今だから考えたいテレワーク導入——アドビが提案する安心・安全で働きやすい環境づくり

2020年2月28日、東京・霞ヶ関で「変革の現場から学ぶ本当の働き方改革」セミナーが開催されました。世界的に感染が拡大し続けている新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の影響もあり、急遽オンライン配信も並行して実施された本セミナーは、今だからこそ、在宅勤務、モバイルワーク、施設利用型を含むテレワークの導入や働き方改革に真剣に取り組みたいビジネスパーソンの方々に数多く参加・視聴いただきました。このセミナーで語られた調査結果や事例から、テレワーク導入で安心・安全な仕事環境を整備し、生産性を上げるためのヒントをご紹介します。

BCPの観点からも必須となったテレワーク

東京・霞ヶ関のイイノホール&カンファレンスセンターで開催された「変革の現場から学ぶ本当の働き方改革」セミナーは、空席がやや目立つ状態でスタートしました。その原因は、世界中で猛威を奮う新型コロナウイルスです。

セミナー最初に登壇した総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報流通高度化推進室の澤田誠氏は、この未知のウイルスに対する企業や行政の施策について、「国や東京都からは、従業員が休みやすい環境整備と共に、時差通勤やテレワークの推進を呼びかけています」と状況を説明し、実際にテレワークを積極的に導入した企業の取組事例を紹介しました。

総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報流通高度化推進室 澤田誠氏

澤田氏が所属する情報流通高度化推進室は、総務省において企業のテレワークの普及展開を推進しています。場所や時間を有効活用できるテレワークは、労働力減少時代における生産性向上の切り札であり、地方創生や一億総活躍社会、働き方改革の核としてこれまで取り上げられてきましたが、「現状は、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の一手として注目されています」と、澤田氏は説明します。

そもそもテレワークは、生産性向上や人材確保などの企業側の課題と、少子高齢化や地域の疲弊、低い経済成長といった社会課題が大きくなるなか、進化を続けるICTイノベーションを取り入れて、近年発展してきた新しい働き方です。平成30年度年次経済財政報告(内閣府)によると、テレワーク導入企業の6割以上で労働時間が減少しており、またテレワーク単体/テレワークを組み合わせている企業では、13〜18%生産性が向上しています。そのため、総務省でもさまざまなテレワーク推進施策を行なっています。

そうしたなか、テレワークを導入している企業は19.1%(総務省 平成30年通信利用動向調査より)で年々増加の傾向にあるが、中小企業におけるテレワーク導入推進が重要と話します。「テレワークに適した仕事がない」という理由に加え、ICTに関する人材不足や社内コミュニケーションへの不安もネックになっています。

この課題を解消し、全国的なテレワークの普及拡大を推進するため、総務省は令和 2 年度から新たな施策として「テレワーク・サポートネットワーク」の実施を検討しています。各地域における中小企業支援の担い手となる主体と連携し、専門の相談窓口を設け、中小企業テレワーク人材の派遣や費用・ノウハウを支援する想定です。

澤田氏は最後に「感染症対策、そして東京オリンピックの混雑緩和に向け、この機会にテレワークを導入して、安心・安全で生産性の高い環境を作っていくことをお願いします」と話し、講演を終えました。

テレワークの「壁」は紙! Adobe Document Cloudで実現する業務改革

続いて登場したのは、アドビ マーケティング本部 デジタルメディア ビジネスマーケティング執行役員の北川和彦です。北川は「何も準備せず、いきなりテレワークを導入するのは非常に難しい。業務効率や業務改革があってこそ、テレワークが実現します」と断言します。

アドビ マーケティング本部 デジタルメディア ビジネスマーケティング執行役員 北川和彦

アドビがテレワーク導入企業に勤めるビジネスパーソン500名を対象にアンケート調査を行なったところ、「生産性が上がった」と感じている人が85%もいる一方で、業務を推進するうえでの課題を感じている人も多いことが明らかになりました。

特に多かった課題が、「会社にある紙の書類の確認ができない、そのために出社する必要がある」(65%)というものでした。また、「自分以外の仕事の進捗が把握しづらい」という意見もありました。テレワークを支援するクラウド型の業務ソフトやコミュニケーションツールが浸透するなかで、紙の存在が足かせとなっているのです。

