クリエイター向け大手マーケットプレイスEtsyは、どのように顧客中心の体験に取り組んだのか? | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

2005年に創設されたクリエイターの作品を扱う世界的なマーケットプレイスのEtsyは、今では約200万人の売り手と4000万人近い買い手を引き合わせ、6000万点を超える商品を販売しています。この巨大なプラットフォームで、ユーザー体験、特にモバイルデバイスでの体験が非常に大きな意味を持つことは、驚く話ではないでしょう。

これまでの年月でEtsyのUXがどのように進化してきたのか、Etsyがユーザーリサーチとデータ分析をどのように行ってユーザー体験を最適化し、ユーザーとのかかわりを強めてきたのかを理解するために、Etsyのキャット・スモール(上級プロダクトデザイナー)とジェシカ・ハーリー(専属プロダクトデザイナー)から話を伺いました。彼女たちは、手工芸品、ビンテージ品、宝飾品など、ハンドメイド商品を扱う最大手コマースサイトのUXに関する洞察を共有してくれました。

Etsy公開当時のユーザー体験はどのようなものでしたか?

キャット: デザイナーとして入社する前、ジェシカも私もEtsyのヘビーユーザーでした。初めて購入したのが2007年、2016年から販売もするようになりました。

ジェシカ: 私は2008年以来、Etsyでは購入者です。そして、2014年にEtsyショップを開設しました。

キャット: 私たちは買い物中毒です! Etsyは創設当初、かなりミニマルでした。ほとんどのメジャーなウエブサイトもそうでしたが。

Etsyサイトは現在ほど忠実に商品を見せてはいませんでしたが、その目的は非常に明確でした。創作活動に携わる人たちをサポートし、欲しいものを探している買い手とつなぐというゴールです。ユーザー体験はEtsyの存在理由を体現したもので、大手チェーンの店舗のように無機質で単調でない点がユーザーには好まれていました。今でも同じ目的がEtsyの進むべき道を示しているのは、私にとって喜ばしいことです。私たちは成長の過程で、元々の特徴を維持しようと務めてきました。Etsyのブランド体験は、創造性や生活の中の特別な瞬間への祝福を中心につくられているのです。

2005年に初公開されたEtsyのホームページ

UXはその後どのように変化しましたか?

キャット: Etsyは手作りの商品を販売する場所を求めていたクリエイター達によって創立されました。そしてプラットフォームが成長するにつれ、多様なニーズを持つユーザーが集まるようになりました。専業の売り手や海外のバイヤーなどです。基本方針はそれでも変わることはありませんでした。私たちはユーザーの多様なニーズを知るために、ユーザーリサーチチームを社内で立ち上げました。そのおかげで、Etsyでの購買にかかわる課題やEtsyを利用したい理由を学ぶことができました。例えば、Etsyを頻繁に利用する買い手の多くは、小規模のビジネスや起業家をサポートしたがっていることがわかりました。また、特別な機会のためにEtsyで購入する人が多いこともわかりました。こういった情報を得ることは、Etsyの理念に賛同するユーザーに体験を合わせるための役に立ちました。

テクノロジーがもうひとつの大きな変化の要因でした。Etsyが登場したころ、アプリというものは存在しませんでしたが、スマートフォンの使用率の高まりに私たちは対応する必要がありました。現在では、商品総売上高の55パーセントをモバイルユーザーが占めています。Etsyのモバイル体験がPCの大きな画面での体験と同じ、もしくはそれ以上に良質であるよう、継続的に努力を積み重ねててきました。買い手と売り手それぞれに個別のアプリ構築したり、ウェブサイトにモバイルでも使いやすいナビゲーションを追加したり、フォントサイズを拡大したり、タップ対象エリアのサイズを拡大したりといった変更を体験全体において行いました。

2019年時点でのEtsyのモバイル向け商品掲載ページ。インターフェイスは、高コントラストでタップしやすいボタンによりアクセシビリティが高められている

ジェシカ: ブランドを表現する方法も大きく変化してきました。Etsyのブランドは常に力強く、顧客である売り手と買い手の創造性から常に大きな刺激を受けてきました。ブランドデザイナーとプロダクトデザイナーが協力し合い、互いの作業に影響を与えられるように、私たちは適切な方法を懸命に探し求めてきました。そして、その関係を強化することにより、Etsyの体験をページごとに個別のビジュアル要素がはめ込まれたものから、全体としてEtsyらしい雰囲気を表現するものに改善することができたのです。Etsyブランドは、デザインシステム、デザイン原理、メッセージのトーンに限らず、製品に関するすべての決定に織り込まれています。単純に言うなら、Etsy製品そのものがEtsyブランドだということです。

Etsyは、求めているものが漠然としている買い手を支援できるように、発見を中心にした体験を公開した

サービスのUXを継続して進化させるために、どのようなデザインプロセスを採用していますか?

