撮影も編集もリモート環境の中でPremiere Proが活躍。ポカリスエット「NEO合唱」CM制作事例 #PremierePro #AfterEffects

監督・柳沢翔&オフラインエディター・田中貴士インタビュー

4月10日にYouTubeに公開され、20日間で再生回数は300万以上超え。日本中に元気を届けたポカリスエット「NEO合唱」CMは、撮影も編集もリモートという前代未聞の環境下。Premiere Proを軸にどうやってクオリティの高い感動のピースを作っていったのか?柳沢翔監督とオフラインエディター田中貴士氏にインタビュー。

ポカリスエット 「ポカリNEO合唱」
dir: Show Yanagisawa, offline ed: Takashi Tanaka

ーー柳沢監督と田中さんは、テレビドラマ 乃木坂シネマズ 「鳥、貴族」でもご一緒されていますね。監督が「NEO合唱」で田中さんに声をかけた理由は?

柳沢翔(以下 柳沢):ズバリ柔軟さも、熱い魂も持ち合わせたプロフェッショナルだからです。田中くんの言葉で強く印象に残っているのが「どんな現場でもなるべく撮影に同行したい」。撮影隊が現場で何を生み出そうとし、どこにこだわっているのか。撮影を共に乗り越え、素材の情報を五感で思い出しながら行う編集と、送られてきた素材を初見で判断しながら行う編集は全然違うと。若いのに昭和みたいな考え方だな~と笑ってしまいました。でもうれしいです。映像は「編集が全て」ですから。

田中貴士(以下 田中):ほぼ全ての撮影現場に同行をします。富士の樹海でも、船の上でも、雨の中でも現場に出向き、監督のしたい事や、思いついた事に柔軟に対応しながら、撮影時にやっておくことと、編集でやるべきこと判断し、ポスト作業の不透明な部分を残さないように心がけています。現場オフライン編集をして共有していくのが好きなんです。

ーー「編集が全て」。「NEO合唱」の話に入る前に、お二人の編集論をかんたんにお聞かせください。

柳沢:撮影の途方もない労力。大勢のプロフェッショナルが一つの演出に向かって団結する感動。そういう全てを活かすのも殺すのも編集です。編集で切った1フレームは世の中に出ません。つまり無に帰る。物凄い判断です。撮影を経ている身としては、編集室でのオフライン編集は、愛するチームの結晶を切り刻んでるイメージ。苦しんでも足りないぐらい悩みながらやります。同時に、「これはただの素材」と思わなければ編集はできません。愛と冷徹さを同居させながら、最終的に編集されたものが、輝いていれば、チームの魂は昇華されると思っています。

田中:僕も、映像の雰囲気、伝えたい事はほぼオフライン編集の段階で決まると思っています。そのために、音楽の編集や仮合成なども取り入れながら、監督をはじめ一緒に作業をするチームが、最終の結果が想像しやすいように組んでいくことを心がけています。

ーー田中さんから見て、柳沢監督とのお仕事の中で、柳沢監督らしさってどんなところですか?

田中:柳沢監督の絵コンテには特徴があって、とにかく緻密なんです。仕事の流れとしては、その緻密に計算された演出コンテに、撮影時にいかに近づけていけるかを検証をするところから始まります。そして、カメラワーク、アングル、タイミング、理想に近づけるベストな手段を、各部署と本番まで議論しながら取り組んでいくのは、柳沢監督ならではのやり方じゃないでしょうか。撮影後の編集の段階では、僕の提案した編集が、監督の思い描く完成形と比較して、どう離れているのか、どんな違和感があるのかを、さらに詰めていきます。どうしたらもっとかっこよくなる?かわいくできる?感動できる?そういったゴールに向かって、構築していく感覚は積み木をしている感覚に近い。監督の妥協なき信念と映像愛に追いつくのに必死です。

ーー柳沢さんはご自身で編集をされることはありますか?

柳沢:MVとかショートフィルムは、映像のゴールが個人の感性に委ねられてる場合が多いので、そういう場合は自分で編集します。単純に楽しいですし。反対に、僕の主戦場である広告仕事の場合、ゴールは「商品」。なので、プロのエディターさんに入って頂き、より俯瞰して編集作業に関わります。田中くんとは、そもそも感性が似ているのもあって、広告に限らず、結局全部やってもらってしまっていますが…(笑)。

「NEO合唱」CMについて。200以上にのぼるクリップ数の素材を下準備する

田中氏の使用ハードウェアはフルスペックのMacBook Pro 16 インチ。オフライン編集にPremiere Pro(CC2019)、ラストカットの青空のマルチ画面はAfter Effectsで組んでいる。

ーーポカリスエットのNEO合唱についてお聞きします。新型コロナウイルスの拡散防止対策下での編集作業でしたが、実際どのような流れになったんでしょうか?

