CMFデザイナーによるSUBSTANCE活用 – 自動車内装デザイン

Substance Source自動車業界向けコレクションのリリース、SubstanceのコンセプトカーモデルX-Taonの製作につづいて、自動車部品メーカーのFaureciaと提携して、新しいカーシートのコンセプトをビジュアル化するプロジェクトに取り組むことになりました。

実際にSubstanceツールを利用している業界の事例を見る貴重な機会となります。

このプロジェクトでは、Anthony Salvi(Allegorithmic、クリエイティブテクノロジスト)とDamien Bousseau(Substance Source、シニアテクニカルアーティスト)が、Marion Buhannic氏(Faurecia社、カラー&トリムデザイナー)と共同で、見事なシートのレンダリングを作成しました。

全員の快諾を得て、シートのデジタルマテリアルからテクスチャまで、3Dで作成する詳しい手順を紹介します。プロの照明を入れたパックショットを作成するヒントとコツもご覧ください。

まずはじめに、Marion(Faurecia社、カラー&トリムデザイナー)から、ご自身の略歴とFaureciaでのプロジェクトの成り立ちについてお話いただきます。

**Marion:**CMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ加工)デザイナーは、工業デザインチームの一員として、自動車のあらゆる素材=マテリアルを担当します。革シボの厚みから塗装の触感まで、マテリアルを定義します。新しいトレンドの兆し、画期的な素材や仕上げ方法がないか、常に注意して探しています。マーケティング、コミュニケーション、エンジニアリングチームと連携して、お客様のニーズや希望をかなえる次世代の内装の開発に努めています。

私は高校卒業後すぐにCMFデザインを専攻し、そこで専門デザイナーとしての基礎知識を身につけました。その後、パリのマテリアルデザインスクールに進み、修士号を取得しました。

自動車業界のCMFデザインは、マテリアルに高レベルの仕様が求められることもあって、簡単ではありません。実際の生産段階と同様に、常に製造コスト効率を考えながらマテリアルを選択する必要があり、その結果、マテリアルにはいくつもの制約が課されます。

私自身が3Dモデルを作成することはありませんが、デザイナーやエンジニアからデータを受け取ります。また、リサーチ、提案、リアルなレンダリング、マテリアル定義をおこなう際に、日常的なCMF業務の一環で3Dデータを使用しています。

しかし残念なのは、マテリアルの組み合わせが実際の複雑な自動車の内装でどのように見えるかを示せないことです。また、今のところ2Dツールのみで作業しているため、リアルな3Dパターンを自らの手で示すことができません。

Faureciaで未来のモビリティを推進しているのが、「Cockpit of the Future」という部門です。この部門では、未来の自動運転車市場の需要に応じて、今後数年以内に実用化される車を製作します。

このシートは未来のテクノロジー予測であり、フレームは今後数年で自動運転車に搭載される可能性のあるものです。実際の生産を想定したシートで、手頃な価格の自動車用ファブリックで作られています。

このシートのレンダリングで特に難しかったのが、グレーの濃淡で表される全てのマテリアルを認識し区別することでした。ファブリックは主に小さな織物構造のため、ビジュアル化は非常に複雑な作業です。

以前行ったレンダリングでは、写真というよりも絵画のように見えました。そこが課題です。

1.マテリアルのスキャン

**Marion:**これまで何回マテリアルをスキャンしたかわかりませんが、一度も納得のいくツールはありませんでした。以前は、通常のスキャナーでマテリアルをスキャンし、Photoshopで境目を処理してテクスチャを作成していました。その後、テクスチャを編集して、スペキュラレベルとバンプレベルを整えた画像を作成しました。

ここで問題がありました。私はスキャナーから取得したデータにもとづく本物のテクスチャを作成したのではなく、画像を加工しただけです。画像だけでなく、実際のデータを利用すれば、バーチャルマテリアルの品質が明らかに向上します。

**Damien Bousseau:**フォトリアルな画質でシートをビジュアル化するには、マテリアルの正確な作成が必要です。つまり、プラスチックのざらつきと艶のレベルから複雑な生地の織り方まで、各マテリアルのサーフェスを再現する必要があります。この事例では、FaureciaのサプライヤーからMarionが選択したサンプルをスキャンすることにしました。そのため、非常に正確に織り方のディテールを取り込むことができました。

