イラストレーターのための「著作権」入門講座 : 第一話 そもそも著作権ってなんだろう?#AdobeStock

日本人で初めて「Adobe Creative Residency プログラム」に選出されたイラストレーター、福田愛子さん。さまざまなクライアントと仕事をするなかで、著作権に関する疑問が増えたといいます。

第一話では著作権とはそもそもどのような権利なのかを基礎から学んでいきます。イラストレーターはもちろん、すべてのクリエイターに読んでいただきたい連載です。

■著作権とは、著作者に与えられた「権利の束」です。

福田愛子(以下、F):これまで「著作物」や「著作者」、「著作権」という言葉の理解が曖昧だったので、まずはそれぞれの正確な定義から教えていただけますか?

TIS著作権委員会(以下、T):わかりました。著作権法では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項1号)と定義しています。「思想又は感情」というのは「思ったこと、感じたこと」くらいの意味なので、クライアントワークか、作品として発表したかを問わず、すべてのイラストが著作物です。それどころか小学生が描いた絵や作文も立派な著作物だと考えられます。

F:それは驚きです。「著作者」とは、そうした著作物を創作した人のことですかよね?

T:その通りです。著作者には著作権法に基づいて、自らの著作物を独占的に利用する権利が与えられます。これが「著作権」です。ただし注意してほしいのは、「著作権」というひとつの権利があるわけではないということ。「著作者に与えられるさまざまな権利=支分権」を総称して「著作権」と呼んでいます。

F:具体的にはどのような支分権があるのでしょうか?

T:支分権は、大きく「著作者人格権」と「財産権」のふたつに分けられます。著作者人格権とは、著作者が精神的に傷つけられないように定められた「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3つの権利の総称で、他者に譲渡できない著作者に固有の権利です。

F:なぜ譲渡できないのですか?

T:著作者の名誉や信用、作品への思い入れといったそもそも譲渡できないものを守る権利だからです。著作権法は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない」(59条)と定めています。一方で財産権とは、文字通り著作者が経済的な損失を被らないようにする権利のことで、さらに細かな権利から成り立っています。こちらはあくまでも「財産」のため、権利の譲渡が可能です。

F:細分化するとこんなたくさんの権利があるのですね。

T:著作権が「権利の束」と喩えられるのはそのためです。このすべてをしっかりと把握しているイラストレーターは意外と少ない印象です。

■意図せぬ改変には「No!」という権利があります。

F:それぞれの支分権について、もっと詳しく教えてもらますか。

T:それではまず、著作者人格者権を構成する3つの支分権についてみていきましょう。

F:「公表権」が著作者にあるということは、クライアントといえども著作者の同意なしにはイラストを公開できないのでしょうか?

T:原則的にはそうなります。ただ、クライアントから依頼を受けたイラストを著作権(財産権)ごと譲渡した場合は、著作者が公表に「同意した」とみなす「同意推定」が適用されることが多いようです。

F:「氏名表示権」というのは、クレジットの有無や表記をイラストレーターが決められるということですよね。万が一、クレジットについてクライアントとトラブルになったときにも、この知識があれば自信を持って交渉できますね。

T:その通りです。「同一性保持権」もイラストレーターにとって大切な権利です。イラストの場合、納品後にトリミングされたり、色調を調整して使われるケースがままありますよね。たいていは同意できる範囲での加工だと思いますが、作品全体のバランスを崩すような改変には同意しかねることもあるはず。そういう場合には同一性保持権をしっかりと行使するべきです。

F:最近ではAdobe Stockなどのストックフォトサービスに、イラストを提供しているイラストレーターの方も多いですよね。こういったサービスでは、ユーザーがトリミングや色調変更、切り抜きなどをしてイラストを使うことが多いと思うのですが、同一性保持権の侵害にはならないのでしょうか?

T:多くのストックフォトサービスは著作者が同一性保持権を保持しながらも、それを行使しないという前提で成り立っています。著作者が改変しての利用を許諾しているのであれば、同一性保持権の侵害にはなりません。

■二次的著作物にも著作権が与えられます

T:財産権はこのような多くの支分権から成り立っています。イラストに関わってくるのは主に次の7つの権利です。

F: この図に出てくる「二次的著作物」とは、具体的にはどういったものでしょう?

T:例えば、あるイラストを元に動画作品が作られた場合、その作品はイラストの二次的著作物になります。

F:そうなんですね! そういえば以前、クライアントから私のイラストを元に動画作品を作りたいと相談されたことがありました。この場合、私もその動画作品の著作権を有することになるのでしょうか?

T:契約内容にもよりますが、原則的にはそう考えられると思います。動画化をOKした時点で翻案権の許諾がなされ、作成された動画に対しての二次的著作物利用権が付与されるという流れです。

F:二次利用の場合、利用期間や利用料について、著作者としてクライアントと交渉していいものか迷っていたのですが、自分ごととして話を進めていいのですね。

T:ただし、あくまでもケースバイケースです。著作権について理解を深めることは大切ですが、迷ったら自分だけで判断せずに専門家の判断を仰ぐことをおすすめします。

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次回は、「契約時に注意すべきことは?」です。どうぞお楽しみに。

<プロフィール>

ブリッジウォーター州立大学芸術学部グラフィックデザイン学科卒業。2014年よりイラストレーターとしての活動を本格化。現在は東京を拠点に国内外で活動する。1本のペンから描かれる味わいのあるタッチを軸としつつ、アナログとデジタルを融合させた作品を制作。主な仕事は、雑誌BRUTUS「男の色気」イラスト連載、資生堂マジョリカマジョルカ「MAJOLIPIA」など。2019年には、日本人で初めて「Adobe Creative Residency プログラム」に選出された。

一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティにおいて結成された、著作権について弁護士の協力のもと学び研究する委員会。2018年、著作権をはじめとしたイラストレーターのさまざまな悩みに応える『Q&Aでわかる! イラストレーターのビジネス知識』を玄光社より発刊した。