UX調査の経験から学んだ、ソーシャルセクターが共感だけでは不十分な理由 | アドビUX道場 #UXDojo

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

人々の生活をより良くしたいと思うUXリサーチャーやUXデザイナーにとって、ソーシャルセクターは魅力的な領域です。しかし、間違えてはなりません。それは一般的なUXの仕事とは異なります。NPOやNGOのような団体と働いて、衣食住などの基本的なニーズを支援するモノやサービスをデザインするのは単純な仕事ではなく、標準的な原則の組み合わせだけでは対応できません。

「社会問題のための調査やデザインをして最初に気づくことのひとつは、共感だけでは役に立たないということです」とUXリサーチャーのアルバ・ヴィジャミルは言いました。

共感は、しばしばUXデザインや調査の土台とみなされます。しかし、共感がすべてのストーリーを語るとは限りません。アルバはそこに思い込みがあると言います。もしUXの専門家がユーザーの目を通して物事を見ることができたなら、正しい製品をデザインできるという思い込みです。ソーシャルセクターでは、この考えは害をなす可能性もあります。一緒に働くことになる相手の多くは、無防備で、おびえていて、誰を信じてよいのか分からない人々だからです。

ソーシャルセクターのUXリサーチャー、アルバ・ヴィジャミル

なぜユーザーに対する仮説を疑うのか

移民と不平等の社会学をアカデミックな環境で学んだアルバの仕事は、難民、低所得者、DVの被害者など、恵まれない層への貢献に集中しています。彼女は今の自分の仕事がお気に入りです。彼女が経験から得たいくつかの洞察は、どんなデザイナーでも自分のユーザーに対して持っていそうな仮説に挑戦するものです。

「ユーザーは自身のニーズや動機や不満を表現することができ、リサーチャーはそれを観察できるという仮定が存在しているように思います。ソーシャルセクターで働いて私が学んだことは、自分が置かれている状況を理解していないユーザーを相手にデザインするのは珍しくないということでした」

アルバの調査は繊細な情報を含むため詳細の公開ができないのですが、現在作業中のプロジェクトのひとつを例として話してくれました。彼女は現在中央アメリカの難民問題のUX調査を実施中で、グアテマラからメキシコ、そしてアメリカ国境を越えた旅の話をユーザーに尋ねています。

「彼らは何が自分に起きたのか、自分に起きていたことに何を感じたかは話すことができますが、なぜそうしたことが起きたのかを必ずしも知っているわけではありません」

これが彼女の調査が「ユーザー調査」を越えて行われる理由です。彼女が働いているプロジェクトは、最終的に難民の安全を向上させる成果物を目指しています。この課題に関わる要因には、複雑な政府の仕組みや、入り組んだ政治状況など、ユーザー体験に影響を与えつつユーザーが制御できないものも存在しています。より良い理解を得るために、アルバは多くの答えの難しい問いを投げかけます。

「行政機関ではどんな動きが起きているのか?難民が実際に関わることになる機関は何か?彼らをまるで操り人形のように裏からこっそり操っているのは誰か?リサーチャーにはこうした発見を組み合わせることが要求されます」

彼女はもちろんユーザにインタビューします。それに加えて、社会学者、ジャーナリスト、非営利の分野の経験者、警察官、弁護士、その他の視点を提供できる専門家にもインタビューします。この作業は多面的で、時には感情的なものです。しかし、こうした視点は、実際にユーザの生活に違いをもたらす何かを開発するために、すべて必要不可欠です。

「私たちは、ユーザーが語ったことや、私たちが見たものだけでなく、彼らの周囲で起きている他のすべての抽象的なことのためにデザインしなければなりません」とアルバは言いました。「それがリサーチャーであることを私が好きな理由です。人々が必要としているサービスを受けることを妨げている可能性がある、すべての仕組みや要因を調査できることです」

アルバが中央アメリカ難民プロジェクトで二次ソースの一部として使っている書籍の写真

研究者からUXの世界へのキャリアチェンジ

アルバはUXリサーチャーとして3年間働いています。大学院での社会学の研究からの転身です。彼女は学術的な環境が気に入っていましたが、自分の研究が何か社会にインパクトを与えることを望みました。

