共感と信頼性によってデザインチームをリードし、強化するには?実例とベストプラクティスの紹介

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Design is Power

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才能あるデザイナーが集まれば、優れたデザインチームが出来上がるわけではありません。チームをまとめるリーダーが必要です。相手に共感し、あるがままの自分を見せながら、常に率直にメンバーと向き合い、緊密なコミュニケーションと連携を推進するリーダーです。

弱さ(vulnerability)、誠実さ(honesty)、関係性(connection)をベン図で表すと、その共通部分は本来感(authenticity)になるでしょう。この10年の間によく聞かれるようになった、自分らしくある感覚を表す単語です。2015年1月の『Harvard Business Review』誌の記事には、本来感は「リーダーシップの評価基準」となったと書かれています。自分らしくあることがコミュニケーションを促し、信用と親密な関係を築きます。どれも優れたチームに不可欠な特性です。また、真のリーダーシップの大きな要因として、共感も同様に重要です。

共感は、ユーザーや消費者を理解するうえで、クリエイティブプロセスに不可欠な要素ですが、それだけではありません。ヒューストン大学研究教授であり作家でもあるBrené Brown氏は、共感は「人の気持ちになって考えることで、関係性を深める」と言っています。デザイナーは、他人の立場に立って考える能力が製品の成功の鍵を握ることを心得ています。さらに、社内やチーム内での共感を大切にし、自らそれを体現するリーダーは、共感が職場に幸福感や満足感をもたらし、幸せを感じるチームが生産性の高いチームになるということにも気付いています。

理想的なデザインチームは、戦略的に創造性を発揮しながら力を合わせ、ユーザー志向の優れた製品や体験を作り出すだけでなく、試行錯誤しながら前向きに仕事に取り組むことができます。クリエイティブリーダーは、うまくいっている時も苦しい時も常に支えとなることで、チームのまとまりとやる気を維持します。

既存のチームに加わるにしても、新しいメンバーを集めることから始めるにしても、チームの連携方法を理解したうえで体制を整えれば、生産性が高いだけでなく団結力のあるチームが生まれます。Udemy社の製品デザイン部門を統括するPhil King氏は、『First Round Review』誌に「リーダーはチームのメンバーそれぞれに成果を求めるだけではいけない」と語り、デザインチームのメンバーが互いの仕事を建設的に批評し合い助け合うためには、「まず、チームの他のメンバーがどのように協力しているかを知ること」が必要だと述べています。

制作ニーズと作業手順、コミュニケーションスタイル、能力分布はどれも日常のやり取りや観察からしか得られない重要な情報として、共同作業を円滑に進めるために不可欠です。しかし、従業員を理解し信頼を得ることには、それ以上の意義があります。そこで「共感」の出番となります。

共感によって信頼関係を築く

芝生は足首を越えてはじめて伸びていることに気付くのと同じように、チームの信頼関係は、日々関係性を深め共感を生むための努力を続けることで、少しずつ築かれるものです。チームリーダーがメンバーの制作意欲ややる気に気付かなければ、プロジェクトの作業をうまく指揮できても、メンバーと良好な関係を築くことはできません。VaynerMedia社CEOのGary Vaynerchuk氏は、自身の成功、特にリーダーシップにおける成功の大きな要因のひとつとして共感を挙げています。「メンバーごとに管理の仕方を変えています」と同氏はMediumの記事で述べています。「実際に何が彼らをやる気にさせるのか。リーダーにはそれを見極める力が必要です」

ユーザーに対する理解を助けるInteraction Design Foundationの「What-How-Why」メソッドの対象を従業員に置き換えれば、観察や対話、直感を用いて、行動の裏にある感情的原動力を見極めやすくなります。
例えば、喜びや不安から、クリエイターとして、プロとして、さらには個人としての目標に対する動機を明らかにすることができます。ひいては、こうしたことから得られる洞察によってリーダーとしての成長が促されるだけでなく、共通の話題が広がり、士気の喪失や疎外感を防ぐことにもなります。誰か、特に管理者やリーダーから理解されているという実感は、自己肯定を高め、信頼関係や忠誠心を築くものです。

