ロボットがデザインするとき | コンピューター利用とクリエイティビティの複雑な関係

連載

Design is Power

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1961年、コンピューター科学の先駆者Alan Perlis氏は、コンピュータープログラミングを教養教育で必修とすべきであると提唱しました。彼は、クリエイティブ専攻の学生はプログラミングを学ぶべきであると信じていました。プログラマーになるためではありません。テレビゲームの想像の世界を構築するにせよ、ブランドロゴをデザインするにせよ、感動的なストーリーを生み出すにせよ、プロセスを組み立てて分析する方法を詳しく学ぶことができるようにです。

現代まで話を進めると、コンピューター利用とクリエイティビティは今やデザインのプロセスで切り離すことはできなくなっています。Perlis氏のアドバイスは賢明なだけではなく予言的です。コンピューターによるデザインでは、テクノロジーを使用し、複数のオーディエンスに対して複数のチャネルにわたり複数のエクスペリエンスをデザインします。これは、デジタル時代において製品やサービスを提供するために欠かせないものとなっています。ただし、主要業務がデザインの組織では、論理的なプロセスとクリエイティブなプロセスを混ぜ合わせることにまだ抵抗感があります。テクノロジーがクリエイティビティを高めるのではなく抑圧する可能性があると恐れているのです。

ものの見方を変えるときがきています。人工知能(AI)や機械学習テクノロジーを使用すると、コンピューターによってデザインの方法が劇的に変化します。反復タスクの自動化から始まりましたが、数千もの選択肢が即座に生成されるまでになっています。さらに、その値打ちは、デザインを速く作成できるというだけではなく、人間主体の優れたデザインを作成できる点にあります。

革新的な企業は、高度にパーソナライズされたコンテンツを使ってリアルタイムでお客様にアピールするために、既にコンピューターによるデザインを採用しています。Adobe State of Creativity 2017の調査では、クリエイターの69%がこの先5年間でAIの使用が増加すると予測しました。また、多くの人がコンピューターによるデザインを使用して、プロセスを自動化しています(テンプレートの生成や写真のレタッチからファイルの命名など)。

デザインが主要業務である組織への問いかけは、コンピューターによるデザインの方針を採用するかどうかではありません。どのように採用するかです。また、コンピューターによるデザインはクリエイティビティやデザイン思考の本質を高めるものであり、妨げるものではないという考えをチームに持たせる必要があります。これも同じくらい重要です。

デザインの筋肉増強剤

真実は、プログラミングは道具をはるかに超えているということです。それはクリエイティブなプロセスであり、終わりのない可能性を試す方法です。実際のところ、デザインの原理とコンピューティングの原理には一般的に認識されているより共通部分があります。どちらの原理でも重要視されるのは、情報の伝達や様々なアングルからのアプローチによる問題の解決と、創造性や効率性、さらにはイノベーションによって制約を克服することです。

コンピューターによるデザインでは、デザインプロセスの効率が向上することで、何が可能かという境界が消えてクリエイティブなチャンスが大きく広がります。適切なテクノロジーを適所で利用して、デザイナーが柔軟性の高いテンプレートを作成し、クリエイティブアセットを簡単に検索して再利用でき、機械学習をプロセスの自動化に適用できるようになれば、小さなクリエイティブチームでもあらゆるチャネル(ソーシャル、web、広告、その他)に対応するデザインのバリエーションをすばやく作り出すことができます。これはコンピューターの助けがなければ絶対に実現できません。

デザイナーはコンピューターと自動化の支援により、人間にさらに寄り添ったデザインを作ることもできます。以前は、デザインのパーソナライズには時間がかり、コストが高くなりました。しかし、コンピューティングの力を借りると、クリエイティブチームは、リアルタイムで動的に変化するクリエイティブなコンテンツを作って配信できます。こうしたコンテンツによって、同じwebページ、広告またはランディングページを見ている多数のユーザーの気持ちをつかむことができます。これは筋肉増強剤を利用したデザインといえます。1つを2つや3つのエクスペリエンスに向けるのではなく、1つを数百万のエクスペリエンスに向けるデザインです。

