【Adobe Education Forum2019イベントレポート】Creative Confidenceを育て、創造的問題解決を実践しよう(前編)#アドビ教育
アドビの教育分野での取り組みが一度で全部わかるショーケースともいえる「Adobe Education Forum 2019~創造的問題解決能力を育むSTEAM教育」が、2019年7月29日(月)に東京大学 伊藤国際学術研究センターで開催されました。
▼「創造的問題解決能力」とSTEAM教育
社会では創造性や課題解決の発想力がますます求められる中、アドビでは今必要とされる力を「Creative Problem Solving(創造的問題解決能力)」と呼び、この力を育む教育分野に力を入れています。STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)にAの加わったSTEAM教育が注目されていますが、このAはArt(芸術)ではなくLiberal Arts(幅広い基礎教養)の意であり、文理横断の幅広い知識が必要とされています。この横断的な知識を道具に、CreativityとEngineeringをかけ合わせて課題解決をすることが、人間ならではの「創造的問題解決」になるとアドビでは考えています。
STEAM教育の概念を解説するマーケティング本部教育市場部部長の小池晴子氏
▼Creative Confidenceを持つには?
一方でアドビが2016年に行った調査では、他国に比べて日本のZ世代(12歳から18歳)は「自らをクリエイティブだと思う」割合が非常に低いことがわかっています。人間ならではの創造性を発揮するには「Creative Confidence(創造性に対する自信)」が重要と言われる中、そのマインドセットが十分ではないようです。IDEO Tokyoシニアディレクター野々村健一氏が講演し、「Creative Confidence」を持って力を発揮する3つのポイントを示しました。
IDEO Tokyoシニアディレクター野々村健一氏
1.「主観」を大切にする
世の中が求める正しい答えを探すのではなく、「私はどうすれば5年後に世の中の○○を□□なように変えることができるだろうか?」と問いかけ続けることが大切。
2.「やらない理由」よりも「やる理由」
リスクはいくらでもあるので、性善説で「やる理由」をいくつ考えられるかが大切。どうせ伝わらないと諦めずに共感力を養うことが力になる。
3.「実験上手」になる
後戻りのできない完璧なプロトタイプを作ろうとすると最大公約数的なものになりやすい。小さく安く速く多くのプロトタイプを作って試してみることが重要。
これらは、いずれも日本人がこれまでの慣習で苦手としてきたことだと野々村氏は指摘します。さて、すでにアドビのツールを使って様々な課題解決のチャレンジをしている子ども達は、どんなマインドセットを持っているのでしょうか。小学生、中学生、高校生の各段階のプレゼンテーションを見ていきましょう。
▼[小学生]プログラミング力にデザイン力が加わったら?
まず、プログラミングとデザイン両方の力を持つ次世代クリエイターの育成を目指す「Kids Creator’s Studio」に参加したメンバーが登場しました。「Kids Creator’s Studio」は小学生向けのプログラミングスクールを運営するCA Tech Kidsとアドビによるプロジェクトで、2018年と2019年にそれぞれ約半年間かけて実施されました。
CA Tech Kids代表取締役社長上野朝大氏(中央)がふたりの参加メンバーにインタビュー
1期生の高橋温さん(当時小5、現在中1)は、暗記用アプリ「memoris」を開発した経緯を紹介しながら、デザインの知識と技術をつけたことで、より直感的に使えるアプリに仕上げることができたことを紹介しました。プロトタイプ設計にはAdobe XDを使用して効率が上がりました。
高橋温さん。プロジェクト参加前に作ったアプリと比べるとデザイン学習の効果がよくわかる
2期生の宮城采生さん(当時小5、現在小6)は、自作のゲーム「オシマル」のデザインをAdobe IllustratorやAdobe Photoshopでブラッシュアップしたことや、Adobe Premiere Proなどを使ってプロモーション動画をつくるために、パースのついた絵に挑戦したり質感にこだわって作画したりしたことを紹介しました。
宮城采生さん。プロモーション動画では、グリーンスクリーン合成をして自分を登場させた
もともとプログラミングの力をつけている背景があるとはいえ、2人とも、短い期間でデザインの知識と技術を吸収して即座に制作に生かすスピードが際立っています。彼らには「やらない理由」を考える余地などないのは明らかです。
▼[中学生]地域の課題解決に動画、アプリ、ウェブ制作で挑む!
次に発表したのは、福岡県の飯塚市、嘉麻市、桂川町で行われた地域のチェンジメーカーを育てるプロジェクトに参加した中高生メンバー。これは、中高生向けのプログラミングスクールを運営するライフイズテックが、経済産業省の2018年度「未来の教室」実証事業として行なったプロジェクトで、チームごとに地域の課題を解決する企画とIT技術を生かした実制作を行いました。
嘉麻市の観光地を魅力的に伝えることを課題にしたチームは、市のゆるキャラを起用した動画「かまししちゃんねる」を作っておすすめの観光地を紹介し、動画を見るアプリとウェブサイトを制作。また、飯塚市の王塚古墳の知名度を上げることを課題にしたチームは、古代人が登場するPR動画と、古墳を高級ホテル「王塚ホテルリゾート」に見立てたウェブサイトとクイズアプリを作りました。
プロジェクトの説明をするライフイズテック取締役讃井康智氏(上段左)と発表メンバー(上段右)。嘉麻市「かまししちゃんねる」(下段左)と飯塚市「王塚ホテルリゾート」(下段右)の発表
参加チームに共通していたのは自分たちで生み出した「主観」を貫いて「やらない理由」で立ち止まらずに突き進む力。それが地域の課題を明るい視点で変えていく力になっているのを感じさせられます。
さて、次は高校生による発表や当日会場で行われたワークショップです。
<→後編に続く>
文/狩野さやか