AIと機械学習への取り組みを始めた米国のデザインスクールの事例 | アドビUX道場 #UXDojo

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

AIによる自動化がデザイナーを不要にするのではないかという懸念は、広く否定されるようになりました。もちろん、AIはまだ発展途上です。ですが、それは、21世紀のスキルセットをデザイナーに提供することになりそうです。そしてデザイナーは、機械学習やAIの力を現在のワークフローに統合できるようになるでしょう。

しかし、データ駆動のデザインプロセスの可能性と限界を真に探求しようとするなら、こうした新しいテクノロジーを理解するだけでなく、進化の過程にデザイナー自身が積極的に関与することが重要です。では、次世代のデザイナーを育成するデザインスクールはどのような準備をしているのでしょうか?教育機関は業界の変化への適応に遅れる傾向があるものですが、AIのカリキュラムに対する取り組みに関してはどうなのでしょう?

機械学習と人工知能について学ぶ学生を描いたグラフィック。

GoogleのTeachable Machineのような実験的プロジェクトがオンラインで無料で利用できるようになったことで、デザイナーはエンジニアリングの知識が無くてもニューラルネットワークに学習させることができます。とはいえ、学校でAIに実際に取り組む経験を積んだ人は、AIのクリエイティブにおける可能性や、文化と社会に対する倫理的な意味合いを、より深く理解できることでしょう。

カーネギーメロン大学の美術の教授でFrank-Ratchye STUDIO for Creative Inquiryのディレクターを務めるゴラン・レビンは、CMUの美術大学は、機械学習をカリキュラムに統合し、美術とデザインの学生には必要スキルとしてにコーディングを求めるようになったと述べています。同大学は、コンピュータサイエンスと美術のハイブリッドな学位プログラムを提供しています。学生は、美術と機械学習の両方を専攻して、芸術的な目的の追求にどのようにこれらの技術を利用できるかを探求することができます。

GoogleのTeachable Machineは、以前入手したオレンジの写真を基準にしてキウイの写真を判定します。

GoogleのTeachable Machineは、多くの事例からモデルを学習すると、新しいデータを評価することができる。ここでは以前に学んだオレンジの写真に基づいてキウイの写真を評価している イラスト: モリー・ヤング

レビンは過去20年間オープンソースコミュニティに深く関わって、Open Frameworks、Processing、p5.jsなどのプログラミングツールキットの創立者達と共に働いてきました。彼の学内の研究室では、いくつかのオープンソースのアートやエンジニアリングの取り組みや、アートのためのソフトウェア開発ツールキットに関する支援も行っています。「私たちは、アーティストやデザイナーやその他のクリエイティブな人々が、AIシステムが何をすることができるのか、あるいはどんなリスクが伴うのかを理解するための場所を持つことが大事だと感じています。そうやって可能な限り早期にテクノロジーの利用を開始して、自身が提供できる可能性を表現したり、未来を予測する意欲を持つことが重要なのです」

CMUの美術学部の学際的な性質は、美術とデザインの学生が、コンピュータサイエンスと機械学習の学部、ならびにロボット工学とHCIの研究所の調査やリソースに関われることを意味します。しかし、芸術専門の学校にとって、プログラミングや機械学習のコースを美術やデザインのカリキュラムに統合することは、CMUのような総合大学の場合ほど簡単ではありません。

ロードアイランドデザイン学校(RISD)の助教授であるアナスタシア・ライナは、アーティストやデザイナーのために機械学習のカリキュラムを実施することには、独特の課題が伴うことを発見しました。

「機械学習をアートに応用しようとする試みは、とても時間がかかる作業プロセスを伴うものでした。そのため、取り組みは非常に限定的なものになりました」と彼女は説明します。「アドビのツールでデザインすれば、画面ですぐにその結果を見ることができます。しかし、機械学習の場合は作業に数週間かかりますし、しばしば継続的なトラブルシューティングが必要になります。そして、結局のところ、その結果はクリエイターの期待には沿わないかもしれません」

DeepCloudは、データ駆動型の点群デザイン生成ツールで、学習内容に基づいて椅子の表現を生成します。

DeepCloudは、データ駆動型の点群デザイン生成ツールで、学習内容に基づいて「ディープクラウド」(2018)。アーキテクチャ博士課程の学生であるArdavan Bidgoliは、データ駆動型の点群デザイン生成ツールであるDeepCloudを開発した。このプロジェクトは、機械学習を利用して人間のデザイナーを支援する。NeurIPS 2018で発表された。

機械学習はコンピューター資源を大量に消費します。そして、1千から1万の画像で構成される一連のデータからモデルを学習する能力を持つカスタマイズされたハードウェアに頼ることになります。ハードウェアは短期間で陳腐化するため、頻繁なGPUのアップグレードと、Pythonの知識を必要とする環境設定を行わなければなりません。「それが、クラウドベースのAI/MLソリューションを提供する企業との教育パートナーシップを検討している理由です。生徒がPythonに関わる時間を最小限にした状態で、機械学習を体験できるようにしたいのです。そうすれば、より多くの生徒たちが、芸術とデザインにおける機械学習の新しい使い方の発明に取り組むことができるでしょう。より重要なのは、技術と実際に関わることによって、その技術がデザインに与える影響について批評的に考察する機会を得られることです」

