【Adobe Education Forum2019イベントレポート】デジタルツールはもはや文房具。使いこなす技術と知識を身につけよう(後編)#アドビ教育

2019年7月29日(月)に開かれた「Adobe Education Forum 2019~創造的問題解決能力を育むSTEAM教育」のレポート後編です。前編の小・中学生に引き続き、後編は高校生のプレゼンテーションの様子から始めましょう。

<→レポート前編はこちら

▼[高校生]テーマやストーリーにこだわった架空の映画のポスター制作

今年2月にアドビが開催した「Make It! Student Creative Day」のコンテスト「世界を変える映画のポスターをつくる」に参加した3組の高校生チームが制作意図や作品の紹介をしました。どのチームも架空の映画のテーマを深く掘り下げ、ストーリーを作り込んでポスター制作に臨んでいるのが印象的です。

品川女子学院のメディア研究会は、クローンをテーマに重層的な差別意識を掘り下げた映画「ゆりかご戦争」を企画し、ポスターを制作しました。レイアウトはどんどん試して60以上の候補を作ったということ。短い制作期間で大量の「実験」を繰り返していて、まさに「Creative Confidence」のポイントそのものです。初期案に「ホラー映画みたい」という感想があったため、写真の明るさやフォントの選び方、コピーなどデザイン全体をブラッシュアップしたという過程は、説得力がありました。

品川女子学院の発表。撮影、合成の過程や、制作中の試行錯誤がよくわかる

東京都立新宿山吹高等学校は不登校をテーマに、その暗いイメージを一変する映画「#不登校オリンピック」を、東京表現高等学院MIICAはLGBTをテーマにさまざまな違いによる差別を問う映画「僕とか、私とか、」を企画し、ポスター制作に挑みました。東京表現高等学院MIICAでは、コンテスト当日もポスターだけでなく予告動画を上映して審査員を驚かせましたが、さらに現在、この映画を実際に制作することを決め春の公開を目指して撮影を進めているそうです。

新宿山吹高等学校(上段)と東京表現高等学院MIICA(下段)の発表

高校生の身近な社会課題に対する眼差しや感受性の強さがクリエイティブなパワーとつながるとこうなるのか、という形を見せられた気がします。デジタルツールを道具として使いこなす技術と知識をつけることで、表現するポテンシャルが解放される可能性を感じました。

▼[会場内ワークショップ]動画制作やポスターデザインにチームでチャレンジ

フォーラム当日、会場内では3つのワークショップが同時進行していました。中学生〜大学生までの各参加チームはテーマに応じて時間内で作品を完成させます。進行はアドビのスタッフだけでなく、アドビのツールを授業で積極活用しているAdobe Education Leaderの先生たちがサポートをしました。

iPadなどのモバイル端末でもスムーズな動画編集ができるAdobe Premiere Rushを使った動画制作のワークショップでは、チームごとに東大構内に撮影に出た上で、90秒の東大キャンパス紹介動画を編集しました。参加者はまさにネット動画を見慣れている世代。それぞれに特徴ある表現を見せました。

Premiere Rushでの編集作業

完成動画を発表する参加者

研究発表用のポスターをデザインするワークショップでは、各自プレゼンテーションソフトなどで作成した元となる資料を持参。要素を整理し、Adobe IllustratorとPhotoshopで大きなポスターとして伝わるデザインに仕上げます。成果物は最後にプリントして展示されました。

スケッチをもとにパーツ制作と全体のデザイン作業を分担してIllustratorでデザインする

Before/Afterを比べるといかに直感的で伝わりやすい表現になったかがわかる

他にも、手軽にデザインを完成させられるAdobe Spark Postを使ったワークショップが行われ、いずれも実際に子どもたちがアドビのツールをどう使いこなし、自分たちのアイディアをどうやって形にしていくかを直接見られる貴重な時間となりました。

▼アドビが大学でデジタルクリエイティブ講座を展開

最後に大学での新しい動きが紹介されました。アドビは大学の一般教養科目として「デジタルクリエイティブ基礎」の講座を昨年度よりスタートしており、2018年度の筑波大学に続き、2019年度は筑波大学、千葉大学、北海道大学、九州大学、山形大学、横浜国立大学で開講しています。この講座は、ビジュアル表現の知識とデジタルツールの使い方の基礎をバランスよく学べるように設計され、実際に手を動かしてグラフィックデザインや映像などの成果物を作ることを重視しています。

千葉大学の副学長小澤弘明先生は、同大がグローバル化教育の推進や文理混合の課題解決型教育の導入などを行ってきた経緯とともに、数理・データサイエンス教育を強化する一環で「デジタルクリエイティブ基礎」講座を開設したことを紹介しました。そして、デジタルクリエイティブ教育を通じて、文系/理系という日本独特の枠組みにとらわれない教育が実現する可能性を示唆しました。

総合大学で学部を問わずにデジタルクリエイティブを学べるというこの新しい流れは、従来の学問の枠組みを越えた「創造的問題解決」の力を育てることにつながるでしょう。

フォーラムのクロージング。大勢の来場者でにぎわった

クリエイティブな手段を手に入れた各年代の子ども達がのびのびと力を発揮する姿にパワーをもらい、これからの教育の形が今まさに変わろうとしている空気が感じられるフォーラムの時間でした。

文/狩野さやか