児玉裕一監督インタビュー Premiere Proを使った4Kオフライン編集術 「JOIN THE PAC」&「Bells of New Life」#PremierePro

日本の映像界のトップランナーを走る児玉裕一監督。アイデア力、演出力はもちろんのこと、児玉クオリティを作り出す秘密は、自ら行う”オフライン編集”にあった。思わず踊りだしたくなるパックマンの40周年記念映像「JOIN THE PAC」と、学校で謎の現象が勃発するケン・イシイのMV「Bells of New Life」を事例に児玉流の、Premiere Proを駆使したコンテ作りから4Kで行うオフライン編集術についてお話を伺った。

児玉裕一 映像監督。1975年生まれ。東北大学理学部化学系卒業。広告代理店勤務を経て独立。2006年より「CAVIAR」に所属。2013年9月「vivision」 設立。CM、MVなどの演出を手掛ける。近作にHONDA「HONDA JET」asics「ぜんぶ、カラダなんだ。」SoftBank「しばられるな」椎名林檎MV「鶏と蛇と豚」など。 スポーツ大会のリオ閉会式の五輪旗の引き継ぎ式における東京パートのチーフ映像ディレクターを務めた。

ーーパックマンの40周年記念映像「JOIN THE PAC」とケン・イシイのMV「Bells of New Life」の制作についてこだわりのポイントを教えてください。

80年にパックマンが誕生したのですが、ヒップホップが花開いたのが80年代で、もし、パックマンゆかりのミュージシャンがいたらクラブはいったいどんな感じになっていたんだろう?というのを妄想していて。パックマンの「WAKAWAKA」サウンドを、ビートボックスやスクラッチで出したりしてるグループがいたら面白なって。パックマンのキャラクター、ブリンキーやピンキーにちなんで5人組のチームを編成しました。パックマンファンが何度も見ても楽しめる小ネタを仕込んでます。クラブの中に、80年代の多種多様なカルチャーが混在して、40年にも渡って色んな世代が触れたカルチャーも凝縮されて混沌としている空間を、今の高画質で表現すると面白くなるんじゃないかと。

この映像は、撮影は23Pで行なっているが編集/完成は24Pで行うことで、ダンスのキレよくみせている。

‘JOIN THE PAC’ (Official Theme Song for PAC-MAN 40th Anniversary)
Written and produced by Ken Ishii for 70 Drums
7″ Version and Club Mix included on the album ‘Möbius Strip’ [U/M/A/A]
Contains the original game sounds from PAC-MAN (1980)
℗&© U/M/A/A Inc.

PAC-MAN™&©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

Premiere Proで一気通貫する 絵コンテ〜ビデオコンテ〜現場オフライン

‘Bells of New Life’ (Video Edit)
Written and produced by Ken Ishii for 70 Drums
dir: Yuichi Kodama
Original version is included on the album ‘Möbius Strip’ [U/M/A/A]
℗&© 2019 U/M/A/A Inc.

ケン・イシイさんのMV「Bells of New Life」に関しては、これもまた時代性がテーマになっています。イメージした舞台は90年代前後の、ケン・イシイさんの「EXTRA」(95年/ dir: 森本晃司)がリリースされた時代。「EXTRA」のMVも子どもたちの話。大人にはわからない何かを子どもたちがやっているところを覗き見するような感覚にドキドキしました。いまの時代はなんでもインターネットですぐにわかっちゃうから、ドキドキが減っちゃいましたよね。でもそれは大人の感覚で、子供たちは日々新しいことに触れてドキドキしてるはずなんです。新しい知識を信じて実践してどんどん新しい世界を切り開いてるはずなのです。今の子供たちには、今の世界があって、そこに僕たち大人が入れないこともあるよな。そんな気持ちで作りました。

ーー児玉さんは、自分で手を動かすことが非常に多い印象です。作業ではどんなマシンをつかっていますか?

だいたいMacBook Proでやっています。撮影のための資料作りから、オフライン編集、After Effectsでの作業など。今やタクシーに乗っていても、トラックパッドでマスクが切れるようになりました(笑)。

実は、コンテを書く時からPremiere Proを使用しています。まず曲を聴き込んで、音をカットして、それぞれのクリップをレイヤーに分けて配置することで、音を図解化して理解しています。僕の場合はコンテの段階で全て内容を決め込んで、その通りに撮影、編集をしていきます。コンテはこういう風になります。このコンテをヨコにすると・・・

Premiere Proのタイムラインのシーケンスレイヤーになります(笑)。下部にあるバーが楽曲をカットしたものなので、尺が正確です。こうすることで、自分のなかのIN点がどんどん出来上がることで、自分の意図を視覚化しています。最初は絵が一つもない、このバーだけから始まります。それを見つめて絵コンテを考えます。

