大手SNSからの脱却と、小規模でプライベートなSNSの運営 | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

重大な事件や、影響範囲の広い出来事が起きた日には必ずと言っていいほど聞かれる一般的な言葉がTwitterにはあります。言い方や使い方は多少異なりますが、その意味合いは変わりません。そして、その言葉を配信する媒体であるTwitter自体も、その言葉が表す憤りの対象です。Twitterは「ネガティブ」な「炎上」の場であり、ログインした瞬間からユーザーを焚き付け、怒らせ、疲れ果てさせるよう運命づけられています。

にもかかわらず、ユーザーはログインし続けます。Twitterが発表した2019年第2四半期レポートによれば、1日当たりのアクティブユーザー数は1億3900万人で、ユーザーから似たようなコメントを集めるFacebook(ユーザーの個人情報の誤った使い方のために、米国連邦取引委員会から50憶ドルの罰金を科されたことは言うまでもありません)の場合は15億9000万人です。Facebookが所有するInstagram、WhatsApp、Messengerを合わせれば、この数字は21億に跳ね上がります。2018年3月にAxiosとServeyMonkeyが行ったアンケート調査では、Facebookを筆頭に、Twitter、Googleに対する好感度が低下していることを示す結果が発表されましたが、それでもこれらの企業はインターネットの広い範囲を支配し続けています。私たちはそうした企業のプラットフォームを日々使用しているのです。

すでに十分過ぎる数のソーシャルプラットフォームが存在しているようにも思えますが、ダリウス・カゼミはもっと多くのプラットフォームが必要だと考えています。既存のプラットフォームとは異なる、規模の小さなプラットフォームです。1年ちょっと前から、カゼミは現実世界の友人45名を集めたFriend Campというソーシャルメディアサイトを運営してきました。7月には、『Run Your Own Social』と題して、同様の行為を他の人にも勧めるガイドをオンラインに公開しました。このガイドの核心は、健全なソーシャルネットワークを構築するには、ビジネスの成長が最優先のシステムである既存のソーシャルネットワークを基盤とするのではなく、現実世界の緊密なコミュニティをモデルにすべきであるという信念にあります。カゼミが推奨するのは、Facebookがモデルとする「都市の広場のデジタル版」ではなく、吟味されたゲストを招いた落ち着いたホームパーティーのようなものと言えます。彼が強調するポイントは、ソーシャルネットワークの規模を小さく、せいぜい50人から100人程度に維持すれば、コミュニティ固有のニーズに合うようデザインできるようになるという点です。これは数百万人規模のユーザーを抱えるソーシャルネットワークでは不可能です。

ダリウス・カゼミのRun Your Own Socialの目次。

Run your own social ダリウス・カゼミ

小規模のソーシャルネットワークの運営が収益につながることはないでしょう。投資ファンドを惹きつける魅力もありません。カゼミのガイドによれば、運営するには、時間、純粋な関心、さらにはいくらかの技術的ノウハウが必要になるということです。それでも、ユーザーの習慣やオンラインでのインタラクションからお金を巻き上げるプラットフォームのやり方に苛立ちを覚えている人や、FacebookやTwitterの誕生以前のこじんまりとした個性的なオンラインコミュニティを懐かしく感じている人であれば、カゼミの「独自SNSの運営」への呼びかけに少しは魅力を感じるでしょう。それに、米国大統領選の予備選候補者が、大手のテクノロジー企業の分割計画を唱え続けている状況で、巨大ソーシャルネットワークが維持可能なモデルであると言いきれる人はいるでしょうか。

「収益化とは無関係な場所での、テクノロジーの実験や投資をもっと多く見てみたいです」と述べているのはダニエル・ロビンソンです。彼女は、公益のためのオープンソース技術開発を支援する非営利団体「Code for Science & Society」でディレクターを務めています。カゼミは、MozillaのOpen Web Fellowとして活動していた年に、Friend Campを立ち上げ、ガイドを執筆しましたが、Code for Science & Societyが、それを支援した団体です。ロビンソンはFriend Campの初期にユーザーになりました。そして、Friend Campを、1999年に公開されたMakeoutclubなどのFriendster以前のインターネットコミュニティや、第一子を出産した頃に参加した母親たちのFacebookグループのある側面になぞらえています。後者については次のように語りました。「参加者数が200人程度の頃は素晴らしいグループでした。600人以上に膨らんだときには、あっという間にひどくよどんでしまいました。Friend Campは、最も支えになった当時のやり取りを思い出させます。人と人がつながり始めたインターネット初期の体験です」

