「私たちは協業し始めた」デザイン水平統合の取り組みは、アドビの主要アプリをどう変えたのか | アドビUX道場 #UXDojo

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

クリエイティブに働くためには、適切なツールが必要です。多くのアーティストやデザイナーが、Adobe Creative Cloudのアプリやサービスを使い、素晴らしいビジュアルやビデオやアプリやWebの体験を生み出しています。アド製品ビのユーザーは機知に富み、クリエイティブな目標を達成するためにCreative Cloudの新しいアプリに注目して学んでいます。一方、アドビの製品チームはといえば、常にお互いに流動的に作業してきたわけではありません。

「従来、アドビの製品チームはまさに『自部門中心の働き方』をしてきました。ですが、ユーザーは複数のアドビツールを使っています。問題は、どうすればユーザーの体験を向上させることができるかという点です。これこそが組織をつなぐ水平統合の取り組みが可能にすることです」とアドビの統合デザインチームのデザインリサーチマネージャーであるレベッカ・ゴードンは言いました。彼女は、同僚でシニアデザインリーダーのポール・ドリアンとトロイ・チャーチと共に、Prismという新しい取り組みを開始しました。これは、PhotoshopやIllustratorなどのアドビの主要アプリのUXとUIに、これまでなかったレベルの一貫性をもたらすことを目的に、製品チーム間に連携を確立しようという取り組みです。

「私はユーザーに強い共感を持っています。私の最終的な目標は、デザイナーが目標を達成できるように支援することであり、彼らの目標が何であれ、そのフローを中断することなく、彼らが望むクリエイティビティを発揮できるようにすることです。アプリの体験の一貫性はその鍵となります」とゴードンは語りました。

アドビのエコシステムに含まれるさまざまなブランドとアプリケーションの階層の視覚化

アドビのような規模の企業で水平統合を実現するのは、志の高い行いであるとしても、まったく容易ではありません。ゴードン、ドリアン、チャーチの3名は、その試みの過程で得た経験や教訓を語ってくれました。この記事では、周囲を巻き込み、デザインの一貫性を根付かせる活動のための重要なステップを紹介します。

大きな組織で大きな仕事をするときは、関係の構築から始める

大規模な組織で働いたことがあるなら、 「サイロ(孤立化した組織)」 という言葉を聞いたことがあるでしょう。個々のチームがそれぞれに、一緒に仕事をし、共にアイデアを練り、つながりを深める傾向です。これは自然なことで、ときには有益かもしれませんが、大規模な全社規模の活動にとっては多くの場合に理想的ではありません。そのような状況を打破する鍵は、アイデアを共有し協業を進めることです。

「サイロ」を打ち破る主要な要因といえば、明確さと協調性です。といっても、全社レベルの調和と意思疎通を実現する水平的な取り組みは、一夜にして実現するものではありません。統合エクスペリエンスチームの場合は、何カ月にも渡りチームと会って、個々のチームに課題を説明し、その後にアドビの主要アプリ間の一貫性を高める次のステップを一緒に考えるために各チームを集めました。

「まず、各チームの目標とアドビの全社的なデザイン戦略の目標を理解するために、各チームを背後から支える指導層と連携する必要がありました。そして私たちが達成しようとしていることについて確実に全員が一致していることを確認しなければなりませんでした」とドリアンは説明しました。ひとたびPrismの目標として「アドビの主要プアプリに一貫した体験を提供することで、ユーザーが異なるUIや体験に邪魔されることなくアプリを素早く切り替えて異なる機能を使えるようにする」が明確になると、Prismチームは製品チームを集め始めました。

アドビの統合エクスペリエンスチームは、Creative Cloud製品全体の一貫性をいかに促進するかについて議論するためにミーティングを開いた。

Prismについて一緒に作業しているアドビの製品チームのメンバー

「私は12年間製品デザイナーをしていました」とチャーチは言います。「私は自分の製品以外のユーザーが語る『こうした方がいいよ』という声に強い共感を持っています。なぜなら、チームは彼らがいなくなると、笑いながら『それは自分たちの仕事じゃない』と言うのです」。チャーチはPrismによって、そのやり方を変えようと決意していました。

