プライバシーへの不安を解消し、信頼と透明性を確立するためにデザイナーができること | アドビUX道場 #UXDojo

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

最後に新しく登録したアプリやサービスは何でしたか?欲しいと思う機能や物を手に入るまでに、おそらく、利用規約に同意しなければならなかったことでしょう。その際、条件の一部がいくばくかの個人データを引き渡すことへの同意を含んでいると気づいていましたね?それでは、具体的にどのようなデータがどのように使用されているのかは明示されていましたか?そもそも、それを知ることはできるのでしょうか?

アドビがGimlet Mediaと提携して制作しているポッドキャストWireframeのあるエピソードでは、アドビのプリンシパルデザイナーのコイ・ヴィンをホストに、デザイン専門家を集めてこの疑問について詳しく議論されました。参加したのは、サイバーセキュリティの弁護士エイミー・ステパノビッチ、Simply Secureのエグゼクティブディレクターであるジョージア・バレン、UXデザイナーのリーケ・ベーレンです。彼女らは、プライバシーをデザインの問題として議論しました。デジタル世界におけるプライバシーの侵害において、デザイナーはどのように罪を犯していて、それを修正するために何ができるのでしょうか?

データ収集が前提の厄介なデジタル体験の世界

人々はあらゆる種類のアプリやデジタルサービスにますます依存するようになっていて、しばしば、それらを利用するために自分のプライバシーを犠牲にしているかもしれないことは忘れています。実際にデータを収集している方法のユーザーへの伝え方は、理解するのが難しかったり、全く理解不可能な場合もあります。

コイは、「本当に根深い問題です」と、プライバシーとUXの現状についての議論を振り返りました。私たちの住む世界はすでに、どんなに取り繕われたデジタルプライバシーであれ、おそらくは見せかけにすぎない状況です。個人データを引き渡すことで、デジタル体験におけるパーソナライズのレベルと利便性が向上します。データ収集への同意を簡素化すれば、ユーザーを煩わせたり、利用する意欲を削ぐ状況を避けることができます。

「私たちがこれまでに依存するようになったデジタル製品やエコシステムの多くが、ユーザーのデータを収集するというアイデアの上に成り立っています。デザイナーの前にある大きな課題は、この事実を透明性が高くて理解しやすいものにする一方で、こうした競合するニーズとどうバランスを取るかを企業が理解できるよう支援をすることです。デザイナーは、プライバシーを尊重しながらも、データ収集モデルの中で働く方法を考え出さなければなりません。これは非常に難しい仕事です」と彼は続けました。

利用規約には「同意」をクリックするとユーザーが提供することになるデータに関する重要な情報が含まれているにもかかわらず、ほとんどのユーザーにとって、読んで完全に理解することはほぼ不可能 出典: Data Permissions Catalogue

権利擁護団体Access Nowのサイバーセキュリティー専門の弁護士 エイミー・ステパノビッチ

エイミー・ステパノビッチは、サイバーセキュリティを専門とする弁護士で、権利擁護団体Access Nowのポリシーマネージャーです。コイは、多くのプライバシー問題を抱えているアプリやサービスがますます人気を集めているように見える現状を踏まえて、人々は実際にどれだけプライバシーを気にしているのかをエイミーに尋ねています。彼女の答えは次のようなものでした。「これらのサービスを利用しているからといって、プライバシーを気にしていないと言うのはフェアではないと思います。そうしたサービスはあまりに生活に密着していて、そして、私たちには他の現実的な選択肢がないのです」

データ収集とプライバシーの欠如が常態化しているとして、では、ユーザーが自分の力を可能な限り理解して行使できるようになるために、デザイナーにはどんな役割があるのでしょうか?

デザインプロセスの早い段階からプライバシーを優先する

「デザイナーにとっての最初のステップは、プライバシーがユーザー体験の一部であることを理解して、彼らの注意をそこに向ける機会があるのだと気付くことです。それはデザイナーの持つ責任とも言えるでしょう」とコイは言っています。結局のところ、問題の大部分は、プライバシーとそれを取り巻く体験を考慮するタイミングが、製品デザインのライフサイクルにおいて遅すぎることに尽きます。Wireframeのエピソードにおける重要なポイントの1つは、デザインプロセスの早い段階からプライバシーを考慮する必要があるという点でした。

