デザイナーが人のエクスペリエンスを向上させる力(と責任)を持っている理由

私たちの日々の生活の中で、購入する製品から働く空間に至るまで、デザインが関わらないものはひとつもありません。

様々な形で人々の価値観や期待するものに影響を与えることができるデザイナー(とデザイナーが働く会社)には、自らのスキルを使用して生活を向上させ、機会を創出し、人々を結びつける責任があります。

今、この責任を真摯に受け止める企業が増えています。私たちは、共感、インクルーシブデザイン、多様性の重要性について、Google、Microsoft、Uber、Dropboxのデザインリーダーに意見を聞きました。

共感が良い企業を作る

今日のビジネス界で注目を浴びている言葉があります。それは「共感」です。

「企業は、より密接にお客様とつながる必要があることに気づいています。そのようなつながりは共感を通してしか得られず、そして生まれながらに共感力を持った人がデザイナーなのです」と、Uberのプロダクトデザイン担当バイスプレジデントのMichael Gough氏は語ります。

既存の価値を打ち破るブランドであるUberは、自らが打ち破られる側に回ることを避けるには、お客様は誰で、何を必要としており、Uberブランドでどのようなエクスペリエンスを得ているかといった、お客様に関する知識を継続的に深めていくしかない、ということを知っています。Gough氏は、同社の調査チームが「共感エンジン」としてお客様との感情的なつながりを育んでいると述べています。

どこからでも共有と共同作業を可能にすることに力を入れているDropboxは、デザインプロセスに共感を取り入れようとしています。

「デザインには私たちの価値観を反映させることが重要です。ユーザーは、共通の価値観を持った友人を選ぶのと同じように、そのようなデザインに共感します」と、Dropboxのブランドスタジオの責任者、Collin Whitehead氏は説明します。

Microsoftでは共感はマルチプラットフォーム戦略の一部です。デザイナーは俯瞰的な視点から、異なるコンテキストにおけるユーザーエクスペリエンス全体を理解し、ユーザーが達成しようとしている目的に沿ったデザインに取り組んでいます。

Microsoft社のデザイン、エクスペリエンス、デバイスグループのCVPを務めるAlbert Shum氏は、次のように語っています。「私たちは、ユーザーエクスペリエンス全体ではなく、ピクセルに注目してしまいがちです。ユーザーが日々の生活を向上させるためにデバイスをどのように使用しているかを、共感を通して理解することができれば、私たちは有意義なエクスペリエンスを生み出すことができます」

このような洞察は、多くの場合、直接的なやり取りから生まれます。

「共感は調査レポートを読んでも得られません。人とつながることで得られるのです」とShum氏は付け加えます。「それが、私たちが時折スタジオにお客様を招き、チームに会ってフィードバックを直接提供してもらう理由です」

1人のためのデザインから多くの人へ

多くの大企業にとって最優先事項のひとつが、インクルーシブデザインです。これは、日常製品をできるだけ多くのユーザーが利用できるようにするデザインのことです。しかし、デザイナーにとってはインクルージョン実現のためには視点を変えることが必要となります。

Google社のUXデザインディレクターのKat Holmes氏は、現実社会に存在する問題を理解し、生活を変えるようなソリューションを生み出すには、デザインが人間の特性の「想像上の平均」という考え方から離れて特殊性を認める必要がある、と語ります。

Holmes氏は言います。「非常に限られた人たちのニーズから着想を得て、その後、ほかの多くの人に恩恵を与えることになったイノベーションは、以前から存在しています。例えば、オーディオブックは当初、目が見えない人や視覚に障害のある人のために作られました。音声ベースの対話技術は、元々は手の働きが限られていてキーボードやマウスでの作業に制約がある人のために生まれたものです」

インクルーシブデザインは、単に社会的利益を推進するだけのものではなく、優れた商習慣でもあります。Holmes氏は次のように語ります。

「インクルージョンは、はるかに広範な人々の問題を解決するのに貢献することでイノベーションを推進し、最終的には経済的利益となります。何かのついでにすべきものではありません」

MicrosoftのShum氏と同氏のチームは、テクノロジーをよりインクルーシブなものにしようとしています。同氏のチームは、音声、タッチ、ペンとインク、目の動きの追跡を組み合わせて多様な入力を可能にし、ユーザーにとって最適な方法でテクノロジーを利用できるようにする作業に力を入れています。Microsoftはほかにも興味深いテクノロジーを開発しています。

「従来のゲームコントローラーには両手が必要です」とShum氏は言います。「Xboxチームは、幅広いユーザーがプレイできるように、片手用ジョイスティック、フットペダル、フットモーションコントローラー、各種のスイッチなど、様々な入力に対応するXbox Adaptive Controllerを開発しました」

チームはインクルーシブデザインの原則を製品のパッケージにも適用しました。ユーザーが簡単にアクセスできなければ、このコントローラーは役に立たないことを知っていたからです。最終的に、このパッケージデザインは多くの人の役に立つものとなりました。

「私のチームは、両手を使わなくても開けるパッケージを制作しました」とShum氏は説明します。「それはすぐにお客様の間で評判になりました」

多様な見方がデザインを強くする

何もないところからインクルーシブデザインが生まれることはありません。企業は、人種、年齢、性別、身体能力の点でチームをより多様化させ、サービス提供の対象となるコミュニティからの参加を促す必要があります。これは、デザイナーとしてどのような人が適しており、優れたデザインとはどのようなものかについて、従来の見方を変えることを意味します。

Holmes氏は言います。「インクルーシブデザインは、より全人的で思いやりのある人間観を生みます。これは、排除されているコミュニティを見出し、コントリビューターとしてデザインプロセスに招いて協力してもらう方法のひとつです」

Holmes氏は続けます。「私の願いは、Googleでの私の仕事を通して、エンジニアとデザイナー、プロダクトマネージャーが集まり、私たちは誰と一緒に、そして誰のためにデザインしているのかについて話し合うことです。私たちが作る製品は、何十億とまではいかないとしても、何百万もの人々が使用するものですから」

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