デザインの簡素化と標準化を推進するサノフィ社のデザインシステムへの取り組み | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

医薬品のように厳しい規制のある業界では、デザインは微妙なバランスをとる行為です。消費者の高い期待に応えるために、企業はより豊かな体験を提供して顧客のための価値を高めようとします。一方、業界に対する規制はその逆方向に働きます。

製薬会社としては、安全性に関する情報をウェブサイトやマーケティング資料に適切に表示する方法やその場所について、消費者への広告や販売促進に関するガイドラインに従わなければなりません。その上で、医療機関や患者のニーズを満たすため、必要な情報を迅速に作成して配信しなければなりません。

そこには、クリエイティブの選択肢を狭める可能性があります。

デザインシステムへの取り組み

サノフィ社はこの課題に正面から取り組んでいます。世界有数のシェアを誇る製薬会社として、医療用および一般用医薬品、そしてワクチンなどを幅広く提供している同社は、多くの異なる顧客に製品に関する情報を提供し続けるために、いくつものウェブサイトやデジタルマーケティング資料を作成する必要があります。製品開発の速いペースに対応するため、彼らは最近、新しいデザインシステムとAdobe XDで作成されたデザインテンプレートを組み合わせて、サイト制作のプロセスを簡素化しました。

個々のウェブサイトを個別に開発するアプローチを廃止して、共通要素を標準化しました。ユーザ体験のガイドラインを提供し、サイトの規制に関する要件を満たすルールを定義しました。そうして知識の伝達が合理化され始めたことで、デザインと開発のプロセスが以前よりもシンプルになりました。

サノフィ社のデジタルデザイン&UXケイパビリティリードであるライアン・ローゼンバーグ氏によると、特に、複数のエージェンシーが常にウェブデザインのプロジェクトに取り組んでいる環境では、デザインシステムは非常に理にかなっていると語ります。

「デザインシステムがあることで、エージェンシーは彼らの得意分野であるクリエイティブなキャンペーンやメッセージに集中できるようになります。安全性に関する情報をどこに配置し、ヘッダーとフッター内にはにどのようなテキストを記述すればよいかを把握するために労力を割く必要はありません。その結果、大幅なコスト削減と効率性の向上を実現することができました」

新しいツールの採用

デザインシステムのアイデアは、サノフィ社の上級職からの課題を受けてローゼンバーグ氏と彼のチームが行ったブレインストーミングのセッションから生まれました。その課題とは、ウェブデザインプロセスを単純化し最適化するための新しいツールの特定です。

「デザインプロセスを最適化した後の次のステップは、ソフトウェアの見直しでした」とローゼンバーグ氏は語ります。「昨年のAdobe MAXでAdobe XDチームと話をする機会があり、そこで、XDが我々が抱えているデザインや開発の課題を解決するのに大いに役立つことを発見しました。既にAdobe Creative Cloudアプリを使用していたため、XDの使い方を学ぶのは、私たちのチームやエージェンシーにとって実に容易なものでした」

Adobe XDで標準的に使用されるデザインアセットをつくり、それらを使用してテンプレートを作成すると、デザイナーは標準的なデザイン要素の再作成を避けられます。さらに、デザイン完了時に、フォント、色、寸法等を伝えるためのドキュメントを作成する必要はありませんし、画像の書き出しも不要です。デザイナーの作業は、デザインスペックを自動生成したら、開発チームにリンクを共有するだけです。

デザインシステムとテンプレートでコストを52%削減

デザインシステムとテンプレートの導入によって効率性が向上したかどうかを調べるために、サノフィ社のチームは比較を行いました。最近完了した2つのプロジェクトの片方だけがデザインシステムとテンプレートを使用していました。新しいアプローチを採ったプロジェクトでは、クリエイティブにかかったコストが52%削減されていました。

開発においても大幅なコスト削減が実現されていました。一般的に使われる要素には、再利用可能なコードモジュールが用意されています。タブ機能、アコーディオン、ビデオプレーヤーなどのコンポーネントです。開発者に構築済みのコンポーネントの使用を必須とすることで、独自開発の分量を劇的に減らすことが可能になります。

習慣や心的な変化

大きなプロセスの変更には、習慣を変えるという大変な仕事が伴います。テンプレートのお陰で、エージェンシーはすぐにデザインシステムを使い始めることができましたが、それだけでは十分ではありませんでした。

ローゼンバーグ氏は次のように説明します。「私はクリエイティブエージェンシー各社と話し合いを持ち、Adobe XDについて議論しました。彼らのほとんどはそのメリットをすぐに認識しましたが、実際に従来の働き方を変えるには何らかのきっかけが必要でした。そこで、エージェンシーと社内の関係者を対象に、オンサイトで約30人、オンラインで40~50人の参加者を集めたワークショップを開催しました。アドビのチームはその場で大きな助けとなり、パートナーからの多くの質問に答えてくれました」

そのワークショップ以来、エージェンシーは新しいアプローチに迅速に適応し、ローゼンバーグ氏のチームは素晴らしいフィードバックを受けています。これはサノフィ社にとって将来有望な変革で、ウェブ以外の分野へも広がりつつあるようです。そのスピードと機敏さに感銘を受けた彼らは、今は電子メールやバナー広告など、デジタルマーケティングを簡素化するためのテンプレートの提供に挑戦している最中です。

ローゼンバーグ氏はこの熱狂に対して楽観的です。「デザインは、ビジネスに実際のインパクトを与えることができる大きな力です。単なる色や書体の話ではありません。効率性を高め、収益を改善するための戦略的な手段として機能するものなのです」

この記事はSanofi Drives Design Simplification While Balancing Regulatory Requirements(著者:Colleen Schweizer)の抄訳です