流し撮りに有効なPOPなカラーのレタッチテクニック #AdobeStock

連載

SNS写真時代を駆け抜けるフォトグラファーの秘訣

XICO(ヒーコ)がオススメする、SNSを中心に活躍しているフォトグラファーから撮影方法や現像テクニックを学んで、Adobe Stockでベストセラー作品を目指してみませんか?日々多くの写真をSNSで目にする中、目を引く写真や印象深い写真には、どういったバックグランドがあるのでしょうか。フォトグラファーのワークフローやマインドを紐といて、売り上げアップに繋げましょう!

今回は、流し撮りを中心に躍動感のある写真が特徴的な氏原正智さんより【流し撮りのスピード感を活かすためのレタッチ方法】についてご紹介いただきます。

はじめに

こんにちは、フォトグラファーの氏原正智です。私はスピードを競うスポーツにおいて、流し撮りを基本とした写真を撮っています。

私の写真で伝えたいことは、ときに生死を懸けて競うスピード感の中で選手たちが色鮮やかに輝くその瞬間です。撮る瞬間がもっとも大事ではありますが、レタッチにおいても、自分の出したい色・迫力に近づけるという役割としてとても重要です。

少し特殊な領域ではありますが、その中で撮影・レタッチを包括して自分の表現を追い求めながら、最近はその表現をストックフォトにも活かせないかと挑戦しています。

表現とストックフォトは正反対のような印象もあるかもしれませんが、個性のある、インパクトのある写真は素材の中で埋もれないという強みがあります。

例えば、広告写真は一枚で目を惹くものが多いかと思いますが、それは一枚のビジュアルにパワーがあるからだと思います。そう考えると、個性がある写真・インパクトの強い写真も需要があるといえます。

今回は、自分なりの「レタッチ」にフォーカスした表現方法・インパクトを強くする方法をご紹介したいと思います。

独自のレタッチノウハウ

写真の仕上がりにおいて一般的に言われる、

など、気をつけるべき点があることも確かですが、私の場合はそれほど神経質には気にしていません。最終的に全てのレタッチは主観的、直感的、感覚的に行われ、狙ったスピード感と鮮やかさが十分に表現されていることを第一に、独自のレタッチノウハウを蓄積した結果、現在のスタイルにたどり着きました。

そのレタッチ作業は、Lightroomにておこなっていきます。

【レタッチの方向性を決める】

オリジナルデータ
カメラ:EOS 5DmarkⅢ
レンズ:EF70-200mmF4L IS USM
シャッター速度:1/4sec
絞り:f/10
iso感度:100

さて、この一枚を見てみましょう。撮影時のJPEG撮って出しの写真はキヤノンのピクチャースタイルが効いているのでもっと鮮やかですが、Lightroom取り込み後何もしていない状態ではピクチャースタイルが反映されないのでパッとしないくすんだ色になっています。

流し撮りテクニカルな面では、シャッター速度1/4秒でライダーを捉えながらも後方に尾を引く彗星流しがバッチリ決まっています。

【印象を細かく分解する】

ここで「パッとしないくすんだ色」という印象になっている要素ともっと良くなりそうな部分を分解してみます。

【導かれるレタッチの方向】

よってレタッチの方向性はこのように進めます。

スピード感を強調する方法

【コントラストを高める】

まずスピード感を強調する方法として被写体、彗星流しの尾の部分に注目します。

拡大表示してみると青枠で囲ったこの部分。ライダースーツの赤と黒の部分が尾を引いていますが赤と黒に明暗差があることに注目。この部分のコントラストを高めることでこの赤い尾が周囲から浮かび上がりよりスピード感が強調されると予想しました。

【コントラストの強調にトーンカーブを使用】

コントラストの強調に使うのはトーンカーブ。

トーンカーブ左上の赤枠で囲った部分をクリックし写真のトーンを変更したい箇所をクリックするとトーンカーブに反映されます。

【S字カーブにして】

青枠で囲った部分に合わせてトーンカーブを調整します。

①で囲った特に明るい部分をクリックしたまま、上にポインタを押し上げます。
次に②で囲った特に暗い部分をクリックしたまま、ポインタを下に押し下げます。

するとこの赤の部分と黒の部分のコントラストが強調されました。

【写真全体にメリハリが生まれ、さらに一工夫】

全体表示で確認してみると、写真全体にメリハリが付き、明るくなったことが分かります。彗星の尾を強調することで目標としていたスピード感の強調を達成しました。

トーンカーブで自然なS字カーブを描くことでも、写真全体のコントラストも強調することができました。このトーンカーブのS字カーブをどれくらい強く曲げるかは経験による部分が大きいですが、赤の部分はやや多めに動かし、黒の部分はやや少なめに動かすといったように、異なる二つの色の差を強調することで写真全体のトーンも上がり露光が高められます。

これだけでも十分かなと思う仕上がりですが、もうちょっと欲張って鮮やかでPOPな色を目指します。

【POPな色を表現したい時に、Adobe風景を選択】

ここで自然な彩度、彩度を強調することで簡単に鮮やかさを手に入れることができますが、このパラメータはついつい強く出しすぎてしまうので、適正値を見つけるのがとても難しいです。

