信頼をつくり出すためのデザインの役割を探る | アドビUX道場 #UXDojo

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

私はデザインにおける信頼のパターンを研究するデザイン研究者です。様々な信頼に関連する研究成果と、ユーザーインタビューやアンケートから得られた独自の調査結果を基に、テクノロジーに対する信頼を生み出したり、信頼を武器化するコミュニケーションやアプリを研究しています。

信頼とは複雑なものです。文脈や契約や文化に依存し、人それぞれに少しばかり異なる定義を持っています。信頼を理解することは、社会にとってプラスになる、倫理的で設計の行き届いたテクノロジーをつくり出す鍵となります。この記事では、デザインにおける信頼の考え方について紹介します。

信頼とは何か

「『信頼』という言葉を耳にしたとき、何を思い浮かべますか?また、それをどのように定義しますか?」

これは、ディナーパーティーやコーヒーショップ、もしくは一般的に会話を始めるときに好んで使っている質問です。その答えは興味深いもので、相手の考え方を知る上でも役に立ちます。「信頼」という言葉は、何かを指す単語というよりも概念としての側面が強いようです。本質的にそれが何であるかをわかっているようでも定義するのが困難な点で「倫理」と似ています。結局のところ、信頼はあらゆる人間関係の一部として時とともに学んでいくものです。その一方で、必ずしも実際に定義する必要はないものです。ある意味で信頼は呼吸に似ているかもしれません。普段は無意識に行っていて、ところが急に咳き込んだときのように何か問題が起きると、それをはっきりと自覚します。

私は、ポリシーとテクノロジーが重なる分野で働くデザイン研究者です。特に、オンラインで行われるハラスメント行為や、テクノロジーが悪影響をもたらす事例に注目しています。デザインには、アプリ内のテクノロジーやポリシー、そして、インフラあるいはソーシャルネットワークをユーザーに理解しやすくできる力があります。デザインは本当に重要なのです。そのため、デザインに関わる研究者としての私の強い信念は、デザインは皆の利益となるべきだというものです。しかし社会的、公共的、共通の利益のためにデザインし、その上、害を軽減するよう気を配ることは至難の業です。

ハーバード大学ケネディ行政スクールの特別研究員としての研究の一環として、私はソーシャルネットワークでの信頼に関わるデザインパターンと振る舞いを調査しています。ダークパターンの研究に影響されて、私は技術への信頼を生み出したり武器にすることができるデザイン要素が存在するのかに関心を抱いています。

私のアシスタントのヴァンディニカ・シュクラエリゼ・ヴォーゲリの協力を得て、ソーシャルネットワークにおける信頼に関わるデザインパターンを研究するため、ジャーナリストや技術者を対象にユーザーインタビューやアンケート調査を実施してきました。ジャーナリストは、オンラインであらゆる種類のハラスメントを受ける人々です。彼らがどのようなプラットフォームを使用していて、プラットフォームを使用し続けるためにどんな交渉技術を使っているのかは、非常に重要な研究対象です。デザイナーにとって、ジャーナリストを始めとする様々なユーザーグループが直面する脅威を理解すること、さらに、そうした危害を促進したり軽減する上でデザインがどんな役割を果たしているのか理解することは欠かせません。

現時点における見解

私たちが用いている信頼の定義を紹介しておきましょう。研究目的では、社会心理学者のジュリアン・ロッターが提唱する定義を使用しています。ロッターの定義は、「個人またはグループが持つ、ほかの個人またはグループからの言葉、約束、口頭あるいは書面による声明に依存してもよいという期待」です。ロッターの定義を目にしたとき、デザインにおける信頼に当てはまるものだとすぐに直感しました。単純で分かりやすい形で、個人が持つ人や技術そのものとのすべての関係における信頼が、オフラインとオンラインの両方の状況で説明されています。