ジェシカ: Etsyには、学びを重視する根強い文化があります。私たちは、継続的にEtsyの作業プロセスを詳細に検討し、働き方の改善に努めています。顧客体験の改善に対するアプローチもまったく同様です。各チームは、顧客のために実現したいと思う価値を表す体験から着手します(例えば、Etsyの買い手として関心のある商品に関する正しい情報を簡単に見つけられ、その商品が自分に適切なものかどうかを知ることができる)。個別の機能ではなく結果に目を向けることで、チームはどの解決案が適切であるのかを見出す自由を得られます。思いついたそれぞれの解決案を仮説として扱い、Etsyの優れたリサーチとテストツールを使って検証し、どこに投資するべきかを判断しています。

キャット: 仮説を頻繁に見つけて検証しているだけでなく、正しい問題に対して解決案を考えているのかもデザイナーは確認しています。組織を横断するチーム(プロダクトマネージャー、エンジニア、データアナリストなど)と手を組み、Etsyの顧客が直面している具体的な課題を中心に製品のアイデアを出し合います。非現実的な直感に基づいて製品をつくりたくはないからです。これまで、最善の解決案は、Etsy内外からの顧客が直面する問題の深い理解から生まれてきました。私たちは世間から孤立した環境で運営しているわけではありません。顧客の期待を上回るには、より広いマーケットに目を向け続けることが大切です。Etsyは、ユーザー層を理解し、この取り組みの最前線にデザインチームを置くことで、ユーザーとの関係を保ち続けてきました。

2015年にEtsyに掲載された手作りネックレス

ユーザーリサーチの実施と収集したデータの分析はどのように行っていますか?

ジェシカ: Etsyのすべての製品チームには、専属のリサーチパートナーとデータアナリストがいます。つまり、調査と分析を行う担当者はEtsyの現場に近い立場にいて、私たちが何を学び、何を変えようとしているのかに精通しています。

さまざまな解決策を考えて評価している段階では、数多くのリモートあるいは対面のインタビュー、アンケート調査、そしてユーザビリティテストをEtsyの買い手や売り手と実施しています。プロダクトマネージャーとデザイナーは、検証したい具体的な仮説を持って調査に参加し、セッションの最後にその仮説が有効であるかどうかを判定します。

そこから、立証された仮説をどれでも選んで、より大きな規模でフィードバックを得ます。顧客に価値を追加できる可能性があって、最も容易に実現可能な変更を試す実験を行い、その効果を理解するためにアナリストと協力します。その上で、実験から得られた学びと定性的なフィードバックを組み合わせて、次の段階をどのように進めるかを決定しています。

キャット: ジェシカが言ったように、ユーザーリサーチに関してはさまざまな手法を使って簡易的なものと時間をかけて行うもの両方を行っています。例えば、一般的な人を集めたリサーチ、買い手や売り手とのモデレーターの介在しないリサーチ、対面またはリモートで実施されるすべてモデレーターが進行するリサーチセッションを行います。デザイン案に優先順位がつけられて視覚化されたら、リサーチツールのどれかを使った検証が行われます。

調査レポートを作成する段階では、ビジネスや製品ではなくて、人を中心にデータをまとめます。Etsyは解決策を顧客に合わせることを目標にしているため、人の振る舞いがより影響を持つ要素になります。私たちは経験から、ユーザーのニーズに関する調査結果を中心に据え、そうしたニーズを満たす可能性のある解決策を特定する力をチームに与えることが、最終的な成功率をより高めるのに有効であることを発見しました。

UX改善のために、どのようなツールを使用していますか?

