いよいよリリースされたアドビのAR体験制作ツールAdobe Aero。使い方のコツと次の一歩をMAX会場で聞いてみた

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Adobe MAX 2019

いよいよAdobe Aeroがリリースされました。Adobe Aeroは、拡張現実(AR)体験を作成できる新しいツールです。とにかく手軽にインタラクティブなAR体験をつくれることと、アドビのデザインツールとの相性の良さが特徴で、Adobe Dimensionのような3Dツールのアセットはもちろん、Photoshopのレイヤーも3D空間に配置することができます。この記事では、Adobe MAX 2019の会場で入手したAdobe Aeroの情報をまとめてお伝えします。


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Aeroを使うとPhotoshopのレイヤーを奥行きのある空間に配置できる

ARを使って、没入感のあるストーリーテリング

AR制作と言われてもどんなことに活用すればいいのかイマイチピンとこない方もいらっしゃるのではないでしょうか。発表記事にも書かれているように、アドビのARレジデンシープログラムに参加しているクリエイター達と二人三脚で、彼らがつくりたいものがつくれるように開発を進めたというだけあって、現時点におけるAeroは、AR世界の中に展開されるストーリーを構築するためのツールといった印象です。

現在はiOS版が提供されていて、iPhoneやiPadのカメラが捉えた世界の中にストーリーを構築することになります。デスクトップ版も遠くない将来に公開される予定です。

上の動画は、メディアアーティストのガブリエル バルシア=コロンボのプロジェクト「Descent」です。実際の人をスキャンして作成された電子的存在のアバターが画面の中に登場して、目の前に実在するベッドの上で寝て見る夢を体験することができるAeroで制作された作品です。

たったこれだけ!Adobe AeroでARコンテンツを制作する方法

Aeroを手元のデバイスにダウンロードして使ってみるとわかりますが、ARコンテンツの制作手順は実にシンプルです。制作フローを簡単に説明すると以下のようになります。

  1. 基準となる面を設定する
  2. アセットを読み込んで配置する
  3. アセットの動作を設定する(オプション)
  4. パブリッシュする

手順3でアセットに設定する動作は予め提供されているものから選択します。そのため、インタラクションを追加するために複雑なコードを書いたりする必要はありません。

Adobe Aeroを最初に起動するとチュートリアルが始まり、ARコンテンツの制作を実際に体験することができます。


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基準となる面を設定する

最初の作業はアセットを配置する基準面の設定です。例えば、「このテーブルの上に配置したい」ということをAeroに伝えるために行います。

Aeroを起動して「新規作成」ボタンをタップすると、編集モードになります。基準にしたい面を写しながらカメラを左から右にゆっくり振ると、Aeroが面を検出して白いドットを表示します。ドットの数が十分になると、ピンの刺さった白い円(サーフェスアンカー)が表示されるので、画面をタップすると基準面が設定されます。


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環境によってはうまく検出できないことがあります。MAXのアドビブースの説明員の方によると、つるつるした光沢のある面や、コントラストが低くテクスチャがわかりにくい面などは検出しにくく、はっきりとした線や模様がある面は認識しやすいとのことでした。

正方形のタイルが敷き詰められた場所や、木目のテーブル上では確かに簡単に検出することができました。

ノートパソコンのキーボードなども意外と認識しやすかったです。

アセットを読み込んで配置する

編集モードで青い円形の+ボタンをタップすると、アセットを選択するためのメニューが表示されます。アセットをAeroに取り込んで「タップして配置」を選択すると、シーンにアセットが読み込まれます。

読み込まれたアセットはサーフェスアンカーに合わせて初期配置されるので、指で上下左右に移動して基準面の好きな位置に移動します。3本指の縦スワイプで基準面からの高さを、ピンチ操作で大きさを、2本指を回す操作で回転させることができます。位置や向きは画面下部のパネルでも設定することができます。


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ブースの説明員の方は、「今は、配置したアセットがどれも同じ大きさで表示されてしまうので、大きさを指定して配置できるようにする予定です。1mのものがちゃんと1mで表示されるように」と言っていました。家具の配置の確認など、実用的な使い方に有用な新機能になりそうです。

