「書くことはデザインすること」アンディ・ウェルフレが語る言葉とユーザー体験の関係 | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

人間中心のデジタル製品開発において、言葉はビジュアルデザインやブランディング、コーディングと同じくらい重要で、同じくらいたくさんの思考を必要とします。言葉がなければ、アプリは使い方の分からないシェイプやアイコンの羅列となり、音声インターフェースやチャットボットに至っては存在すらしないでしょう。

アドビのUXコンテンツ戦略マネージャーであるアンディ・ウェルフレと、彼の友人でありワークショップパートナーでもあるマイケル・J・メッツは、このトピックを扱った「Writing Is Designing(書くことはデザインすること)」という本を出版しました。その目的は、書くことをデザインの実践として捉えるコピーライター、コンテンツストラテジスト、サポート技術者、プロジェクトマネージャー、デザイナーなど、すべての企業で働く「書き手」達に力を与え、彼らがインターフェースで使われる言語を、明確に、一貫性を持って、会話的に書くために必要なツールを与えることです。

アンディ・ウェルフレとマイケル・J・メッツの新しい本Writing is Designing: Words and the User Experienceの表紙でデコレーションされたケーキ。

出典: Karina Mora

この本の出版を記念して、アンディにUXライティングと言葉を意識したデザインについて聞きました。そして『書くこと』と『デザイン』がお互いにどのように関係しているのか、『ボイス』と『トーン』の違い、効果的なユーザー体験のつくり方などを尋ねました。

UXライティングが注目を集めるようになったのはなぜでしょう?書くこととデザインにはどのような関係がありますか?

ソフトウェアのインターフェースのために言葉を書く人は常に存在してきました。しかし、伝統的には、それは後付けに近いものだったり、別の部署の異なる原則で働く人々によって行われたものでした。ところが、UXの実践がソフトウェアの機能やシステム全体にどんどん重要になってきたことで、UXの方法論が書くことに実際にどのように役立つのかを理解できるようになったのだと思います。

(なお、この記事で私が『UXの方法論』と言うとき、それは製品を構築するためのユーザー中心のアプローチ、つまり実際のユーザーの問題を解決することに焦点を当て、できるだけシンプルで明確にすることを目的としたものを指しています)

UXデザイナーがブランド要素をデザインに使いやすい形で取り入れるのと同じように、UXライターはブランドの声を製品の中でどのように表現するかについて考えます。デザイナーがボタン、フォーム、ダイアログボックスなどのコンポーネントについて考えるように、UXライターは用語やアクションを促す言葉について考えます。

それはまったく同じアプローチです。調査に基づき、反復的で、コラボレーションに依存し、テストによる検証を行います。UXデザイナーとUXライターは全く同じ目標を共有します。ただ、そのために使用する素材がちょっと異なっているのです。

マイケル・メッツとアンディ・ウェルフレの著書『Writing is Designing』は、テーブルの上で予定帳、コーヒーマグ、マジックマウスの隣に置いて読む本です。

アンディの著書『Writing Is Designing(Rosenfeld Media刊)』 出典:Michael J Metts

読者は『Writing is Designing』から何を学べるのでしょうか?

私の期待は、読者がUXライティングの基本的な考え方を学ぶことです。具体的には、メッセージが明確で簡潔であるよう注力することがなぜ重要なのかという理由と、それを実践するための方法です。

私たちは、エラーメッセージとストレスが発生する状況を掘り下げて、それらがどのような目的に役立つかについてのヒントを示しています(例: 最良のエラーメッセージとは、そもそも存在する必要がないものです)。そして、『ボイス』と『トーン』のような概念の違いを掘り下げ、戦略的に一貫してそれらにアプローチできるシステムを提供しています。

効果的なユーザー体験の作成と提供において、ボイスとトーンはどの程度重要ですか?

それらは非常に重要です。ボイスは、製品がユーザーとの関係を築き、企業のブランドを浸透させるのに非常に効果的な方法です。場合によっては、その2つが一致します。Slackの企業ブランドのボイスは製品のボイスと同一です。同じ言葉を選び、同じ価値観を示し、同じ方法でユーザーに語りかけています。

一方、アプリのボイスと企業ブランドのボイスが異なるときもあります。もちろんそれも構いません。アドビの場合、企業ブランドは、顧客にアートとサイエンスの交わる場所として伝わるように話しています。顧客の創造性を支援することに、情熱的で魅了されていて本当に興奮している企業です。

しかし、一旦、顧客がユーザーになり、アプリをダウンロードして使い始めたら、より細分化されたボイスを追求する必要があります。特にデスクトップソフトウェアのインターフェースは複雑で専門的なものが多くなります。それをユーザーに使ってもらうために、優先順位が「可能な限り明確に」することに変わります。このようにアドビではブランドと製品に違う目標と原則を持っています。

ボイスは常に一貫した体験であるべきですが、トーンを使用することで、状況に応じてコンテキストを切り替えたり、ユーザーに適切に応答したりすることができます。私の声はひとつですが、母親、同僚、上司、大学のルームメイトの誰と話しているかによって、私の口調は変わります。うれしいか、悲しいか、怒っているかによっても変わりますし、話している相手がうれしいか、悲しいか、怒っているかによっても変わります。

UXライティングにも同じことが言えます。調査をすることで、ユーザーにどのような印象を与えるかを判断できます。

アンディ・ウェルフレ(右)と共著者のマイケル・メッツは『Writing is Designing:Words and the User Experience』の発表会で講演を行った。

アンディ・ウェルフレ(右)と共著者のマイケル・メッツは本の発売時に講演を行った 出典: Karina Mora

デジタル製品のトーンを設定するにはどうすればよいのでしょう?