自分が使いたいソーシャルネットワークを構築する

カゼミがFriend Campを始めようと思ったのは、他のソーシャルメディアのアカウントにうんざりしていた2018年8月のことでした。最初に、2016年に始まり現在では100万人以上のユーザーを抱える分散型ソーシャルネットワーク「Mastodon」の改造版としてFriend Campを作成し、個人のTwitterアカウントでフォローしていた約30人を招待して、その後、Twitterで広く呼びかけを行いました。現在Friend Campのアクティブユーザーは45人で、すべて、カゼミのネット上の知り合い、実際の知り合い、または友人を介した知り合いです。また、「Fediverse」(1つの連結されたネットワークに存在する独立したオンラインコミュニティ群)と呼ばれる仕組みを通じて、Mastodonに類するソフトウェアを使う5,000以上のコミュニティともつながることができます。

MastodonはTwitterに非常によく似ています。ユーザーはメッセージを投稿し、友達をフォローし、@を使ってメンションし、ハッシュタグを使用したり、投稿の宣伝を行えます。ソフトウェアはオープンソースであるため、カゼミは自分が使いたいソーシャルネットワークの姿になるようコードを調整することができました。その外観は、ややTweetdeckに似ています。Friend Campのローカルタイムラインや、フォロー可能な他のの「インスタンス」(Mastodonに接続する個人または別のコミュニティ)などの複数のフィードが表示されます(mastodon.social は大規模インスタンスの例です)。Friend Campのテーマは、Neopetsページ向けのテーマを作成していた経験があり、Friend Campユーザーでもある友人がデザインしたもので、パステル色のパレットが使われていて、テラニウムの植物がデフォルトのアバターです。

デスクトップのWebブラウザに表示されたFriend Campのスクリーンショット。Twitterに似ている。

Friend Campインターフェイスのスクリーンショット(名前は非表示) 出典: ダリウス・カゼミ

Friend Camp用にカゼミが定義したUXやUIの多くは、「カゼミのコミュニティとして機能するソーシャルネットワーク」を構築するために使用されているものです。それでも、その一部は再利用可能で、似たソーシャルメディアサイトを設定しようと考えている人向けにガイドで説明され、オープンソースコードとして提供されています。このUIの中には、人が見たがらない可能性のあるコンテンツを、内容を要約したタグの背後に隠す「コンテンツ警告」のような規範も含まれています(職場で表示するには不適切なコンテンツは「nfsw (not safe for work)」など)。 カゼミによれば、コミュニティ内で実際に合意された警告から内輪だけに通じるジョークまで、「コンテンツ警告フィールドはほぼ電子メールの件名フィールドのように、かなり自由に使用されている」そうです。 カゼミは、「食事の写真などに警告をつけることがよくあります。フィードに食べ物が表示されることに抵抗のある人がいるからです」と付け加えました。 画像も、デフォルトではタイムラインに表示されないように設定されていて、表示するにはクリックする必要があります。

携帯端末のブラウザに表示されたFriend Campのスクリーンショット。Twitterに似ている。

その他にFriend Camp専用の機能もあります。独自サイトを運営するメリットは、特定の機能について非常にわがままになれることだとカゼミは主張します。大規模なソーシャルメディアでは、あまり多くの設定機能を提供することができません。ユーザーにとってソフトウェアが複雑すぎるものになってしまうからです。たとえば、Facebookにはさまざまなセキュリティ設定がありますが、ユーザーがオプション数に圧倒されないようにデフォルト設定が用意されています。カゼミの場合は、新しいFriend Campユーザーに対し、1~2時間のビデオ会議を通じて、複雑な機能を説明したり、各メンバーを簡単に紹介したりしています。そのため、使い勝手の良さを優先して多くのプライバシー設定を犠牲にする必要はありません。

新しいユーザーに対して主催者として振る舞い、皆が納得できるデザインや管理上の決定を実現できるのは、小規模なソーシャルメディアならではです。これがカゼミがガイドで指摘しているポイントです。ソーシャルメディアが対応しなければならない大きな問題は、ポリシー、価値基準、管理者の権力の強さなどに関わるもの、すなわち技術的な問題でなく、社会的で、倫理的な問題だと彼は言います。大規模なソーシャルメディアサイトは増え続けるユーザー数に対応し続けなければいけませんが、規模の小さなコミュニティでは、コミュニティの価値の定義はずっと容易です。

