イラストレーターのための「著作権」入門講座 : 第五話 著作権以外に押さえておきたい権利 #AdobeStock
日本人で初めて「Adobe Creative Residency プログラム」に選出されたイラストレーター、福田愛子さん。さまざまなクライアントと仕事をするなかで、著作権に関する疑問が増えたといいます。
そこでお話を伺ったのが、日本を代表するイラストレーターの団体、東京イラストレーターズ・ソサエティ。なかでも著作権に詳しい会員で構成された「TIS著作権委員会」のみなさまに、福田さんの疑問を投げかけました。
第五話では、著作権を含む「知的財産権」全般について、理解を深めていきます。イラストレーターはもちろん、すべてのクリエイターに読んでいただきたい連載です。
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■著作権も「知的財産権」のひとつです。
F:第三話では肖像権やパブリシティ権についてお話しいただき、著作権以外にもさまざまな権利を理解する必要があることを実感できました。
T:それは良かったです。ちなみに著作権や肖像権、パブリシティ権を含む上位の概念として「知的財産権」があります。すべてがイラストレーターに関係するわけではありませんが、全体像をつかんでおくと、今後の役に立つかもしれません。
F:ぜひ知りたいです。「知的財産」とは何なのでしょうか?
T:知的財産基本法では、知的財産を「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの」「商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」(第2条2項)と定義しています。
簡単に言うと「知的創造によって生み出された財産的な価値を持つ情報」でしょうか。物理的な実体のない財産という意味で「無体財産」と呼ばれることもあります。
■知的財産権とは、10を超える権利の集合体です。
F:知的財産権には、具体的にどのような権利があるのでしょう?
T:知的財産権は、大きく2つに分けられます。まずは創作意欲を促進するために定められた「知的創造物についての権利」。著作権もここに含まれます。もうひとつは使用者の信用を守るために定められた「営業上の標識についての権利」です。それぞれにどういった権利が紐づいているのか、まとめました。
F:こんなにたくさんの権利があるのですね! ちなみに肖像権とパブリシティ権が、その他の権利となっているのはなぜですか?
T:パブリシティ権は知的財産権の一種であることが判例で認められています。肖像権も一般的に知的財産権の一種だとされています。ただし、いずれの権利も法律として明文化されていないため、ここでは「その他の権利」にカテゴライズしました。
■著作権だけでは、「偶然の一致」を退けられない。
F:このなかで、イラストレーターが押さえておくべき権利はありますか?
T:「意匠権」と「商標権」です。意匠権とは、物品の特徴的なデザインを独占的に所有する権利のことです。「物品」とは「工業上の利用(大量生産)ができるもの」と定義されていて、絵画などの美術品は含まれません。
F:そう聞くと、イラストには関係ないように思えるのですが……。
T:その通りで、イラスト単体では意匠にはあたりません。けれども、そのイラストをTシャツにプリントした場合はどうでしょうか。大量生産できる物品の特徴的なデザインとなるため、意匠の一種であると考えられます。
F:著作権でイラスト自体が保護されているのに、意匠権でも保護する必要はあるのでしょうか?
T:著作権だけでは、類似品や模造品を防ぎ切れないケースがあるからです。著作権は無断での「複製」や「翻案」を禁じていますが、それが「偶然の一致」である場合は、著作権の侵害にあたりません。先ほどのケースで言えば、自分が手がけたものとそっくりなTシャツが販売されていても、相手から「偶然の一致です」と主張されたら、著作権の観点では使用を制限できないのです。
そこで有効なのが意匠登録です。一度登録してしまえば、「偶然の一致」であるか否かに関わらず、意匠権の侵害として類似品の使用を差し止められます。
■意匠権も商標権も、「登録」なしには発生しません
F:もうひとつの商標権とはどういった権利ですか?
T:「商標」とは、自分と他人のサービスや商品を区別するための標識のことです。具体的にはロゴマークやキャラクターなどが商標にあたります。
F:キャラクターが商標というのは意外でした。なぜこれらを商標権で保護する必要があるのですか?
T:意匠権の場合と考え方は同じです。ロゴやキャラクターも、著作権だけでは「偶然の一致」を退けられませんが、商標登録によってより確実に保護できるからです。
F:そうなのですね。ちなみに意匠権にしても商標権にしても「登録」が必要なのですよね?
T:その通りで、そこが著作権との大きな違いです。著作権法では、作品の完成とともに権利が発生する「無方式主義」を採用していますが、意匠権法と商標権法では「登録」しなければ権利が発生しない「方式主義」を採用しています。いずれも特許庁への登録出願が必要となるので、具体的な手続きは専門家に個別に相談するべきでしょう。
F:著作権をはじめ、意匠権、商標権などをしっかりと理解しておけば、自分の作品をより安全に保護できますね。お話を聞いたことで、今までよりも安心して制作に取り組めそうです。どうもありがとうございました!
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<プロフィール>
- 福田愛子
ブリッジウォーター州立大学芸術学部グラフィックデザイン学科卒業。2014年よりイラストレーターとしての活動を本格化。現在は東京を拠点に国内外で活動する。1本のペンから描かれる味わいのあるタッチを軸としつつ、アナログとデジタルを融合させた作品を制作。主な仕事は、雑誌BRUTUS「男の色気」イラスト連載、資生堂マジョリカマジョルカ「MAJOLIPIA」など。2019年には、日本人で初めて「Adobe Creative Residency プログラム」に選出された。
- TIS著作権委員会
一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティにおいて結成された、著作権について弁護士の協力のもと学び研究する委員会。2018年、著作権をはじめとしたイラストレーターのさまざまな悩みに応える『Q&Aでわかる! イラストレーターのビジネス知識』を玄光社より発刊した。