割があり、むしろ必要とされていると述べています。

ジェネラリスト対スペシャリスト

ケイティは「デザイナーとエンジニアの両方にはなれないよ」と言われた日のことを決して忘れないでしょう。プロダクトデザインの採用面接を受けている最中に、自分のデザインを自分でコーディングする機会があるかを尋ねたときのことでした。

「彼らの答えは、『ありえない。それは無理だろう、両方上手くなんてやれないよ。どちらかを選んで専門性を磨く必要がある』といったものでした。その言葉がしばらく頭から離れず、やりきれない想いを抱いていました」。ケイティは、自称 “ハイブリッドデザイナー” として生活と仕事を営むボストンから電話でそう話しました。

ケイティは、多くの同様の境遇にいるデザイナーと同様に、どちらかを選ぶことを望んではいませんでした。彼女にはデザインとコーディングの両方の分野での経験がありました。学校卒業後の最初のクライアントから勧められて、人気のオープンソースフレームワークBootstrapを独学で習得していたためです。そのクライアントは、自分がデザインしたWebやアプリケーションをコーディングする方法を学ぶよう彼女を励ましました。その後共に働いたクライアントの大半は、地元の小さな事業者でした。そして彼女は、両方のスキルを身に着けておくことが必要とされているだけでなく、彼女の仕事に魅力を与えていることに気づきました。

ハイブリットデザイナー、ケイティ・ランガーマン 写真提供: ケイティ

「1つを選ばないと決心しました。両方に取り組み続け、必要な分だけどちらも上達しようと」

そのスキルの組み合わせが、彼女のUXデザインのキャリアにおいてどんどん重要になっていることに彼女は気づきまた。CarGurusという会社におけるケイティの肩書は「UIエンジニア」ですが、実際の役割はそれよりずっと多様です。

「私の仕事は、デザインとエンジニアリングの間にギャップを見つけ出し、それをつなぐことです」と彼女は話しています。

ジェネラリストとして働くケイティの目標は、デザインチームとエンジニアリングチームの両方に貢献することです。デザインに命を吹き込む上で、構築する必要のある機能と既に存在する機能に関する見識をデザイナーに提供する一方で、デザインされた体験の意図が確実に引き継がれるようエンジニアとも協力します。

「私には、デザインを見て、それをどのようなコンポーネントに分解され得るかを解読する能力があります。何が実現できて、どんな可能性が存在し、どのように着地点を見つけられるかという観点から、両サイドが納得できる案を探ることが好きなのです」

CarGurusでUIエンジニアとして勤務するケイティ・ランガーマン。写真提供: ケイティ

デザインジェネラリストに不可欠なコミュニケーションスキル

デザインジェネラリストとして成功するには、優れた会話能力が必須です。内向的なケイティにとって、これは学ばなければならない事柄でした。専門分野を絞りたくないという自分の気持ちに気づいてからは、希望する職に就くためにも、周囲にその目標を知らせる手段を見つけ出す必要がありました。

幸いなことに、ケイティには引き出しがありました。故郷の小さな書店で働いていた頃、彼女は視覚に訴えて販売する方法に強い興味を抱いていました。この環境が、彼女の殻を破る後押しをします。彼女は、想像と感情を視覚的に表現した店内のディスプレイの制作に才能を発揮するようになりました。延いてはボストンのシモンズ・カレッジに入学して、コミュニケーション、美術、グラフィックデザインを学んでいます。

デジタル分野で作業を始めてからは、その経験がWebやグラフィックデザインの仕事に引き継がれました。書店は、素晴らしい顧客体験を作り出すために必要なものを、彼女に示してくれた場所だったのです。