アセットに動作を設定する(オプション)

Aeroにおける「動作」は、トリガーとアクションの組み合わせです。「タップしたら跳ねる」、「一定時間が経過したら回転する」といった設定ができます。プレビューモードに移行すると、設定した動作を確認できます。人形をたくさん配置して、タイミングをずらして動かすようにすればわちゃわちゃした感じが出てとても楽しいです。

複数のアクションをつなげて、順番に実行させることができます。それから、ひとつの動作に複数のトリガーを指定することもできます。

パブリッシュする

Aeroでは作成したARコンテンツの体験を動画として書き出したり、コンテンツを共有して他のデバイスでAR体験ができるようパブリッシュすることができます。動画の録画は、編集モードとプレビューモードの両方で可能です。動画は、iOSの写真アプリに自動的に保存されます。

共有リンクを作成すると、他のAeroユーザーと体験を共有できますが、Aeroユーザーとしか共有できないのは問題ではないのかと説明員の方に聞いたところ、形式を指定して書き出すと、reality形式またはusdz形式でARコンテンツを保存できて、iOS標準のAR Quick Lookで直接開くことができると教えてくれました。

ちなみに説明員の方によれば、現在iOS版だけなのは、iOSがARの一番安定したプラットフォームだと判断したことが理由で、他のプラットフォームのサポートはもちろん考えているそうです。デスクトップ版を開発しているのもその一環だそうです。

Aeroで利用できるアセット

Aeroでは、スターターアセットとして、予め3Dオブジェクトが用意されています。Adobe Dimensionに付属している3DモデルやAdobe Stockから3Dモデルを購入して使うこともできます。

また、PhotoshopのアセットをAeroに取り込むこともできます。Photoshopから、ファイル/書き出し/Aero に書き出しを選択して、AeroからアクセスできるようCreative Cloudファイルとして保存します。保存の際にレイヤーの維持を選択しておくと、Aeroのシーン内に配置した際、レイヤーが奥行を持った状態で展開されます。

3Dのスキルがあれば、自分でモデリングしたデータをfbx形式などでエクスポートしてAeroで利用することができます。アニメーションされた人体モデルでしたらMIXAMOが利用できます。もうこれは試してみるしかないですね。


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読み込めるファイルの種類を増やすことは、説明員の方いわく「今後のアップデートにおける最重要課題のひとつ」だそうです。

Aeroの活用の舞台

ARでちょいちょいと遊ぶ分には私達は楽しいのでいいのですが、アドビとして何らかの活用方法を考えているのかが気になって聞いてみたところ「どういった活用方法があるかは私達も模索していて、ユーザーに様々な使い方を考えてほしいと思っている。しかし、ARの活用を何かでやりたいというユーザーはたくさんいることはわかっている。例えば、企業のブランディングのために使おうとしているユーザーがいる」ということでした。

企業ブランディングといえば、最近話題になったAppleの製品をARで見られる体験を、Aeroを使って簡単につくり出せるようになったと言えるでしょう。説明員の方が話していたように、サイズをリアルに再現できるようになれば、特にEC分野では歓迎されそうです。

アート分野はどうでしょうか?遠近感を計算に入れた上で床に絵を描くようなトリックアートはARであればよりリアルに世界を作り出せるかもしれません。MAXでは冒頭で紹介した写真のように、Photoshopで描かれた世界の中にまるで潜り込んでいくような体験をAeroで作り出していました。

筆者が職場でAeroを試していたところ、隣にいたデザイナーも一緒になってAeroで制作を楽しみはじめました。同じテーブルの上でそれぞれが知恵を出し合ってAR大喜利をやるというのも、仮想現実ならではの楽しみ方と言えます。

今のバージョンではそれぞれの画面の中で一人で制作をする必要があります。あくまでも妄想の範囲ではありますが、共同でAR制作ができる未来も、そう遠くはないのかもしれません。作品の大きさによっては広い事務所に引っ越さなければなりませんね。

AeroがARコンテンツを身近にすることで、このような活用がより一層広がっていくと嬉しいです。