デザイナーと開発者の理想的な協業に必要なもの? | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

2017年から2018年の間に、Googleは24本のショートビデオを制作しました。デジタルデザイナーのムスタファ・クルトゥルドゥが何人ものデザイナーや開発者を相手に『クリエイティブなコーダーになる』から『UXリサーチとユーザビリティテスト』まで、彼らの職業に独特な種々の行動についてインタビューするシリーズです。そのシリーズのタイトルは、『デザイナー対デベロッパー』と皮肉交じりなものではありましたが、各々の分野が生み出す多様なアウトプットへの理解を深め、2つの分野のより協力的な働き方を促すことが意図されたシリーズでした。そこでは理想的なチームワークの姿が明らかにされていました。

そのショートビデオの中の世界では、複数の職種が集まったチーム編成やデザインスプリントの実践が当たり前のように見えましたが、ビデオの下にあるコメント欄では、オンラインではよくあることですが、業界の最前線で働くデザイナーや開発者の抱える不満のレベルを表すように、少し違ったストーリーが語られています。彼らは、動画に登場した人々のような円滑な協業の体験を持ってはいないようです。コメントのひとつは、「デザイナーにちゃんと話を聞いてもらうにはどうしたらよいのだろうか。実際に協力しあっているチームを見るのは新鮮だった」というものでした。「そのような状況にいたことはこれまで殆どなくて、何か他の仕事に就きたいと思うほどイライラしている」とはなんとも残念なことです。

上のエピソードでは、ムスタファ・クルトゥルドゥが、デザイナーと開発者がより簡単にコラボレーションするにはどうしたらよいかを探っています。

本当に「私たち」と「彼ら」なのか

多くの面で、領域を越えたコラボレーションで起きる問題は、デザイナーや開発者が本当はどんな人たちで、日々何をしているのかを誤解していることに関係しています。フリーランスのデジタルデザイナーであるマイルズ・パーマーは次のように言いました。「デザイナーはクリエイティブな人であり、抽象的で自由な働き方をすると一般的に認識されているように思います。古典美術専攻の学生のステレオタイプの一種ですね。開発者に対する認識は真逆です。こちらはマニアでオタクで、特定の方法に執着するとても堅い人たちだと見られています。多くの人がこのような誤った区別を受け入れて、両者が一緒に働くのは、正反対の性質を持つ者同士を一か所にまとめるようなものだと考えています。しかし、それは実にばかげたことです」

私にデザインについて多くを教えてくれた人のひとりは開発者でした。つまり、「私たち」と「彼ら」の区別は全く有効ではありません。誰もがお互いにオープンであるべきです。

マイルス・パーマー

デザイナーと開発者は、コインの表裏のような関係にあると認識されるべき存在です。デザイナーはプログラミング言語の基本的な知識を持つべきであり、開発者はタイポグラフィやレイアウトを多少は理解するべきです。そして、デザイナーがコードを書くべきだという議論はすでに過去のものになりました。(もちろん、少しはコードの書き方を知っている必要があります。雑誌のデザイナーが本を読めることが重要かどうか、誰か真剣に考えた人はいるでしょうか)

スキルを共有しあい、お互いの分野に理解を持つことは、円滑な作業を確実に行うための鍵です。ある人にとってそれは、コーヒータイムにチームが取り組んでいる作業を共有するカジュアルな時間かもしれません。別の人にとっては、設定されたミーティングの場に集まって、同僚たちがお互いを教育する目的で、銘々の立場に固有の側面や業界の課題を語るミニトークかもしれません。

共同作業を推進する

このようにデザイナーと開発者の間の共感を促すことは重要ですが、それと同じくらい重要なのは、多様なスキルの組み合わせをチーム内で機能させるための配慮です。互いが相手に対する適切な広さと深さの理解を持てば、チームメンバーとして共同作業を行う過程をポジティブに感じるだけではなくて、プロジェクトや製品の完成度にも大きな影響を与えられる可能性が生まれます。

ある点で、これは単純に賢い人員の選択に行きつきます。コラボレーションを重視する企業は多いものの、日々の仕事のレベルでそれが何を意味するのか理解している企業はそれほどありません。コラボレーションの文化を真に育むには、雇用からそれを念頭に行う必要があります。つまり、さまざまなスキルやテーマの専門家を集め、そして、独自の作業のための時間に加えて、互いに直接関わる機会をつくるのです。製品デザインにエンジニアが参加する、エンジニアリング作業にユーザーリサーチャーを巻き込む、開発にデザイナーが関わるといったように。