手順は次のとおりです。

2.Substance Designerによるスキャン処理

**Damien Bousseau:**Substance Designerでスキャン処理をおこなうと、タイリングに対応するデジタルマテリアルを作成できます。処理に必要なすべてのノードを含む専用テンプレートが用意されています。ポストプロセシングパイプラインのエントリーポイントは、スキャンデバイスでマップを生成することです。つまり、市販のものでもDIYでも、どのスキャンデバイスを使っても構いません。

マテリアルを生成する主な手順は以下のとおりです。

最初に、元画像の縦横比を保つため、クロップツールを使用します。

次にすべてのマップを一括してSmart Auto Tileノードで処理し、ファブリックの繊維を縫い目に沿って揃えます。これで、タイル可能なマテリアルができ、元のサンプルのサイズより大きくても、継ぎ目なく複製できます。

次に、繊維の色、色の配置、ファブリックサンプルの穴など、その他の問題を解消します。ファブリックの小さな不具合の解消には、Clone Patchノードが役立ちます。スキャン時に気づかなかったほこりや髪の毛などを除去できます。このノードでは、織布の一部をコピーし置換できます。この機能は、元のサンプル自体に糸の引きつれなどの問題がある場合に特に役立ちます。

**Marion:**バーチャル版(Substanceでデジタル化されたマテリアル)の品質に感激しました。マテリアルが光にどのように反応するかを表現するのが難題です。高度な技術を要する、粒子の細かいファブリック構造をスキャンしましたが、遠くからでもマテリアルを認識できるので満足しています。

**Damien Bousseau:**プロセスの最後のステップは、調整可能なマテリアルの作成です。これで、マテリアルのビジュアルプロパティを調整できるようになります。パラメーターを定義することで、Substanceマテリアルのバリエーションからフォトリアルなレンダリングを作成できます。

例えば、シートに使用するファブリックの最終的な色の組み合わせは、実際のサンプルの色と異なる場合があります。カラー&トリミング担当デザイナーが、サンプルを入手できなくても、デジタルで色違いを試せるのがこの利点です。

マテリアルが完成したので、シートの3Dモデルに適用できます。

**Marion:**プロシージャルなアプローチによる大きな可能性がわかりました。複雑なシェイプ、不規則なテクスチャ、ランダムなパターンなど、時間がかかり難しかった作業も楽になるでしょう。

CMFデザイナーがひらめいたものを作成し、すばやくビジュアル化できるような自由度があればよいと思います。そうすれば、日々の作業が強力なクリエイティブアセットになるでしょう。テクスチャは汎用性が高いため、バリエーションや代替案が作りやすくなります。

3.スペキュラレベル + スケール(プラスチックとレザーの違い)

**Marion:**PBRは以前から使用していますが、リアル感を出すために非常に重要です。例えば、プラスチックとレザーの違いを表現するポイントは、スケールと光沢です。

Anthony Salvi:リアルな画像のレンダリングに重要な要素がスケールです。実際に3Dオブジェクトを構築するデジタルマテリアルでは、特にそれが当てはまります。

このプロジェクトでは、実際のサンプルも見ながら、レザーとプラスチックの粒状感とファブリックのスケールを詳細に設定しました。シートでマテリアルが接続する部分をズームインしたのが、マテリアル相互の相対的スケールの微調整に役立ちました。この方法で、両方のマテリアルの粒状感のサイズを合わせました。実際、モデルを参照せずに判断するよりも、目で比較する方がはるかに簡単です。

マテリアルのリアル感を出すためにもうひとつ重要な点は、各マテリアルのスペキュラレベル値です。

スペキュラレベルは、リアルな表現に不可欠です。メタリック/粗さの定義では、メタリックを0に設定すると、マテリアルは絶縁体と認識され、フレネルゼロ角(F0)での反射率値は4%反射に設定されます。ほとんどの一般的な絶縁体のマテリアルはこれで有効に機能しますが、一部の絶縁体は異なる屈折率(IOR)を持つことがあります。メタリック/粗さの定義で使用されるデフォルトの4%値に優先されるのがスペキュラレベルです。レザーの場合はスペキュラレベルを使用して、レザーマテリアル用のカスタムレベルに設定します。

そのためには、新しいOutputノードを追加して、使用法と識別子を「specularLevel」に設定します。次に、GrayscaleモードでUniform Colorノードを追加して、値を調整します。レザーの初期値は60、プラスチックの初期値は127から調整することをお勧めします。

