建設・建築業界の事例から考える「働き方をデザインするITの活用法」

2020年を前に、いまフル稼働でまちづくりを進めている建設・建築業界。この業界も他事業の例にもれず人手不足が課題となっています。そのため稼働時間も長く、個々人で自分の働き方をデザインできないという問題も抱えています。

そんな課題を解決する手段として期待されているのがITの活用です。2019年6月25日に開催された「建設・建築業向け 働き方デザインセミナー」では、建設・建築業界における最新IT活用事例を通じ、誰もが自分の望むような働き方を実現できるヒントが示されました。

なぜITが建設・建築業界の生産性を向上できるのか

基調講演に登場したのは、建設ITジャーナリストである株式会社イエイリ・ラボ 家入龍太氏です。

株式会社イエイリ・ラボ 代表取締役 家入龍太氏

「2020年以降、建設・建築業界の人手不足は一層進むと思われます。労働力確保のためには、いまから準備しなくてはなりません」(家入氏)。そこで家入氏が提案するのがITの活用です。実際建設・建築業界のIT化は加速しており、130年以上も建設が続くサグラダファミリアが、シミュレーションソフトや3Dプリンタの活用により、工期を劇的に短縮させたのは有名な話です。

このような状況を受け、国土交通省は2016年度より、ICTを活用した建設・建築の新基準「i-Construction」を提唱しています。また、3Dモデリング技術を活用し、建造物・建築物を設計・管理するBIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)も多くの現場で適用されるようになりました。

家入氏は、「こうしたテクノロジーを活用すれば、労働時間も業務も大きく変化します。たとえばITによるシミュレーションで最も良い結果を現場にフィードバックすることで工期を短縮できますし、テレワークによりいつでもどこでも仕事ができる環境が整えば、現場への移動時間が大幅に削減できます」と説明します。またIT化の波は建設機械にも適用され、初心者でも熟練者に近い操作ができるようになったことも、人手不足解消の一助となっています。ITの活用が進むことで、2020年以降、建設・建築業界の生産性や働き方が大きく向上することでしょう。

クラウド活用で情報共有や作業効率が向上

続くパネルディスカッション「BIM活用で進める働き方改革と各社の取り組み」について、株式会社乃村工藝社 田辺真弓氏と、株式会社ワイズスタッフおよび株式会社テレワークマネジメント 田澤由利氏が対談しました。モデレーターは、CAD・3D設計ソフトのオートデスク株式会社 濱地和雄氏です。

(左から)オートデスク株式会社 濱地和雄氏、株式会社乃村工藝社 田辺真弓氏、株式会社ワイズスタッフおよび株式会社テレワークマネジメント 田澤由利氏

BIMが働き方改革と密接にリンクするのは、BIMとクラウドを連携させて情報を一元化することで、業務のやり方そのものが大きく変わることにあります。すでに大手建設業では、このやり方を取り入れているところもあります。

登壇した乃村工藝社 田辺氏は、2018年に生産技術研究所内に設立されたBIMルームの初代ルームチーフとして活躍中。BIMルームとは、BIMソフトの教育・社内普及を目的とした専門部隊です。そんな田辺氏は、BIMとクラウド連携の重要性を挙げ、「クラウドで設計情報を共有し、関係者全員がチェックすることで手戻りを防止できます。また海外拠点を組み入れて時差を活用すれば、タイムラグなく設計を仕上げられるという事例もあり、働き方改善につながると期待できます」と述べました。

株式会社乃村工藝社 事業統括本部 生産技術研究所BIMルーム ルームチーフ 田辺 真弓氏

一方田澤氏は、テレワーク形態で委託されたプロジェクト業務を遂行する企業・ワイズスタッフの代表取締役 兼 株式会社テレワークマネジメント 代表取締役を務めています。同社は、2017年から地方在住者や在宅業務希望者に対し、自治体などと共同でBIMエンジニアを育成することに取り組んできました。

株式会社ワイズスタッフ 代表取締役 兼 株式会社テレワークマネジメント 代表取締役 田澤 由利氏

田澤氏は「企業にテレワークをコンサルティングする立場からいえば、クラウドの活用は
これから必須となるはず。人材もツールもクラウドに共有し、業務をプロジェクト化すれば、いつでもどこでも自由な働き方が実現できるようになります」とアドバイス。

オートデスク株式会社AEC セールスディベロップメントエグゼクティブ 濱地 和雄氏

濱地氏は「クラウドの活用が、働き方を変える参考になれば幸いです」と述べ、ディスカッションを終えました。

創造的な作業以外はAIに一任

最後のセッションでは、デザイナー・設計者向けクリエイティブソリューションの「Creative Cloud」、および3Dツール「Adobe Dimension」を使ったデモンストレーションが行われました。

アドビ社員によるデモンストレーション

これらのツールの基盤には、アドビのAIエンジン「Adobe Sensei」が組み込まれているため、画像の検索や作成、および切り抜きなど、クリエイティブに関係ない作業はAIに一任できます。作成したモデルや図版はクラウドで管理されており、BIMツールやCADと連携してより詳細な設計プロセスに進めていくこともできます。またDocument Cloudを活用すれば、業務プロセスがデジタルで完結できるようになるため、建設・建築業界の働き方、生産性はますます向上することでしょう。これからもアドビは、個々人の働き方をデザインするソリューションを追求してまいります。