「学問の世界では、実に興味深い厳密な成果を出せます。でも、その研究を読むことで利益を得られるかもしれない政治家やコミュニティリーダーの目に留まることはほとんどありません。私は自分の研究が実際の課題に直接利用できる業界を見つけたいと思いました」

「ソーシャルセクターは、研究者にとって実に興味深い領域です。共に働くことになる組織は、データドリブンで人間中心のアプローチの必要性を理解しています。生活している人々の集団に実際に影響する何かをデザインしたがっているからです。私はそこに魅力を感じ、それを可能にするUXの可能性に惹かれました」

業界に関する専門性が大切であること

新しいキャリアを始める際、アルバは彼女の移民と不平等に対する研究がソーシャルセクターへの転身に役立つだろうと考えていました。特に、彼女にはその分野の具体的な知識がありました。

「UXリサーチャーは、どんな業界でもすぐに飛び込めるとよく言われます。ヘルスケア、ソーシャル、あるいはフィンテックでも、調査は調査だという訳です。私の意見では、ソーシャルセクターには状況ごとにそれに応じた複雑さが数多く存在していて、デザインや開発の実際の経験がものを言います」

多くの場合、アルバが必要な調査やテストを行うために使える時間や予算は限られています。ターゲットユーザーのニーズや振る舞いに影響を持ち得る環境や要因の複雑さに精通していることが、彼女がプロジェクトのスコープを絞る際の役に立ってきました。

転職の際、UXを学ぶために学校に戻ることを少し議論したそうですが、彼女は異なる視点を持つことに価値感を覚え、最終的にその考えを却下しました。

「アカデミックでもジャーナリズムでも、何かデザインと関係のない業界の経験を持っていれば、そうした業界の視点や考え方を調査に持ち込むことができます」

アルバが中央アメリカの難民プロジェクトを始めた時にまとめた最初のいくつかのコンセプトの写真 提供:アルバ

今日のUXリサーチャーやデザイナーにはとにかく共感と適応力さえあればいいという仮説を、彼女の経験は締め出しました。その代わり、彼女は外部の専門知識を持つことを奨励し、答えにくい質問をあえて聞き、ユーザー調査プロセスで見逃されがちな挑戦に意欲をかき立てます。

これは、彼女のUXにおける倫理への情熱に関係しています。倫理は彼女が次に調査しようと計画している領域です。これまで難民と働いてきて、調査には価値だけでなく倫理も必要だということに、彼女は様々なところで気づかされました。ソーシャルセクターでは、世間から隠れたいと思っている人々を巻き込み、見つけた人々の信頼を得て、彼らから得た情報が安全であることを保証するのが仕事の主要な一部です。それは大きなチャレンジです。

「最近の様々な政治的な動きの中で、特定のデータを個人が安全に保管するのはとても困難なことです。それは技術的な挑戦でもあります。UX調査における倫理は、他の分野よりも重要になりました」

UXデザイナーは声を上げるとき

もしこれまでの話に刺激を受けたなら、ソーシャルセクターはあなたの天職かもしれません。ソーシャルセクターは、情熱的で共感的で快活で信頼できる多様な人材を必要としています。そして、調査の価値の話し方を知っているなら、さらに役に立てます。調査を次の段階につなげるために極めて重要なスキルだからです。

「デザイナーはしばしば目の前のことに気をとられていて、それを達成した後まで考えていないことが良くあります」とアルバは言います。かつてないほどUXデザイナーとリサーチャーには仕事があります。今は何かを声に出すべき時です。

「どの領域で働いているとしても、UXリサーチャーは、報告を聞いたステークホルダーが調査結果に基づいて行動しなければならなくなるように、自身の調査結果の価値を伝えられることが重要です。そうしたスキルが、調査データから現実に違いをつくり出すのです」

この記事はWhen It Comes to UX in the Social Sector, Empathy Is Not Enough, Says Alba Villamil: Ladies That UX(著者:Sheena Lyonnais)の抄訳です