イラストレーターのための「著作権」入門講座 : 第三話 他人の著作権を侵害しないために。

日本人で初めて「Adobe Creative Residency プログラム」に選出されたイラストレーター、福田愛子さん。さまざまなクライアントと仕事をするなかで、著作権に関する疑問が増えたといいます。

そこでお話を伺ったのが、日本を代表するイラストレーターの団体、東京イラストレーターズ・ソサエティ。なかでも著作権に詳しい会員で構成された「TIS著作権委員会」のみなさまに、福田さんの疑問を投げかけました。

第三話では、ほかのクリエイターの著作権を侵害しないための術に注目します。イラストレーターはもちろん、すべてのクリエイターに読んでいただきたい連載です。

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ほとんど参考資料は、誰かの著作物です。

福田愛子(以下、F):自分の著作権がしっかりと守られているのか気になる一方で、自分が他人の著作権を侵害していないかも気になります。参考資料をもとにイラストを描くときにはどんなことに配慮すればいいでしょうか?

TIS著作権委員会(以下、T):まずは参考資料が著作物であるか否かが重要です。例えば、写真はほとんどの場合で著作物性が認められます。被写体の選択、被写体のポーズ、構図、背景、照明、アングル、シャッターチャンス、露光時間などさまざまな要素によって、写真家の「思想又は感情」が表現されていると考えられるからです。

F:著作物性が認められない写真もあるのですか?

T:監視カメラの映像を切り抜いた写真や、自動証明写真、プリクラなどには著作物性がないとされています。とはいえ、こうした写真を参考にすることは少ないので、基本的に「参考写真は著作物」と考えるべきでしょう。

K:なるほど。グラフや地図などの図表を参考にする場合はどうでしょうか?

T:著作権法は、図表も著作物であると定めています。ただし、事実を忠実に再現することを目的に制作された図表は、制作者の「思想又は感情」が反映される余地が少ないので、著作物性がないと判断されるケースもあります。このあたりは専門家でなければ、正しい判断は難しいところです。

F:インターネット上に公開されている画像についても、著作権があると考えるべきですよね?

T:もちろんです。インターネットで公開されているあらゆる画像は、基本的に誰かの著作物。無断で利用すれば著作権侵害になりかねません。

利用許諾が取れない場合には、徹底したアレンジを。

F:参考資料の多くが著作物だとすると、その著作権を侵害しないためにはどんな点に気をつけたらいいでしょうか?

T:まずは著作権者から許諾をもらうことです。著作物であっても利用許諾を得ていれば著作権の侵害にはなりませんからね。

ただ実際には、すべての資料の利用許諾を得るのは困難です。インターネット上の画像を参考にした場合は、著作権者が誰なのかわからないこともしばしば。そういった場合には、元にした著作物と「同一または類似である」とみなされないよう、「自分の絵」になるまでアレンジする必要があります。

F:類似とは、どの程度似ていることを指すのでしょうか?

T:一概に線引きはできませんが、元になった著作物の「表現上の本質的特徴を直接感得できる」場合に類似が認められると言われています。逆に言えば、ある作品を参考にしていても、そこに独自のオリジナリティを加えていれば、類似しているとはみなされません。基本的には、元資料が特定できないくらいアレンジしていれば、まずトラブルは起きないと思います。ただ最近では第三者が類似性や盗用を指摘するケースもあるので、よりシビアに考えるべきでしょう。

F:たしかに。誰かと誰かの作品の類似性が公になり、ネット上などで批判が殺到する事件がたびたび起きていますね。

T:そうですね。写真をトレースしただけとか、人物の衣装や髪型やポーズが同じといった、類似が明らかな利用はできるだけ避けた方が安全です。

F:写真ではなく、映像を参考にする場合はどうですか? 以前、雑誌の挿絵のお仕事で映画のワンシーンを抜き出してイラスト化するというものがありました。この場合は、著作権の侵害になるのでしょうか?

T:無断でイラスト化して発表すれば、著作権の侵害になります。やはりイラストにする際には、著作者の許諾が必要です。ちなみに多くの場合、映画の著作権は、監督等ではなく製作会社が有しています。

著作権侵害の責任は、制作者が負わなくてはなりません。

F:いずれにしても、クライアントが利用許諾を取ってくれると安心なのですが、なかなかそうもいかないケースも多いですよね。

T:そうですね。ただ、自分を守る意味でも、利用許諾についてはしっかり確認すべきです。クライアントから渡された参考資料についても、許諾の有無を明らかにした方がいいと思います。著作権侵害で訴えられたら、イラストレーターが責任を取らなければならないことが多いですからね。

F:依頼者ではなく、制作者が責任を負うのはなぜでしょうか?

T:著作権の利用契約を結ぶ際に、第三者の権利を侵害していないことを「表明および保証」する条項が設けられることがほとんどだからです。具体的には以下のような条文になります。

つまり「著作権について訴えられたら、描いたあなたの責任です」というわけです。損害賠償責任はイラストレーターに及ぶこともあるので、注意してください。

F:しっかりと利用許諾をとること。それが難しいときは、自分の絵になるように徹底的にアレンジすること。このふたつを改めて肝に銘じます。

T:著作者の死後70年が経過して「パブリック・ドメイン」になった資料を使う手もあります。著作権の保護期間が終了しているので、著作権侵害となる心配はありません。

F:なるほど! Adobe Stockなどのストックフォトサービスを使うのも良さそうですね。

T:そうですね。第一話でもお話ししたように、ストックフォトサービスでは、作者が改変を含んだ利用を許諾している場合がほとんどなので安心です。

F:他人の著作権を侵害しないように、細心の注意を払いたいと思います。

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次回は、「肖像権ってどんな権利?」です。どうぞお楽しみに。

<プロフィール>

ブリッジウォーター州立大学芸術学部グラフィックデザイン学科卒業。2014年よりイラストレーターとしての活動を本格化。現在は東京を拠点に国内外で活動する。1本のペンから描かれる味わいのあるタッチを軸としつつ、アナログとデジタルを融合させた作品を制作。主な仕事は、雑誌BRUTUS「男の色気」イラスト連載、資生堂マジョリカマジョルカ「MAJOLIPIA」など。2019年には、日本人で初めて「Adobe Creative Residency プログラム」に選出された。

一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティにおいて結成された、著作権について弁護士の協力のもと学び研究する委員会。2018年、著作権をはじめとしたイラストレーターのさまざまな悩みに応える『Q&Aでわかる! イラストレーターのビジネス知識』を玄光社より発刊した。