基本的に、信頼とは相関的なもので、私たちはそれをアンケート調査で検証しようとしています。あなたはアプリとの「関わり合いの体験」を信じているでしょうか?ここで言うアプリとの関わり合いの体験とは、そのアプリが遂行すると述べている内容を実際に行い、その上で適切に結果がもたらされることを意味しています。

私は友人が私のことを気にかけてくれていると信じています。もし彼らの誰かが私の気持ちを傷つけることがあった場合には、その友人との関係が解決してくれることを信じます。ソーシャルネットワークがパスワードや電子メールの漏えいから私を保護してくれると信じています(と言っても、過去の話ですが)。私の個人情報が、私に明示された方法で使用されており、サードパーティによって使用されるようなことがある場合には脱退できるものだと信じています(Cambridge Analyticaのケースを覚えていますか?)。

私の個人情報が悪用されたときや、友人と私が喧嘩したときにその状況が解決できなければ、信頼は崩れてしまいます。約束されているはずだと期待していたものが打ち砕かれてしまうからです。

私たちの社会にとって、信頼を分析し解き明かし始めるには、今が興味深いタイミングと言えるでしょう。フェイクニュースや政治不信のはびこるこの時代には、多くの異なる研究が行われています。2018年5月のピュー研究所の報告書には、アメリカ人はテクノロジーを信頼しているが、同時に葛藤を感じていることが記述されています。

「74%のアメリカ人は、大手テクノロジー企業とその製品やサービスが生活に与える影響はマイナスよりもプラスの方が多いと答えている。(中略) それらの企業について記述された文をいくつか示した場合は、65%のアメリカ人が『製品とサービスが社会に与える影響を予測できないことが多い』と回答し、これらの企業は『ユーザーの個人情報保護に十分に努めている』と回答したのはわずか24%に過ぎない。また、国民の約半数(51%)は主要なテクノロジー企業は今よりも規制されるべきだと考えている」

ほとんどの場合、アメリカ人は、技術とソーシャルネットワークの役割について、葛藤しつつ楽観的でもあるようです。これは信頼と定義されるものからは程遠く、技術や技術との関わり方に対するユーザーの非常に複雑な感情を浮き彫りにします。信頼を得るのはかくも難しいことなのです。

では、信頼とはいったい何者でしょうか?それはひとつに決められるものではないようです。Simply Secureで専務取締役を務めるジョージア・ブーレンは、「信頼は文化に根ざしていて、文化には構造と規範が伴います。信頼の捉え方は文化によって異なります。基準は文化が形成します」と述べています。他のすべてのデザインと同様に、信頼をデザインする上で、どんな場合でも適用できる定義は存在しません。

Simply Secureのアイリーン・ワーグナーは、セキュリティ、ユーザーレビュー、金融取引に関わるUIと、サイトが要求する機密性の高いすべての情報との関りについて語りました。「現在では、サイトでクレジットカード情報を保存する際には必ずチェックボックスが用意されています。そのUIの前後でユーザーに起きることは、そのチェックボックスをクリックして情報をサイトに保存するかどうかを判断する上で非常に重要です」

いくつかの業界記事では、信頼をつくり出すだめのデザインの文脈で、一貫性がしばしば言及されます。一貫したパターン、一貫したデザイン、一貫した質問といった項目です。透明性や単純な言葉遣いについても述べられています。ユーザーは使用しているアプリやテクノロジーで何が起きているのか、また何が起ころうとしているのかを正確に知る必要があります。

ここでの「信頼」は、単純で分かりやすく尋ねているか、そしてそれをユーザーに提供しているか、というように考えることができます。これを実践に移しましょう。ユーザーの位置や電子メールを尋ねる際に、なぜその情報を必要としているのか、それがどのように保管されるのかを事前に明示しましょう。ユーザーに何かを求める際は、伝えそびれた事項がないか確認しましょう。こういった開示をすることは、透明性の確保だけでなく、信頼に基づくユーザーとの関係を築くためのフレームワークとなります。

