page2020レポート『イラストレーターのためのFresco活用法』

2020年2月5日(水)〜7日(金)の日程で、池袋のサンシャインコンベンションセンターにおいて『page2020』が開催されました。筆者はクリエイティブゾーンで開催されるセミナーのディレクションを担当していることもあり、多くのセミナーを拝見しました。その中から今回は、YOUCHANさんの『イラストレーターのためのFresco活用法』をレポートさせていただきます。

YOUCHANさんは、SF・ファンタジーやミステリ小説の装画や装丁を手掛けているイラストレーターで、すでにAdobe Frescoを業務に取り入れて活用されています。今回のセミナーでは、Frescoによる商業印刷の活用事例を見せながら、Frescoの活用術をお話されました。
なお、Adobe Frescoは、すでに多くのイラストレーターの方に使われているスケッチ&ペイントアプリですが、iPadをはじめ、Wacom Mobile Studio Proや一部のMicrosoft Surfaceデバイスなどで使用できます。
※Frescoの必要システム構成は、こちらをご覧ください。
https://helpx.adobe.com/jp/fresco/system-requirements.html

クラウド上に自動保存されるドキュメント

まず、Adobe Frescoの特徴についてお話されました。大きな特徴として、保存の概念がなく、データは自身のクラウド上にPSDC形式で自働保存されるとのことです。保存の概念がないということは、保存のし忘れで泣くといったこともなくなり、ありがたいポイントですよね。なお、PSDC形式で保存されるため、Photoshopともシームレスにやり取りできるそうです。

Frescoの良いところ

Frescoの良いところとして「表現力が高い」「遅延が起きにくい」「SNS共有がラク」「描いていて楽しい」の4点を挙げられました。「表現力が高い」は、まさにFrescoの大きな特徴ですが、ピクセルブラシとベクターブラシの両方があるのはもちろん、ライブブラシでは油彩や水彩の表現が可能です。油彩の重ね塗りや水彩のにじみといった表現が簡単にできるのは嬉しいポイントです。

YOUCHANさんが良く使用するブラシ

レイヤーがたくさんある重たいデータであっても「遅延が起きにくい」とのことです。A3見開きで600dpiのイラストを描いた時でも遅延は起きなかったそうです。

また、FrescoにはデフォルトでTwitterやFacebook等のSNSにアップロードする機能が用意されているため、描いたものを簡単に共有できるそうです。まさに「SNS共有がラク」というわけです。

そして、一番強調されていたのが「描いていて楽しい」ということです。やはり、使っていて楽しいツールじゃないと、時間を忘れて没頭できないですよね。仕事で描いていたとしても楽しいってことは、とても重要なファクターなんだなと感じました。

Frescoの惜しいところ

良い所ばかりじゃなく、残念なところもあるそうです。それは「RGBモードしかない」ということ。そのため、印刷目的で使用する際には、Frescoで描いたものをPhotoshopで開いてCMYKに変換しているそうで、この作業がちょっと残念ですね。なお、この件については、セミナー終了後に「RGBからCMYKに変換した時に、色が変わったりしないですか?」とYOUCHANさんに聞いてみたのですが、「どういった色だとCMYKにした時に色が変わってしまうのかを頭の中で把握しているので、変わってしまう色は使わないようにして作業している」とのことでした。このあたりは、さすがという感じですね。

そして、クラウド上に保存されたPSDC形式をIllustratorでは扱うことができないことも残念だそうです。もちろん、Photoshopとはスムーズにやり取りができるわけですが、Illustratorでも開くことがきると嬉しいとおっしゃっていました。

また、「ベクターブラシはあるけど、作図用のツールがない」ともお話されていました。Frescoには、パスとして描画できるベクターブラシはあるのですが、ペンツールのようにアンカーポイントを作成しながら描くことのできるツールはありません。

自動選択ツールもないそうです。例えば、一度色を塗ったところを自動選択ツールで選択して調整するといったことができると嬉しいとおっしゃっていました。ちなみに、自動選択ツールが欲しいと要望は出しているそうです。

まだまだ新しいアプリケーションなので、足りないと感じる部分も多々あるそうですが、今後のビルドに期待しているそうです。なお、機能改善の提案も受け付けているそうなので、リクエストがある方は、Frescoの「機能改善の提案」から行ってほしいとのことでした。

