第4回「文字を美しく組むための設定」#InDesign

連載

InDesign入門ガイド

InDesignには、美しい文字組みを行うためのさまざまな機能が用意されています。今回はその中でもとくに重要な機能のいくつかをご紹介します。文字組みアキ量設定やコンポーザー等、いずれも文字組みに大きく影響を与える機能なので、きちんと内容を理解しておきましょう。

文字組アキ量設定と禁則処理

文字組みアキ量設定

文字をベタ打ちしただけでは、バランスよい文字組みにはなりません。約物が連続するケースでは字間が空きすぎて見えますし、和文と欧文が並ぶケースでは、逆に字間がくっついて見えます。また、均等配置(箱組み)では、行長の半端なアキをどこかで吸収する必要がでてきます。InDesignでは、文字と文字の間隔(アキ量)を指定することで、目的に応じた美しい文字組みが実現できます。

文字をベタ打ちしたもの(上)と、文字間を調整したもの(下)。

InDesignで文字組みに影響を及ぼす機能は多々ありますが、なかでも美しい文字組みを実現するのに重要な役割を果たすのが[文字組みアキ量設定]です。初めて[文字組みアキ量設定]のダイアログを見た方は、その設定項目の多さに戸惑い、さわるのを敬遠したくなるかもしれません。しかし、ハウスルールに沿った文字組みをする必要がある場合には、カスタマイズして使用する必要がでてきます。[文字組みアキ量設定]が、どのような原理で動作しているのかさえ理解してしまえば、設定の考え方じたいはさほど難しいものではありません。躊躇せずに、ぜひチャレンジしてみましょう。

InDesignの[文字組みアキ量設定]ダイアログ

[文字組みアキ量設定]とは、文字と文字が並んだ際の間隔(アキ量)を指定したものです。例えば「読点と始め鍵括弧が並んだ際には、アキ量は二分(1/2文字分のアキ)」といったように指定します(平仮名やカタカナのみを詰めるような高度な設定も可能ですが、一般的に約物のアキ量を調整する機能だと思ってください)。つまり、[文字組みアキ量設定]の内容いかんで、文字組みの見た目は大きく変わるわけです。

図のケースでは、「美」と「・」のアキ量は「四分」、「・」と「あ」のアキ量は「四分」、「あ」と「始め鍵括弧」のアキ量は「二分」となっています。

しかし、実際には文字の並びの組み合わせには膨大な数があり、それぞれアキ量を指定するのは現実的に不可能です。そこで、InDesignでは文字をいくつかのグループに分け、グループとグループが並んだ際のアキ量を設定していきます。このグループを[文字クラス]と呼びます(どのような文字クラスがあるかは、[文字組みアキ量設定]の[詳細設定]ダイアログから確認できます)。

なお、それぞれの文字クラスはベースとなるサイズが異なります。アイコンを見ると分かりますが、平仮名やカタカナ、漢字等は、全角幅がベースとなっているのに対し、括弧類や句読点は半角幅がベースとなっています(欧文は字形によって文字幅が異なります)。そのため、例えば句点を全角扱いで組みたい場合には、次の文字クラスとのアキ量を「二分(1/2文字分のアキ)」と設定すればよいことになります。

InDesignの[文字クラス]

では、実際に[文字組みアキ量設定]のダイアログを見てみましょう。[基本設定]と[詳細設定]がありますが、[基本設定]では約物の行中・行頭・行末での設定や、約物が連続する場合の設定、および段落字下げと和欧間のアキ量などの基本的な設定を行います。さらに詳細に設定を行いたい場合には[詳細設定]を使用することになります。[詳細設定]では、各文字クラスの並びを指定して、それぞれのアキ量を個別に指定することができます。

また、左揃えや右揃え、中央揃えで文字組みをしている時には、[最適]に指定したアキ量で文字組みがなされます。しかし、均等配置、いわゆる箱組みをした際には、各行に半端なアキができてしまうケースが出てきます。このような場合には、[最小]から[最大]の間で調整するわけです。さらに、多くの設定項目をどのような順番で処理していくのかを決定しているのが[優先度]です。[1〜9]と[なし]の10段階で指定可能で、1番に指定した項目から順に処理され、最後に[なし]の項目が処理されます。

[文字組みアキ量設定]の[基本設定]ダイアログ。単位には[%][分][文字幅/分]のいずれかを使用できます。なお、[分]や[文字幅/分]では設定できない細かな値を使用したい場合には[%]を使用します。

[文字組みアキ量設定]の[詳細設定]ダイアログ。各文字クラスが並んだ際のアキ量に関して、[最小][最適][最大]そして[優先度]の各項目を指定します。なお、マイナス値の設定も可能です。

ここまで理解してしまえば、あとは実際に試してみてください。さまざまなテキストに対してカスタマイズした[文字組みアキ量設定]を適用し、どのような文字組みになるかを確認してください。問題がある場合には、再度[文字組みアキ量設定]を調整して、ハウスルールに沿った設定を作り上げていくとよいでしょう。なお、InDesignにはあらかじめ14種類の[文字組みアキ量設定]も用意されています。これらの設定を使用するとどのような文字組みになるかは、「InDesign CS3 文字組み設定の手引き」から確認することができますので、ぜひダウンロードして参照してください(CS3の時のものですが、現在のバージョンと基本的に変わりません)。

