写真を選ぶ目が変わる。フォトリテラシー基礎講座 #1 : なぜ写真素材を使うのか? #AdobeStock
写真を選ぶ目が変わる! フォトリテラシー基礎講座
はじめまして。写真家の善本喜一郎です。
1983年に「平凡パンチ」特約フォトグラファーとなり、以後フリーランスで「ブルータス」「ポパイ」「ターザン」「リラックス」などの雑誌で活動してきました。その後、タイアップ広告を数多く撮影し広告の世界へ。2008年より宣伝会議の「編集・ライター養成講座」や「フォトディレクション基礎講座」で講師を務め、編集者、ライター、企業の広報担当者などに向けて「写真を撮るとは、ビジネスシーンに求められている写真とは」をテーマに、その方法論を経験に基づき教えています。
このブログでは、「数あるストックフォトの中で効果的な一枚を選ぶには?」をテーマに、みなさんのフォトリテラシー(=写真を読み解く力)が上がるような基礎知識をお伝えします。フォトグラファーの視点を知ることで、写真素材を選ぶ目は確実に変わるでしょう。
1. 当たり前のように写真素材を使っていませんか?
企業の広報・販促・宣伝活動において、写真素材は欠かすことのできないツールになっています。WEBサイトやパンフレット、チラシなどに当たり前のように使われていますよね。
でも、届けたい相手に一番効果的なのは本当に写真素材なのでしょうか?
そして、その一枚を選んだ理由を言語化できる人はどれくらいいるのでしょうか?
見落としがちなことですが、写真の性質や役割について理解を深めることで、明確な軸を持って取捨選択できるようになります。
まずは写真を使う長所について考えてみましょう。一般的に、「広告物は写真が一番響く」と言われています。人間は「瞳」に反応する性質があるため、特に人物写真は強いインパクトを与えることができます。webサイトの場合、ページの最後まで読んでもらう必要があるので、モデルを上手く利用しながら視線誘導できるという点も魅力ですよね。さらに、一瞬で情報を伝えられるのも写真の利点です。ノンバーバル(非言語)のメディアですから、言語の壁を越えられるのも長所として挙げられるでしょう。
Richard Schultz/Adobe Stock
短所はリアルすぎてしまうことです。写真は目を引きやすいがゆえに、使い方によっては受け手にネガティブな印象を与えてしまいます。命にも関わる医療系のコンテンツについては、柔らかいイラストを使った方が上手くコミュニケーションできるでしょう。
こうした性質を理解すれば、「なぜ写真なのか」ということをきちんと説明できますよね
2. 写真の役割は大きく2種類に分かれる
1978年にニューヨーク近代美術館で “Mirrors and Windows”「鏡と窓 1960年以降のアメリカの現代写真」展が開催されました。200点余りの作品を「鏡派」と「窓派」に分類したことで注目を集めたのですが、それぞれどのような意味合いを持つのでしょうか。
「鏡派」は、自分の内面を知るために使う写真です。一方で「窓派」の写真は、外側で起きていることを知るための写真です。記録として撮った写真(窓)が、自分の内面にフォーカスした写真(鏡)になってゆくこともあるし、見たものをありのままに撮ることを目的とした写真(窓)に留まることもあります。
この「鏡と窓」のバランスを、撮影時や写真のセレクト時に意識することで、写真の役割が明確になっていきます。みなさんが作っているコンテンツに合う写真は「鏡派」「窓派」のどちらだと思いますか?
kulichok/Adobe Stock
3. 人間の脳の機能的な違いとは?
人間の脳は3億もの神経線維からなる脳梁を通して、左右2つの脳半球が通信し合っています。左右の脳でやり取りができているおかげで私達は普通に生活ができているわけですが、それぞれの脳は別の役割を持っています。極端なことを言うなら、それぞれ別な人格を持っています。(右脳・左脳という言葉は一般語彙であって、学術用語としては右半球・左半球が使われます。)
右脳にとっては「現在」がすべてです。「この場所」「この瞬間」がすべてです。右脳は映像で考え自分の体の動きから運動感覚で学びます。(中略)左脳はまったく異なった存在です。直線的に、系統的に考えます。左脳にとっては過去と未来がすべてです。現在の瞬間を表す巨大なコラージュから詳細を拾い出し、その中からさらに詳細について詳細を拾い出すようにできています。そしてそれらを分類し、すべての可能性へと投影します。左脳は言語で考えます。継続的な脳のしゃべり声が内面の世界と世界をつないでいます。*1(03:45から)
写真の表現が2つに分かれる一番の理由は、このような人間の脳の「右脳」と「左脳」の特徴によるものと考えられますね。
右脳の司る領域は、知覚、感性、創造性、感情。右脳が発達していれば、五感で何かを感じたり、イメージしたり、ひらめいたりすることが得意でしょう。
一方で左脳の司る領域は、論理、思考、分析的、合理的。左脳が発達していれば、文字や言葉で物事を考え、論理的に分析し、情報処理をすることが得意でしょう。
adimas/Adobe Stock
平たく言えば、イメージが喚起される「鏡派」の写真は右脳で撮ったもの、情報を伝える「窓派」の写真は左脳で撮ったものということです。
写真の知識が豊富でカメラや照明にこだわっている人の方が、素晴らしい写真を撮れそうですよね。しかし、左脳ばかりを使っていたら「人の心に訴える写真」にはなりません。
高価な機材が手元になくても、好奇心を持って被写体に向き合っていれば必ず「伝わる写真」になります。なぜなら、テクニックの高さが人々の共感を生むのではなく、その下地にある好奇心や熱量といったものが人間の心を動かすからです。
4. 感覚に訴えながら、論理的に説明できる写真素材を選ぶ
前置きが長くなりましたが、冒頭で触れた「効果的な一枚」とは、つまり右脳と左脳をバランスよく使って撮られた「写真」、そしてセレクトされた「写真」ということです。
ただ何となく綺麗な写真を載せても印象には残らないし、自分の偏った好みだけで選ぶのは得策とは言えません。そして、WEBマーケティングのABテストの結果ばかりを採用していたら、近い将来私たちはAIに取って代わられてしまうでしょう。
論理的に分析する左脳タイプ、というかサイエンス思考に、五感から認識、ひらめきといった右脳タイプのアート思考。アート(右脳)とサイエンス(左脳)をバランスよく融合させたハイブリッド型方法論を目指しましょう。
写真に関する基礎的な知識を学びながら、自分なりの「選ぶ目」を養うことが大切です。撮り方を理解すると、選び方も変わります。カメラマンがどのような意図で撮影しているのか、どのような工夫をしているのかというポイントを押さえながら、フォトリテラシーを向上させましょう。
*1 参考文献:ジル・ボルト・テイラのパワフルな洞察の発作(TED 2008)https://www.ted.com/talks/jill_bolte_taylor_s_powerful_stroke_of_insight/transcript?language=ja#t-234215
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次回は、「目的やターゲットの設定」を軸にお伝えしたいと思います。どうぞお楽しみに。