Photoshop, Illustrator, Fresco : iPad向けドローイングアプリ3種それぞれの魅力と使い分けを考える

2019年11月2日〜6日にロサンゼルスで開催されたAdobe MAXについて、読者の皆さんは既に多くの記事を読まれたことでしょう。そうした速報系の情報を整理するため、この記事では、MAXで紹介されたiPad向けドローイングアプリ3種について、それぞれの特徴や使いどころや今後の展望などについて、現地で得た情報も含めてじっくり考察していきたいと思います。

iPad向けドローイングアプリ3種とは、つまり、Adobe FrescoPhotoshop iPad版、そしてIllustrator iPad版のことです!

それぞれのアプリの特徴

「情報はちょっと見たけど、この3つのアプリって、実際どう使い分ければ良いの?」と迷う方もいらっしゃるかもしれません。ここで、筆者が考えるそれぞれのアプリの特徴を挙げてみます。

Adobe Frescoの特徴

1)リアルで豊かな水彩と油彩の表現が可能なライブブラシ

Frescoはまるで、水彩と油彩の道具箱をそのままiPadに閉じ込めたようなツールです。特筆すべきなのが、水彩の色の滲みや油彩の絵の具が混ざる表現が非常にリアルに再現される「ライブブラシ」。次に紹介するPhotoshop iPad版にも水彩や油彩的なブラシは用意されていますが、色同士が滲んで混ざり合うことはありません。Frescoでは、絵の具が滲む様子をずーっと眺めていられるほど、リアルさのある表現を楽しむことができます。

2)パスとして書き出せるベクターブラシ

その他にFrescoをユニークな存在にしている特徴として、描線をパスとして書き出すことができるベクターブラシの存在が上げられます。iPad+Pencilによる筆圧を感知し、描線の太さを自由にコントロールすることができるのですが、描き終わった線の外周をパスとして取り出すことができます。Illustratorの[塗りブラシ]ツールをもっと繊細な表現として利用できるイメージ、と言えば伝わるでしょうか。現状ではデータをPDFとして保存する仕様になっていますが、いずれクラウドファイルとして保存したものをIllustrator(iPad版含め)で開くことができるようになるかもしれません(これは筆者の願望)。

Photoshop iPad版の特徴

1)気持ち良い写真編集がiPadで可能になった

Photoshop iPad版に関しては、「ベーシックな写真編集機能をiPadで気持ちよく行える」アプリと表現するのが、2019年11月時点では丁度いいかもしれません。ローンチ時点で用意されているのは、長方形や投げ縄などの選択系ツール、[スポット修復ブラシ]ツール、ぼかし、調整レイヤーなどがメインです。写真の色調を調整したり、汚れを消したり、ぼかしたり、といった編集が、Pencil(もちろん指でも)で気持ちよく操作できるUIになっています。

2)デスクトップ版とのクラウドファイルのやりとりがスムース

Photoshop iPad版で制作したファイルはクラウド上に保存され、ほぼリアルタイムにデスクトップ版Photoshopのスタート画面に表示されます。シームレスにデバイスをまたいで作業の続きを行うことが、とても自然に感じられます。移動中の電車やカフェで写真編集に手を付けた後、より精緻な作業を家や会社のメインマシンで行う、というようなワークフローが現実的なものになったという印象です。

Illustrator iPad版の特徴

この原稿を執筆している時点では、Illustrator iPad版はベータ版。まだ手元のiPadにインストールして操作することはできませんが、 MAXの会場で触らせてもらったインプレッションをお伝えします。

1)Pencilの操作感を活かしたスムースなパス描画

筆者はデザイナーの傍らIllustratorの講師もしているのですが、初心者に教えていて「最初のつまづきポイント」だと感じるのが、[ペン]ツールの操作です。特にマウスを使ってベジェ曲線のハンドルを操作するのは、概念を把握することも含め、なかなかとっつきにくいようです。

今回、Illustrator iPad版の[鉛筆]ツールをiPad+Pencilで操作してみましたが、描く動作と描かれる線を感覚的に結びつけやすく、初心者ほど気持ちよくパスを描けるのではないかと感じました。また、手の震えを拾わずに適度にスムージングした線が描かれるので、無駄なアンカーポイントが増えないきれいなパスが描かれる点も良くできています。

2)デスクトップ版Illustratorとは違った一新されたUI

Illustrator iPad版独自のUIで気持ちよかったのが、放射状やグリッド状などのリピートを素早く作ることができるというもの。タッチインターフェイスを活かしたRadial Repeat(放射状のリピート)や、XDに影響を受けていそうなリピードグリッドなど、これまでのIllustratorとは違う設計思想でUIが作られているように感じます。

