田中ラオウ 「Fresco+iPadでデジタルはついに手の感覚に追いついた」 Adobe Fresco Creative Relay 01

連載

Adobe Fresco Creative Relay

アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募は簡単、月ごとに変わるテーマをもとに、Frescoで描いたイラストやアートをハッシュタグをつけて投稿するだけです。

3月のテーマはこの季節にふさわしい「桜」。桜の木、桜の花びら、桜を思わせるピンク色……どのように桜のイメージを膨らませるかは自分次第。ぜひ、みなさんがFrescoで描いた絵を #AdobeFresco #桜 をつけてTwitterにアップしてくださいね。

そして、今回からこの企画に連動したFrescoクリエイターのインタビュー連載がスタートします。第1回は、画家にして世界一のカリカチュア・アーティストである、田中ラオウさんにご登場いただきました。

モノクロのサクラマス……そのコンセプトの秘密とは?

「今回、僕が『桜』をテーマに描いたのはサクラマスです。ひねくれてますかね(笑)。最初から水の流れ、水しぶきが桜の花びらになっている絵を描こうと決めていました。そこに春らしく、2匹の鯉を描いてみたのですが、描きあげてみたらこれはiPad Proの画面サイズでしか通用しない絵だなと思って。サクラマス1匹をドカンと出す構成に変更しました」

この絵がどのように見られるかを考えたとき、多くの人はスマートフォン上のTwitterで見ることになります。サムネールとしてみたとき、そしてスマートフォンで見たとき、そしてこの絵がどのような状況で見られるか、最適な見え方をラオウさんは計算していたのです。

「鯉の絵はかなり細かく書き込んでいるんですよ。でも、大きな画面じゃないとそれが伝わらないし、サムネールになったらモチーフすらよく見ないとわからない。なにより迫力もない。サクラマスは鯉ほど書き込んではいませんが、モチーフが伝わりやすいし、絵として力があると感じました。

モノクロにしているのも、#桜 のハッシュタグにはピンク系のイラストが並びそうだから、あえてそうじゃないものにしようと思って。『桜』と聞くと、多くの人はピンクであざやか、あかるい色をイメージしますよね、それなら桜の花びらをモノクロにしても、桜色を想像してくれるんじゃないかなとも思ったんです。#桜 を見ていたらモノクロの魚が出てくる、なぜ?と思って気になってイラストをよく見てみると桜の花びらが流れている、魚も調べてみたらサクラマスだったと気づく。そんな展開をイメージしてこのイラストを描きました」

画家とカリカチュア・アーティスト。ラオウさんの2つの顔

田中ラオウ……名前からは世紀末に君臨する屈強な漢を思わせますが、ご本人は物腰柔らかく、丁寧、誠実な方。株式会社LIGに「画家」として所属し、壁画等のアート事業を手がけるほか、誇張した似顔絵アート「カリカチュア」の世界で世界チャンピオンにも輝いたこともあるという、ユニークな経歴を持っています。

「もともとはグラフィックデザインの専門学校を出て就職する予定だったのですが、内定期間に見たカリカチュアにどうしようもなく惹かれてしまって。毎年世界大会がある、それならそこで世界チャンピオンになろう。そう思ってカリカチュアを始めました」

デザイン事務所を2ヶ月で辞め、カリカチュア専門の会社に移ったラオウさんは修行を重ね、スタートからわずか8年で世界チャンピオンに輝きました。いままでに描いたカリカチュアは30,000人を超え、多い時には1日50人以上描く日もあったそうです。

「50年かかってもいいと思っていたのでうれしかったですね。僕はカリカチュアが絵の中で一番難しいと思っているんです。その人物を現実とは違うかたちに誇張して描いてる時点で、本来だったら似るわけがない。でもその特徴を掴むことによって、かたちが違うのにその人だとわかる。ただ似せて描くより圧倒的に難しいんです。どういうかたちで誇張するかというのも、描き手によってまったく違います。技術的にも想像力的にも、ものすごくクリエイティブです。一般的に見たら“似顔絵の人”と思われているかもしれませんけれど(笑)」

