変化し続ける今日のビッグデータ環境を反映した、「統合された顧客プロファイル」を構築するための新たなアーキテクチャアプローチとは

エンタープライズ企業がパーソナライズされた顧客体験をリアルタイムで提供するには、詳細で臨機応変な、全方位の顧客理解が求められます。このブログでは、そのような顧客理解に必要なデジタルコンポーネントすべてを統合する、Adobe Experience Platformの統合プロファイルサービスの革新的なアーキテクチャについてご説明します。

近年、関連性が高く、タイムリーで魅力的な顧客体験への期待が高まっており、業界を問わず、企業はその要求に応えられるテクノロジーを求めています。顧客にそのようなリアルタイムでを提供するには、エンタープライズ企業が行動データと属性データを継続的に組み合わせて全方位の顧客理解を実現する、真の意味で統合されたプロファイルの構築が必要です。

顧客データは、統合されたプロファイルを構築する重要な要素であり、またそれを活用する能力は、最高の顧客体験を提供するために不可欠です。しかし今日、顧客データがあり余るほど増加する一方で、エンタープライズ企業はすべての関連データをパーソナライズされた顧客体験の提供に活用しきれているとはいえません。

全方位の顧客理解(英語)には、オンラインとオフラインの両方のチャネルで、消費者とブランドとのインタラクションを継続的かつ能動的に認識する能力が必要です。ところが、ITシステムの急増に伴い、顧客データが異なるソース間で断片化し、企業がその力を十分に活用できなくなっています。One to Oneマーケティング、カスタマーサポート、セールス、広告といったすべてのタッチポイントに最高の顧客体験を提供するには、包括的な顧客プロファイル(英語)の構築が不可欠ですが、そのために企業は現在市場に存在している多くのソリューションの先をゆく、より包括的なアプローチ(英語)に目を向けるべきです。

既存のソリューションをとりまく状況

今日の消費者が求めるリアルタイムでパーソナライズされた顧客体験の提供は、包括的な顧客の理解、すなわち統合された顧客プロファイルの構築から始まります。これまで新旧取り混ぜたテクノロジーが、パーソナライズされた体験の提供に内在する課題を部分的にでも解決するために進化を遂げてきました。顧客関係管理(CRM)システム(英語)、データ管理プラットフォーム(DMP)(英語)、顧客データプラットフォーム(CDP)(英語)、電子メールサービスプロバイダー(ESP)(英語)、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)、パーソナライゼーションエンジン、顧客分析ツールなどがその例です(図1)。

図1:リアルタイムでパーソナライズされた顧客体験を提供する既存のソリューション

これらのソリューションの多くが、それぞれにオーバーラップする機能を持ちます。顧客プロファイルの概念を最低限提供するものもあれば、顧客プロファイルに特化したもの(DMPやCDPなど)もあります。しかし、カスタマージャーニーのあらゆる段階をカバーし、顧客を総体的に理解するために必要なデジタルコンポーネントすべてを備えているものはありません。

顧客を包括的に理解するための、新たなアーキテクチャアプローチ

包括的な顧客プロファイルの構築には、企業が必要とするすべてのデジタルコンポーネントを1つのプラットフォームに統合する新たなアプローチが求められます。そのようなプラットフォームは、オンラインとオフラインのデータ、既知のユーザーと匿名のユーザーからのデータなど、異なるソースからのデータ収集に伴う課題をすべて解決し、統合されたプロファイルに一元化できるよう設計されていなければなりません。パーソナライズされた顧客体験のリアルタイム提供に欠かせない、統合されたプロファイルの構築に必要なすべてのデジタルコンポーネントを図2に示します。

データ収集:さまざまなソースからデータを収集する機能。

IDデータ照合(英語):異なるデータセットを一元化し、統合された顧客プロファイルを構築する機能。

プロファイルストア(英語):顧客属性、行動データ、および顧客プロファイルそれぞれを完全かつ最新な状態で保持するデータストア。また、セグメンテーションを容易に実行やアクティベーションの即時実行を可能にする役割も持つ。

データガバナンス:すべての消費者のプライバシー要件を確実に遵守する堅牢なデータガバナンスシステム。

図2: Adobe Experience Platformは、企業が顧客にパーソナライズされた体験を提供するために必要な統合プロファイルの構築を可能にするプラットフォームアーキテクチャを実現しています。

すべてのデータを収集できるシステム

今日の企業は、これまでになく多くのデータを保有していますが、それらの効果的な活用に苦労しています。刻々と増加するビッグデータに対応するため、Adobe Experience Platformアーキテクチャは、スケーラブルなデータ収集(英語)を前提に設計されています。データ収集のパイプラインであるAdobe Experience Platform Pipeline(英語)は、ファーストパーティーやサードパーティーのデータだけでなく、さまざまな企業リポジトリからのデータをバッチ形式で収集したり、リアルタイムのユースケースに対応するためのストリーミングデータをサポートしたりします(図3)。

さまざまなソースからのデータを統合する際の最も大きな課題の1つは、それらがすべて独自のデータモデルを持っていることです。Adobe Experience Platformに組み込まれたAdobe Experience Platform Edge(英語)またはAdobe Experience Platform Launchと他のさまざまな業界標準ツールを組み合わせ、企業はすべての受信データをAdobe Experience Platform Experience Data Model(XDM)形式の単一モデルに変換し、ETL(抽出、変換、格納)ロジックを作成できます。これにより、データを統合してその可能性を最大限に引き出すことができます。

図3:データ収集のためのAdobe Experience Platformのアーキテクチャ

顧客IDデータの危機を解決するために

出自の異なるデータソースは、それぞれ独自の定義による顧客ID体系を持ちます。そしてそれらのIDは、特定の顧客がブランドとインタラクションするたびに記録される、顧客プロファイルの断片ととらえることができます。包括的な顧客プロファイルを構築するには、そのような断片をつなぎ合わせる(照合して名寄せする)ことが必要です(図4)。