Frescoから「機能改善の提案」ができる(このイラストは、YOUCHANさんの作品ではありません)

Frescoで描いた作品

そして、実際に仕事でFrescoを使って描いた作例を6つほど紹介されていました。どれも素敵な作品ばかりですが、YOUCHANさんがFrescoでどのような作品を描かれているかは、YOUCHANさんの
Behanceで観ることができますので、ぜひ一度ご覧になってください。
https://www.behance.net/youchan

Frescoで描かれた作例

Frescoを使用した制作フロー

次に、実際に印刷物用のイラストを描く際の制作フローをご紹介されていました。印刷用のイラストでは、フォーマットが決まっていることが多いそうなので、まず仕上がりサイズのキャンバスをIllustratorで作成し、PSD形式に書き出すそうです。この時、RGBで書き出さないとFrescoで読み込めないそうなので注意が必要です。
次に、書き出したPSDファイルをFrescoで読み込み、ラフ(下絵)やイラストを描くそうです。Frescoで描いたものは、クラウドを経由してPhotoshopで開くことができるため、Photoshop上で調整を行い、CMYKに変換して保存します。それを最終的にIllustratorやInDesignに配置してデザインを仕上げるとのことでした。

Frescoを使用した制作フロー

デモンストレーション

そして最後に、実際にFrescoを使ったデモンストレーションが行なわれました。あらかじめ用意した、鉛筆ツールを使って描いた下絵をもとに、ピンチイン・ピンチアウト・回転を繰り返しながら、どんどんと描き進めていましたが、まず、よく使うブラシはお気に入りに登録しておくと、すぐに呼び出せて便利とのことでした。また、レイヤーは不透明度の調整ができるので、作業しやすいように下絵用のレイヤーの不透明度を調整しておくと良いようです。なお、一度使った色も自動的に保存されていくので、再度、同じ色を使用したい時にとても便利だそうです。

一度使用した色は、自動的に記憶してくれる

YOUCHANさんの描き方は、なげなわツールで範囲選択を行い、さらに範囲選択の追加・削除を行ってから色付けするというスタイルでした(はみ出たところは消しゴムツールで消していました)。やはり、イラストレーターさんによって、それぞれ描き方のスタイルは違うようで、自分の好きなスタイルで自由に描いていけばいいんだんなー感じられるセミナーでした。

水彩ブラシも紹介されていました。上に色を塗り重ねていくと、下の色と混ざってにじんでいくのが特徴のブラシです(どれぐらい下の色と混ざるかは[水量]で設定できます)。いくつかの色を塗り重ねていきますが、にじませたくない場合は[レイヤーを乾かす]コマンドを実行する必要があるそうです。本当の手書きの絵と違って、デジタルではいつまでも乾くことなく、下の色と混ざっていくということですね。つまり、下の色と混ぜたくない時には[レイヤーを乾かす]を実行すればよいわけです。

Frescoの[レイヤーを乾かす]コマンド(このイラストは、YOUCHANさんの作品ではありません)

なお、YOUCHANさんは「アクリルJP」というピクセルブラシが好きとのことでしたが、このブラシは日本のFrescoユーザーだけが使えるブラシだそうです。また、直線も描くことが可能とのことで、少しぶれて描いた線も、しばらく待つとキレイな直線として描画されることを解説されました。そして、[アクション線散布]というピクセルブラシも紹介されていました。このブラシは、本来、マンガ等の集中線を描くブラシなのですが、YOUCHANさんは透明度を下げてクロスハッチングのような使い方をしているそうです。

その後もどんどん描き進め、20分ほどで素敵なイラストを描き終えていました。これからFrescoを使ってみたい片には、非常に参考になったセミナーではないでしょうか。筆者は絵は描けませんが、それでも今回の数多く見たセミナーの中では一番楽しく拝見することができました。機会があったら、ぜひ皆さんにも見ていただきたいですね。

でき上がったイラスト

●ユーチャンのイラストパーク
https://www.youchan.com/

なお、このセミナー開催後の2月13日に、Frescoのアップデート1.3.1が公開されました。このアップデートでは、消しゴムツールでブラシが選択可能になったり、タッチジェスチャーをオフにできるようになるなど、いくつかの機能強化がなされています。詳細は、こちらで確認できますので、ぜひご覧下さい。
https://apps.apple.com/jp/app/id1458660369