シャッターを切る“瞬間”と“後”に意識していること #AdobeStock

連載

CURBONと考える、「共感」を呼ぶ作品の作り方

「Adobe Stockではどんな写真が売れますか?」というご相談への答えの一つとして、 「独自性と汎用性の両方を兼ね備えた作品」あるいは「個性と一般性の両方を兼ね備えた写真」と言うことができます。他との違いが乏しかったり、何を意味するのかが分かりにくい作品では見る人の琴線に触れず単に「使いにくい作品」としてとらえらてしまう可能性もあります。

そこで今回は、前回に引き続きAKIPIN(@akipinnote)さんから 、個性を発揮しながら多くの共感を集める写真のコツについてお話ししていただきます。

自己満足のすばらしさ、人から共感してもらえる嬉しさ

こんにちは。AKIPIN(@akipinnote)です。「妻のごはんを食べながら生きたい」という思いで、日常生活で撮った写真をInstagram中心に投稿している普通のサラリーマンです。

まずいきなりですが、写真というものは他人から共感を呼ぶため「だけ」のものではないと思っています。好きなように撮って、自分や身内だけで(面白いのが撮れたなぁ)なんて味わうのはすばらしいことです。

一方、SNSなどに投稿して人から共感の言葉を伝えてもらえたり、ましてや自分の写真を人が購入してくれたりすると、格別に嬉しいものです。

ぼくは日頃どちらのすばらしさも嬉しさもそれぞれ楽しんでいるのですが、この連載記事<CURBONと考える、「共感」を呼ぶ作品の作り方>においては、「共感してもらえる嬉しさ」のほうに焦点をあてて、普段ぼくが意識していることを書きたいと思います。

自分の「思い」だけに焦点を当てる

前回の記事では、「日常を写真で表現する“前”に大事にしていること」として、以下のことを書きました。

1.自分が表現したい「切実な思い」を見つけ、それを言葉にして持っていること

2.その言葉を軸に日常を見て、写真を撮っていること

自分が表現したい「切実な思い」は、当然ながら自分自身の個人的なものです。

自分が素直に好きと思えること、自分の心にいつもグッとくること、自分がなぜだか感動すること。

簡単ではありませんが、自分の内面に目を向けて、個人的な思いをとことん追究する。どれだけパーソナルな内容であっても、同じ人間同士、共感してくれる人はきっといるはずと信じて―――以上、ご清聴いただきありがとう・・・ではなく、今回の本題はここからです。

自分が表現したい「切実な思い」を見つけ、それを体現できる対象に出会って喜び、カメラを構えた後、シャッターボタンを押す瞬間からSNSに投稿するまでの間に意識していることは何か。

それは、「自分の私的な『思い』や『喜び』だけにどれだけ焦点を当てられるか」、そして「それ以外の要素をどれだけ差し引けるか」ということです。

「この女性の写真」と「女性の写真」は違う

例えばぼくは、妻が料理をしている姿を撮ってSNSに投稿していますが、妻の顔は一度も登場したことがありません。

もしも妻の顔がバッチリ写っていれば、初めてぼくの写真を見た人は(「この女性」が料理しているところを撮った写真)と受け止めるでしょう。それ以上でもそれ以下でもありません。

では、妻の顔を写さずにその姿を撮ったらどうでしょうか。

その場合は、(女性が料理しているところを撮った写真)という受け止め方になるのではないでしょうか。

一見、あまり違いはないようですが、前者の場合は顔が写っている特定の「この女性」に主眼が置かれ、どこかで実際に暮らしているらしい、自分とは一切関係のない具体的な「この女性」がやっていることを第三者的に眺めるものになります。

一方、後者の場合は「女性」と一般化されていることによって、見た人が自分の好きなように考えられる余地があります。

具体的な「この女性」に対する興味はなくても、「女性」というものに対して全く興味がない人は、たぶんあまりいないからです。

ぼくは、「妻のごはんを食べながら生きたい」という切実な思いだけは表現しながら、それに共感してくれた人が自分のことと関連づけて何かを想像したり考えたりしやすい写真、言うなれば「素材のような写真」をSNSで見てもらえたらと思っています。

誰かにとっての「素材のような写真」になるために

では、それ以外にぼくが意識している残り3つのことをご紹介したいと思います。

いずれも、「見た人にとっての違和感」をなくすことが「素材のような写真」に近づくと考え、心がけていることです。

1.水平をとる

なるべく水平がとれるように撮ります。撮った写真が傾いていれば念入りに傾き補正します。

テーブル、テーブルに置いてある茶碗、リビングと台所の間にあるカウンター、キッチンボード、妻の真後ろに見えている電子レンジ・・・写っているものが傾いていないか、一つ一つじっくり確認します。写真枠の上辺・下辺と見比べて平行になっていなければ、細かく傾き補正します。

「傾き」によって何らかの表現をすることもできると思いますが、ぼくにそのノウハウはありません。特に意図がないならば、見た人にとって違和感がないように、「水平」を厳守したいと思っています。

2.真ん中に置く

なるべく対象が左右における真ん中にくるように撮ります。撮った対象が真ん中からずれていれば念入りにトリミングして真ん中に持ち込みます。

テーブルに置いてある湯呑み、まな板の上のラディッシュ、おにぎりを握る妻の手・・・もちろん、なんでもかんでも絶対に真ん中に持ち込めばいいわけではありませんが、「真ん中から微妙にずれている」場合であればそのままにせず、「ぴったり真ん中」になるように細かくトリミングします。「日の丸構図」にできる場合はします。

真ん中からの微妙なズレによって何らかの表現をすることもできると思いますが、ぼくにそのノウハウはありません。特に意図がないならば、見た人にとって違和感がないように、真ん中に置くのがいいと思っています。

3.中望遠レンズ

最後は機材です。ぼくはFUJIFILMの「X-T10」というボディに「XF50mmF2」という単焦点レンズで撮影しているのですが、フルサイズ換算約75mmという画角のこの中望遠レンズが欠かせません。

フルサイズ換算約50mmと言われる標準レンズと比べて、撮った対象がグッと密集したような迫力が出る「圧縮効果」が大きいのと、そして何より「ゆがみ」が少ない。対象物本来の姿に近い形で撮ることができます。

あえて「ゆがみ」を活かした表現の仕方もあるとは思いますが、見た人にとって違和感がないように、「ゆがみ」は少ないに越したことはないと思っています。

このように、撮り手にとって固有の要素(妻の顔)や、撮り手のこだわりのようにも受け取れるもの(傾き、構図、歪み)をとことん差し引いていくことによって、見た人が「自分ごと」として受け止めやすい「素材のような写真」に近づくものと考えています。

ただし、「切実な思い」の要素だけはしっかりと残るように。

そこのさじ加減がとても難しく、そして、ものすごく面白いところだと思っています。

以上、全2回にわたって、ぼくがSNSに写真を投稿するにあたって心がけていることを紹介させていただきました。

読んでくださった方の中で一人でも、自分の表現をしながら共感を呼ぶための道筋が見えた・・・そんなふうに感じてくださる方がいらっしゃれば光栄です。

いかがでしたでしょうか?ただいま、Adobe Stockでは作品を投稿して下さるコントリビューター(投稿者)を募集中です。コントリビューター登録がお済みでない方はこちらからどうぞ。みなさまの素敵な作品をお待ちしています。