そこでオススメは赤枠で囲った部分の標準のカラープロファイル”Adobe風景”。これを選択するだけで適度に各色の鮮やかさが演出されます。なにより過度な演出を防ぐことができます。

【空の色を色温度とハイライトで調整】

さて、背景のオレンジ、芝の緑は十分に演出されましたが、残りの空の青が当初目論んだほどに十分でないと感じました。

実際に写真として写っているものはここまでだったようですが、違う時間帯、もしくは違う日にもっと空は蒼かったよなという記憶色をちょっと強引に引き出すために右上の段階フィルターを選択。

・色温度-35
・ハイライト-30

とし、空の境目に適用しました。

【完成】

最後の仕上げとして、流し撮りには付き物のセンサーダストによるゴミを除去し被写体を左下に配置するようトリミングして完成です。

いかがでしたでしょうか。

オリジナルではややくすんだ印象でただのブレ写真とも取られかねないイメージの一枚でしたが、レタッチによってPOPなカラーでかつスピード感と背景の美しさを強調した流し撮りに変貌しました。

今回はバイクの写真をご紹介しましたが、他にもクルマ、自転車、電車、タイヤなどの「車輪」の付いた乗り物がおすすめです。理由は、上下動が抑えられて走行時の軌道が安定しているため、流し撮り時の縦ブレが抑えられるからです。

車輪のないものでいうと、馬や犬や走る人などは上下動が伴うため、撮影の難易度が上がります。ですが、その分動感が得やすいという利点もあるので、これが一番!というのはありません。それぞれに合った最適な撮影方法・レタッチができるとより良いと思います。

【ストックフォトにおける撮影・レタッチの注意点】

ストックフォトの場合は、被写体に個人を特定できるナンバープレートや、ユニフォームにつけられたエンブレム・ワッペンに企業名・ロゴなどが写っている場合は、見えないようにレタッチしたり、撮影時に見えないようアングルを工夫する必要があるので注意が必要です。

ナンバープレートについて以前は陸運局にて氏名、住所等の個人情報が簡単に照会できたため、個人情報に該当していましたが、個人情報保護法施行後は照会できなくなったため、個人を直接特定する情報ではなくなりました。ただ、ナーバスに捉えられることが多いためレタッチで消すか、写さないほうがほうが良いでしょう。

【大事なこと】

同じレタッチ方法で仕上げた流し撮り作例
カメラ:EOS 5DmarkⅣ
レンズ:EF400mmF2.8L IS Ⅱ USM
シャッター速度:1/8sec
絞り:f/14
iso感度:200

撮影の段階においては流し撮り写真として被写体がしっかりと捉えられていることと、色を持った背景が織り込まれていることが前提となるため、最低限の流し撮り技術が必要であることは言うまでもないですが、背景を意識した撮影場所を選ぶことも重要となります。

また被写体と背景の境界でコントラストを上げるという考え方は私が独自に思いついた方法ですので、これに拘る必要はなく他の視点を持ったり、全体のコントラストを適切に上げる方法でも十分なケースもあります。が、もし会心の一枚が撮れたのならこの手順も参考に、レタッチでスポーツ写真の表現力のレベルアップを目指してみてくださいね。

作家的表現に挑戦し続ける「流し撮り」

【自分の色を出すことで、刺さる人へ更に刺さる写真に】

難易度が高いながらも、多くの方が挑戦している流し撮りの世界。技術的な面にフォーカスされる方も多いのではないかと思いますが、その中で作家として自分の表現もつらぬきながら、人を惹きつけるものを出すことができれば、趣味の作品から「誰かに響く一枚」に変貌すると思うのです。

【量産型でない、一点ものの作品へ】

特殊なジャンルでありながらも、その中で、ただストイックに技術を追い求めるだけでなく、コンセプトである「選手たちが色鮮やかに輝くその瞬間」をおさめるための表現を追い求めていく行為の中で、レタッチというのはそのサポートをしてくれる大事な要素の一つです。

ですが、リアリティのある写真という意味ではオリジナルの状態で流し撮りが成立している一枚をレタッチで仕上げる方法が一番であり、写真の訴求力も高いものとなります。

Photoshopなどで背景を強引に流し、擬似的に流し撮り写真を作成することもできますが、ホイールの回転や被写体の歪みなどが不自然な仕上がりとなるため、本来の流し撮りと見分けが付く場合が多いのです。

作家としてのスタイルを貫いた、ストックフォトの開拓

【オンリーワンの一枚は、訴求力の高い一枚に】

私の表現したいものを追い求める中で撮り続けている「本来の流し撮りの説得力と表現とを掛け合わせた写真」は、一般的によく見る流し撮り写真とは異なるものです。言い換えれば、オンリーワンの一枚。それらは、多勢無勢の中にあったときに、さらに際立つものになると思います。

多くの写真ラインナップがあるストックフォトの中でも、オンリーワンの一枚は埋没することなく目に留まると言えるのではないでしょうか。

自分の表現を追い求めながら、それは誰かの求める一枚にもなるんじゃないかと、開拓していく気持ちでストックフォトにもチャレンジしています。

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いかがでしたでしょうか?ただいま、Adobe Stockでは作品を投稿して下さるコントリビューター(投稿者)を募集中です。コントリビューター登録がお済みでない方はこちらからどうぞ。みなさまの素敵な作品をお待ちしています。