UX中心の視点から脱却して、組織内コラボでUXの成熟度を高めよう | アドビUX道場 #UXDojo

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

多くのデザイナーにとって、デザインテクニックやスキルの向上は、解くべきパズルの一部に過ぎません。

デザイナーとしてのキャリアを積めば、より包括的で本質的なUXに関する理解が必要となります。例えば、いつどこでどのように、UXがプロジェクトやチームや事業に適合するかを全体像の中で捉えることが必要です。また、まったく異なる世界観を持つ多種多様なチームメンバーや関係者とのコラボレーションも求められます。

レイチェル・グロスマンは、興味深い経歴を持つUXデザイナーです。そのキャリアは、Center for International Private Enterprise(国際民間企業センター)の腐敗対策イニシアチブから始まりました。フロントエンド開発の授業の課題として、ウクライナにおけるすべての腐敗防止活動を集約したインタラクティブマップを作成してから、レイチェルはUXの虜になり、その道を歩むことに決めました。現在はデザイナーとしてPublicis Sapientで働いています。これまでのキャリアの中で、彼女はUXに意味を持たせるという課題に幾度となく直面してきました。それらの課題がどういったものだったのか、どのように対処してきたのか、彼女の話を聞いてみましょう。

レイチェルとクラスメート。UXデザインを学んだGeneral Assemblyにて。

UXを物事の中心に置くという自己満足

デザイナーは独り善がりだと指摘されることがあります。2018年のUX Londonの講演でIntercomのポール・アダムスは、UXを「世界の中心において殻にこもって考える」のを止める時が来たと宣言しました。駆け出しの頃に、デザインの世界に完全に没頭するのはごく自然なことすが、そのままでは、間もなくデザイナーとしての有効性は制限され、貢献度も下げることになりかねません。

ポール・アダムスがUXの考え方に見られる自己満足の傾向に終止符を打つことについて講演した際のスライド。「すべての図の中心にUXがあること気づくでしょう?」 出典: Intercom

「私は間違いなく彼が指摘した内容を自覚していました。エゴがデザインにおける大きな問題であることは皆が知っていることでしょう。デザインが創造性を『所有する』という考え方です。これは、クリエイティブな問題解決への取り組みに壁を作り出しがちな、非常に問題のある考え方です。UXデザイナーには自分の視点を中心に据える性癖があり、それが他の人が貢献しづらい状態を作り出してしまうのです」とレイチェルは述べました。

UXが必ずしも物事の中心ではないとして、代わりに主役になるのは何でしょうか?レイチェルが提案するのは、すべての原動力としてUXが中心にあるのではなく、継続するプロセスの中の適切なタイミングにおいて、UXが関与して主導的な役割を担うという考え方です。「必要に応じて力を発揮し、同時に他の人にもリードする局面を与えるためには、私たちはどう働けばよいのでしょう?」と彼女は問いかけます。

デザイナーにとって、世界は何か1つの原理を中心に回っているのではないと認識するにはある程度の謙虚さが必要です。自分自身に常に問い続けるのは効果的です。「自分のスキル、経験、知識を活かして、現時点での貢献を最大にするにはどうすればよいか?チームが最も必要としているものは何か?リーダー? ファシリテーター? それとも相談役か?」といった問いです。様々な貢献の仕方を試してみましょう。そしてどのような結果になるか確認するのです。

UXの役割が終わり、他の役割が始まるのはどこか?

この話題についてレイチェルと話したかった理由のひとつは、彼女がTwitterに投稿した「未だに、自分の役割がどこで終わり、他の人の役割がどこから始まるのかを理解あるいは判断するのに苦労している」という趣旨のツイートです。UXデザインは、その最も有効な場面においてさえ、その役割に曖昧さがあると、多くのデザイナーが口を揃えます。レイチェルは次のように話しています。

「UXデザインにはたくさんの人が関わります。例えば、他のメンバーやクライントと協業したり、デザイナーとマネージャーの境界線の理解を求められたりすることでしょう。数年間UXの分野で活動してきた私にとっての大きな疑問は、『シニアなUXデザイナーやプロダクトマネージャーとどのように関わるか?』という点です。私たちの分野は、まだ十分に定義されておらず、とても入り組んでいます!」

https://twitter.com/radicallyrach/status/1083816142572011525

さまざまな役割、スキルセット、キャリアパスをすべて定義して区別しようとする試みは、デザイン業界が常に取り組んできたことです。そしてその努力は、新しい分野 (UXリサーチやコンテンツ戦略など) が重要性を増して全体像の一部に入り込むにつれて、絶えず進化しています。私の経験では、既成観念に囚われることなく好奇心を抱くことが役に立ってきました。成長しようという気持ちは、「何かに脅かされている」という感覚から逃れ、他の関連する分野からの貢献の可能性を発見させてくれます。さらに、時には不愉快に思えたとしても、この曖昧さは独自の進路を切り開く大きな可能性の源泉です。

レイチェルの場合は、UXデザインには何らかの提供できる価値があると信じることが始まりでした。「まず自分のアイデアやその仕事の価値を信じることが、非常に重要な出発点です。UXは曖昧な面があり、そのためにUXデザインの価値を『見せる』ことが困難だという考え方に囚われて、前に進めなくなる人々を見てきました。そうする代わりに、自分のチーム・クライアント・マネージャーが、戦略や製品の方向性やユーザーの真のニーズの理解に対するUXの貢献を理解すると信じ、信頼するべきなのです。そうすれば、仕事を正当化しようとして行き詰まることはなくなるでしょう」