統合エクスペリエンスチームは、彼らの主張ををできる限り明確にするために、イラストレーター兼デザイナーのマット・カールソンから借りたスライドを使って製品チームとのミーティングを開始しています。そのスライドには、ハトのイラストと共に「私たちは一つになりました」と書かれています。その後に、ドリアン、チャーチ、ゴードンの3名はグループに向かって、「ここに集まったのは、すべてのアプリケーションで優れた効果を発揮する案を一緒に議論して見つけるためです」と言います。そこから、最終的に共通の解決策にたどり着くことを期待して、何時間もかけて様々な異なる視点を持つ多くのデザイナーの話に耳を傾けます。

アドビの統合エクスペリエンスチームは、製品だけでなく、組織のあらゆるレベルにおける協業の促進を目指しています。

大規模なデザイン戦略への賛同と連携の確立

ミーティングは役に立つかもしれません。チーム間のコミュニケーションは、課題や機会を特定し、組織全体で知識を共有する優れた手段になり得ます。では、個々の製品が関係する変更を扱う水平的な取り組みに、全ての関係者を参加させるにはどうすればよいでしょうか。

「アプリをゼロから始めるのであればずっと簡単です」と、Adobe XD、Lightroom CC、Frescoなどの新しいアドビアプリのいくつかを参照して、チャーチは述べています。それらのアプリは一貫性を保つ取り組みが始まった後に構築されました。そのため、UIやインタラクションのパターンに共通性を感じられます。「しかし、既存の主要アプリについては、状況が一変します。そうした製品は20年以上の歴史を持ち、それぞれのチームはずっと存在してきた独自の文化を持っています」

Adobe Frescoのブラシで描かれた、日よけ帽をかぶって朝刊を読んでいる男と、近くの木の枝で同じことをしているリス。

作業中のAdobe Frescoの画面

この問題を解決するために、フレームワークの一部をデザインするときに、すべてのメンバーが確実に連携するよう配慮しました。すべてのメンバーが発言権を持ち、一緒につくり上げることが重要です。誰もが招かれて権限を与えられれることで、デザインが彼らの視点から機能するようになるのです。

シニアデザイナー、統合エクスペリエンスプロジェクトリーダー、ポール・ドリアン

統合エクスペリエンスチームは、個々のデザインチームとの緊密な作業に多大な時間を費やして、組織間の調和を達成しました。彼らは、この取り組みを常に共同作業として提示してきました。チーム同士でベストプラクティスを共有し、他のチームと同じ部屋で作業して、最適なソリューションを見つけるのです。上級役員による確認も行われます。全員が協力して上司に成果物を報告する必要があり、統一エクスペリエンスチームはそれを支援する役割です。

幸運なことに、統合エクスペリエンスチームは、一貫性への取り組みがすでに成功していることの証明として、アドビの新しいアプリを指摘することができました。これにより、PhotoshopやIllustratorのような確立された製品のチームは、提案をより前向きに受け入れるようになりました。とはいえ、それだけで十分なわけではありません。自動的に「どのチームにも適用できるソリューション」が存在しないという点は、Prismの重要な考慮点のひとつです。個々の製品チームは、より良い体験につながるデザイン上の意思決定を確実に行えるよう(すなわち、既存ユーザーが依存している機能を犠牲にすることがないよう)、自製品に対する判断の権限を有しています。そこでの統合エクスペリエンスチームの役割は、常に、ユーザーファーストで意味のある解決策に誰もが到達できるように支援することです。

アドビのPrismフレームワークには、製品カテゴリ間の視覚的な整合性の反映として、組織の目標をチーム間で調整することが含まれている。

Prismの組織連携に関するフレームワーク

最大の結果を得るための、テスト、共有、フォロー

いくつものチームの多数のデザイナーと作業している統一エクスペリエンスチームが、一貫性のあるデザインの決定についての相談をする際に、どれ程の情報を取り上げないまま進むことになるのかは想像することができるでしょう。これに対処するために、彼らはUXアプローチに従って自分たちの発見を検証しています。決定した内容のテスト、共有、フォローの実施です。

