オンライン開催された #AdobeSummit 、そのデジタル化の舞台裏
私たちは過去10年に渡り、お客様、パートナー、コミュニティー、メディア、そしてアナリストの皆さんを会場にお招きし、デジタルエクスペリエンスの年次イベントAdobe Summitを開催してきました。この年間最大規模のカンファレンスの開催には、組織横断で膨大な量の作業が求められますが、私たちは、参加者に素晴らしい魅力的なSummit体験を提供することに注力してきました。
しかし1か月前、すべてが変わりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、23,000人を超える参加者を集めるラスベガスでの対面イベントを、大規模なバーチャルイベントへと移行することが決定されたのです。さらに計画は発展し、2020年3月31日(米国時間)の開催に向けて、Adobe Summitを誰でも無料で利用できる、オンデマンドコンテンツ満載の、エクスペリエンス ビジネスを実践する企業、エクスペリエンス メーカーのコミュニティを活気づけるためのオンラインイベントと位置づけることになりました。
この記事では、アドビのエクスペリエンスマーケティング担当バイスプレジデントのアレックス アマドに取材し、Adobe Summitをわずか4週間で対面式からオンラインに変えた舞台裏をご紹介します。彼は、重要な決定がどのようになされたか、セッション、基調講演、およびデモの制作と管理に不可欠だったツールとはなにか、そして前例のない状況で開催された完全デジタルのAdobe Summit 2020の実現に向け、関係者全員が迅速に対応した様子について語りました。
この前例のない状況で、アドビは大規模な対面イベントをキャンセルした最初の企業の1つでした。Summitのオールデジタル化はどのようにして決定されたのでしょうか?
アドビは人を大切にする企業ですので、社員と参加者の健康および安全の確保は、Summitのラスベガス開催中止を検討する議論すべてにおいて重大な懸念点の1つでした。当社のグローバルセーフティー&セキュリティー担当チームの協力により、感染拡大の状況について当時入手できた情報の収集と分析を行ったところ、23,000人の参加者を一か所に集めて安全に開催する方法は存在しない、ということがすぐに明白となりました。
アドビにとってのSummitの重要性とは?
Adobe Summitは、私たちのツールを日々ご利用いただいている皆様に、ハイレベルなビジョンから詳細なコンテンツまでさまざまな情報をお届けし、より深いレベルで繋がるための年に一度の最高の機会です。
Adobe Summitはまた、毎年実施されるAdobe Experience Cloudの大規模アップデートをいちはやく直接お披露目する場でもあります。最新テクノロジーのデモンストレーションを行い、アドビがどのようにデジタルエクスペリエンスの未来を牽引しているかをご紹介します。さらに、その後1年間の優先事項、テーマ、技術ロードマップを披露し、私たちの取り組みの方向性を示す機会でもあるのです。
対面からライブ、そしてオンデマンドへと、戦略の転換はどのように行われたのでしょうか?
当初の対応策は、カリフォルニア州サンノゼにあるアドビ本社でAdobe Summitの基調講演を撮影するというものでした。グラフィックが180度に展開されるドラマチックなオールLEDのステージを設営し、ライブ観衆の前で収録するつもりでした。アドビのイベントの特徴である、視覚的なインパクトを与えるデジタル体験をデザインしたかったのです。
しかし、健康へのリスクが深刻化するにつれ、ライブステージ中継の収録を行うためには、それがどのような方法によるものであれ、セットデザイナーからプロデューサー、メークアップアーティスト、電気技師、音響技師、カメラオペレーター、そして何十人ものプレゼンターやゲストまで、大人数のチームが一同に介する必要があることに気づきました。そこで、私たちは「ライブステージ中継」を断念する決断をしました。イベント開催日のちょうど2週間前のことです。
ライブ中継の可能性がなくなった時点で、「自分たちのストーリーを、洗練されたドラマチックな形で伝えられない状況で、それでもSummitを開催すべきか」を検討しました。その結果、企業がより有意義な顧客との結びつきを求めてデジタル体験のオンライン提供に取り組んでいる今だからこそ、配信の形式にかかわらず、私たちがお客様に伝えたいストーリー自体が価値を持つのだ、と結論づけました。たとえリビングルームでの収録を余儀なくされたとしても、オーディエンスにとって価値あるコンテンツが提供できると判断しました。
今、誰もがオフィスやダイニングルーム、キッチンなどでビデオ会議をするという、新たな常識や環境を受け入れる「ニューノーマル」の時代になっています。そこで私たちは、同じようにありのままで嘘偽りのない方法でメッセージをお届けすることにしました。つまり、当社の幹部やシニアリーダー陣が、webカメラを使用して自宅で直接コンテンツを収録するという手法を取り入れたのです。
オンデマンドとなったデジタルのAdobe Summitでは、どのような体験を提供しているのでしょうか?