プロセスへの多様な理解に対処する

デザイナーがどの場面で活躍すべきかという判断を困難にしている理由のひとつは、全体的なデザインプロセスや、デザイナーの役割と専門性についての様々な理解の存在です。レイチェルはこれを評して、「こうした曖昧で漠然としたプロセスは皆に共通ですが、デザインプロセスのどんな一面でも、例えばユーザーリサーチの解釈は、人それぞれ異なっています」と話しています。おそらく、これが、デザインプロセスのダイアグラムや定義がこれほどまでに溢れかえっており、デザインプロセスやそこに含まれるステップを明確化する試みが繰り返しなされている理由でしょう。

画像検索でデザインプロセスを検索すると、無限ループ、二重ダイアモンド、六角形などを使った画像が表示される。様々な種類のデザインプロセスやそれを「正しく」行う方法が存在する

この課題を克服する方法としては、優れた協力者となって、とにかく柔軟にチームと働くことが挙げられます。効果的なUXデザイナーは優れた連携者でもあるものです。そして、プロジェクトの目標を達成できるように、さまざまな視点と優先度を組み合わせます。UXがチームスポーツであるという考えに賛同する人も増えています。チームスポーツでは、常にUX中心の考え方をしているプレーヤーがいたら、効果的な貢献はできません。

習慣化された行為は、協業を容易にするための重要な役割を果たします。「毎日の立ち話、すなわち常に15分間のやり取りを行うことが、唯一の役に立つ方法だと固く信じています。その一部は人間関係の構築です。実際に顔を合わせる時間が欲しいのです」とレイチェルは語りました。定期的にチームと接する機会の存在は、意思の疎通と親密な関係の構築に役立ちます。

簡単な毎日の立ち話は、チームの協業に非常に役立つ習慣。こうしたプロセスが、チーム内の関係を築き、認識を統一するための役に立つ

互いを尊重しながら協力的に作業し、共有プロセスを作り上げるように努力したとしても、UXが非常に多様な分野であることには変わりありません。物事を「正しく」進める方法についての議論や強い主張が頻繁に行われており、合意したベストプラクティスやアプローチには多くの曖昧さが存在します。「私が困難を感じるのは、人々に共有された方向性が常にあるわけではない点です」とレイチェルは語ります。「たとえば特定のアイデアに対する論争があります。『デザイナーはコードを書くべきか』、『アジャイルとUXは共存できるか』といった議論です。この分野が向かう先を常に把握し続けるのは容易ではありません。それゆえこれらの問いに対して皆がが行きつく先は、それぞれ正反対の見解になりかねないのです」

対応の鍵: 強い絆を作り上げる

もちろん、視点の多様性や発散する意見が、領域を豊かにすることもあります。その一方で、プロセスに対する理解が実践者それぞれ異なってしまう状況づくりにも加担します。そうなれば、UXを状況に合わせて理解するという難題は更に難しくなります。この問題を乗り越える手段は、やはり、コラボレーションということになるでしょう。

とはいえ、コラボレーションもまたバズワードのひとつであり、人によってその意味するところや、実際に何をするのかについての理解は異なるかもしれません。「残念ながら多くの場合に『みんな同じ部屋に集まったのだから、いまやあなた方はチームです。さあ働きましょう!』となるケースが多いようです」とレイチェルは言います。彼女の経験から得た、UXデザイナーと他のチームメンバーやステークホルダーとの協業をしやすくする方法は次のようなものです。

まず、人間関係を築きやすいスペースを職場に設けることが重要です。「私たちは間仕切りの無いオフィスで働いています。キッチンも付いていて、皆そこに集まって食事したりくつろいだりしています。その場で行われるのは、明確化できない漠然としたたくさんの会話ですが、それが最終的には協業を容易にしてくれます」。一緒に過ごした時間が、言語・視点・理解を共有するための支えになるのです。

加えて、物理的な距離の近さも効果的です。「新しいプロジェクトが始まると、チーム全員が集まって座ります。チームを実際に近くに感じ取れることが非常に重要なのです。言葉を共有したり、互いの関係を発展させることができます」

また、レイチェルは、インターネットを使ったコミュニケーションを減らすよう努めています。一日中通知が殺到していれば、チームの作業への集中度合いに影響します。そのため、個人やチームの作業が中断されない作業者のための時間(制作作業に実際に関わる人専用のスケジュール)を作成することを優先しています。

効果的なUXデザイナーはより広い枠組みの中で役割を持つ

デザイナーとしての経歴を積むにつれ、UXの適合する場所を理解することがどんどん難しくなります。複雑なチーム、プロセス、協業への対処は、デザイナーがいつかは直面する課題です。おそらく、デザインの居場所がどこなのか、UXの役割がどこからどこまでなのか、100%確信することは不可能なのかもしれませんが、そのおかげで、謙虚になったり、曖昧な境界や銃部くする領域を探ったり、強い絆を築く機会を得ることができます。

この記事はPutting User Experience in Context: Tips for Using Collaboration to Improve UX Maturity in Your Organization(著者:Linn Vizard)の抄訳です