シリコンバレーやテクノロジー企業にとって、信頼は大きなテーマです。Airbnbのような企業でも、この件について記事を書いたりTEDの講演を配信しています。Airbnbの投稿でもわかるように、信頼について概要を話すことは簡単ですが、Airbnbが実際にどのように信頼のためのデザインを行っているのかについては、評判の確立に高いレベルの注意を払っているのにもかかわらずほとんど説明されていません。

では、Airbnbにおける信頼とは何でしょうか?そして、どのようにそれをつくり出しているのでしょうか?顧客へのサービスのコアは、サービスをデザインすることです。コミュニケーションデザインとUXデザインは、顧客がAirbnbとコンタクトしたり警告を送りやすくします。そしてサービスのデザインは、対応をいかに迅速に行い、どのような対応を顧客が受け取るかに関わります。これはデザインにおける、(私たちが定義するところの)契約性、一貫性、そして信頼性の問題であり、運用と顧客サービスの観点からの透明性に関わります。

画像提供: Airbnb

この定義は、デザイナーのアシュリー・アクシオスによる信頼の定義に特に一致するように感じられます。アシュリーは信頼について、「確かさ、説明責任、プライバシー、およびある種の誠実さを合わせたものです。つまり、企業や誰かが何を行うと言ったとき、それをやり通すということです。言葉、行動、そして反応に矛盾がないことです…」と説明しています。

この定義は私たちの定義である「合意した『契約』に基づいて遂行する」と類似しています。つまり、信頼のためにデザインするということは、AirbnbのTEDトークでも指摘されているとおり、「良質のデザイン」を通じて見知らぬ人同士に信頼を通わせることではなくて、Airbnbという企業との契約的な関係に基づいた、合意事項を達成する一貫性、計画的な運用管理、顧客や貸主の成功事例の提示、カスタマーサービスへの連絡しやすさとその際の役に立ち方、こういったものが信頼を生み出すのです。こうした要素はまさにデザインにおける「信頼」です。

信頼の土台

信頼を生み出す全ての要素とは何でしょうか?また、信頼はどのように武器化されるのでしょうか。これらは現在も模索中の疑問です。色は信頼に影響を与えるの?GIFのサポートはどうなのか?接続が失われたときにポップアップするUIは?プラットフォームはユーザーにデータの漏洩について知らせるのと通信内容の暗号化について説明するのとどちらを選べばよいのか?TwitterまたはFacebookのプライベートの投稿が、実際にどれくらい「プライベート」であるのか警告を表示すべきでか?Instagramの投稿は、商用目的での画像の使用からオプトアウトできる選択をユーザーに与えるべきか?こういった疑問のすべてはデザインに関係しています。そして、これらの疑問は信頼に関係する機能についての話でもあります。

より良い製品をつくり出すため、デザインにおける透明性が意味するものに確実に対応する必要があります。もちろんこれはコードをオープンソースにするというようなことではなく、何時なぜ何を行っているのかを説明し、オプトインやオプトアウトの機会を提供することです。先ほど、信頼を強化するためのフレームワークについて述べました。本質的に、それは製品や機能に対する信頼をさらに強くする土台です。ユーザーは画面の中で何か決定するための支援を必要としており、明確で理解可能な選択肢を求めています。信頼は、ユーザーにデータの使い道を伝えるだけでなく、ユーザーに選択肢を与えなければなりません。

信頼は、明確で理解しやすく、矛盾のないものである必要があります。もし「鍵」のアイコンを提示してデータを保管しようとしているのであれば、そのデータを適切に保護して保管しなければなりません。それが鍵アイコンを表示することによる契約と約束であるからです。信頼を得るためのデザインにおいて、セキュリティとプライバシーは非常に重要であり、それらを粉飾してはなりません。デザインとセキュリティやプライバシーは同等のものとして取り扱われる必要があります。信頼は、分かりやすさであり誠実さを意味するのです。

この記事はHow UX Design Creates Trust(著者:Caroline Sinders)の抄訳です