コミカルなイラストレーションを思わせるカリカチュアを描く一方、画家としては日本画、油彩、ペイントアート等、さまざまなアプローチで圧倒的な画力を見せつけるラオウさん。一見、真逆の方向性に見えるふたつの表現も、特徴を捉える観察眼、デッサン力、描画力によって生み出されているという点は変わりません。

「画家としての活動とカリカチュア・アーティストとしての活動、いまの割合は8:2くらいですね。カリカチュアの世界チャンピオンという肩書きを上書きできるくらい、画家としても活躍したいと思っています」

デジタルツールとの出会いとあきらめ

田中ラオウさんがイラストにデジタルツールを使い始めたのは今から10年ほど前。憧れのカリカチュア・アーティストがデジタルで描いていると知ったことがきっかけでした。

「Jason Seilerさんという僕が初めて世界大会に参加したときに優勝したアーティストがいるんですけど、その人がデジタルでものすごい写実的な絵を描いていて。憧れましたね。自分もデジタルで描かなきゃと思って、Photoshopとペンタブレットを買い揃えました。

でも当時の僕はデジタルツールを使えば、苦手な写実表現もできるようになるんだ!と勘違いしていて。いざ、Photoshopにペンタブレットで描いてみたら、全然、思ったように描けなかった。そりゃそうですよね、デジタルは道具のひとつにすぎないのですから(笑)」

そのあとも幾度にもわたって、ペンタブレットを使ってデジタルで描こうするものの、反応速度が遅い、ペン先の位置と描画がずれる等々、さまざまな理由でイラストそのものをデジタルで描くことはあきらめつつありました。Photoshopを使うのは、線画に色をつけるとき。それ以外は手描き、それが長くラオウさんの基本スタイルになりました。

しかし、2019年、“手描きのようにデジタルで描く”というラオウさんの理想を実現するツールが登場します。それこそが、iPad ProとApple Pencil、そして、Adobe Frescoでした。

Frescoが切り開いた、新たな制作スタイルと表現

iPad ProとApple Pencilで手の感覚とデジタルの描画のギャップがなくなり、ようやく「これなら描ける」と思えるものに出会えたラオウさん。いまはまったく不満なく、Frescoで絵が描けるようになったそう。ラオウさんにはとって、鉛筆画みたく手描きのように描ける感覚こそ重要だったのです。

一方でFrescoを使うようになったことで広がった表現、制作スタイルもあるそうです。

「僕は画家として壁画を描くことがあるのですが、その下絵はFrescoで描くようになりましたね。その下絵をプロジェクターで壁に投影して描いていくんです。アナログの頃と比べるとすごく手軽になりました。画材を持ち歩かなくても、いろいろな表現ができるので、外出先でアイデアをまとめるのにも便利ですし、デジタルならでは高いクオリティの絵も描けるようになってきたと実感しています」

デジタルツールというと豊富な機能も魅力のひとつですが、手描きではできない表現や、機能を駆使した描き方も追及されているのでしょうか。そして、ラオウさんがデジタルツールに求めるものは何なのでしょうか。最後に聞いてみました。

「極端な話、僕はアプリの機能を使いこなす必要はないと思っています。Frescoにはすでに現実より多くの機能が搭載されているし、機能に不足があるとは思えません。好きなペン、好きなブラシがひとつ見つかるだけでも価値がある。こう描いてみたいという想いがあって、それに必要な機能を少しずつ覚えていけばいいと思います。

自分の生活を豊かにするために、Frescoのような道具を使う。そのとき、“描いていて楽しい”っていう感覚があれば、何も知らないまま触ってもいいくらいだと思います」

USのYouTubeチャンネルでも事例ムービーが公開されています。

画家
田中ラオウ Raou Tanaka
株式会社LIG アート事業部 Web|https://www.raou-tanaka.com
Twitter|https://twitter.com/raoutanaka
Instagram|https://www.instagram.com/raoutanaka/
blog(LIG)|https://liginc.co.jp/author/tanaka_raou