「デジタルデザインは再び輝く」 ロブ・フォードが語るデジタルデザインの進化 | アドビUX道場 #UXDojo
エクスペリエンスデザインの基礎知識
ロブ・フォードは、業界のアイコン的存在であり、ベストセラー作家であり、画期的なデジタルクリエイティビティの世界の英雄的存在です。2000年、ロブはFWA (Favorite Website Awards) を設立しました。以来20年間、このアワードは業界トップレベルの作品を育み、称え、スポットを当ててきました。 今日、FWAは35か国以上に300名を超える審査員を抱えており、個人、エージェンシー、ブランドが制作したもっとも進歩的かつ先進的なデジタルプロジェクトを紹介するグローバルスタンダードとして存在しています。また、ロブは、4冊のベストセラーを執筆した作家でもあります。最新作の『Web Design. The Evolution of the Digital World 1999-Today』では、クリエイティビティとデジタル革命の壮大な年代記を一冊の本にまとめています。
SoDAのエグゼクティブディレクターであるトム・ベックは、ロブと対談して、この本の背景やデジタルデザインの現状、さらにクリエイターとしての挑戦、業界が魅力を取り戻す時期を迎えている理由について尋ねました。
FWAを始めた理由は何ですか。また、デジタルクリエイティビティを支持し続けた個人的な動機は何でしょうか?
1999年代は、生きる意味について悩んでいた時期でした。1997年に私の父はWindows 95を搭載したPCを購入して、それまでAmiga 500ゲームに夢中だった私を、スクリーンセーバーのダウンロード、そしてWebから得られるあらゆるものの世界に連れ出しました。この新しい世界への扉をくぐった途端、私は圧倒され、完全に魅了されてしまいました。
Treecity Favourite Website Awards (2000年 出典: ロブ・フォード
私が常に精神的に求めていたものは、私の作品に対する肯定です。ある日、私は、アワードコミュニティに出会いました。インターネットアワードを開催し、そのルールや基準を適用する大規模なコミュニティです。そのコミュニティは情熱的でしたが、彼らの注目は作品そのものよりも、アワード自体の評価に置かれているように感じられました。
そこで、そのコミュニティの一員としてそのままルールや基準やスコアシートの世界に巻き込まれる代わりに、私が当時目にしていた素晴らしい作品が主役のアワードを設立しようと考えました。
Treecity Favorite Website Awardsは設立から間もない2000年5月にFWAになりました。Flashを使用したWebデザインが爆発的に人気を得ていた頃です。斬新で恰好良いWeb体験を見たり見つけたりしてそれが話題となるたびに、この活動を続けていこうと思いました。現在でもその気持ちは変わっていません。鳥肌が立つようなWebサイトの存在を世界に知らせたかったのです。それが、まさにFWAの精神です。
本には年代ごとの優れたデジタルクリエイティビティについて書かれていますが、あなた自身も聡明なクリエイターです。この本に取り組んで、あなた自身にについて何を学びましたか。
そうですね、『Web Design. The Evolution of the Digital World 1990-Today』は、Taschenから出版した4作目の本で、その中でも最も困難なプロジェクトでした。実は、これを書き始めたのは2008年2月です。Nokiaのフィンランド本社から最先端のWebデザインに関する講演をするよう招待を受けたのですが、不安からその講演をするという考えに向き合うことができず、代わりに過去10年のWebデザインについて詳しく記した文章を書くことを提案したのです。これが出発点となり、毎年の優秀なWeb作品のサマリーを書き続けました。アドビのニュースレターにも7年間、毎月最先端のWebデザインをまとめた記事を執筆していました。
Webデザインに関するロブ・フォードの本 出典: ロブ・フォード
自分自身について学んだ最大のことは、拒絶されることへの恐怖を今でも持ち続けていたということです。それが、自分の持つすべてを、肉体的にも精神的にも本に注ぎ込む原動力になりました。この本にまつわる恐怖、そして私が日常的に格闘していた不安については、カウンセリングをたくさん受けなければならないほどでした。しかし、そうした拒絶や過ちを犯すことへの恐怖が、すべてを完璧にこなそうとする姿勢に私を駆り立てました。恐怖は非常に鋭い両刃のナイフです。
本を書き始めてから、驚いたり大きく納得したことはありましたか?忘れてしまっていたり、当時その重要性にに気づかなかったことなどは?
実のところ、とても興味深い体験でした。というのは、本を書き進めるにつれ、少なくともWebサイトに関しては、クリエイティビティのサイクルが一回りしてスタート地点に戻っていたことに気づいたからです。私の本では、Webがもっともクリエイティブ時代を担っていたのはFlashであることを明確に記しました。この時代はもはや存在しないようです。
年代的に過去を全く知らない新しい世代がデジタル業界に参入しています。彼らが知っている現在は、紋切り型で、シングルページでスクロールするとパララックス効果が付く、個性に全く欠けるWebサイトが標準化している時代です。
私はずっとWebサイトが個性を持つことの重要さを見てきました(tokyoplasticの作品のように)。特に個人の作品については重要視されていたはずなのですが、それはすべて消えてしまったようです。悲しい気持ちにさせられますが、すぐに変われる可能性を考えれば、そう悪いことでもありません。
TokyoplasticのWebサイト(2003年) 出典: Tokyoplastic
個人のポートフォリオサイトを作っている人たちには、大きな声援を送りたいと思います。ポートフォリオの顧客リストに、人気のテクノロジーブランドを記載する必要はありません。そうしたところで、MediaMonksやJam3のような会社から素敵なオファーを得ることはほぼないでしょう。自身の想像力の先にある作品を制作することにとにかく夢中になって、それを個人ドメインにアップロードし続けるのです。うまく実行できれば、オファーを得られるはずです!
