不確かな世界で、信頼されるためにデザインすることの重要性 | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

一貫性の無さは人からの信頼を失う原因になります。そして問題なのは、変化があったことへの気づきではなく、その変化が表すものです。

ブランドが何か新しいメッセージを打ち出して、広く認知されている組織やカルチャーの劇的な変更を表明するとき、それは問題になります。そのブランドの顧客は注目するでしょう。あるいは、政治家が態度を頻繁に変えて、メディアが彼らの発言を報道するときに以前の発言からどう逸脱しているかを伝えていなければ、それは問題です。有権者は気付くでしょう。

これらの出来事は、私たちの買い物や投票に短期的には影響しないかもしれません。しかし、存在する不確かさは時間の経過とともに不気味に忍び込み、人が新しい情報を学習して、既存のメンタルモデルに適合させる能力を蝕みます。また、不確かさはブランドの信頼を損なうだけではなく、認知負荷を増大させます。それは、批判的に考える力、情報を評価する能力、そして専門性に対する信頼を弱めます。

この問題は、ソーシャルメディアが私たちの関心や価値観に与えた変化と一致します。かつて人は専門家や権威者の視点を探し求めていたものですが、今は友人や自分と同じ価値観を持っていそうな人々を頼るようになりました。休暇の計画をしている場合、レストランを選ぶ場合、注目されているニュースアイテムを探している場合、選択はそうした「友人」に左右されます。しかし、2016年のアメリカ大統領選挙は、情報を選別するフィルターの存在に対する認識と、疑いを持つきっかけになりました。それはおそらく良いことです。しかし、不信感を助長するというマイナス面もあります。不信感は言うまでもなく信頼の敵です。

コンテンツとデザインによる信頼の回復

ユーザーが不信感を抱いていると、洗練されたデザインや新しいマーケティングの展開も、疑いの目で見られます。疑いは販売サイクルを遅らせ、人々を製品情報から遠ざけ、顧客ロイヤルティとブランドの認知度を低下させます。さらに、彼らの信頼を取り戻すまで、予算と時間を浪費することになります。

信頼を取り戻すには、コンテンツやデザインの選択を通じてユーザーに力を与えることが有効です。十分な情報を、親しみのあるトーンで、共感と共に得たと感じながら顧客が行う意思決定は、彼らの自信と、ブランドに継続的に携わろうとする熱意を生み出す力になります。

一貫したトーンを使用する

組織が信頼を再び獲得するための手段として、「トーン」「情報量」「脆弱性」という3つの主要な分野に注力するフレームワークが利用できます。

トーンとは、組織が自らを表現するために使用する音声および視覚的な言語のことです。時の経過とともにブランドが変化して、新しいサービスを展開したり、ブランドメッセージを更新すると、既存の顧客を疎外するリスクが発生します。しかし、ブランドの進化のために、既存の顧客を遠ざける必要はありません。一貫したトーンを使い、進もうとしている道を説明することで、ブランドや製品に対する顧客の信頼を維持できるでしょう。

Mailchimpの事例では、このアイデアが実際に機能していることを確認できます。Eメールマーケティング企業からEコマース企業への進化の過程で、彼らは一貫した親しみのあるトーンを維持し、顧客をそのプロセスに引き入れました。また、彼らは専門的な言葉と平易な言葉とのバランスをとりました。業界用語や専門用語は、問題に精通していることを伝えるために必要な場合もありますが、平易な言葉は、顧客向けのコンテンツを魅力的で分かりやすいものに保ちます。

Mailchimpはすべてのコミュニケーションに一貫した分かりやすいトーンを使用する

共有する情報量の決定

組織はが話すトーンを決めるだけでなく、どの程度話すべきか、つまり、顧客を安心させつつ過剰にならない情報の量を決定する必要があります。その際のポイントは何でしょう?それは、「十分な」コンテンツの提供です。提供される情報を効果的に活用するための、完全な視点を顧客が得られるようにするのです。例えば、文章や比較ツールやイラストを並べたとても長いページを提供することになるかもしれません。料理の情報を伝えるAmerica’s Test Kitchenや家電を扱うCrutchfieldは、そうした細部へのこだわりで有名です。どちらのサイトでも、それぞれの訪問者は、学習して成長し、自分の知識に基づいて行動する自信を得られます。販売するものが料理本かカメラのレンズかに関わらず、ユーザーは成功と、ある種の力を購入しているのです。

