Adobe MAX基調講演速報レポート: iPad版Photoshop公開&Illustratorベータ予告など新世代デザインアプリへの取り組みが本格化。Adobe Senseiが嬉しいデザインツールの新機能や更に共有しやすくなったXD。#AdobeMAX

アドビ最大のイベントAdobe MAXが11月4日からロサンゼルスで開催されました。イベントのハイライトともいえる基調講演では、アドビが目指している方向性が、下の3つのテーマに沿って、具体的な成果とともに示されました。言葉通りにとれば、デザイナーがクリエイティブな作業に集中できる環境づくりをいかに支援するのかが、現在のアドビの大きな関心事であるようです。そのためにiPadやアドビのAIであるAdobe Senseiを活用しようとしている点が、今年の発表の目立った特徴でした。

これら3つのテーマについては、こちらの翻訳記事に詳しく紹介されています。

iPad向けに開発された3つのデザインツール

3つのテーマの象徴ともいえるのが、新しい3つのiPad向けに開発されたデザインツールです。

どのツールにも共通するのは、パフォーマンス重視、タッチ画面とApple Pencilを使った操作に最適化された操作性、そしてデスクトップツールとの互換性およびクラウド連携です。これにより、デザイナーは、場所や時間を選ばずにクリエイティビティを発揮することができます。そして、作業の成果は、既存のクリエイティブワークフローと連携させることが可能です。加えて、新しいツールの学習コストは、比較的低く抑えらることができそうです。

興味深かったのは、こうしたiPad版の開発が、既存のデスクトップ製品の見直しにもつながっているらしいことでした。「これまで当たり前だとして扱っていた事柄について、改めて同じツールをデザインし直したことで、新しい視点を得るきっかけを得られた」という製品チームのコメントからは、製品を開発する立場からも、プラットフォームが単純に一つ増えた以上の意味があったことが伺えます。これからのアドビのアプリは、iPad版とデスクトップ版が互いに刺激を与えあってデザインされていくことになりそうです。

最初に紹介されたiPad向けアプリはPhotoshopでした。

PhtohopのワークスペースがiPadの画面に詰め込まれ、タッチ操作で直感的に操作できるように設計されています。既存UIの使い方を継承しつつ、一般的なモバイルアプリの操作性に合わせた使い勝手という印象です。特徴的な「タッチショートカット」は、画面に触れることでツールの機能を変えられる、キーボードのaltやcmdに該当するUIパーツです。

登壇したエミリー・ボーグからは、Photoshopと同様の機能とワークフローが利用できる例として、レイヤー、マスク、ブラシ等を使った画像を合成する手順がデモされました。作成したファイルはクラウドに保存され、そのままデスクトップ環境のPhotoshopに持ち込んで作業することが可能です。

ユーザーからは、手元の画面に直接デザインする行為に対してこれまでにない親しみやすさを感じたという声があったそうです。本格的なグラフィックデザインはやはり大きな画面でという人にとっては、手軽に使えるアイデアスケッチツールとして活用することになるかもしれません。

次の更新では、Adobe Senseiの力を借りて簡単な操作で対象を切り抜ける機能が追加される予定であることも紹介されました。カールした髪の毛の様な対象にも対応できる境界を調整するためのツールも一緒に追加されるそうです。この2つの機能は、会場に用意されていたデバイスを使って実際に試すことができました。どうやらかなり近い将来に利用できることになりそうです。

次に紹介されたのはアドビの新しいデジタルペイントツールAdobe Frescoです。先日iPad版が公開されたばかりですが、基調講演の場でWindows版の提供開始も発表されました。本物の紙に描いているかのように水彩画や油絵を描くことができるFrescoは、デジタルのカンバスを持ち歩いてスケッチをしたい人たちに喜ばれそうなツールです。

Frescoの使い方が実演には、Photoshopのブラシで有名なカイル・ウェブスターが登壇しました。水彩絵の具を使って描く時のように、筆で描いた色が混ざったり、そこにさらに水をたらして薄めたり、あるいは乾かしてその上に描けることを紹介しながら鳥の絵を描くデモが実演されました。

FrescoではPhotoshopのブラシが利用できて、水彩画に重ねて使うことができます。

出来上がったデザインファイルはPhotoshopと互換性があり、クラウドを経由してデスクトップ環境で開くことができます。

Frescoでは油絵の表現もできます。実際に油絵具を塗り重ねたような質感がカンバスに再現されることが紹介されました。

初めて情報が公開された3つ目のiPadアプリは、iPad版Illustratorです。現在開発中で、2020年内の公開を目指しており、ベータ版のテスト参加者を募集中です。

手書きの線がベジェ曲線に自動的に変換されるので、デスクトップ版よりも手軽にベクターイラストを描くことができそうです。もちろん、ペンツールを使ってアンカーポイントを操作することもできます。ファイルはデスクトップ版と互換性が確保されることになるようです。

登壇したエリック・スノーデンからは、新しいペンシルツールがApple Pencilを使って詳細なピクセル操作ができること、手書きのパスのアンカーポイントを最適化する機能の効果、プロパティパネルからテキストのサイズやフォントを変える様子などがデモされました。

