イラストレーターのための「著作権」入門講座 : 第二話 契約時に注意すべきことは?#AdobeStock

日本人で初めて「Adobe Creative Residency プログラム」に選出されたイラストレーター、福田愛子さん。さまざまなクライアントと仕事をするなかで、著作権に関する疑問が増えたといいます。

そこでお話を伺ったのが、日本を代表するイラストレーターの団体、東京イラストレーターズ・ソサエティ。なかでも著作権に詳しい会員で構成された「TIS著作権委員会」のみなさまに、福田さんの疑問を投げかけました。

第二話ではクライアントとの契約時にはどんなことに注意すべきか、著作権の観点から迫ります。イラストレーターはもちろん、すべてのクリエイターに読んでいただきたい連載です。

■イラストレーターの報酬は原則的に「利用料」です。

福田愛子(以下、F):前から気になっていたのですが、そもそもイラストレーターの報酬は「イラストを描いたことに対する制作料」なのでしょうか? それとも「イラストの利用を認めることに対する料金」なのでしょうか?

TIS著作権委員会(以下、T):著作権を譲渡しない限り、後者の「利用料」です。著作権法は「著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる」(63条)と定めています。つまりクライアントにイラストの利用を許諾する見返りとして報酬を受け取るわけです。

一部には「制作料(原稿料)を支払えば、著作権ごと買い取れる」という誤った感覚のクライアントもいますが、だからこそイラストレーター側が正しい理解を促すことが大切になります。無断利用を避けるためには、原画を渡さないなどの対策も有効です。

F:私が過去に制作したイラストにも、聞いていたのとは別の媒体で再利用されたりと、実質的に買取り扱いをされているものがあります。著作権が私にあるのであれば、二次利用料についても交渉すればよかったのですね。

T:そうしたトラブルを避けるためにも、掲載媒体や利用期間などを契約書で取り決めておくことをおすすめします。「契約書を交わしていたら、とても納期に間に合わない!」ということもあると思いますが、それなら覚え書きレベルのメールだけでも構いません。ポイントは、重要な取り決めを文面として残しておくことです。

F:それならすぐに実践できそうです。電話でのやりとりを文章化して、備忘録も兼ねてメールするなど、できることから始めたいと思います。

■包括的な利用許諾は避け、利用範囲を限定しましょう。

F:契約書を交わす際には、どんなことに気をつけたらいいでしょう?

T:繰り返しになりますが、まずは利用範囲を限定することです。特に「包括的利用許諾契約」には慎重になるべきです。「包括的」が字義通りの意味であれば、利用方法、利用期間、掲載媒体などに制限がないことになります。これでは提供したイラストが想定外の利用をされてしまいかねません。

F:事前には詳細な利用期間を詰め切れない場合もありますよね。例えば、パッケージなどにイラストを提供した場合、それが1年間だけ使われるのか、10年後も使われるのかわかりません。そんなときは、どうするべきでしょうか?

T:わかっている範囲で利用条件を特定し、その上で契約書内に「甲(依頼主)が本契約に定める利用範囲以外に本イラストレーションを使用する場合、あらかじめ乙(イラストレーター)と協議した上で実施する」などの条項を設ければいいと思います。パッケージの例でいうなら、最低限の利用期間を定め、それ以降は随時協議するという流れです。

F:なるほど! それなら安心ですね。ほかに気をつけることはありますか?

T:「乙(イラストレーター)は甲(依頼者)に対し、著作者人格権を行使しないもの」などの条項が設けられた「不行使特約」を含む契約があります。この場合、著作者人格権の行使が制限されてしまいます。

F:もし不行使特約を含む包括的利用許諾契約を交わした場合、どのような利用をされても、それを認めなければならないのでしょうか?

T:そんなことはありません。著作権法は、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす」(113条6項)と定めています。従って、不行使特約を結んだ場合も、著作者の社会的名声を貶めるような利用はできません。

また同一性保持権については、仮に不行使特約を含む契約を結んだ場合でも、改変できるのは「作品の本質に触れない形式的事項のみに限られる」と考えるのが一般的です。

F:どうしてですか?

T:著作物の本質的な内容を改変することは、著作者の「思想」「感情」を他者が改変することと同義だからです。これは、一般的な公序良俗に反する行為なので、民法90条の「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」という規定に照らし合わせ、契約自体が無効になると考えられます。

F:なるほど。ただ、どこまでが形式的なのか本質的なのか、判断が難しそうですね。

T:そうですね。いずれにしても、契約の内容をきちんと理解し、やるやらないの判断をするということが大切ですね。

■譲渡されるのはどの支分権かしっかりと確認しましょう。

F:ここまでイラストの利用に関わる契約についてお尋ねしましたが、契約によっては著作権(財産権)の譲渡もできるのですよね?

T:もちろんです。著作権法が「著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる」(61条)と定めていますからね。

F:一部を分割して譲渡することもできるのですね。つまり「複製権」を譲渡してイラストのコピーは認めるけれど、「貸与権」は手元に残して、貸し出しは禁止するといった契約も可能ということですか?

T:もちろんです。ちなみに「全ての著作権を譲渡する」という条項があったとしても、すべての支分権が譲渡されるわけではありません。

F:契約を結んでいるのに、なぜ譲渡されないのですか?

T:著作権法が「著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する」(61条2項)と定めているからです。

27条は「翻訳権、翻案権」、28条は「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」を定めた条項です。つまり、「全ての著作権を譲渡する」という条項だけでは「翻訳権、翻案権」、「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」はイラストレーターの手元に残ることになります。

A:では、どういった契約であればそのふたつの支分権が譲渡されるのでしょうか?

T:契約書に「全ての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を譲渡する」と明記されている場合ですね。

F:なるほど! 契約書を交わす際には、そこも欠かさずにチェックするようにします。

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次回は、「他人の著作権を侵害しないために。」です。どうぞお楽しみに。

<プロフィール>

ブリッジウォーター州立大学芸術学部グラフィックデザイン学科卒業。2014年よりイラストレーターとしての活動を本格化。現在は東京を拠点に国内外で活動する。1本のペンから描かれる味わいのあるタッチを軸としつつ、アナログとデジタルを融合させた作品を制作。主な仕事は、雑誌BRUTUS「男の色気」イラスト連載、資生堂マジョリカマジョルカ「MAJOLIPIA」など。2019年には、日本人で初めて「Adobe Creative Residency プログラム」に選出された。

一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティにおいて結成された、著作権について弁護士の協力のもと学び研究する委員会。2018年、著作権をはじめとしたイラストレーターのさまざまな悩みに応える『Q&Aでわかる! イラストレーターのビジネス知識』を玄光社より発刊した。