デジタルデザインの現状についてはどのように見ていますか?
正直なところ、個人的には、最近、素晴らしいデジタルデザインがあまり出回っていないと感じています。数としては、これまでで一番少ないのはでないでしょうか。Flashに勢いがあった2001年から2003年の辺りには、広く共有したいと思える画期的な作品や新しいプロジェクトを1日に数件も見つけていました。最近では、一年間に数回といったところでしょう。
かつて、Group94や2Advanced Studiosといったエージェンシーが毎月のように見事なWebサイトを立ち上げていました。現在でも活動しているエージェンシーは、1年にいくつかの大型案件に取り組む程度で、業界を代表するようなエージェンシーではなくなったように感じられます。それは、そうしたエージェンシーの名前を耳にすることがほとんどないためです。
MediaMonksに代表される、常に前進を続け、ほぼすべてのプロジェクトが革新的なエージェンシーはわずかに残っています。おかげで、FWAを受賞するような質の高いプロジェクトの流れはどうにか維持されています。
業界が魅力を取り戻すにはどうしたらよいと思いますか?振り返ってみて、失われてしまったと思える教訓や原則はありますか?
もし私がエージェンシーの経営者であったなら、各自に個人プロジェクトを制作するように奨励しているでしょう。それぞれの個性と創造力を仕事にぶちまけさせるのです。
振り返ると、楽しさや格好良さは完全に失われてしまったように思えます。おそらく、50歳に達した人間として、懐かしさ故の話題を見つけるのは簡単なことかもしれません。ただ、今の世代の人たちにも、50歳になったときに振り返って、私と同じような昔話をできるようになってほしいのです。
新しい世代には、デジタル業界の反逆者になってほしいと思いますし、昔は素晴らしかったとつぶやく中年の後を追うのはやめてほしいと思っています。他人とは異なり、自分らしくあることを大切に、仕事の代価や「いいね」やリツイートの数に気を取られることなく、自分が持つすべてを投入してほしいです。
ストーリーテリング(UX)に関するクリエイティビティと革新に関して期待していることはありますか?どこに最も可能性がありそうでしょうか?
疑いなく、「ブラウザから離れた場所」に期待しています。デスクトップでなければ、スマートフォンでもなく、人を取り囲む世界でもありません。大きな話題を巻き起こすような、大規模なインタラクティブインスタレーションや実験的な作品です。
Media MonksとGoogleによるThe Hive Drive(2019年) 出典: Media Monks
Webサイト自体に関して言えば、1つの周期を終えて1999年代初期の状態に戻り、迷惑な広告が氾濫する情報ポータル化していると思います。さらには法律上のポリシーがWeb体験をコントロールしています。個人的には、Webサイトの質は今までで最も低い状態にあり、あらゆる意味で、Webサイトの閲覧を辛いと感じています。
本には約25社のSoDA加盟エージェンシーの約50件のプロジェクトが掲載されています。彼らの業界への貢献について話してください。
SoDAが2007年に設立される前、私は世界中のエージェンシーの作品を7年間紹介していました。SoDAの立ち上げを支援するため、小さな貢献ですが、FWAのバナーを無料で提供できたことは光栄でした。当時は、リチャート・レント(AgencyNet)やマイケル・レボウィッツ(Big Spaceship)、フレディー・レイカー(ichameleon group)らと仕事をするという恩恵にあずかり、12年経った今でも、SoDAエージェンシーが業界の最前線にいることには畏敬の念を抱いています。
SoDAのこれまでおよび現在のメンバーについて最も重要だと感じていることは、1990年代以来、歴史的で先駆的な足跡を残しており、その精神が今でも力強く根付いていることです。SoDAメンバーはこれまでで最も素晴らしいいくつかのWeb作品に携わっています。North Kingdomの『Get the Glass』、B-Reelの『The Wilderness Downtown』、EVBの『Elf Yourself』など、ほかに何か言う必要はあるでしょうか。
業界では「デザイン倫理」に関するさまざまな話題が取り上げられています。デジタル技術が普及してより強力になり、個人情報や機密データそしてAIとの関りが増す中で、デザイナーは自分の責任や、将来もしくは潜在的に自分の制作物が与える影響をどう捉えるべきでしょうか?
20年以上孤独に作業してきた私にとって興味深いのは、私が業界の問題や話題の輪の中にはいないことです。私はいつも遠くから眺めてきました。「傍観者にはより多くが見える」という言葉が驚くほどよく当てはまります。
デザイン倫理については、突然話し始めるべきものではないでしょう。倫理は、FWAの成功に欠かせないものでした。個人、ブランド、エージェンシー、そしてもちろん政治家にとっても、最も重要な道徳的原理の1つでなければなりません。皆が倫理に対する高い意識を持っていれば、すべての人の生活はあらゆるレベルで改善され、デジタルの世界でも同じことが起きるでしょう。ただ正しいことを行えばよいだけの話です。
FWAを設立していなければ、現在何をしていたと思いますか?
FWAを設立する前は、鬱になりながら働いていました。銀行、旅行代理店、車のセールスなど、関連性のないさまざまな職についていました。典型的な若者で、なぜそこに居るのかもよくわからず、自尊心もなく特別な感情もありませんでした。ですから、FWAを立ち上げていなかったら、いまだにUFOや宇宙人を探していたかもしれませんね。人生に意味を見出そうとしていたころに読んでいたトピックです。
今となってはばかばかしいと思えることですが、当時はそうでもありませんでした。ありがたいことに、今は当時を振り返ってその後の道のりを眺めることができるわけで、私を救ってくれたFlashにそのことを感謝したいと思っています。
この記事はRob Ford on Bravery, Personality and the Digital Design Revolution(著者:Tom Beck)の抄訳です