また、これは過去のIllustratorを知っている方向けの余談ですが、数年前に話題になったのが「タッチインターフェイス向けのワークスペース」の存在でした。Micrsoft Surfaceなどのタッチインターフェイスがある機種でIllustratorを使うと、それに適したワークスペースに切り替えることができるのです。[Shaper]ツールを使ってジェスチャで図形を描くことができるのも、特徴のひとつでした。

Illustrator CCのタッチワークスペース

このタッチワークスペースは、あくまでも「これまでのIllustratorから生まれてUIが整理されたもの」にすぎませんでした。今回発表されたIllustrator iPad版のUIは、過去に縛られず、XDなどの他のアプリの影響も受けながら、タブレット端末向けにフレッシュに用意されたもののように感じられ、操作してみて期待が非常に高まりました。

Illustrator iPad版の新しいワークスペース

使い分けのポイント

ここまで3製品の特徴を見てきました。ここからは、どのアプリをどう使うのが良いか、筆者なりの使い分けポイントをシンプルに表現してみたいと思います。

1)温かみのあるタッチで手描きの絵を描くなら、断然Fresco

既に触れたように[ライブブラシ]をはじめとした豊かな表現力を持つFrescoは、真っ白なキャンバスに手作業で絵を描いていくにはうってつけのアプリです。ドットのパターンもたくさん用意されているので、マンガのスクリーントーンのような表現も可能になっており、多種多様なタッチを試すことができます。

2)写真編集ならPhotoshop iPad版一択

ローンチ時のPhotoshop iPad版は、ベーシックな写真編集機能を持って生まれてきました。 スマホのアプリでは操作しきれないような細かな選択範囲をPencilで作り、レイヤーを重ねて写真編集をしていくことができるので、スマホとデスクトップ版とのちょうどよい中間点と言えそうです。また、デスクトップ版Photoshopに既に実装された「Adobe Senseiによる細やかな被写体選択機能」などももうすぐ搭載予定とのこと。業界をリードするベンダーならではの開発力に、期待が持てます。

3)均一で滑らかなパス描画ならIlluatrator iPad版にお任せ

ベータ版を触った印象では、Illustrator iPad版を使って「太さが均一で滑らかなパス」を描くのは非常に気持ちいいものでした。シャープなタッチのイラストを描く方には、とても向いています。いずれクラウドファイルの仕組みを通じてデスクトップ版とデータのやり取りができるようになれば、「イラストやアイコンの作成はIllustrator iPad版でPencilを使ってスムースに」、「精密なレイアウトはIlluatratorデスクトップ版で作り込む」というような使い分けができそうです。

また、太さに抑揚のある有機的なパスを描きたい場合にはFrescoのベクターブラシを使うなど、求めるタッチによりアプリの使い分けをするのも良さそうですね。

個人的な今後への期待

そろそろ記事を締めくくるにあたり、「今後こうなったらいいな」という展望を記しておきたいと思います。

様々な場所/様々な端末からクラウド上のデータにアクセスして作品を仕上げていく世界

個人的な展望ではありますが、いずれ将来的にIllustratorもクラウドファイルに対応するのであれば、Fresco ⇔ Photoshop iPad版 ⇔ Illustrator iPad版のアプリ間で気軽にデータを受け渡し、それぞれのアプリで得意な作業をして作品を仕上げていく世界が実現するのではないかと考えています。

また、この3アプリ間にとどまらず、Adobe XDなどにデータを持ち込んで作業を続けることもできそうです。いずれにしても、クラウド上に母艦となるデータがあり、どこからどんな端末からでもアクセスできるようになればこそ実現できる世界です。

日本社会でも、自由な働き方やテレワークが推奨されはじめていますよね。自宅、学校、会社、カフェや図書館など、様々な場所で少しずつ作業をしたり、アイディアをメモしておいて一気に作り込んだり。モバイルやタブレット端末とデスクトップマシンをまたいだ多様な作品制作の手法が、よりリアルなかたちで実現されつつあるのではないでしょうか。

Photoshop iPad版でレイアウト作業ができると良さそう

もう一点、筆者が個人的に期待しているのが、Photoshop iPad版にシェイプレイヤーやガイド、スマートオブジェクトなどが実装されてくること。

シェイプをジェスチャで描くことができたり、Adobe Stockから直接写真を挿入できたりすれば、最高です。というのは、筆者が大好きなアプリ「Adobe Comp」ではそのような操作ができたため、移動中にさっくりカンプを作るのに適していたからなのです。

ジェスチャー操作で印刷やWebなどのレイアウトを作成できるAdobe Comp

Photoshop iPad版の「もうすぐ実装予定の機能」画面に、これらの機能がしっかりリストアップされています。このあたりが充実してくると、より多くの人を魅了するアプリに育っていくことでしょう。

以上、Photoshop iPad版, Illustrator iPad版, Fresco、それぞれの魅力と使い分け、そして今後の展望について考えてみました。