3つの視点でコラボレーションするデザイン手法「コラボレーティブデザインスプリント」 | アドビUX道場 #UXDojo
エクスペリエンスデザインの基礎知識
これからのデザイナーは、従来のようにディレクターから渡された資料を見てカンプをつくるという受け身の姿勢ではなく、積極的にユーザーのことを考え、ユーザー体験の全体を意識しながらデザインをする必要があります。
Webサイトは、一方的な情報発信だけでなく、製品購入であったりブランドとのコンタクトを取り始めたりといった様々な役割を期待されるようになりました。ユーザーにとっても、特にスマートフォンの登場以降、企業やブランドと接する主要な機会とになっています。
つまり、Webサイトを顧客体験の一部として捉え、その前後もスコープに入れて考えることが求められているのです。
しかし、そのスコープの広さは一人のデザイナーがカバーできるものではありません。さらに、渡された資料を読むだけで必要な要件を把握できるとは限りません。そのため、様々な立場の人が一緒になって、チームとしてデザインを行うという行為が実践されるようになってきているわけです。
しかし、チームでデザインするは簡単なことではありません。その理由は主に2つ考えられます。
- 多くのビジネスパーソンは「モノをつくる」トレーニングを受けていない
- 複数人が多くの作業時間を確保するには忙しすぎる
そこで、私たちのチームでは「コラボレーティブデザインスプリント」として、短期間で効果につなげられる「型」を実践しています。そこでは、デザイナーがユーザーのことを考える専門家として中心となり、各メンバーはそれぞれが得意なやり方でデザインに参加します。この記事ではその概要を紹介したいと思います。
8月5日(月)19時よりコラボレーティブデザインスプリントを実際に体験できるミートアップが開催されます。奮ってご参加ください。
コラボレーティブデザインスプリントにおけるデザイナーのマインドセット
私たちのチームでは「デザイン」という行為を、「形のないもののデザイン」と「形のデザイン」に分けています。前者は「形のないアイデアや体験に、他の人にも伝えるための形を与えること」と定義しています。後者は旧来よりの「モノ」のデザインやビジュアルデザインです。この2つのデザインを、他者を巻き込んで一緒に行うことを「コラボレーティブデザイン」と呼んでいます。
「コラボレーティブデザインスプリント」は、時間を短く区切り定型化することで、コラボレーティブデザインを効率的に行えるようにしたフレームワークです。
コラボレーティブデザインにおける、デザイナーのマインドセットは、「他の人の頭も借りてつくる」です。自分の頭だけでは考えきれないスコープに対して、他者の知識や経験などを借りて、「一緒」にデザインをしていきます。「借りる」としているのは、最後の「形のデザイン」は、デザイナーの仕事であることを忘れないようにするためです。
コラボレーティブデザインスプリントの進め方
それではコラボレーティブデザインはどのように進めれば良いでしょう?
3つのステップの概要を紹介します。
- 前提条件の確認
- デザインストラクチャーの制作
- 詳細体験(プロトタイプ)のデザイン
1. 前提条件の確認
アウトプット:ペルソナ、カスタマージャーニーマップ(AS-IS)、価値マップ等
誰の、どんな課題やニーズのために新しい体験を作るのかという前提を共有します。クライアントと一緒に行えると、よりデザインの精度をあげることができます。
2. デザインストラクチャーの制作
アウトプット:体験コンセプトワード、カスタマージャーニーマップ(TO-BE)等
コンセプトと体験を分けて考えて、骨格となるデザインストラクチャー(ビジョン、コンセプト、体験の「縦の関係」)をつくります。
3. 詳細体験(プロトタイプ)のデザイン
アウトプット:プロトタイプ(シナリオ、プロダクト、データ)
2でデザインした体験をより具体的なプロトタイプとして複数の視点から形にします。我々のチームでは、シナリオ、プロダクト、データの3種のプロトタイプを作っています。異なる視点から体験をつくることで、より解像度の高い具体的な体験の姿を得られます。
進行のポイント
進行するにあたり5つの重要なポイントがあります。一つずつ簡単に解説します。
- コンセプトと体験の間を行き来する
- 体験の概要の段階で認識を合わせる
- メンバーそれぞれが異なるプロトタイプを担当する
- 時間を区切って、やり切る
- 最初のアイデアは必ず捨てる
1. コンセプトと体験の間を行き来する
コンセプトと体験という抽象の度合いの違う2つを行き来する行為をワークの中に組み込みます。コンセプトだけ、体験だけの議論では行き詰まってしまうことがよくあります。抽象度を変えることで視界が開がる瞬間があります。
2. 体験の概要の段階で認識を合わせる
ステップ3の「詳細体験(プロトタイプ)のデザイン」を始める前に、ステップ2で作成した体験の概要に対する認識を合わせておきます。それができていれば、作業後に議論が噛み合わないという事態は避けられるはずです。カスタマージャーニーマップ(TO-BE)がそのための有効なツールになります。
3. メンバーそれぞれが異なるプロトタイプを担当する
一人で複数の視点からのプロトタイプを作るのではなく、それぞれが異なるプロトタイプを選ぶようにしす。デザイナーやエンジニアのようにものづくりに慣れていない方は、「シナリオ」のように参加のハードルが低いものを選ぶとよいでしょう。
4. 時間を区切って、やり切る
長時間一人で考え続けるよりも、手早く形にし、チームで議論し、次の案を形にして・・を繰り返すほうが、良い案への近道になります。また、議論をだらだらと続けるのは非効率的です。そのため、各作業を短い時間で区切って、無理やりでもアウトプットします。
5. 最初のアイデアは必ず捨てる
最初のアイデア「よくある」ものになりがちです。しかし、何回か繰り返すことで、新しい気づきを得ることができます。そうしたら一回前のアイデアに戻ってver.2.0を作ってから、改めて新しいアイデアを作ります。新しく得られた内容を元に、その前のアイデアを変えることをピボットと呼んでいます。このピボットを初めから計画しておきます。
おわりに
デザインに不慣れな人も含め、限られた時間の中で、チーム全員でデザインをすることはとても困難です。それをなんとかできるようにと考えたのが、コラボレーティブデザインスプリントです。デザイナーにはファシリテーターとしての役割を求められますが、型を決めることで、その負担も減らせるようになっています。
重要な点は、最終的なアウトプットである「形のデザイン」をつくるのはデザイナーの仕事であるということです。そのアウトプットの精度を上げるために、チームから視点と知恵を借りているという意識を持ち続けてください。自分だけで作るものを最低品質とし、それを上回ることを目指しましょう。初めてコラボレーティブデザインスプリントを行うときは、一度すべて自分で作ってみて、それをver.1.0としてやってみると、他の人の頭も借りてることで何が改善されるのかを見通す感覚が掴みやすくなると思います。