「JOIN THE PAC」では、イントロ、Coffee Breakersの80年代のシーン、シャッフルダンスのシーン、そしてミズ・パックマンのシーン、最後のブロックで全員が混ざるという、シンプルな構成案を考えました。それをどうやって撮影するかを考えていく時にも、Premiere Proで音を視覚化したコンテが役にたっています。

MVやCMって予算が限られているので、少しでも無駄のない撮影をしようというのが僕の信条。それによって演者の体力も温存できるし、衣装や美術に予算を回したり出来るので、結果作品のクオリティーにに返ってくる。「時間=お金」なので。時間軸を可視化するというのが大事なんです。

色のついたバーは、楽曲をカットして作っているため尺が正確。

ーー現場オフラインをする利点についても詳しく教えて下さい。

30秒のCMだとしたら、Premiere Proで、時間軸を可視化したコンテを作った後、ビデオコンテをだいたい作っていきます。このビデオコンテには、このカットは何秒欲しいということが正確に反映されています。それに、撮影した実写の絵をPremiere Pro上でどんどん差し替えていきます。MVもCMも完パケの尺が決まっているので、どんなにいい絵が撮れても、尺に収まらないと使えない。現場オフラインでそれをチェックすることでミスが防げる。あとでこうしておけばよかったっていうのがなくなるんですね。

ある意味、撮影前にはすでにオフラインがほぼ完了している状態が出来上がっていますね。「Bells of New Life」でみてみると、ビデオコンテと完パケがかなりの精度で同じなのがわかると思います。

左がビデオコンテ、右が完パケの映像。カットのタイミングなどほぼシンクロしている。

Premiere Proで編集する4K ProRes プロキシ

ーー「JOIN THE PAC」では撮影は4KプロキシをPremiere Proで編集しているそうですね。実際どうでしたか?

REDのWeaponを使って5Kで撮影をしました。収録時にRAWと一緒に4KのProRes プロキシを収録し編集に使いました。

やったことある人はわかると思いますが、びっくりするくらいHD編集と変わらないですよ。逆に言うと、普段はMac Book Proを使っているのですが、4Kでもマシンをアップグレードする必要もなく、作業スピードも重いとか、遅いって感じることもないんです。高画質で編集できるっていうのはすごくいい。「Bells of New Life」は 、スタビライザーを多用したり、普段も拡大&トリミングして使う機会が多いんです。HD素材でのオフラインだと、どこまで拡大できるかを想像するしかなかったのですが、実際に4Kでオフライン編集ができることで実際にシミュレーションしながらデスクトップ上で確認ができるのはすごく良かったです。さらにAfter Effectsまで自分でやって完パケするケースだったら、更に便利だと思います。

ーー無駄のない撮影ということは、撮影素材は最小限に抑えているのでしょうか。だから4K素材でも問題なかったのでしょうか。

撮影素材は結構な量です。「JOIN THE PAC」で言うと、1アングルが3,4分の長さだとして引き、寄り、アップなどなどいくつもテイクを重ねてます。撮影素材を最終的にPremiere Proに取り込んでタイムライン上に縦に積んでみたところ、11レイヤーに積みあがりましたが、作業の体感はHD編集と何も変わりません。ProResなのがよいのかもしれません。レイヤーのON-OFFもプロジェクトを走らせながら、しっかりとついてくる。

ーーPremiere ProはProResに最適化していますからね。

Premiere Proでのオフライン編集画面

After Effectsを使用した、エンドロールのこだわり。

ーー「JOIN THE PAC」のエンドロールもご自身で作成されているそうですね。

僕のお手製です。僕はAfter Effectsで作ってエンドロールを作るのが趣味なんです。After Effectsを愛しています。3.1ver.からヘビーユーザーです。いかに作品の後味をエンドロールに込めるかに凝っています。エンドロール職人としてのこだわりは、昔のフェードイン・アウトの再現具合。「ストレンジャー・シングス」でもやっていますが、80年代の映像でテキストがフェードアウトする時、シルエットが赤黒く画面ににじむと言うか、焼き付いたような後が残ってから、最後黒になってバチって落ちるのです。まあ自己満足ですけど。画質を劣化させる手法のみに頼らず、映像に時代感を出す方法を模索中です。

ーー最後に、4Kでのオフライン編集の可能性をお聞かせください。

Premiere Proでの4K編集がここまでHD環境と変わらずにできることで、今後ももっと映像制作の幅が広がると感じました。スタジオワークではなく、デスクトップからだからこそ生まれる映像というものが確実にあると思います。これからも色々な手法に挑戦したいと思います。

動画インタビューはこちら

このブログはNEWREELの記事児玉裕一監督最新作から紐解くPremiere Proを使った4Kオフライン編集術「JOIN THE PAC」&「Bells of New Life」をベースに加筆修正いたしました。