立ち上げたデザインシステムを維持し進化させることの重要さ | アドビUX道場 #UXDojo
エクスペリエンスデザインの基礎知識
デザインシステムは近年デザインコミュニティで広く受け入れられるようになりました。実際、堅牢なデザインシステムを持つことは、デジタル製品の効率性と一貫性を長期にわたって確保するための鍵となります。
デザインシステムを適切に立ち上げるには、多くの事前準備が必要であることは間違いありません。しかし、それと同じくらい注力すべきことは、将来の組織の変化に耐えられるように、デザインシステムを維持し進化させることです。これは見過ごされることが多い点で、、時間、予算、リソースの浪費につながることがあります。きちんと保守されていないデザインシステムは、必要以上に早く新しいデザインシステムを必要とするようになるでしょう。プロジェクトを開始するときから適切なプランを持ては、こうした状況は避けられます。
デザインシステムの目的は何か?
デザインシステムの利点は、プロセスを単純化して効率を高め、デザインチームと開発チームを連携させる優れたツールになれることです。それにより、チームはより複雑な問題の解決に集中することができます。
デザインシステムを使用する理由をいくつか挙げてみましょう。
- 保守性の向上
- 複数の製品におけるブランドの一貫性の維持
- 確実な情報ソースの確保
- デザインとコーディングの負荷を削減
- チーム内コラボレーションとワークフローの改善
- 効率化とスピード向上を達成
- 開発とデザインの間のコミュニケーション機会の増加
デザインシステム構築の基礎
システム構築を開始する前に、構築しようとしているシステムの目的を定義することは重要です。そうすれば、その目的のためには、どこから手を付けてどのように仕立てるべきかを明確に理解できます。システムの目的を検討する方法はたくさんありますが、基本は組織と製品のニーズを見つけ出すことです。それは、必要なデザインシステムの種類が何で、どのくらい高度なものが必要かを判断する根拠になります。
デザインシステムには、共有ライブラリのようなシンプルなものから、あらゆる機能が構築されたマイクロサイトのような複雑なものまで様々です。すべてのプロジェクトに適合するアプローチは存在しません。特定のクライアントや製品に最適なアプローチが何であるかを、慎重に検討する必要があります。
1. 価値と原則
システムの検討を始めるにあたっては、ブランドとシステムの価値の方向性を揃えて、それらの価値の原則を定義することが重要です。
原則は、システムの価値についてのルールです。いくつか例を挙げると、アクセシブルであること、強力であること、技術的であること、革新的であること、遊び心があること、速いこと、本物らしさがあること、誠実であること、流動的であること、などがあります。私が推奨する方法は、3つか4つを選び、それに忠実であり続けることです。価値と原則は、チームメンバーがなぜそれほど熱心に働いているのかを再認識させるためのガイドになるでしょう。
2. 基盤と構造
プロセスの開始の時点で、強固な基盤と構造を構築することは、将来のシステムの成功に不可欠です。これは家の土台のようなものです。台風や地震に耐えられる家を建てるにはどうしたらよいでしょうか?
ツールキットに加えたいコンポーネントを検討する前に、追加の基準として使われることになる基本要素の特定から始めましょう。これ以前の段階に戻ることはほとんどないので、ここで時間をかけて、正しい基準を設定します。
いくつかの一般的な基本要素を次に示します。
- 音声とトーン
- モーション
- 写真とイラスト
- アイコノグラフィー
- アクセシビリティ標準
- 構成、組み合わせ
- 単位と増分
- レスポンシブグリッド
- 書体
- カラー
3. コンポーネント
しっかりとした基盤となる基本要素と原則を構築したら、次は特定の製品やクライアントに対して必要となるコンポーネントの決定です。複数の専門分野から集めたチームによるミーティングを設定し、ホワイトボードにコンポーネントのリストを書いて彼らに委ねましょう。
このコンポーネント一覧は、製品が続く限り無限に増えるでしょう。最初から十分に検討されたリストで始めたいと思うかもしれません。ここで覚えておくべき最も重要なことは、このリストは流動的なもので常に変化するということです。
以下は、コンポーネントになる可能性のあるもののリストです。
- ナビゲーション
- ボタンとリンク
- ダイアログとフォーム
- フィードバックとアラート
- データ視覚化
- テーブル
4. 管理と運営
チームワークが夢を実現する力です。誰がシステムの進化を維持していくのか、ロードマップを明確に定義するのはとても重要です。作成する運用プランは、適切なメンバーをチームに留めておくことを意図したものになるでしょう。決定された運用プロセスは、確実にメンバー全員に理解させるようにしましょう。システムを更新し進化を維持続ける推進者やグループがいなければ、デザインシステムは失敗するか、その存在が希薄になります。しっかりしたチームと指揮系統があれば、関係するパートナーがバラバラになるのを防げます。
デジタルデザインのためのシステム構築は比較的新しい手法であることを理解して、まったく新しい働き方を生み出そうとしている可能性があることを忘れないようにしましょう。そこではコミュニケーションが重要です。チームとは定期的にミーティングを行うべきです。スケジュールを設定し、フィードバックとそれを反映するための時間も確保しましょう。
