Netflixの変わり続けるユーザー体験を支えるアプローチ | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

190以上の国に1億3千万人以上の顧客を持つサービスをデザインするのは決して簡単ではありません。Netflixが1997年に昔ながらのDVDレンタルビジネスとして始まったことを考えれば、これは明らか大きなチャレンジです。彼らのユーザー体験は、世界中の人々があらゆる種類のネットワーク環境であらゆる種類のデバイスを使用している状況に対して、常に適応してこなければなりませんでした。加えて、Netflixは、ユーザーが興味を持ちそうなコンテンツを表示する豊富なパーソナライズ機能も提供しています。

Netflixでインタラクティブコンテンツのリード製品デザイナーを務めるナヴィーン・アイアンガーは、『ブラック・ミラー』のエピソード『バンダースナッチ』(視聴者がストーリーを選択できるインタラクティブドラマです)の製品デザインを最近まで率いていました。彼に、Netflixのユーザー体験のこれまでの進化とこれから向かう先、そしてユーザー調査への取り組みやプロトタイプの活用方法について話を聞きました。

Netflix.com in 2008.

2007年のストリーミングサービス開始時点におけるユーザー体験はどのようなものだったのでしょうか?

私たちがストリーミングサービスを開始した頃のNetflixのユーザー体験は、それまで10年間にわたり提供されていた、既存のオンラインDVDレンタルサービスが基本になっていました。

当時、NetflixのUXは取引体験を中心に形作られていました。サイトは、人々が自宅で見たいDVDをショッピングカートに追加して、数日以内にメールで受け取るためのeコマースのプラットフォームで,そのデザインは、サイトで可能な限り時間を使わずに済むよう、効率性が重視されていました。

Netflix.com in 2012

その後UXはどのように変わったのでしょうか?

人々がDVDを注文していた頃、私たちには、それを送り返すまでに実際に見たのか、あるいは楽しんだのかを知ることができませんでした。しかしストリーミングならば、人々がどのようにサービスを使ったのか、より詳しい洞察を得られます。それは、私たちに体験の改善やパーソナライズのためのアイデアを与えてくれました。

ストリーミングがNetflixサイトの主要な機能になるにつれ、私たちのUXは映像コンテンツの消費をサポートするよう進化しました。具体的には、再生のためのインターフェースをスマートフォン、タブレット、TV向けにつくりました。また、人々が自分の見たいコンテンツを見つけやすくするための方法もいくつか試しました。例えば、多くの人があるエピソードを視聴したらその次の回も視聴していることを発見して、次のエピソードに直接移動できる機能をすぐに追加しました。

創業時以来のeコマース体験から移行した後は、ユーザーをコンテンツに引き込むため、多大な努力を重ねました。コンテンツの上には何も余分なインターフェースが無いかのように感じてもらうことが私たちの目的でした。出来上がったUIは、どれほど意図的に細部までデザインされたかを多くの人が気付かないものになっているように思います。とにかく、とても複雑なものをとてもシンプルに見えるように作り上げました。

The Netflix website in 2018

「サービスのUX」の進化における主要な考慮点はなんだったのでしょうか?

Netflixはサブスクリプションサービスです。つまり、私たちはメンバーが満足しているかを示す明確な指標を持つという贅沢な状態にあります。彼らがメンバーシップを払い続けるかどうかです!おかげで、私たちデザインチームとビジネスチームの行うすべてのことが、世界中の顧客に最適なものに向けて上手く同期しています。

私たちの持つ多くのUXのアイデアは、A/Bテストによる検証を行ってきました。世界中のメンバーの獲得や満足度にどのように影響するかを理解できるようになるためです。こうして得られた結果のお陰で、最も重要な作業に注力し続けることができました。多くの場合、1億3千万人のメンバーに新しいアイデアを提供するための時間と労力を費やす前に、小規模のテストでその影響を評価しています。

結局のところ、私たちはA/Bテストこそが、人々がNetflixのサービスに欲しているものを理解するために、最も信頼できる情報をもたらしてくれると信じているのです。

どのように調査を行い、どのように集めたデータを分析しているのでしょうか?

一般的には、製品のアイデアの発想と洗練に定性的な調査手法を使い、その後A/Bテストを実際の顧客と行うことで、何を展開すべきなのかを判断します。定性的な手法と定量的な手法はお互いを補完し合い、デザインの異なる段階でアイデアを検証するのに役立ちます。

定性調査としては、アンケート調査、そしてフォーカスグループやエスノグラフィックリサーチを継続的に行っています。後者によるより深い人々との会話は、振る舞いの裏側にある彼らの欲求、要求、そして動機を理解するのに役立ちます。学んだ事柄が常に多くの人々を代表するものではないとしても、新しいアイデアや将来テストしたいことを捉える機会を与えてくれます。

定量調査においては、総体としての振る舞いの理解や相関関係の発見を目的として、データの中から動向を探ります。簡単な例を挙げるなら、全体的にはスマートフォンよりもTVでNetflixを見る人の方が多いと言えるかもしれません。私たちには分析担当のチームがいて、顧客の振る舞いの理解に役立つ興味深いパターンを見つけては、UXの改善項目に優先順位をつける手伝いをしてくれます。

NetflixのUXの次のステップはなんでしょうか?

過去10年における大きな変化のひとつは、アメリカ国内企業からグローバルサービス企業への移行でした。私たちは継続的に、すべての国のすべての人に、経歴や文化や言語に関わらず最適な体験とは何かについて学び、考え続けています。それは今後数年に亘り、私たちのUXの主要な焦点でもあるでしょう。

もちろん、もう一つの大きな変化はコンテンツそのものです。DVDの貸し出しから、ライセンスされたコンテンツのストリーミングへ、そして独自コンテンツの制作にも乗り出しました。NetflixのUXの課題の中核は、常に膨大なコンテンツのカタログをナビゲーション可能にし、人々が好きになるであろうストーリーと引き合わせることでした。Netflixは新しいコンテンツをより多く作成するようになりましたが、それらがまだ人々にあまり知られていない可能性を考慮するなら、コンテンツが何であるのか?それを見たくなる理由が何か?を説明する「より良い仕事」がこれからのUXには求められます。私たちの前にはまだまだ課題が山積みです。そして私たちはそのチャレンジにまさに取り組んでいます!

この記事はUX Evolutions: How Netflix Put UX at the Heart of its Ever-Changing Service(著者:Oliver Lindberg)の抄訳です