アドビが得意とするのは、これまでデジタルに組み込めなかった紙の書類をデジタル化し、紙ベースの業務プロセスを大きく効率化して改革すること。これを実現するのが「Adobe Document Cloud」です。スマートフォンやタブレットのカメラで紙をスキャンしてPDF化する「Adobe Scan」を使い、「Acrobat DC」でPDFをクラウドに格納すれば、会社に行かなくてもリモートで書類が確認できます。修正作業もAcrobat DC上でできますし、部門全員による書類レビューはもちろん、「Adobe Sign」によって上長までの承認フローを構築することで、リモートですべての業務を完結させることも可能です。

実際、川崎汽船グループで国際物流を担うケイライン ロジスティックスでは、物流の申請などに必要な紙書類のやり取りをAcrobat DCに置き換えることで、大きな成果を上げています。

ケイライン ロジスティックス 情報システム部 システム二課 課長 持山友美氏

北川に続いて登壇したケイライン ロジスティックス 情報システム部 システム二課 課長の持山友美氏は、「PDFファイルを印刷して手書きで修正し、スキャンして再PDF化していた非効率業務が解消され、業務効率が大幅に改善しました」と説明します。情報システム部門には「PDFからExcelに変換してほしい」という依頼が殺到していたそうですが、Acrobat DC上で業務を進められるようになったことで、情報システム部も本来業務に集中できるようになったそうです。

働き方改革の目的は「イノベーション創出を加速すること」

最後に講演を行なったのは、リクルート 執行役員(人事・総務担当)の野口孝広氏です。

リクルート 執行役員(人事・総務担当)野口孝広氏

リクルートというと、次々と新しい事業を創出する企業というイメージがありますが、設立されたのは、高度経済成長期の1960年のこと。「今年(2020年)創立60年を迎えるわけですが、その間にビジネス環境も時代も大きく変わり、リクルート自身も時代に合わせて変化していく必要がありました」と、野口氏は説明します。

右肩上がりの時代からバブル期へと経るなかで、長時間労働が当たり前という時期もありましたが、「家庭と仕事の両立が難しい」ということで、退社していった優秀な女性社員が多数いたそうです。そこで取り組んだのが働き方改革ですが、野口氏は「手段が目的であってはなりません」と強調しました。

「働き方改革の目的とは、テレワークやサテライトを実現することではなく、イノベーション創出を加速させることです。テレワークがイノベーションを興すわけではありません」(野口氏)

では、どのように改革を進めたのか。野口氏によると、働き方改革のポイントは「小さく限定的に進め、成功したものを広げ、失敗したらそこから学ぶ」という姿勢だそうです。

たとえばテレワークに取り組んだところ、仕事における事前の段取り力や余剰時間の使い方など、個人スキルの差が顕著になり、またテレワークを行いやすい/しにくい業務内容があることが明らかになりました。こうした事実を把握し、どのように改革のKPIを設定すべきか、どのように人事評価を行うべきか、学ぶべきことは非常に多かったそうです。テレワークの導入により、オフィスの座席数、会議室の削減は可能とのこと。

密室で行わなければならない会議は意外と少ないが、他の社員とのコラボレーションをする場所のニーズは高かったことから、会議室をオープンスペースに移行するといったオフィス改革を行うなど、リクルートの改革は今も進んでいます。

働き方改革の肝はマネジメントのコミュニケーションスタイル

テレワーク成功の鍵を握るのはマネジメントのコミュニケーションスタイルです。野口氏は「コミュニケーションスタイルは人によって変えるべき」と話します。トップダウンオーダーのみのコミュニケーションではなく、「どういう風に使うのが良いと思う?」などボトムアップの期待をかけるコミュニケーションが効果的だということです。

業績を上げつつメンバーのスキルを上げることができるマネージャーの特長は「リアルタイムフォードバックが上手」「あえてやってほしい仕事を自分の悩みとしてメンバーに相談し、自ら仕事に手を上げさせる『手上げ誘導』を行っている」といった紹介もあり、参加者はメモを取りながら熱心に聞き入っていました。リアルタイムフィードバックはテレワーク時に使うチャットツールとも相性が良いそうです。

野口氏は働き方改革推進における重要事項として、試行錯誤を是とする、目的を明確にする、小さく実験し検証を続ける、自立した個人と主体性を引き出すマネジメントの4点を挙げ、講演を締めくくりました。