田中:今回は、全て各自のスマートフォンを使って撮影を行う企画だったので、まずは出演する高校生へ向けた教則映像制作からスタートしました。撮影方法や、歌唱指導のビデオだったり、送ってもらう素材の種類、そういったものを映像で伝えるセットですね。

その後、実際にそれぞれが撮影してくれた素材が続々と届きます。Premiere Proで取り込んで素材を整理、統一し下準備の作業をしました。そこからメインパートとハモリパートそれぞれのOK出しをしたものをひとつのシーケンスにまとめ、さらにトーナメント戦式でカットを選んで編集をしていきました。

ーー100人近いキャストから届く撮影素材って結構な量になりますよね?

田中:一つのクリップが1分弱で、男女共にメインパートとハモリパートがあるのでクリップ数は合計で200素材近くになっています。それに加えて、リテイクしてもらった素材や、自主的にリテイクして送ってくれる子もいたりしていて、最終的にかなり多い量になりました。

ーー素材の解像度や画角は事前に指示されているのですか?撮影デバイスもそれぞれ変わってくるかと想像します。

田中:解像度やフレームレートはもちろんバラつきがあります。4Kで撮影している素材もあれば、フルHDの解像度に足りていないものも。ただ、解像度のバラつきは、多様性を印象づけることにもなるので気にしていませんでした。逆に、フレームレートは、音楽とシンクさせた時にズレが生じると致命的なのでしっかりと準備します。納品はフルHDなので、1920×1080の解像度と30pのフレームレートにPremiere Pro上で素材を統一しました。

イデオロギーと映像表現の間で揺れる編集

セレクトし、一本にまとめられたメインパート男子の部。

ーー大量の素材を編集するにあたり使った編集機能があれば教えて下さい。

田中:98名の素材があるので、マルチカメラ編集機能を使用してスイッチングするのも面白いかなと思ったのですが、作業の効率化よりも一生懸命撮影してくれた素材と向き合うことが、この「NEO合唱」では大事だと思い、特別な機能をつかってはいません。

仕込み段階では、まず、「熱量が高い」という監督のセレクトの基準に基づいて、男女それぞれタイライン上でセレクトをしていきました。

次に、4種類の音と映像をシンクさせたタイムラインをつくります。それぞれ、男子メインパート、男子ハモリパート、女子メインパート、女子ハモリパートですね。

そして、シンクさせた素材をラッシュ(試写)しながらOK出しをしていきました。

柳沢:出演してくてたみんな魅力的で全力で取り組んでくれていました。動画を送ってくれた全員がなるべく均等に登場するバージョンをまず作ってみたのですが、でもやっぱり弱い。例えるなら、仲間内で作った思い出ビデオみたいな肌触りになってしまった。色々悩んだ末、自分の中でこの「NEO合唱」で求めている熱量、歌唱力、表現力の合格ラインを高めに設定し直して、その合格ラインを超えている瞬間が1秒でもあれば、そこを編集に入れ込んでいこう、そう決めて田中くんとひたすらOK出しをしていきました。

田中:この作業だけで丸1日かかりましたね。それで、OKカットをひとつのタイムラインに集約しなおして、また監督とやり取りを重ねながら、トーナメント方式で使い所を選定して編集を進めました。

柳沢:熱量があるのは?生命力が溢れる歌唱をしてるのはどっち?ウンウン唸りながら。あまりの熱量に観ているこっちが笑ってしまう、嬉しくなっちゃう、元気になっちゃう…そういう瞬間を取り上げることにしました。それが編集の基軸になりました。

が、編集が一巡した時に、予想してはいましたが、同じ子の出番がやっぱり多くなった。チームからは、こういう時期に参加してくれたみんなを尊重して、被りを無くそうという意見がありました。僕も何周も考えてそれがいいのかも…と思ったのですが、最終的には熱量のボルテージを下げないことを最優先にしました。

田中:順をつけるというのは、非常に心苦しい作業でした。頑張った軌跡を感じると残したくなる。しかし、それを淡々とカットしていくのもエディターの仕事。ケースバイケースで、求められる編集は変わるし、正解の無い難しさも改めて再認識できたプロジェクトでした。

クライマックスを飾るマルチウィンドウに向けて

ーー今回編集作業もリモートで行われたそうですが、コミュニケーションの密度を落とさないためにも、工夫されたことはありますか?