Talk UXカンファレンスでララ・カベッツァとオルガ・パーフィリヴァと並ぶケイティ・ランガーマン (中央)。撮影: Genesia Ting

初めてLadies That UXに参加したとき、「とても緊張して、不安でいっぱいだった」とケイティは話しています。Ladies That UXは、世界各地に支部を持つ、UXデザインに携わる女性を繋ぐ団体です。アメリカでは、おそらくボストン支部が最大で、同業の女性(と男性)を対象とした人脈づくりのイベントを定期的に開催しています。ケイティにとって、自身の多様なプロフェッショナルスキルを披露するには最適な場所でした。

ケイティは当時を振り返り、次のように言いました。「個人としての私を大きく変えたイベントでした。外に出かけて人脈をつくるなんて、一年前は考えたこともありませんでした。就職先を探してはいましたが、自分が何をしたいのか、どのような会社で働きたいのかを模索している最中でした」

初めて参加したLadies That UXミートアップで、ケイティは、ボストン支部の共同主催者オルガ・V・パーフィリヴァと出会います。2人はすぐに打ち解け、さらにいくつかのミートアップに参加した後、ケイティはオルガにTalk UXの企画への参画を持ち掛けられました。Talk UXは、毎年異なる都市で開催されるデザインとテクノロジーのカンファレンスで、2018年はボストンで開催される予定でした。ケイティはその機会に飛びつき(機会があれば常に受け入れますとケイティは言います)、それから8ヵ月の間、オルガともう一人の共同主催者ララ・カベッツァの準備作業を手伝いました。

ケイティは、自分の役割の一部として、Webサイトとカンファレンス中に掲示されるサインなどのデザインを手掛けました。カンファレンスが終了するまでには、ケイティはLadies That UXボストン支部の3人目の正式な共同主催者になっていました。人脈づくりの努力をしていなければ、ジェネラリストとしての力をいかんなく発揮できたこの機会を手にすることはなかったことでしょう。

昨年10月にボストンで開催されたTalk UX向けにケイティ・ランガーマンがデザインしたサイン。撮影: Genesia Ting

ジェネラリストのUXデザイナーに贈るアドバイス

ケイティは、ジェネラリストとして成長できる役割に出会う幸運に恵まれていました。すべての企業が同じように考えているわけではないことを、ケイティは知っています。それでも、ほかのハイブリッドデザイナーやデザインジェネラリストの卵に対し、そのユニークな情熱を大切にする、同じ考え方を持つ会社を探し続けるよう勧めます。

彼女は、UXデザインの分野で活躍するために、専門分野を1つに絞らなくてもよいということを、ハイブリッドデザイナーにわかって欲しいと考えています。「ジェネラリストであることを使いこなせるようになって、その武器を手放さないようにしましょう。両方のスキルを発揮できる役割を見つけ、持ち前の力強いスキルを称賛しましょう」

「多くの企業がようやく大規模なデザインチームを立ち上げてUXを真剣に考え始めています。そうした企業にとっては、ハイブリットデザイナーは貴重な資産です。デザインのあらゆる意味合いを理解し、整ったフロントエンドのコードを実装することに専念できるエンジニアが必要とされています」

ケイティにとって、Ladies That UXのようなイベントでの交流はとても貴重なものでした。やりたいことに確信を持ち、独自の武器を持ち続ける自信を与えてくれたからです。彼女の職探しにおいて、両方に関われる環境は、妥協できる条件ではなかったのです。

「デザインかコーディングのどちらかを選べなかった理由の一部は、Adobe XDでモックの作成を始めると、たちまちコーディングに着手する必要性を見つけてしまうからです」とケイティは言います。「特に、既存のコードに対して新しい何かをデザインしている場合には、そうなりがちです。コードを開けば、欲しいものを素早く描くのに必要な道具(CSSやコンポーネント)がいくつもそこにあるからです。もちろん、デザインツールでも同じことを行えるのですが、私の頭の中は、今のところコードでデザインするように働いているみたいです」

この記事はLadies That UX: Hybrid Designer Katie Langerman on Why Generalists Will Always Have a Place in UX(著者:Sheena Lyonnais)の抄訳です