「今どきのデザイン」の見た目が似ている理由 | アドビUX道場 #UXDojo

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

ウェブデザインの黎明期を覚えている人なら、デジタル体験の美学に起きた大きな変化を知っているでしょう。かつて、アイコン、ボタン、画像、ナビゲーションの 「開拓地」 だった領域は、今では、整理されて機能的で親しみのあるサイトが大半を占拠する場所になっています。全般的にみて、この状況は企業とユーザーの両方に利益をもたらしています。より効率的で、エレガントで、予測可能なデジタル環境は、企業や人々の目標達成を容易にします。しかし、このデジタルデザインの進化は、新たな問題を生み出しているかもしれません。なぜ、みな同じように見えるのでしょうか?そして、それは変わりつつあるデザイナーの役割にどんな意味を持つのでしょうか?

アドビのプリンシパルデザイナーのコイ・ヴィンは、彼のポッドキャストWireframeのあるエピソードで、プロデューサーのエイミー・スタンデンと一緒に、現在の状況に至るまでの経過を振り返りました。デジタルデザインの原理の進化に伴い何を得て、その過程で何を失ったのか?デザインの美的な側面におけるモノカルチャーの出現が、なぜ特に今重要な話題なのかが話されたエピソードの内容を紹介します。

同じデザイン言語を学んだ私たちが同じ言葉を話すのは不思議ではありません

GoogleでUXデザインリードを務めるクリフ・クアン 出典: Medium

ウェブの黎明期には、デザイナーたちは「その場をしのぎつつ先を目指して」進んでいました。彼らはオフラインの世界に目を向けてひらめきを求めていました。そして、デザイン技法が発展する過程で、独自のデジタル向けの視覚言語をつくり出しました。

「[初期のウェブデザイナー]は、彼らが持っていた無意識の美学、基準点、影響、そうしたあらゆる種類の文化を持ち込みました、そうでしたよね?私が思うに、これは、今とは根本的に異なる状況です」とGoogleのUXデザインリードで、User Friendlyの著者のクリフ・クアンは、コイとクアンに語りました。

90年代のウェブデザイン。それほど美しくはないが、確かに興味深い 出典: http://www.rsub.com/ticklah/

イェール大学で教鞭を執るデザイナー兼ライターのジェシカ・ヘルファンドは、「今の私たちはより視覚的に洗練されています。美しいもの、より良いもの、より機能的なものへの欲求は良いことです」と付け加えました。

ジェシカ・ ヘルファンドは、デザイナー、ライター、イェール大学教授、そしてDesign Observer誌の編集長

ジェシカは、デザイナー自身とともに、一般の人々の認識も変わってきていることを強調し、「デザイナーにとっては素晴らしい時代です。しかし、なぜすべてが同じように見えるのかを考えてみたとき、私にはそこに関連があるように思われます」と語りました。

プロデューサーのエイミーには、この一言は納得がいくものでした。同様のデザインのトレンドは、オフラインでも見られます。「ウェブに見られる美的な側面のモノカルチャーは、私たちが街で見ているものを反映しているように感じられます。風変わりで、その場所に特化した、地元の顔であるような店舗が、スタイリッシュでミニマリストのコーヒーショップやチェーン店に取って代わられています。どの街に行っても同じ見た目の店が並んでいます。個人的には、より奇抜で、洗練され過ぎていない消費者に寄りそってくれる世界が好みです。これは、インターネットの世界についても同様です」と彼女は言いました。

デザイナーは自らを安売りする

写真家ジル・グリーンバーグが1995年に開設した遊び心あふれるウェブサイト 「The Manipulator」 出典: http://www.rsub.com/thebluedot/greenberg/

コイは、この美的なモノカルチャーは必ずしも悪いことではないと強調しています。結局のところ、ウェブの多くはより機能的でアクセスしやすいものになりました。それでも、デザイナー自身が、オンラインでこの 「同一性」 の提供者になることにはリスクがあると語ります。