プライバシーは、プロセスの早い段階で最優先事項として扱われる必要がある。多くの場合、プライバシー設計の判断が、誰にどのように役立つか再考することになる 出典: Naomi Freeman

ジョージア・バレンは、デザインNPOであるSimply Secureを経営する

コイは次のように続けています。「デザインおよび開発の過程で行うすべての決定が、プライバシーに関するゴールや優れたプライバシー標準に沿っていることを確認できるでしょう。このポッドキャストから学んでほしいのは、こうした意識を持つことが、今やデザイナーの仕事内容の一部にすぎないということです」

デザインNPOのSimply Secureを運営するジョージア・バレンは、ポッドキャストの議論の中で同じ点について強調しました。「どうすれば私たちがツールを構築する方法を根本的に考え直し、プライバシーを最優先事項として、あるいは一番の価値があるものとして扱えるようになれるでしょうか?私は、最初からやり直すような考え方が実際に必要であると思います」

GDPRは正しい方向へのゆっくりとした、だが力強い一歩

昨今は、GDPRについて議論せずに、プライバシーとUXについて議論することはできないでしょう。このデータプライバシー規制は、EUにおいてのみ有効なものかもしれませんが、デジタル体験がどのようにデータ収集に関する情報を開示し、容易なオプトアウトを可能にできるのか、あるいはすべきかについて、世界的な議論を呼び起こしました。他にも、インターネットから忘れられる権利など、いくつかの大胆なステップも議論されました。「EUがプライバシーにこれほど注目し、ユーザーを保護するための規制を設けようとしていることを知ったときは驚きました」と、Gimlet Mediaのプロデューサーであるローラ・モリスは言いました。

GDPRの一周年を記念して、欧州委員会は2019年5月にこれらの事実と数字を公表した 出典: Thales Group

リーケ・ベーレンはオランダのUXデザイナー。彼女がデザインする体験は現在100%GDPRに準拠しなければならないが、EUの多くの企業はプライバシーの開示と同意に関する新しい規範への適応が遅いか、あるいは最低限の対応しかしていない

新しい規則の導入と、その規則を破ることで課せられる重い罰金にもかかわらず、多くの企業の対応が遅れていることを知った人は驚くかもしれません。多くのケースで強制力が欠けているのです。対応した企業でも、その多くは最低限の要件を満たすために必要なことだけをしてきました。オランダのUXデザイナーのリーケ・ベーレンは、コイとローラに対し、「これはデザイナーがデータプライバシーを真剣に考えていないことを表した話ではありません。私は、デザイナーはプライバシーの重要性を認識していると思います。ただ、実際にできることはまだまだ不十分な状態です」と語りました。

いろいろな意味で、これは製品の背後にいるビジネスや法務に関わるチームによる、データ収集に関する運用モデルの再考がはかどっていないことの現れです。いろいろな意味で、デザイナーはこの現実と、ユーザーの期待や要求との間の緩衝材になっています。

デザイナーはユーザーとの信頼関係を築くための鍵になれる

GDPRは「遅々として進まない」新しい規制かもしれません。それでも、これは立法者が私たちのデータに注意を払っていることの兆しであり、将来的にデジタル製品は、データ収集とプライバシーにより注意を払わなければならない状況になるでしょう。そうした規制に対応するフレームワークを作成し、そのフレームワークをユーザーに理解できるよう伝えるには、デザイナーの関与が欠かせないはずです。

「今回のポッドキャストは、デザイナーの仕事がどれほど人々の生活に影響を与えるかということに焦点を当てています。それはデザイナーにとってエキサイティングなものかもしれませんが、同時に、重責を担うことも意味します。つまり、デザイナーに社会的に責任のある仕事をするようにという呼びかけです」とローラは言いました。

コイにとってそれは、今後起こるだろうことへの楽観的な兆候でした。正しく遂行されれば、デジタル製品への信頼が薄れつつある世界で、改めてユーザーとの信頼を高める機会が生まれるでしょう。「課題になるのは、人々が自身のデータを提供することの意味を理解し、より賢い選択ができるようにすることです。そうなれば、企業とのフィードバックのやり取りが生まれて、企業がユーザーの望むものにより近いシステムを構築し始めることも期待できるでしょう」

この記事はBehind Wireframe: The Privacy Disconnect and the Role That Designers Play in Building Trust and Transparency into Products(著者:Patrick Faller)の抄訳です