クリエイティビティとの折り合い

Adobe State of Creativity 2017の調査では、クリエイターの60%が以前よりもコンテンツの作成に費やす時間が増えたと回答しています。その他の38%は、3~5年前に比べてデザインでの反復作業や承認を得るのに時間がかかるようになったと回答しました。

コンピューターによるデザインでは、自動化によってこのような負担が軽減されます。デザイナーが抱える仕事からクリエイティブではない反復作業を取り除くことで、コンピューターによるデザインは実際には優れたクリエイティビティへのドアを開きます。クリエイティブチームは時間にゆとりができ、想像をふくらませることができます。

コンピューターによるデザインの原理は、正しく適用すれば、イノベーションの種をまくことにもつながります。コンピューターは大量の情報の中から、可能性があるすべてのデザインソリューションを見つけることができます。これは人間はどうやってもできません(少なくとも短時間では)。コンピューターを利用すると、デザイン思考の概念化と実験のプロセスを強化できます。

例えば、チームが新しい製品パッケージをデザインしているとき、コンピューターによるデザインを利用すると、数十どころか数百ものデザインの選択肢を短時間で繰り返し作成することができます。選択肢のバリエーションが増えることは、チームの想像力を新たな方法で解き放つだけではなく、新しいクリエイティビティへと続く扉が開きます。

数十の選択肢を手動でデザインしようとすれば、作成やテストに何日も、あるいは何週間もかかる可能性がありますが、この作業にコンピューターの機能を利用すれば、数秒ないし数分しかかかりません。さらに、コンピューターを使用すると、チームは背景のカラースキームを自動的に変更したり、画像を様々なアートのスタイル(モザイク、印象派、写実主義など)に一瞬で変えたりすることも可能になります。また、チームはこうした様々なデザインをテストし、リアルタイムでフィードバックを得て、ユーザーが何を好むのかをいち早く学ぶこともできます。

コンピューターを利用して競争

1回限りの作品をデザインする時代は終わりました。しかし、デザインチームの背後にコンピューターの能力があれば、1対多のデジタルワールドの要求に応える驚くべきチャンスを手にします。チームが適切なツールまたはシステムと連携することで、同時に100個のバリエーションをすぐに作成できるテンプレート、または様々な画面やソーシャルプラットフォームに合わせて画像を自動切り抜きするテンプレートを構築できます。このような種類の自動化では、タスクを自動化する機械学習サービスとともに、すべてのアセットやフォント、インスタントストック画像にアクセスする必要がありますが、テクノロジーはこれを実現するために存在しているのです。

実際、革新的な企業は、このように連携したシステムを既に構築して適用しています。また、そうすることで、お客様にとって高度にパーソナライズされ関連性が高まった製品とサービスを提供でき、競合企業を引き離しています。

結局のところ、コンピューターによるデザインを導入しても、デザイナーがコンピューターマニアになることはありません。コンピューターによるデザインと古典的なデザインの両方の知識を引き出して、デジタル時代のクリエイティブな課題に対処できる優秀なデザイナーが生み出されます。このために、クリエイティブリーダーとしては、従来のトレーニングを受けたグラフィックアーティスト、建築士または工業デザイナーよりも、コンピューターによるデザインを理解したグラフィックアーティスト、建築士または工業デザイナーに目を向ける必要があります。

デザインの将来がテクノロジーと切り離せないことは必然です。コンピューターの原理をデザイン思考と結び付けると、人間の本能とコンピューターの思考を組み合わせて高い機敏性とイノベーションを求めるように、チームに力を与えることができます。ユーザーへの共感がデザインプロセスの中心であることに変わりありません。しかし、コンピューターによるデザインは、デザイン駆動のエクスペリエンスを実現して提供する方法について考える新たな道を切り開きます。その道へと将来のデザインは向かいます。あなたもその方向に進む必要があります。