統合エクスペリエンスチームは、デザインのルック&フィールについての中核ビジョンに製品チームが合意した後、新デザインをテストします。そしてフィードバックを収集し、デザインをさらに洗練させ、そのプロセスで得た考えや発見を常にチームと共有します。デザイン上の決定がすべての関係者によって検証され承認された後は、ゴードンたちは製品デザイナーや関係者と定期的に確認を行い、何がうまくいかなかったのか、何がうまくいったのか、デザイナーが次に進むべき方向は何かを尋ねます。

プロセスの終わりに位置するこれらのステップでは、ほとんどの新しい水平的な取り組みと同様に、プロセスの最初に戻り、デザインチームを改めて立ち上げ直し、UI、製品要件、組織の優先順位などを見直すことがごく一般的です。

アドビのPrismフレームワークは、一般的なUI要素や使い慣れたUI要素など、アドビのアプリ間で体験の一貫性を実現するのに役立ちました。

ユーザにとってのより良い結果を実現し、より幸せでクリエイティブなデザインチームになる

最初に統合エクスペリエンスチームを立ち上げたとき、ゴードンは、数百名のユーザーにインタビューを行いました。ユーザー達は、クリエイティブなワークフローが煩雑なことに強い不満を感じていました。彼女によると、彼らの不満には、どのキーボードコマンドを使うべきか真剣に考えなければならないという単純なものも含まれていました。原因は、彼らが使ってきたアドビ製品ごとに仕様が異なっていることです。「私たちは既存の主要アプリの監査を行い、ユーザーが飛び越えなければならない多くのハードルを見つけました」とドリアンは付け加えました。

アドビ社内の協業の進捗を時系列で表したグラフ。当初は断片化していたが、最終的にはチームがまとまって現在のより統一された体験をつくり出した。

彼らのこうした努力から生まれたものは、体験をモダンで一貫性のあるものに変えるために、チームが(助けを借りながら)簡単に従うことができるフレームワークです。それは製品デザイナーの役に立つだけでなく、ユーザーにとってのメリットも生まれます。

リサーチャーとしてユーザに多くの共感を持つゴードンにとって、孤立した部門を結びつけ、製品チームの合意を得て、水平的なデザインへの取り組みを構築しようという彼らの努力の報酬は自明でした。

私の最終的な目標は、デザイナーが目標を達成できるように支援することであり、彼らの目標が何であれ、そのフローを中断することなく、彼らが望むクリエイティビティを発揮できるようにすることです。

ユーザー体験リサーチマネージャー レベッカ・ゴードン

統合エクスペリエンスチームは、会議が時にはセラピーセッションのようなものになることを認めていますが、それでも人々が乗り気になって参加しているのは、協調して働くことが製品チームと彼らの仕事にとってはるかに良いものであることを認識しているからです。

「私たちが会社の個々のデザイナーに影響を与えていることを願っています。彼らは時には孤立しているように感じることが実際にあって、周囲とのつながりを強いほどより良い仕事ができるように感じているのです」とチャーチは言って、一貫性を持たせる努力の成果として、多くのデザイナーが、自分の製品独自のUI要素を作成することから、ユーザーにとってより大きな問題の解決のためにクリエイティブに考えることに注意を払うようになったと強調しました。

「それと、人々が私たちの新しくなった主要アプリを見たときに、よく考えられており役に立つと感じてもらえるることを、切に願っています」

チーム間でデザインプロセスを最適化することによる価値を数値化するのは難しいかもしれません。しかし、アドビにとってこれから向かう先は、協調的な関係と統合的なソフトウェア群です。デザインチームは、この新しいプロセスの中で互いを信頼し合っていて、それが多くのクリエイティブなエネルギーを生み出しました。これが意味するのは、ソフトウェアとそのユーザー体験の改善と、拡張性の向上、最終的には協業の文化の発展です。これはすべての人にとっての勝利です。

この記事は“We Come in Peace.” How Adobe’s Horizontal Design Initiative Is Creating Positive Change in Its Flagship Apps(著者:Patrick Faller)の抄訳です