『Run Your Own Social』の中で、「TwitterやFacebookのタイムラインを見ればすぐ見つけられますが、左派は運営のサポートが右に偏っていると不平を言い、右派は左派を支持していると不満を訴えています」とカゼミは語ります。「1秒間に数千規模の投稿が、できるだけ多くの相手に届くようにと何億もの人によって行われるサイトでは、どちらの意見もまったく正論です。この状況を効果的に管理する方法はないでしょう。数百万人が喜んで従う行動規則が生み出される可能性はほぼゼロではないでしょうか」

自給自足の限界

もうひとつの大規模ソーシャルメディアとの大きな違いは、Friend Campがカゼミの独自サーバーで実行されている点にあります。そのため、Friend Campユーザーは、彼らの個人情報が収集されて広告主に販売されていないことを知っています。「Friend Campには長いプライバシーポリシーがありますが、手短に言えば、データの取り扱いについては私を個人的に信用してくださいという内容です」とカゼミは話します。独自のサーバーを運営すること(平均月額10~30ドル)は、データを独自に管理するには重要です。

しかし、自給自足には限界があります。カゼミは、すべての人が技術に明るいわけではないことを認識しており、開発者あるいは技術に精通したデザイナーがその役割を補ってくれることを望んでいます。「誰もが車を修理できるわけではないのと同じように、誰もが独自サーバーを運営できるわけではありません。そのためにコミュニティが存在します。プログラマーはもちろん必要かもかもしれませんが、他のスキルを備えたユーザーもコミュニティに参加してくれることを願います」

とは言え、実際には、誰もがプログラマーを知っているわけではありません。Facebookのような規模の大きなソーシャルネットワークのメリットは、近い人だけでなく、インターネットへのアクセスが限定された場所にいる世界各地の人々にアクセスできることです。これは分散型ネットワークにとって最大の問題であり、ネットワーク管理のぎこちなさの原因になっています。また、最近、オルトライト系ソーシャルネットワーク「Gab」がMastodonに移行したニュースが示しているように、トラブルメーカーから解放されるわけでもありません。ロビンソンは、そうした状況を改善するには、さらに多くのユーザーが試行錯誤し続けるしかないと言います。また、このコミュニティを関心のある人や関係者だけのものだけにせず、より多くの大衆の元へと移行するときが来ているとも考えています。「データがどこかのAmazonデータセンターで処理されていることに皆が納得していると決めつけているプロジェクトがいくつもあると思いますが、そうではないケースも増えてきています」

分散型インターネットをより身近なものとする取り組みとして、カゼミは自身のガイドに基づくワークショップを開催しようとしています。それにより、新しいソーシャルネットワークに突きつけられる課題、すなわち、友人が既に利用しているソーシャルネットワークを自分も使いたがるという課題を克服したいと考えています。カゼミのワークショップは、従来のプラットフォーム上の既存のオンラインコミュニティ(例えば、ロビンソンが参加していたFacebookの母親グループのような)と連携し、Friend Camp式の独自ソーシャルネットワークを立ち上げる方法が伝授されるものになるでしょう。

カゼミのガイドやワークショップは、分散型ネットワークの概念や技術を人々に認知させるための重要な役割を持っています。大規模なソーシャルネットワークのインターフェイスは、莫大な数のユーザーフィードバックを得て長い年月をかけて進化してきました。それに比べれば、新しいソーシャルネットワークはすぐに「理解する」ことが困難かもしれません。Twitterに関する不平をつぶやくために、未だにTwitteを使用するのはそのためです。しかし、そうしたネガティブなフィードの裏側では、真の変化の兆候がわずかながら生まれています。カゼミもロビンソンも個人的な投稿にはFriend Campを使用し、仕事のプロジェクト専用の場所としてTwitterを使用しています。これは、Twitterが公開された2006年に比べて、もしくは数年前に比べても、今では一般的な行動になっているようです。

最近のカンファレンス講演の後、カゼミは、Twitterのデザイナー達から、カゼミのポイントをどのように自分たちのプラットフォームに適用できるだろうかと尋ねられました。カゼミはそれは不可能だと思うと答えました。「(大手ソーシャルメディアが)これまでと変わらない運営を続ける限り、つまり、 ユーザー数の獲得に投資し、広告収入の増加を目指し、投資ファンドを必要とするのであれば、そうした企業に提供できるアドバイスはほとんどありません」と彼は言います。カゼミが提案しているのは、大手ソーシャルメディアの運営方法とは構造的に異なるものです。プライバシーポリシーの変更やヘイトスピーチへの対抗を試みることはできたとしても、実際のところ、とにかく規模が大きすぎるのです。「大手は今できることをやっているとは思えますが、ほぼ手詰まりに達しています」

この記事はEscaping the Social Media Hellscape: Small, Private Social Networks(著者:Meg Miller)の抄訳です