ロンドン最大のブランディングエージェンシーの1社であるWolff Olinsでは、業務範囲がより多様化しているため、顧客のニーズに応じてプロジェクトごとにチームが編成されています。「現在、フルタイムの開発者は社内にいません」とシニアデザイナーのステファン・カミンズは話しています。「過去にいたことはありましたし、将来またいることになるかもしれません。ただ、それは常に、私たちの仕事に適応する適切な人を見つけるために判断されることです。私たちが現場で抱えている課題は、いろんな異なる能力を持つ開発者を要求しています。Web開発、クリエイティブテクノロジー、プロトタイピング、インタラクションデザインなど、それぞれの仕事に適した人材を見つける必要があるのです」

完全に統合されたプロセス

この発言が意味しているのは、カミンズのチームが、プロジェクトの様々な段階で各分野の最高の開発者の何人かと一緒に仕事ができることと、開発者が土壇場まで仕事に参加できない場合があるということです。彼は次のように言っています。「細部が明確になり最終的に実行に移るとき、それが通常は専門の開発者を招き入れるタイミングです。その時点までには何をすべきかが正確にわかっています。明確な説明を用意し、確実に適切な人々を採用します」

一方、パーマーの考えは、開発者が最初から最後までプロジェクトチームの一員であることは、誰にとっても利益になるというものです。「デジタルデザインを印刷と同じように扱う人々が本当に多くいます。デザイナーが何かをデザインし、それを開発者に渡すと彼らが送り返してくる。そんな働き方であるべきではありません。デジタルデザインとは、生きて呼吸をしていて時間とともに進化していくものです。デバイスやテクノロジー、人々の習慣だって変わります。であれば、デザインだってそれと共に変化して、成長しなければなりません。デザインは生命体とも言えるものなのです」

「プロジェクト開始の時から全員が一緒に作業するのが理想的です。一部の機能を選んで皆で開発し、それを公開して人々に利用してもらい、フィードバックを得たら、さらに1週間かけて改善する。これは、より反復的でより楽しい働き方です。その代替となる働き方は、技術的な面からの考慮なしにデザインされたものが、構築のために開発者に渡されるというものです。両者に大きな隔たりがあるとき、最終的な結果が誰もが期待していたものになるでしょうか」

この動画では、Wolff Olinsのグローバルプリンシパル兼デザイン責任者であるフォレスト・ヤングが、テクノロジー、文化、デザインについて語っています。

クライアントもプロトタイピングを好む

デザイナーと開発者が揃って反復的に仕事をすることは、クライアントにとっても大きなボーナスかもしれません。最終的な公開を待つまでもなく、プロジェクトのさまざまな段階においてインタラクティブなプロトタイプを使って試すことで、実際にどのように機能するかを感じ取ることができるからです。「とても粗いプロトタイプでさえ、顧客を引きつける効果があります。重要なのは、彼らが実際にインタラクションを理解できることです」とカミンズは語っています。

パーマーもこの意見に同意しています。「他人の頭の中にあるものを想像することはできません。ページスクロールのような単純なインタラクションでさえ、さまざまな解釈が可能です」

では、デザイナーと開発者の統合チームがデザインプロセスに有効であり、クライアントを引き込むのに役立つのなら、それがすでに業界標準になっていないのはなぜでしょうか?残念なことに、多くの場合に予算がチームの障壁になっています。カミンズは次のように説明しています。「クライアントには、優れたデザインと優れた開発に必要なことの理解も無しに、より速くより良く働くことに対する期待が常にあります。つまり、デザイナーや開発者は、多くの場合に、最低限の時間で実用性のある製品を開発しなければならないというプレッシャーにさらされているのです」

この点について、パーマーは次のように語っています。「クライアントは、優れたデジタル製品をつくるには時間がかかり、流動的な協業体制での努力が必要であるということを理解する必要があります。それは直線的に進むプロセスではありません。弾力のあるスポンジの塊を変形させる行為のように、幾度となく繰り返されるループです。そのことを早く受け入れるほど、より良い結果に結びつくでしょう」

この記事は、AIGAのEye on Designと共同で執筆されました。

この記事はWhat Does it Actually Take for Designers and Engineers to Work Together in Perfect Harmony?(著者:James Cartwright)の抄訳です