私がFacebookで働いていたとき、トーンのフレームワークを開発することの重要性を学びました。微妙な書き方のニュアンスが、大きな書き手のグループ全体に行き渡るようにするためです。ジャスミン・プロブスト(この本のトーンの章でインタビューした相手です!)とスーザン・グレイ・ブルーによる、Facebookでのトーンフレームワークの開発についての素晴らしい記事を読んでみてください。

このプロセスにおいて最も重要なパーツのひとつは、ユーザーが遭遇する可能性のあるすべてのシナリオについて質問することです。Facebookのコンテンツ戦略チームによると、自問すべき質問は以下のようなものです。

こうした質問が、トーンのフレームワークを作成するのに役立つでしょう。

この話題については、説明する必要のある内容が多すぎます。この先は本で読んでください。

あなたが働いてきた企業以外で、UXライティングを上手く行っているブランドの例を教えてください

私はライドシェアリング企業LyftのUXライティングの努力を本当に尊敬しています。初期の頃は少し書き損じなどもありましたが、今では素晴らしい仕事により、Lyftブランドのボイスを適切に捉えるだけでなく、複雑なコンセプトをシンプルかつ文脈に沿った方法で説明していると思います。

彼らはインクルーシブな書き方の実践においても業界をリードしてきました。ユーザーが代名詞を選べるようにしたり、障害のある運転手のために選択肢を提供した最初の一社です。

運転手が耳が聞こえないか耳が聞こえにくいため、電話する代わりにテキストメッセージを送るべきだとLyftの乗客に伝えたプッシュ通知。この通知には、米国手話で通信するための手順へのリンクが含まれている。

Lyftの乗客ローレン・カッジアーノが受け取ったプッシュ通知は、運転手の耳が聞こえないか難聴であるため、電話をかける代わりにテキストメッセージを送るべきだと女に伝えた。更に、米国手話で運転手に話しかける方法についての情報まで用意されていた

どのようにして、デザインチームがしっかりとした書き方を身につけられるようにしていますか?

これは良い質問ですが、難しい質問です。というのは、チームによって大きく異なるからです。アドビでは、私は300人以上いるデザインチームの最初のUXライターでした。雇用枠が増えるまでの一年余り、その状態が続きました。その間、私は二方面からアプローチしました。

まず、製品デザインチームに入り込み、アドビが製品を開発する方法を深く理解しました。その際に、柔軟で、書き手がどんな影響をを与えられるかを試すゲーム好きなチームを見つけることが重要です。

次に、積極的に伝道者になる必要があります。私はすべてのチームの週次ミーティングに参加してUXライティングの価値を広め、リソースを求めるだけでなく、デザイナーに言葉に関心を持たせ、デザインツールとして言葉をどのように使えるかを伝えました。

なぜマイケルとこの本を書く気になったのですか?

マイケルとはじめて会ったのは2014年のことで、インディアナポリスのMidwest UXで彼が教えていたコンテンツ戦略のワークショップに私が参加した時です。出会ってすぐに意気投合しました。ちょうど私はインディアナ州フォートウェインの小さなWeb制作会社を辞めて、Facebookのコンテンツ戦略の仕事のインタビューを受けるところでした。彼は私が最初に出会った製品のUXに関わる人々の一人だったので、彼に多くの質問をしました。

その後、2015年のedition of Confab(おそらく世界最大のコンテンツ戦略のカンファレンスです)で私たちは再会しました。私たちはランチの席で、インターフェイスのための言葉を書くことや、デザインチームとライターが協力する方法など、私たちが興味を持っていることを扱うワークショップやトークが実際になかったという話をしました。最後に彼は、「それなら自分たちでそうしたワークショップを開催するのはどうだろう?」と提案しました。

私たちはConfabにそれを売り込みました、そして、彼らはそれを受け入れました!私たちは4年に渡ってConfabのワークショップを行い、他の州や国でも行ってきました。

最終的に、クリスティーナ・ハルヴァーソン(Confabを運営するBrain TrafficのCEO)は、私たちをUX book publishing houseのオーナーである ルー・ローゼンフェルドを紹介してくれました。彼はUXライティングについての本の著者を探していて、かなり綿密なプレゼンテーションとアウトライン作成のプロセスを経て、私たちが本を執筆することになりました。

マイケルと私はとても上手く協力し合えています。彼はシカゴにいて、私はサンフランシスコにいますが、お互いを補い合う働き方をしています。私たちの一般的な関心事と実践方法は、確実に同じ目標に向かって書くには十分に近いものです。同時に、包括的なコンテンツを提供するには十分に異なっています。

あなたの本以外に、デザイナーが言葉を書くスキルを向上させる方法はありますか?

大規模な組織内のデザインチームで作業している場合は、他の組織でもライターを見つけられるでしょう。彼らと交流したり、デザインミーティングに招待することをお勧めします。また、デザインをテストするときには、インターフェイスで使用する言語と用語に時間を割くようにしましょう。言葉は視覚的なレイアウトやインタラクションフローと同じくらい重要で、時にはそれ以上に重要になることもあります。

言葉を書くことをデザインプロセスとして考えれば考えるほど、ユーザー体験を共有する言葉の力が明らかになってくるでしょう。

この記事はWriting Is Designing: Andy Welfle on Words and the User Experience(著者:Oliver Lindberg)の抄訳です