InDesignにあらかじめ用意された14種類の[文字組みアキ量設定]。「・」を「+」に置き換えて見てみると、実は4つのグループに分かれることが分かります。ベースとなる4つの設定に対し、字下げのバリエーションを増やして、計14個の設定が用意されているというわけです。

なお、自分で設定するのはちょっと自信がないという方は、ネット上で公開されている[文字組みアキ量設定]をダウンロードして使用しても良いでしょう。ネット上には、[文字組みアキ量設定]を無償で配布されている方もいらっしゃいます。ちなみに、筆者のお勧めは『+DESIGNING』誌で連載されている大石さんの設定です。InDesignとIllustratorの[文字組みアキ量設定]が無償でダウンロード可能です。
http://www.plus-designing.jp/pd/mjk/pd_mjk.html

禁則処理

日本語組版には「句読点は行頭にきてはいけない」「始め括弧類は行末にきてはいけない」といったさまざまな組版ルールがあります。これらの組版ルールをひとつにまとめたものが[禁則処理セット]です。[禁則処理セット]には、行頭にきてはいけない[行頭禁則文字]と行末にきてはいけない[行末禁則文字]、さらに[ぶら下がり文字]と[分離禁止文字]が指定されており、日本語組版用にはあらかじめ[強い禁則]と[弱い禁則]の2つのセットが用意されています。目的に応じて「禁則処理セット」を切り替えて使用してください。なお、[禁則処理セット]はカスタマイズして、オリジナルのセットを作成することも可能です。

InDesignにあらかじめ用意された[禁則処理セット]

[強い禁則]と[弱い禁則]。行頭禁則文字に小書きのかなや音引きが含まれるか、含まれないかが大きく異なります。

禁則調整方式を見てみよう

[段落]パネルのパネルメニューには[禁則調整方式]という項目があり、[追い込み優先][追い出し優先][追い出しのみ][調整量を優先]のいずれかを選択できます。デフォルトでは[追い込み優先]が選択されていますが、この設定を変更したことがある方は少ないかもしれません。しかし、[禁則調整方式]は組版に大きく影響を与える項目なので、どのような動作をするかを、ぜひ覚えておいてください。

InDesignの[禁則調整方式]

読んで字のごとく、[追い込み優先]では禁則文字を追い込み、できるだけ同一行で調整することを優先し、[追い出し優先]は禁則文字を次の行に追い出すことを優先します。[追い出しのみ]は禁則文字を必ず次の行に追い出し、[調整量を優先]は、禁則文字を追い出した時の文字間隔が追い込んだ時の文字間隔より極端に広くなる場合は、文字を追い込みます。

なお、[調整量を優先]以外の設定では、行頭または行末に禁則対象文字がある場合のみ、行中で生じたアキを処理できるのに対し、[調整量を優先]では行末・行頭に位置する文字が禁則対象文字でなくても、行中で発生したアキを主に「追い込む」方向で処理が可能です。そのため、個人的には[調整量を優先]の使用をお勧めしています。

[禁則調整方式]に、それぞれ[追い込み優先][追い出し優先][追い出しのみ][調整量を優先]を選択したもの。

コンポーザーとは?

[段落]パネルのパネルメニューには、日本語用と欧文用、多言語対応用にそれぞれ[単数行コンポーザー]と[段落コンポーザー]が用意されています。デフォルト設定では[Adobe日本語段落コンポーザー]が選択されていますが、この設定を変更したことのない方もいらっしゃるではないでしょうか。実はこの設定を変更することで、文字組みが変わるケースがあるのです。とくにテキスト修正時の動作が大きく異なるので、概念をしっかりと理解してください。

[段落]パネルのパネルメニューに用意されているコンポーザー。

[単数行コンポーザー]は、どこで改行するかの判断を1行単位で行っています。それに対し、[段落コンポーザー]では改行位置を段落単位で決定しており、極端に字間のアキの広い行がないよう、各行のアキをできるだけ均等にしようと調整を行います。そのため、テキストの追加や修正を行うと、段落単位で再調整が行われ、修正をした行よりも前の行であっても、改行位置が変わるケースがあるのです。

字間のアキのばらつきをなくすためには[段落コンポーザー]の使用がお勧めですが、修正個所よりも前の行の改行位置が変わるのを避けたい場合には[単数行コンポーザー]の使用がお勧めです(多くの会社が[単数行コンポーザー]を推奨しているようです)。なお、ドキュメントを何も開いていない状態でコンポーザーを変更しておけば、以後、新規ドキュメントを作成する際には、その設定がテキストに適用されます。また、[環境設定]の[高度なテキスト]でも、デフォルトのコンポーザーの指定が可能になっています。

[Adobe日本語段落コンポーザー]を適用しているテキスト。5行目の「では」を「に」に修正したことで、2行目から改行位置が変わってしまいました。

なお、和文テキストに欧文用のコンポーザーを適用すると、縦組みをはじめ、ルビや圏点など、日本語専用の機能はすべてスキップされます。欧文用のコンポーザーは、欧文のみのテキストに対して適用するようにしましょう。

[Adobe日本語段落コンポーザー]を[Adobe欧文段落コンポーザー]に変更したもの。日本語専用の機能はすべてスキップされます。

CC道場「#269 エバンジェリストに聞け!森裕司 | InDesign、ワンクリックで実現できる目を引く見出しの作り方