5. 開発とのコラボレーション
おそらく、デザインシステムを現場で運用する上で最も重要なことは、開発との連携です。最初から開発者も巻き込んで、部門を横断するチームを編成しましょう。それは共に学び成長するチームです。デザイナーと開発者は、しばしば実践する側ではなく教師になる必要があります。彼らは互いに、個々の学びとベストプラクティスを備えたそれぞれの分野の専門家です。
コミュニケーションとコラボレーションをオープンにしておけば、会話が容易になり、生産的な評価と改善が可能になります。デザインシステムは、コードと1対1の関係になるまで完全には利用されません。ですから、開発者が何かコーディングを始める前に賛同を得ておくことが必要です。柔軟性を持ち、コーディングとデザインは2つの異なる分野であることを理解するようにします。デザインがより理論的な側で、そのため妥協を求められる場面もあるでしょう。
デザインシステム拡張のための努力
デザインシステムの開発に関する基本的な項目を理解したところで、次は、システムを維持して、時間をかけて拡張することの重要性を強調したいと思います。
これまでに、デザインシステムが適切に維持されなかったために、長期にわたり悪戦苦闘したり、多くの時間を無駄にしているチームを見てきました。素晴らしいシステムを構築したにも関わらず、純粋にミスコミュニケーションのために失敗したこともありました。デザインシステムは、時間をかけて、細心の注意を払い、たゆまぬ共同作業によって発展するものです。チームやシステムの規模がどのようなものであれ、システムを価値あるものにするためには、継続して推し進める必要があります。
システムは単なる「つくったらおしまい」のデザインマニュアルではありません。関わる人々と一緒に呼吸し成長します。
レックス・カリージョ
1. 編集と監査
一連の基本コンポーネントは製品の立ち上げに役立ちますが、進化するシステムは製品の成熟に役立ちます。定期的に監査を行い、それぞれのパーツがビジネスとユーザーのニーズを満たしているかを評価すれば、一歩前に進む準備ができます。
人数の揃ったチームでさえ編集作業には苦労するものです。チームが協調して作業を行うことで、全面的な変更を行う際の緊張を緩和できるでしょう。スピードは製品デザインに求められるものの一部ですが、チームに推奨したい方法は、スピードを落とし、コンポーネントがシステムから逸脱している部分を特定し、システムに含められるべきパーツを特定することです。アセットを追加、交換、更新することに備え、その変更が最終的にチームにどのような影響を与えるかを予測することも必要です。
しばらく経ってデザインシステムを評価する際は、製品のニーズを満たさなくなったコンポーネントに縛られているとは考えないようにしてください。編集の目的は簡素にすることです。重複が見つかったら排除しましょう。バージョン管理を行うと、新しく開発したバージョンによる実証用の構築を、他のチームと連携して行えます。システムの質は、それを維持しているチームや個人次第であることを認識しましょう。
2. ドキュメント
ドキュメント無しで構築したデザインシステムを長期にわたって維持し続けることはとても困難でしょう。最後まで自分の作業を記録するのを先延ばしにすると、大量の文章と詳細に途方に暮れてしまうことになります。コンポーネントを作成する場合は、すぐにそのコンポーネントのドキュメントも作成すべきです。ドキュメントにはさまざまな形式のものがありますが、デザインスペックを開発チームと共有するときは、拡張性と共有手段を十分に検討してください。
3. 時間の経過による変化
変わり続ける世界に対応するために、ブランドや製品は進化し発展し続けます。業界のトレンドや製品とビジネスの要件は、その進化を促す主要あ要因です。ブランドが進化すればデザインシステムも進化します。最新の書体に更新する場合も、製品の目標に合わなくなったコンポーネントを削除して置き換える場合も、その変更をデザインシステムに適用しなければなりません。
この作業を行う際は、少しずつ変更を積み重ねるようにして、ユーザーのニーズと利用の容易さとのバランスを取るようにしましょう。しっかりと文書化をしてコツコツとデザインシステムを維持してきたのであれば、大がかりなブランド変更にもさほどひるむことなく、プロセスも効率的なものにできるでしょう。
おわりに
デザインシステムの進化は複雑ですが、戦略をきちんと計画すれば、非常に管理しやすいプロセスです。最初からコラボレーションすることは、どのようなデザインシステムにおいても核心です。進化が必要になって、すぐに失敗するかもしれません。しかし、失敗から学んだ知識がシステムを磨き上げることも理解しておきましょう。そして最後にひと言付け加えるなら、進化、すなわち洗練と更新を決して止めないことです。
この記事のまとめとして、重要なポイントを列挙します。
- 優れたチームを編成する
- コラボレーションの文化をつくり上げる
- 個々の段階を詳しく計画する
- 基本を正しく理解する
- 知識に基づいて実行する
- 進化し、迅速かつ頻繁に失敗する
- 繰り返し追加と洗練を続ける
この記事はデザインシステムシリーズの一部としてOgilvyと共同で執筆されました。
この記事はThe Evolution of a Design System: How to Take It From Crawling to Running(著者:Rex Carrillo)の抄訳です