日常を写真で表現する“前”に大事にしていること #AdobeStock

連載

CURBONと考える、「共感」を呼ぶ作品の作り方

「Adobe Stockではどんな写真が売れますか?自分の日常の写真でも売れますか?」といった相談をいただくことがあります。写真のために十分な時間を使える人ばかりではないでしょうし、日常の記録として普段撮っている写真が売上になったら嬉しいですよね。そんな時、我々からは「自分が自然に好きだと思えるものを撮ることは、売れる写真を生み出す近道です。まずはそこからスタートしてみましょう」とお答えしています。

今回は、大切な被写体に対して愛情をもってとらえた写真で人気を集めているAKIPIN(@akipinnote)さんから、共感を呼ぶ日常写真についてお話ししていただきます。

ぼくの日常や写真なんて誰も興味ない

こんにちは。AKIPIN(@akipinnote)と申します。「妻のごはんを食べながら生きたい」という思いで、日常生活で撮った写真をInstagram中心に投稿している普通のサラリーマンです。
驚くことに、日本をはじめ中国やアメリカなどを含め多くの方が見てくださり、取材をしていただいたり、写真展に呼んでいただいたり、そして、こんな場で自分の考えを語る機会をいただきました。

ぼくは普段、日常で目の前に現れたごはんの光景をそのまま撮っていて、「セッティング」や「指示」などをしていません。レタッチは常にRAW現像をしていますが、Lightroomの素晴らしい機能を活用して手探りで自分が思う「いい感じ」に仕上げているばかりで、人に語れるような確固たる方針は持てていません。

そんなぼくが唯一自信をもって語れる、確固たる考えがあります。
それは、「AKIPINの日常や写真なんて、だーれも興味ない」ということです。

もう少し一般化して言うと、情報や写真であふれたこの時代、名もない者がやみくもに投稿した日常や写真など見てもらえるはずはないという「客観視」を大切にして、表現してきたということです。

ツールが発達し、写真を撮って表現することに対する敷居が低くなったこの時代、この「客観視」がものすごく大切なんじゃないかと思っています。

見ず知らずの人が瞬時にどう感じるか?

日常の中にはいろんな出来事があって、いろんな写真を撮ったり、いろんなことを考えたりします。
でも、もしそんな自分の日常を日記のように残そう、人にも見てもらおうなどと思って全部表現してしまうと、たまたまそのページを訪れた人がいたとしても(よくわからん)と瞬時に判断され、別のページに移られて終わりでしょう。
自分の興味に関係したニュースや広告が効率よく無尽蔵に飛び込んでくるこの時代、見ず知らずの人の日常や自分とは関係なさそうな表現にわざわざ時間を割く余裕は、多くの人にはないと思うのです。

ここまで書いておいてあれですが、自分の日常を単純な日記のように記録ことはすばらしいことです。自分が楽しいことが大事で、自分の日常が他人からどう見られるとかなんてどうでもいい、という考え方にぼくは完全に賛同します。

ですが、もしも表現で他人の共感を呼びたいと考えるのであれば、「たまたま自分のページを訪れた人は瞬時にどう感じるか?」ということを徹底的に想像する冷静さ、シビアさが欠かせないと思っています。

さきほど、「見ず知らずの人の日常や自分とは関係なさそうな表現にわざわざ時間を割く余裕は、多くの人にはないと思う」と書きました。
つまり逆に、自分との関係を感じてもらえれば見てもらえる可能性があると思っているのですが、では、どういう場合に関係が生まれるのか。
それは、見た瞬間に次のように感じる場合ではないでしょうか。

「あ、ぼくと同じ気持ちで生きてる人だ」
「あ、私の理想とする考えを持ってる人だ」
「あ、ユニークな視点をすごく追究してる人だ」

瞬時にこんな共感が生まれれば、「見ず知らずの人」という壁を超え、表現が心に届くはずです。

切実な思いを言葉で持ち歩いて撮り続ける

では、どのようにすれば、瞬時に共感を生むような日常写真を表現できるのか。
実は正解などわかりませんし、方程式みたいなものはないと思います。

ですが少なくとも、次のことはあったほうがいいと思っています。

1 自分が表現したい「切実な思い」を見つけ、それを言葉にして持っていること
2 その言葉を軸に日常を見て、写真を撮っていること

まず「1」について。
皆さんは、見ず知らずの人の「なんとなくうっすらちょっと抱いてる思い」に、どれだけ興味が湧くでしょうか。せめて「切実な思い」でなければ、時間をとってまで話を聞いてみようとは思わないのが普通じゃないでしょうか。

でも、この「切実な思い」は、人からノウハウを学んで抱くものではありません。表現する上での根幹であり、自問自答しながら浮かび上がらせていくものだと思います。

そして「切実な思い」は、明確な言葉にして持っていることが大切だと思っています。
言葉にして常に持ち歩いていることで、「2」のように、日常の中で自分が撮りたいもの、撮るべきものをより明確に意識できるようになります。
その意識で撮り続けていくことが、「切実な思い」がこもって共感を呼ぶような写真を撮る土台になるのではないかと考えます。

#なんでもないただの道が好き のコハラさん

例えば、SNSで人気のコハラタケルさん(@takerukohara_sono1)は、切実な思いを込めた「なんでもないただの道が好き」という言葉を添えて写真をたくさん撮り、投稿し続けていました。
するとその写真と言葉に多くの人が共感し、その言葉はのちに人気ハッシュタグとなってたくさんの投稿を生み出し、SNSを賑わせ続けています。
「#なんでもないただの道が好き のコハラさん」というふうにコハラさん認識している人も多いのではないでしょうか。

「切実な思い」を言葉にして、その言葉を軸に日常を見て、撮り続け、表現していること。
繰り返しになりますが、少なくともこのことは、見ず知らずの人との「共感」のためには必要なんじゃないかと思っています。

ちなみにぼくの「切実な思い」は、一番最初に書いた、「妻のごはんを食べながら生きたい」です。(「切実な思い」はそのまま自己紹介になり、人から人へ伝わりやすくもなります。)
ぼくはこの言葉を軸に日常を見て、写真を撮り続け、この思いだけを表現し続けています。

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