驚異的な量のコンテンツを収録しました。データ、インサイト、コンテンツ、コマースからカスタマージャーニー管理その他まで、幅広いトピックを網羅した140本以上のビデオです。また、シニアリーダーや事業責任者によるビジョンおよび戦略のセッションや、詳細なブレイクアウトセッションもあります。さらに、世界中に広がるオーディエンスのために、主要なコンテンツは英語の他にフランス語、ドイツ語、日本語で配信されました。これらのコンテンツはすべて、Adobe Senseiの人工知能(AI)エンジンを活用した関連コンテンツのレコメンデーションを含め、Adobe Experience Managerを使ってカスタマイズされたwebエクスペリエンスとして提供されています。
そして、アドビの研究開発部門から生まれた最も有望なテクノロジーをプレビューするAdobe Sneaksも、これまではイベント会場に集まったオーディエンス限定でしたが、今回は当然ながらオンラインでの公開となりました。Sneaksで発表されるテクノロジーは、データサイエンス、AI、および製品機能における研究の生の成果であり、その多くは今後数年のうちに、Adobe Experience Cloudソリューションの本格的な機能として採用されます。いくつかのテクノロジーは発明者自身によって発表されるため、当社の研究室に足を踏み入れたような気分を味わえます。
撮影中に起こった面白いエピソードはありますか?
通常の映像収録の場合は、照明のセッティングや撮影を含め、高品質なビデオの制作に必要なすべてを社内のビデオチームが行います。今回の場合は、各プレゼンターとのビデオ会議でそれを補いました。経営幹部たちには彼らの自宅のバーチャルツアーをお願いし、最適な撮影場所や光源をアドバイスしました。幸いなことに、彼らはみなコンテンツの配信に強くコミットしており、この異例のプロセスを快く受け入れてくれました。
この濃密なプロセスを経て、私たちは多くのことを学びました。ひとつは、ビデオを自己収録できるようトレーニングするためのノウハウを確実に強化できたことです。私たちは、ドキュメント類とトレーニングビデオを用意し、プレゼンターが自分でより良いビデオを収録できるように、撮影場所、衣装、カメラの位置、身振りなどについてのアドバイスを提供しました。このことで、今後のウェビナーもこれまで以上に素晴らしいものになると確信しています。
このような大規模なデジタルイベントを計画するには、コラボレーションが必須ですが、最も役に立ったツールは何ですか?
このイベントの準備において、コラボレーションはまさに最重要事項でした。昼夜を問わず多くのビデオ会議が開かれ、スプレッドシートやドキュメントがいくつも共有されました。また、アドビ自身のテクノロジーもイベントの実現に欠かせませんでした。webエクスペリエンスは、AIとマシンラーニングのフレームワークAdobe Senseiを使って関連性の高いコンテンツやレコメンデーションを提示できるAdobe Targetを併用し、Adobe Experience Managerで生成して提供しました。また、Adobe Creative Cloudのツール全般も活躍しました。ビデオコンテンツを非常に迅速かつ効率的に制作できた最大の要因は、Premiere Proをビデオ編集に使用したことにあります。Summitのオンラインエクスペリエンスのデザインとプロトタイプ作成には、エクスペリエンスデザインツールのAdobe XDも使っています。XDを使用したことで、1つのクラウドファイル上でWebサイトの様々な機能やページに複数のデザイナーが自宅からアクセスし、同時に作業できました。このおかげで、数週間しかない限られた時間内でもすべてを実現することができました。
もちろん、すべてAdobe Analyticsで計測されているので、Webサイトとモバイルアプリの両方でどのコンテンツが最もパフォーマンスが高いかを確認でき、真の意味でオンデマンドな、つまりお客様のニーズに応えた、いつでもどこでも体験できる顧客体験を提供できます。
Adobe Summit 2020で得た経験は、今後の戦略にどのような影響を与えるでしょうか?
今後Summitが独立したイベントサイトではなく、メインサイトに統合された、Adobe.comの不可欠な一部となっていくことは明らかです。私たちはSummitのコンテンツをアドビのデジタルビジネス全体で共有することとなり、お客様にとっては常時利用可能なリソースとなります。Adobe.comが、デジタルトランスフォーメーションの推進および優れたデジタル顧客体験の提供に役立ち、各業界リーダーからの助言も提供できる最高のコンテンツハブになることを目指しています。
さらに、これは私たちにとって、時間の経過とともにさらなる最適化が可能であることも意味します。訪問者が最も魅力的に感じるものが何かというインサイトを基に、さらに多くのコンテンツを制作できるようになるでしょう。時間が経てば経つほど良くなっていくというのが最大の利点です。
※本記事は、2020年4月4日にアドビのソートリーダーシップ部門のコンテンツストラテジスト、クリスティーン ハムレット(Kristine Hamlet)が投稿したブログの抄訳版です。