Adobe Symposium 2019 レポート(1) 働き方を変える組織作りとIT活用のコツ
2019年7月23日〜24日、東京・ANAインターコンチネンタルで開催された「Adobe Symposium2019」。今年は「顧客体験マネジメント“CXM”をビジネス変革の中心に」をテーマに掲げ、CXMの実践やアドビの戦略、今後のロードマップなどを示しました。
そんなAdobe Symposiumのなかで、新たなドキュメント体験を軸にした「働き方改革」を提案したセッションプログラムがあります。今回は、そのセッションプログラムのなかから、社員のエンゲージメントを高める組織作りを実現している株式会社アトラエと、テクノロジーによって社員のクリエイティブな発想を促しているサイボウズ株式会社の事例を基に、働き方改革実現のコツを紹介します。
エンゲージメントを重視した経営を展開するアトラエ
最初に壇上に現れたのは、アトラエ 取締役でCTOの岡利幸氏です。同社は2003年設立のHR Tech企業で、IT/Web業界を対象にした成功報酬型求人メディア「Green」や組織改善プラットフォーム「wevox」などを提供しています。
株式会社アトラエ 取締役 岡利幸氏
そんなアトラエは今年 2 月、Great Place to Work Institute Japan が実施した、2019 年版「働きがいのある会社」ランキング調査にて、「小規模部門(従業員 25〜99名)」の第 1 位に選ばれました。アジア地域全体でも 5 位にランクインしており、同社の働く環境はまさに世界基準にあるといえます。
なぜアトラエの社員は働きがいを感じることができるのでしょうか。同社は創業時より、社員 1 人ひとりの自律性を重んじ、自由度が高く、フラットでオープンな組織体系である「ホラクラシー(HOLACRACY)組織」作りに取り組んできたからです。
岡氏は「かつてバブル期には、オペレーションの効率化とクオリティの維持向上に取り組むため、ヒエラルキー型組織で画一的なやり方に一斉に取り組むことが必要でした。それから30 年経ち、いまや効率化ではなく、クリエイティビティとアイディアに競争優位がある時代となっています。そのためには、ミスを許容し、挑戦や変化し続けることを是とする組織に作り変える必要があります」と説明します。
創造性を発揮するには、従業員の働く意欲が高くなければいけません。そのためには、従業員が自発的に貢献意欲を持つ=エンゲージメントを高める仕組み作りが肝となります。
具体的に同社が行なっていることは 2 つだけ。1つは「アトラエのビジョンに共感し、意欲的な人を採用すること」、もう1つは「その人が無駄なストレスなく働ける環境を作ること」です。
「特に後者は、倫理と性善説に基づく最小限のルールに留めることと、フラットで自由なコミュニケ ーションを促す Slack や Facebook メッセンジャーの活用などを通じ、個々人が働きやすい形でチームに貢献できるような体制を整えています」(岡氏)
ただ、すべての企業組織がフラットでオープンであればいいかというと、必ずしもそういうわけではありません。岡氏は「環境や業務、人材に基づく組織作りが前提であり、それを踏まえて新しい組織体制を作っていく場合は、失敗が許容される空気感を実現することがポイントです」と述べ、講演を終えました。
クリエイティブな時間を創出するサイボウズの IT 活用術
続いて登場したのは、サイボウズ 営業本部 営業戦略部の高橋栞氏です。サイボウズが提供する業務改善プラットフォーム「kintone」は現在 1 万 2000 社に導入されており、米国や中国など海外でもユーザーを増やしているそうです。
サイボウズ株式会社 営業本部 営業戦略部 高橋栞氏
同社の kintone は、実はアドビのソリューションとも連携しており、電子署名ソリューションの「Adobe Sign」や MA ツール「Marketo」をサポートし、電子契約の効率化や業務改善を実現しています。
そんなサイボウズが業務改革に取り組み始めたのは2006年頃からのことでした。高橋氏によると、その当時は売上が伸び悩む一方、離職率が非常に高くなり、大きな危機に直面していたそうです。そこで、働く時間の選択やテレワークの導入、育休の充実などさまざまなワークスタイルの変革に取り組み、その過程でマーケティングのやり方にも変化が生じてきました。
高橋氏は「マジョリティに向けたわかりやすいマーケティングメッセージを展開するようになりました。そのため、クリエイティブな発想を促すための時間作りが必要になったのです」と説明します。
具体的に行なったアクションは、「活発なコミュニケーション」の実現と「業務効率化」の2つ。これを実現に貢献したのが、デジタルツール・kintoneの活用と、もともとの同社が持つオープンな企業風土でした。kintoneで社員のつぶやきをきっかけに新たな発想が生まれたり新規プロジェクトをスタートできたり、また情報を一元管理して共有する基盤があることで、コミュニケーションがさらに活性化し、業務効率も実現するなど、創造性をもって働けるようになったそうです。高橋氏は最後に「ツールと風土に支えられているので、今後どのようにビジネス環境が変化しても、受け入れられる自信があります」と話しました。