4.iRayによる照明とHDR

**Marion:**Anthonyと話し合ったのは、マテリアルのハイライトについてと、手に持っていたマテリアルが光にどのように反応するかでした。写真ブースの中にいるかのように実験を繰り返しました。

画像形式について意見が一致し、次にカメラの視点と、どこに焦点を当てるかを話し合いました。

照明のセットアップは非常に直観的で理解しやすいものでした。Anthonyの助言を得て、詳細にするか無限遠ライトにするかを選択しました。このツールを使いこなすには、プロフォトグラファーのテクニックが役立つでしょう。

Anthony Salvi:物質とライトは相互に複雑にリンクしています。特にオブジェクトのステージング(この事例ではFaureciaカーシート)では、それが当てはまります。

コンポジションによって、カメラの視点、ワイドショットか、クローズショット、クローズアップかを決めます。目的は、ラインのダイナミクスを強調し、そのオブジェクトの特性を明らかにすることです。

カメラの駆動角によっても、オブジェクトの自然な張力ラインが強化されます。視点を設定したら、次はシーンの照明です。

Substance Designer 6以降、プロシージャルグラフ付きHDRiを作成できるようになりました。これにより、縦横比2:1(2,048 x 1,024など)、32-bit深度の画像を生成できます。Substance Designerのあらかじめ用意されたテンプレートを使用すれば、独自のカスタムHDRを作成できるでしょう。

Substance DesignerでOutputノード「panorama」に設定すれば、このHDR(32-bit)画像を利用できます。

ノード出力を右クリックして3D表示するか、サムネールを3D表示にドラッグ&ドロップします。次に、「Latitude/Longitude Panorama(縦方向/横方向のパノラマ)」を選択して、3DビューポートでHDRマップを表示します。

このHDRマップの利点は、ほぼすべての3Dソフトウェアで再利用できることです。ここでは、Substance DesignerグラフとiRayを併用して、照明をデザインします。

フレーミングと同様に、ライトは画像の構成において基礎的な役割を果たします。ライトは、オブジェクトのディテールを強調し、奥行きを加え、曲線を増幅し、視線を導く役割があります。Faureciaがデザインしたこのシートは、ライトに対して様々に反応して視覚的な変化を生む数多くのマテリアルで構成されています。

このプロジェクトでは、最初にノード「Panorama Shape」で1光源のみを使用しました。これがキーライトとも呼ばれる主要な光源となります。多数のパラメーターを持つノード「Panorama Shape」は、実際の写真スタジオで見られるようなライトボックスを作成するのに最適です。

2Dビューで位置、サイズ、回転を直接変更することもできます。この方法は、3Dビューで結果を確認しながら、すばやくライトの設定を調整できるため便利です。

次に、ホットスポットとシェイプの設定では、ライトの美しいグラデーションを作成できます。これでシートのボリューム感を表現します。

メインのライトを設定したら、2つ目のノード「Panorama Shape」で光源を追加し、CopyモードのBlendノードで最初のノードと関連付けます。

2つ目の光源は多くの場合、ビジュアルアクセントを加えるために使用されます。スポット的に強い光をわずかに加えると、メインのライト効果が高まります。

最後に、シート全体のビュー用に、HDRマップサーフェス全体にライトのグラデーションを加え、オブジェクト全体と地面の反射ベースとしました。クローズアップの場合は必ずしも必要ではありません。

視点ごとに照明セットをすばやく構築できるのが、Substance Designerの大きなメリットです。これにより、基本的な画像作成の自由度が高くなり、ベースに最適な照明環境をすばやく試行できます。

レザーとプラスチックでは、すべて黒でもライトの当たり方が異なるのが興味深い点です。マテリアルで覆われたシートのすばらしいデザインがさらに映えます。

Substance Designerの最終グラフ:

ステップバイステップ形式のチュートリアルに沿って操作すれば、Substance Designerで視点ごとに照明を作成できます(カメラごとに1つのHDRマップができます)。

まとめ

**Marion:**Substanceはレンダリングツールであるとともに、リサーチツールでもあると考えています。プロジェクトを通して意思疎通を図るために、Substanceを利用するつもりです。製作前にオブジェクトの最終形を提示できる機能は、マテリアルの見え方と動きを示すために非常に重要です。

次のプロジェクトでは、車の内装全体などで、必ずSubstanceを使用すると思います。今のところ、照明の設定が複雑になる足下の領域など、閉鎖的な内装のリアルなレンダリングはまだハードルが高いとも考えています。

自動車業界でのSubstanceの活用法について詳しくは、このプロジェクトで作成した自動車の内装1内装2のマテリアル(カラー&トリミング担当デザイナーとビジュアルエキスパート向け)をご覧ください。または直接Substance Sourceの自動車マテリアルを参照してください。