また、紙に描いたスケッチを読み込んで、それAdobe Senseiが解析して、パスに変換してくれる便利な機能もあります。

iPad版Illustratorには興味深いパターンツールが2つ搭載されています。一つは、円周上に配置されたパターンを簡単につくることができるツールです。円の大きさ、配置する数や向きなどをタッチ操作だけで調整することが可能です。

もうひとつは、グリッド状にオブジェクトを配置するパターンツールです。ただ並べるだけではなくて、交互に向きを変えたりすることも可能です。

共有と協業がしやすくなった最新のAdobe XD

既報の通り、Adobe XDのMAXアップデートは、コンポーネントのステートや共有モードを始めとする様々な機能が追加された大型アップデートとなりました。

XDの紹介に登壇したのは今年2月のWhy Design Tokyoに来日していたコイ・ヴィンです。パフォーマンスには引き続き注力していることや、過去一年の重要な更新としてコンポーネントによる柔軟なデザインアセットの再利用が可能になったことに触れた後に、コイが紹介したのは新しくコンポーネントに追加されたステートの機能です。

上の画像はトグルスイッチにステートを設定すると、一枚のアートボードだけでスイッチのオン/オフの状態を表現できることを示しているところです。従来であれば、状態が複数あることを示すためには、それぞれの状態を表す専用のアートボードを用意して、さらにプロトタイプモードで遷移を定義しなければなりませんでした。これならずっとデザインや管理の手間が軽減できそうです。

それから、ステートの一種として、ホバーステートも指定できるようになりました。この機能を使うとマウスオーバーで表示されるツールチップやドロップダウンをコンポーネントのステートとして表現することができます。ステート間の遷移には、自動アニメーションを適用することもできます。

続けて、コイは、デザインシステムへの対応について語りました。XDではアセットパネルからコンポーネントやカラーやフォントをデザインに取り込むことができます。そして、これらのアセットを実際にアセットがデザインされているファイルと「リンクされた状態」で使うことが可能です。静的なアセットではなくて、クリックひとつで最新のデザインシステムと同期できるライブアセットである点が重要だとコイは指摘しました。複数のデザイナーがそれぞれ担当のファイルを更新しながら互いのデザインを共有するような環境での利用が主に想定されているようです。

新しい協業のための機能として紹介されたのは、ドキュメント履歴を管理する機能でした。履歴は自動的に作成されますが、明示的に保存して名前を付けて管理することも可能です。過去のバージョンの一覧から選択して、任意の時点に戻ることもできます。これにより、同じファイルを複数のデザイナーが個別に更新するワークフローが可能になるケースがありそうです。その場合、もう同じファイルのコピーをいくつも作成する必要はありません。

コイは最後に、さらに次の段階として、リアルタイム共同編集機能についても触れました。ステージでは、3つのアートボードがそれぞれ別のユーザーによって更新される様子を見ることができました。まだベータ段階とのことですが、これが正式にリリースされれば、さらに柔軟なワークフローが可能になりそうです。

コンセプトを理解し始めたAdobe Senseiの強力な支援機能

基調講演の最後には、CTOのアベイ・パラスニスが登場して、Adobe Senseiの現在地についての紹介がありました。彼によると、当初はピクセル情報を扱うAIだったAdobe Senseiがオブジェクトのコンセプトや関係を理解し始めたことが、従来よりも使いやすい支援機能の提供につながっているのだそうです。

実際に、ステージ上の各製品アップデートのデモの中にもオブジェクトを扱う機能の向上がいくつか含まれていました

上の画像は、最新のPhotoshopを使って、重ねられた輪切りのズッキーニからその一枚を選択したところです。周囲を雑になげなわツールで囲むだけで、ユーザーが選ぼうとしている対象をAdobe Senseiが理解して、エッジを検出して選択してくれる優れもの機能です。先に書いたように、iPad版Photoshopにも同様の機能の搭載が予定されています。

Premiere Proのデモでは、選択されたフレームサイズに対応して、自動的にシーンの主題を中心に収める機能が紹介されていました。上の画像は、Adobe Senseiが各フレームごとにスキーヤーの位置を理解して、常に中央に表示されるように調整した結果を表したものです。

その他にも、今回正式に公開されたアドビのARツールAdobe Aeroも、リアルタイムでカメラからの映像を解析して3Dオブジェクトを配置するためにAdobe Senseiが使われている例として挙げられていました。ちなみに、Adobe Aeroは読み込んだ3D素材を拡張空間に配置してインタラクションを追加した体験をつくり、それを共有することができるツールです。

アベイによると、3D&ARはAdobe Senseiが活躍できる分野のひとつであるということです。このあたりが、アドビがSubstanceなど3Dの分野に力を入れている理由のひとつなのかもしれません。

最後に、Adobe Senseiを前提として企画された新しいアプリとしてPhotoshop Cameraが紹介されました。Photoshopで作成したデザインをレンズフィルターとして使えるカメラアプリで、撮影時にリアルタイでカメラが捉えた映像をAIが解析し、レンズとして選択されたデザインの世界観を画像に適用します。もちろん撮影後の写真の修正も可能です。

公開は2020年の予定で、現在はプレビュー版の情報がもらえるリンクが公開されています。