「私が考えるリスクは、デザインがいわば部品を供給するだけの規律のようなものになることです。それは、ユーザーの幸福や、顧客のジャーニー全体を真剣に考慮し、その行動に責任を取ることはない規律です。言い換えるなら、結果にどれだけの影響を与えられるかという点において自分を安売りするというリスクです」

といっても、前進するために必要なのは、単純に昔を再現することではありません。それよりも、デザイナーが、現在デザインの 「ベストプラクティス」 と見なされているものの境界を押し広げることが重要であるというのがコイの考えです。

ジル・グリーンバーグの現在のウェブサイト。進化した美学と変わらない興味深い雰囲気 出典: https://www.jillgreenberg.com/

美的モノカルチャーとは、親しみやすさとシンプルさだけなのか?

エミリー・ヘイワードは、デザインとブランディングエージェンシーRed Antlerの共同創設者

コイとエイミーは、Red Antlerの創設者の1人であるエミリー・ヘイワードとも話しました。同社は、クライアントのために多くのウェブサイトを制作してきました。いずれも現在の美的なモノカルチャーを構成しているビジュアルおよびUXに関する原則を明確に取り入れています。彼女は、こうしたトレンドはクライアントからの要求に根ざしたものと受け止めています。これらのデザイン原則が、すべての人にとってより良い体験をもたらすという認識です。

「このトレンドに伴うデザイン上の選択の多くは、親しみやすさ、シンプルさ、人々にとっての使いやすさに関するものです。私たちは、知っておく必要があることだけを説明します。注意を引くだけのためにいろんな方法を使用することはありません。私たちはクライアントの役に立つためにいるのです」

Red Antlerのウェブサイトのスクリーンショット。同社は多くの人気ブランドのブランディングを行い、ウェブ体験を作り出してきた。多くの企業は、いまでは製品に関する情報に潜在的な顧客が容易にアクセスできるよう、できるだけ親しみやすくシンプルなものを狙っている

一方、エイミーは、これをウェブデザインの企業化だと考えています。「私たちが目にしているのは結果です。社会的にも視覚的にも、ウェブは私たちに物を売ろうとする大企業によってますます支配されるようになっています。流行りのビジュアルトレンドがどのようなものであれ、視覚的な面における個性はより少なくなるでしょう」と彼女は言いました。

ところで、エミリーとRed Antlerのチームは、多くのクライアントが求めているこの 「同一性」 に逆らうことにも価値があると考えています。それは、デザインのための新しいアプローチを探し、クライアントをそちらの方向にそっと後押しする行為です。Red Antlerは、学校を卒業したばかりの若いデザイナーの採用に力を入れています。彼らはまだ近代的なデザイン美学の「規則を学んだ」状態になく、それが境界を超えるのにはずっと適しているからです。

デジタル世界のアプリのUIは、同じようなデザイン美学を好み、できるだけ使いやすくなるように最適化されている 出典:Fast Companyの記事

「私たちはボールから目をそらした」

コイはこのエピソードを振り返り、どのようにして今の状況に到達したのかをよりよく理解できたと述べました。デザイナーたちは過去数十年の間に自分たちの技術をどんどん改良して、新しいテクノロジーやプラットフォームを習得し、ビジネスに関わる能力もこれまでにないほど向上しています。デザイナーは確かに多くを得てきました。しかし、何かが失われているのでしょうか?

「私たちは、デザインを核とした活動を補完するすべての側面においてスキルを上げてきました」と彼は言いました。

「しかし、私たちはボールから目を離してしまいました。良いデザインが実際に良いものであることを確認し、私たちが創造している世界全体にユニークに貢献していることを確認するという点においてです。デジタル世界には非常に多くの類似性が溢れています。一方、それによる影響がどのようなものかを問われることはほとんどありません… もし、明るい希望があるとしたら、新しいユニークな視点がこの状況を突き破り、リセットする素晴らしい機会になっているという点ではないでしょうか」

この記事はAesthetic Monoculture and the ‘Sameness’ of Modern Design(著者:Patrick Faller)の抄訳です