これまでRISDは、近隣のブラウン大学のSerre labと協力して、機械学習に関するワークショップを開催してきました。プロジェクトには、600以上のフォントをブレンドして新しい書体を作成するためのニューラルネットワークのトレーニング、実験的な出版形式としてのテキストの共同執筆、ImageNetデータベースに内在するジェンダーバイアスの発見などが含まれます。ライナは、インスピレーション、クリエイティビティの強化、デザインの生成、そして知覚を異化する源として、デザイナーと機械の協業としての機械学習を促進し続けたいと考えています。

GoogleのArtML Project3でBirdGANのためにつくられた夢と悪夢のような鳥の姿。

BirdGAN: 我々が鳥と呼ぶ生き物の夢と悪夢のような姿 Oscar Dadfar、Hai Pham、Yang Yang

キャンパス内にAIデザイン研究専用の場所を持つというライナの夢はまだ実現していませんが、デザインスクールによっては、カリキュラムに機械学習を取り入れ始めている所もあります。パーソンズデザインスクールのデータ可視化の助教授であるアーロン・ヒルは、アート・メディア・テクノロジー学部でデータ可視化の修士課程のディレクターを務めています。「私は非常に定量的で分析的な分野で働いてきました。私の職業は統計学者です。ですから、アートとデザインの学校に雇用された教授としては変わり者です」と彼は言います。

しかし、ヒルの仕事は、しばしばアートと科学の接する点に位置しています。それ考えれば、データ可視化の分野で大学院のカリキュラムの確立を支援するには良い立場でしょう。ヒルは次のように話しています。「カリキュラムに着手したとき、私たちはデータ可視化の講義だけでなく、パーソンズ大学の大学院生全員を対象とする選択科目について考え始めました。機械学習が私たちが提供するべき最初の選択科目であることは明らかでした。私たちにとって、情報を取り込み、情報をフィルタリングし、世界と関わる方法に関わるために、機械学習は欠かせないツールになっていたからです」

ヒルのクラスの学生の90%はデザイナーで、データサイエンティストではありません。そのため、事前のプログラミング知識は緩く強制された前提条件となっています。「このコースでは主にPythonを使用します。Pythonは、初めて使用する場合でも習得が容易な言語です。JavascriptやProcessingしか経験していない多くの生徒が、Pythonをごく短期間で習得してきました」とヒルは説明します。

1つのコースを受講したからといって、デザイナーが機械学習のエンジニアになることはおそらくないでしょう。しかし、データを扱うことに慣れ、アルゴリズムの決定や改善の方法を学び、パフォーマンスの問題があるかを評価できる程度に結果を理解できるようになるための機会にはなります。「そのプロセスのすべてのステップを実際に体験してもらうことで、デザイナーはテクノロジーを念頭に置いたデザインをするのにより適した状態になると思います。何が世界にとって良いことであり、何が世界にとっても危険なことであるかを認識する助けにもなるでしょう」

Teenie Harris Archiveでは、顔の分析とラベル付けに機械学習を使用しています。

Teenie Harris Archive Investigation (2016~現在) このプロジェクトでは、機械学習を利用して、カーネギー美術館が管理する20世紀のアフリカ系アメリカ人の生活を集めた膨大なコレクションであるTeenie Harris Archiveを分析しラベル付けを行った

機械が学習することになるデータは決して中立ではないと理解することで、デザイナーは、AIシステムに人種やジェンダーによるバイアスが現れ続けている様をより意識するようになります。ヒルは、学期中に3つの主なプロジェクトそれぞれにバイアスを導入して、良いデータのつくり方やバイアスを減らす方法について、学生に批評的に考える機会を与えています。「多くの困難な問題が提起されています。私たちはそれらに取り組むことをためらいません」

ヒルにとって、機械学習を教える上での最大の課題は、すべての作業を1学期内に収めることです。彼は、期間を1年に拡張するか、最終的には、デザイナーやデータ視覚化の学生のための非公式な大学院の副専攻として、効果的に役立つような機械学習のコースを作りたいと考えています。彼は、機械学習のしっかりとした基礎知識を持ち、その潜在的なリスクを理解できるデザイナーが増えるほど、デザイン産業はより良くなると信じています。

機械学習がどのようにデザインの本質を変えるのかという懸念に対しては、ヒルは次のように答えています。「その質問は意味のあるものだと思います。基礎となるテクノロジーや手法にしっかりと手を染めた人であれば、その質問への答えと共に生きる側ではなく、その質問に答える側にいる準備ができていることでしょう」

この記事は、AIGAのEye on Designと共同で執筆されました。

この記事はHow Design Schools Are Keeping Up With AI and Machine Learning(著者:Margaret Andersen)の抄訳です