ただし、関係性というのは、単に質問するだけでは築けません。前述のBrown氏はTEDxHoustonの講演で「関係性を持つには、自分自身をさらけ出さなければなりません」と言っています。これこそが、関係性と本来感にとって極めて重要な要素である「弱さ」を定義します。

弱さ 透明性 共感

リーダーシップの「弱さ」が、正直にチームを率いてメンバーと関わることを指す場合があります。つまり、失敗の責任を取ること、知識不足を認めること、プロジェクトの打ち切りとやり直しの際にメンバーと一緒にいることなどです。ビーチパーティのことではありません。ただ、CEOたち(NFLのコーチ、アメリカ大統領、軍事指導者なども)が気付いているように、それはチームの信頼関係や忠誠心を向上させます。

マスコミや世間の評判は良かったにもかかわらず、PUBLIC Bikes社が立ち上げ後すぐに危機に瀕したとき、Rob Forbes氏はそのことについてスタッフに包み隠さず話しました。「事実だが、なぜうまくいかないのかわからない。私にわかるのは、人生で最悪だということだけだ、と言いました」。この「歴史的惨敗」後の日々について99Uの講演で語る中で、Forbes氏はスタッフに心からの感謝を述べ、その気があるなら一緒にやり直したいと伝えたと言っています。

もちろん、自分の会社の失敗をさらけ出して認めたのは、Forbes氏が初めてではありません。1980年代のニューコーク騒動時にCoca-Cola社CEOを務めていたRobert Goizueta氏は、後年の会社の祝賀会で、
「回避可能と思われるリスクを負うこと」の例として、その試みの副産物について説明しました。彼は、そうしたリスクを負わずして会社は成功しないと述べ、従業員にそれを奨励しました。同氏は「ダメ社長様」という宛名の手紙が届いた話も披露しました。従業員に対して失敗を認めることによって、仕方なくではなく前向きに「失敗を学ぶ」べきだというメッセージを力強く伝えました。

「クリエイティブリーダーの謙虚な姿勢は、組織とリーダー自身にとってプラスとなります」とDoug Guthrie氏は2012年の『Forbes』誌に書いています。「リーダーは失敗を認識するだけでなく、公に認めなければなりません。間違いの中で、本来感とチャンスの両方を見出すことができるのです」

これは社内、社外のどちらにも当てはまります。2002年の『Harvard Business Review』誌のRichard Farson氏とRalph Keyes氏の対談によると、ユリシーズ・グラントは事業の失敗と個人的な苦労を通して謙遜や共感の気持ちが強くなったことで、兵士に対する理解や関係性が深まり、より大胆な軍事戦略を立てることができたそうです。また、ロナルド・レーガンの選挙対策本部長を務めたJohn Sears氏はかつてこう述べました。「優れた大統領の多くは、悲劇や失敗の経験を通して共感することを学びました。何かを失い、そこから立ち直る過程には、人格を魂に焼き付け、傲慢さのない自信を育て、問題について語るときに信じられる人間にする何かがあります」

知らなかった、間違った、損害をもたらす大きなミスをしたといったことは、認めるのが怖いものです。失敗に対する心の準備をしていなかったら、恐れや恥の感情が湧き上がることもあるでしょう。失敗に対処するには、正直に失敗を受け入れ、不完全さをいとわない気持ち、つまり、自己意識、謙遜さ、安心感を高めることが必要です。これは、あるがままに弱さを見せ、自分らしくあってこそ成り立ちます。弱さを自覚しながらチームを率いることで、クリエイティブリーダーは不確実な状況や見切り発車、挫折などの経験を活かして、成功を収めつつチームを強くできるのです。簡単にできるものではありませんが、時間をかけてチームと正直に向き合えば実現します。そのためには、弱さを受け入れ、共感する力が不可欠です。

クリエイティブデザイン部門のリーダーは、あるがままの自分を見せ、他人を理解しようとすれば、チームを励まし支えながら、意欲のある幸せなデザイナーが協力し合うパワフルなチームを作ることができます。優秀なチームは、不断の努力と臨機応変さのたまものです。なぜなら、チームと個人の力関係は決して一定ではない、つまり常套手段など存在しないからです。自分らしくありながら先頭に立ち、共感を通じてチームをまとめることが、すばらしい成果につながる緊密なコミュニケーションと連携の鍵を握ります。