ジェシカ: 早い段階でアイデアや仮説に関するフィードバックを得ようとしている場合は、手軽で粗い状態を保つようにしています。ペーパープロトタイプ、ラフスケッチ、一文で表したアイデアの要約などを使い、進むべき方向についてのフィードバックを素早く得ます。

キャット: 低忠実度のデザインやプロトタイプの継続的な反復に加え、アイデアを先に進めるために対話も多く行います。社内外の関係者から得るフィードバックは、より良い作業に向けての後押しになります。デザイナーは、少なくとも週に1度は、批評を目的としたセッションに参加しなければなりません。この定期的な議論は、顧客のニーズに対応する上で必要な条件を備えているかを確認するのに役立っています。

ビジュアルデザインについての話をすると、Etsyのすべてのデザイナーは同一のデザインシステムとブランド用語を使用しています。Etsyには、ウェブサイト、アプリ、さらには電子メールについても、それらの体験をつくる担当者の利用できるリソースが豊富に用意されています。デザインシステムは非常にしっかりしたもので、一貫した体験をあまり労力を費やすことなくデザインすることができます。

Etsyのデザインシステムには、あらゆるアニメーションのガイドラインとCSSクラスが含まれている

ジェシカ: ユーザーに公開する前には、管理者向けに新しい機能を有効化して、しばらくの間自分たちで試します。チームの多くのメンバーがとても活発にEtsyで売買していることが、テストには非常に役立ちます。また、公開前の機能へのフィードバック提供に同意したごく一部のユーザーを対象に、プロトタイプグループという素晴らしいツールを使って、新しい機能を限定的に有効化しています。公開後は、Etsyのフォーラムとサポート窓口から、顧客からの多数の意味のあるフィードバックを得ています。

ユーザーの満足度をどのようにして高めているのですか?

ジェシカ: プロジェクトに取り組む際、特定の数値を改善しようとする代わりに、顧客の具体的な問題を解決したいという気持ちから始めるようにしています。ユーザー満足度は、Etsyが価値を提供しているかどうかを測定するものですが、まずは、買い手と売り手のニーズを理解する必要があるのです。

キャット: 売り手と買い手が成功すれば、それがEtsyの勝利です。その考え方は、顧客の希望と必要に応える体験の構築に専念することを容易にします。買い手は、何か特別でユニークなものを求める際に、Etsyのマーケットプレイスを訪れています。Etsyの目標は、そのような中核となるニーズ(もちろん売り手のニーズも含め)を軸に設定されています。Etsyで購入するユーザーが増えれば、売り手が得します。つまり、顧客に耳を傾け、要望を重視し、最も重要なニーズに迅速に対応することで、満足度を高めることができるのです。デザイン業界で10年以上の経験を持つ者として、私は、こうした満足度の目標を掲げる場所で働けることは希少であると感じています。

ジェシカ: 顧客がどのようにEtsyを使用しているのかを理解する最善の方法のひとつは、データ活用です。すべての変更内容にはA/Bテストを実施しており、さまざまな評価基準を通じて、それぞれの変更が行動にどういった影響を与えるのかを把握しています。こうした実験は、より大きな規模でユーザーがどのようにEtsyを利用しているのか探るために有効です。また、顧客がある事を行った(または行っていない)理由を理解できるように、数多くの定性調査を行い結果を補っています。Etsyが行っていることが顧客のためになっていると分かれば、その分野への投資を続けます。

Etsyの今後のUXはどうなるのでしょうか?

ジェシカ: 現在、社内全員を顧客中心の考え方に集中させ続ける手段について検討しています。また、今まで以上にEtsyを特別な存在にするための投資も行っています。今着手していることやこれから進む先のことを考えると、本当にわくわくします!

キャット: より良質の体験をデザインするには、顧客のニーズに耳を傾け、アイデアを迅速に検証する必要があります。デザインや調査のプロセスを改善することで、より質の高い仕事をより素早く提供できるだろうと期待しています。これには、Etsyのウェブとモバイル体験の等価性などにもっと注目したデザインシステムへのさらなる投資などが含まれます。デザイナーとその協力者に最高の仕事を行うための力を与えるのが、ユーザー体験を改善するベストな方法だと考えています。

この記事はUX Evolutions: How Etsy Creates Customer-Centric Experiences for Millions of Users(著者:Oliver Lindberg)の抄訳です