これらと対照的な別の例を見てみましょう。コンテンツを絞り込んで、ユーザーを目の前の目標に集中させる場面です。取引の体験の場には、簡潔なコピー、ごく限定された数のページ外へのリンク、包括的であることが視覚的に理解できるなコンテンツが適しています。先程の「十分な」が意味するのは、数量ではなくて、成功に関わる指標なのです。

電子機器を販売するCrutchfieldは、さまざまな図表、コピー、コンテンツを使用して、顧客に可能な限り詳細な情報を提供している

ブランドの脆弱性を示す

最後に、脆弱性について掘り下げましょう。ブランドが作業中だったり学習中のこと、あるいは失敗しがちなことを明らかにし、似たような取り組みや苦難を共有するユーザーに共感的であることについてです。

以前のブランドは、大きくて、権威があって、弱点を持たないかのごとく見えるよう、懸命に努力をしていました。しばしば、実際よりもよく見せようとしていました。今の時代は、必ずしもそうではありません。Kickstarterは、製品を市場に出すことの難しさについてオープンに伝えながら、いくつものブランドを顧客に紹介してきました。それらのブランドは、率直で透明なトーンで、新製品公開に関わる更新情報や遅れなどを伝えています。この変化は、プラットフォームを超えて成功しているブランドに通じるものです。また、研究開発やマーケティング業務の運用の変化もこれと並行して起きています。

脆弱性と関連する別の動きとして、より多くの組織が、プロトタイプを公開する機会を積極的に設けるようになりました。彼らの目的は、コンセプトを共有し、問題点を議論し、フィードバックを得ることです。最終的な判断のためだけでなく、よりオープンにユーザーと共同設計しようとしています。新しい製品、開発の優先順位、さらにはウェブサイトの変更に関するフィードバックをリアルタイムで収集することで、さまざまなメリットが得られます。BuzzFeed、Mailchimp、eak Designなどのこのアプローチを採用したブランドは、コミュニティや顧客ロイヤルティの成長を成功させてきました。

デザインプロセスに顧客を取り込むことは、顧客と企業の間の障壁を取り除くのに役立ちます。顧客の中には、熱心な製品エバンジェリストのマインドセット持つようになる人も少なからず見られます。

Peak Design Travel Tripodは、写真部門でKickstarter史上最も成功したプロジェクトとなった

組織として脆弱性を運用するには、顧客のために働くだけではなく、顧客と連携して働くことが必要です。このアプローチを成功させるには、チーム全員がユーザーを尊重していなければなりません。

ユーザーが何かを調べたり選択肢を比較するプロセスの支援は、ユーザーへの尊重を示す良い例です。CrutchfieldやREIは、製品に関する深い知識を提供し、顧客の教育に投資しています。フォルクスワーゲンでさえ、比較ツールを中心に据えています。フォルクスワーゲンの車両比較ツールを使った人は、スバル車の方がニーズに合っていると気づくかもしれません。フォルクスワーゲンのチームはこの顧客の選択を尊重しています。ブランドが競合他社の製品や視点を持ち込むのは、必ずしもすぐに販売には結びつかない謙虚で脆弱な行為です。しかし、顧客を尊重し、知識で彼らに自信を与えることで、ブランドは議論を主催することができ、長期的な顧客ロイヤルティの獲得へとつなげることができます。

おわりに

「トーン」「情報量」「脆弱性」 の3つにフォーカスすることで、相互尊重の観点から顧客との関係を構築できます。ユーザーが自分の知識を提供してくれると信頼できるか?彼らが学習を続けると信頼し、期待できるか?自分達の方針と過ちをオープンに共有し、彼らの選択を後押しできるか?それとも、そうした機会に疑いを持つのか?ブランドが自身の抱える不信感と向き合うことができれば、ユーザーの不信感を払拭する道をデザインすることができるでしょう。その道は、顧客の忠誠心、社会の進歩、そしてもっと大きなもの、すなわち希望につながっています。

この記事はThe Importance of Designing for Trust in an Uncertain World(著者:Margot Bloomstein)の抄訳です