図4: 顧客IDデータ照合とは、消費者とブランドとのすべてのインタラクションからプロファイルの断片を収集し、照合して揃えることです。

Adobe Experience Platformは、データ照合に使われる既存の方法(重複削除(英語)など)と、決定論的および確率論的アルゴリズム(クッキー照合技術など)を組み合わせ、既知と匿名の両方の顧客IDを照合することで、複数のオフラインソースに散らばる顧客IDを照合します。IDの照合が完了すると、各IDのすべての相互接続をIDグラフ(英語)として表示することができ、これを使用して、異種のソースにまたがる顧客プロファイルを1つの統合されたプロファイルに照合することができます(図5)。

図5: Adobe Experience Platformは、異なるタイプのIDを縫い合わせ、統合された顧客プロファイルを構築します。このように顧客IDを照合することで、パーソナライズされた体験の提供に欠かせない、全方位の顧客像を提供します。

あらゆるユースケースに対応するプロファイルストア

行動インサイトや顧客属性データを活用し、適切なタイミングでパーソナライズされたクロスチャネルな顧客体験で消費者をターゲティングしたり、その他の重要なユースケースに適用したりするには、それらのデータを完全かつ最新な状態で保持するデータストアが必要です。また、そのようなデータストアは、企業がアクティベーションに用いるすべてのシステムから容易に「問い合わせ可能」な状態に置かれるべきです。

リアルタイムにストリーミングワークロードを処理するには、プロファイルストアをアクションポイントの近くに物理的に配置し、リアルタイム同期機能を利用して新しいデータが流入するたびにプロファイルを継続的に更新する必要があります。Adobe Experience Platformの場合、リアルタイムアクティベーションは、地理的に分散された大規模なネットワークに上に展開されるいくつもの「Edge(英語)」と呼ばれる意思決定システムのノードの集合によって実現されます。Edgeを用いたアクティベーション(英語)の場合、特定の時点での意思決定に必要なのは、統合プロファイルデータのサブセットのみです。このサブセットは、特定のアクティベーションのユースケースに基づき新たに計算された顧客属性を含む、小規模の「アクティベーション用プロファイル」とでも呼ぶべきもので、緩い整合性モデルにより、メインの統合プロファイルと整合性を保ちます。

プロファイルストアには、関連性の高いメッセージを提示するために顧客をオーディエンスグループにセグメンテーションする(プロファイルストアが最も多用されるワークロードのひとつ)など、複数の運用ワークロードを処理できる、考え抜かれたデータモデルも必要です。セグメンテーションは通常、約24時間ごとにクエリを実行するバッチジョブとして実行されます。この頻度は業界標準であるかのように見えますが、実は機会損失を生みます。なぜなら、顧客プロファイルに新しいデータが追加され、より良いパーソナライゼーションに貢献する可能性があっても、次回のバッチ実行までクエリに拾われることはないからです。例えば、マーケティング担当者はカートを放棄したユーザーをセグメントに入れて、すぐにメールを送りたいと常に考えています。しかし、「カート放棄」セグメントへの追加を次のバッチジョブまで待っていると、ユーザーに戻って購入を完了するよう促す準備ができたときにはすでに手遅れになっていることでしょう。

Adobe Experience Platformが実現するリアルタイムセグメンテーションは、行動データを含むストリーミングイベントに対応したセグメンテーションを実行し、このような遅延を解消します。このプロセスにより、企業は新しいデータを受け取ってすぐに行動を起こせるようになります。

強力でシームレスなデータガバナンス

企業が顧客とのコミュニケーションを行うためにパーソナライズツールやメールなど様々なアクティベーションチャネルを横断し、データの活用を始めると、顧客に疎ましく思われたり、プライバシー規制に抵触することを避けるための、強力なデータガバナンスが重要になります。

Adobe Experience Platformは、消費者から寄せられるプライバシーへの期待とプライバシーに対する規制が刻々と変化するなかで、統合された顧客プロファイルの利用を支える強力なガバナンスレイヤーを提供します。このプラットフォームには、DULE(Data Usage Labeling and Enforcement)(英語)フレームワークに基づいたガバナンスシステムが組み込まれており、XDMデータスキーマごとにメタデータの集合とそれに関連するパーミッション値を定義し、データ同士を組み合わせる際のルールを定義します。さらに、メタデータに含まれるデータ使用ポリシーのガイダンスを提供しています。

Adobe Experience Platformは、GDPR Central Service(英語)と呼ばれるAPIベースのフレームワークも提供しており、企業のGDPR対応に役立ちます。このAPIを実装することにより、統合プロファイルとIdentity Serviceの両方でGDPRに準拠することができます。

統合顧客プロファイル(Unified Profile)というアーキテクチャ

最も成功している企業とは、最高の顧客体験を提供できる企業を意味します。デジタルテクノロジーの台頭に伴い、顧客の関心を能動的に理解することは、顧客を魅了して喜ばせ、パーソナライズされた体験を提供したい企業にとって、重要なアプローチとなっています。そして顧客もいま、それを求めています。彼らは購入前から購入後にいたるまで、すべてのインタラクションで最適化された顧客体験を提供するブランドから、関連性のある情報を期待するようになっています。このような期待の高まりに応えるために、企業は旧来のリレーショナルデータベースの枠を超え、真に統合された顧客プロファイルの構築を実現する、この新しく革新的なアプローチを検討する必要があります。

※本記事は、2020年4月9日にエンジニアリング担当シニアディレクターのサンディープ ナワテ(Sandeep Nawathe)が投稿したブログの抄訳版です。