田中:タイムライン整理です。監督とプロジェクトを共有してすすめるため、誰がみてもわかりやすいタイムラインを作ることを心がけました。

ーーSTAY HOMEでも、みんなつながっているというメッセージに感動した人も多いと思います。マルチウィンドウでの見せ方はある意味必然かとも思いつつ、Zoomなどでもすごく一般化した表現でもありますよね。

柳沢:「マルチモニターで繋がっている」というのがコアアイデアなので変えることはできないので、ルックの部分でかなり試行錯誤しました。結果、スプリットスクリーン(マルチウィンドウ)を最小限にしています。何より高校生達の表情をフルサイズで見せたかったですし。ハモが入るとこや、ラストの「離れていても同じ青空の下にいる」というマルチの意味があるとこだけに採用しています。

田中:たくさんの人がこのNEO合唱に参加しているという規模感を、ラストに向かって画面数が増えていって青空につながる。気持ちよさを編集で表現できたのは良かった点だと思っています。

出演者の映像がレイヤー的にどんどん重なっていく、編集のギミックをつかったバージョンも試行錯誤された。

ーーマルチウィンドウもPremiere Pro上で組んでいるのですか?

田中:9マス×9マスの81画面になるのですが、まずはPremiere Pro上に詰んでいって、コピー&ペーストでAfter Effectsにもっていってマルチウィンドウを作りました。

レンダリングには多少時間がかかりましたが…。After EffectsのLayers2Gridというスクリプトでマルチウインドウをつくったので比較的楽に配置はできました。

Premiere ProからAfter Effectsへコピー&ペースト。

ーー最後に、柳沢監督に「いい編集」とは? 田中さんにはリモート編集をしてみて感じたことを質問したいと思います。

柳沢:映画やドラマって、ある出来事が発生して、それによってある感情が生まれ、

だからある行動をして、それによってまたある出来事が発生して…という連鎖だと思うんです。出来事はキッカケに過ぎなくて、「感情のドミノ倒し」を追いかけるのが醍醐味。一方、広告やMVの場合は、「出来事の連鎖」と、言い切っていいと思います。出来事ってつまり、WOW(驚き)なんですが。そしてドミノ倒しじゃないんですよね。WOWを時間軸上に点々と配置することで、観ている人が勝手にストーリーを予測し、補完する。

とにかく押し付けがましいのは広告だとダメですよね。今回のパンデミック以降はそのバランスが難しいと感じています。わかりやすくガツンといかないと、今、流す意味ないよねっていう思考がありますね。また時の流れで変わっていくんだと思いますが。

エディターさんが編集で気にしているのは技術や精度よりも、そういうバランスの部分。細部と全体をすごいスピードで行ったり来たりできる脳みそは、やっぱりプロじゃないと

難しいなと感じています。

田中:リモート編集は非常に難しいと感じましたが、監督のビジョンを達成すべき立場である事を常に心に留めて進めていきました。予期しない問題、コミュニケーションにおける柔軟性、落ちついて自身を持ち続けることの大切さ…。僕自身、このコロナウィルスが蔓延している時期に出来上がった作品を通して学べた事でもあります。また、映像業界全体の成長へとつながるであろう貴重な体験ができたとも感じています。少しでもこの映像を通して、元気担ってくれる人がいれば嬉しいです!

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おまけ質問コーナー

Premiere Proのお気に入り機能を教えてください!

ーー使っていて、これは便利と思う機能やショートカットは?

柳沢:Final Cut Proから流れてきた身なので、やっぱりいろんな拡張子の素材を取り込めるのは楽ですね。

田中:お気に入りは、タイムラインのズームイン・アウトです!キーボードのZをズームアウト、Xをズームインに割り当てています。30秒や15秒のCM編集の場合、1フレーム違うだけで、大きく印象が変わってくることが多いんですね。そこで、タイムライン全体を俯瞰したり、ズームインで部分的にみていけるようにキーバインドしています。

ーーインタビュー中で、柳沢さんのおっしゃった「細部と全体をすごいスピードで行ったり来たりできる脳みそ」とリンクしますね(笑)。

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プロフィール

柳沢翔(やなぎさわしょう)|映像ディレクター

多摩美術大学美術学部油画専攻卒業。 カンヌ国際広告祭、ClioAwards、One Showフィルム 部門ゴールド、ACC ベストディレクター、ADFESグラ ンプリほか受賞多数。海外ではPRETTY BIRD(US)、 BLINK( UK )、INSURRECTION( FR )所属。 代表作にPS4のゲームGRAVITY DAZE 2/重力的眩暈完結編「Gravity Cat /重力猫」、資生堂CM「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」など話題作多数。

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田中貴士(たなかたかし)|オフラインエディター

1991年生まれ。Premiere Proデビューは16歳のとき。2011年株式会社P.I.C.Sへ入社。2014年、映像エディターとしてに独立。2018年よりDiamondSnapに所属。早く的確な判断力と、リズムを感じる編集を得意とする。代表作に、柳沢翔監督作品、乃木坂シネマズ 「鳥、貴族」、USJ Nintendoや、Microsoft Suface「夢中って無敵だ。」などがある。また、オフライン編集にとどまらず、AfterEffects、PhotoShop、Illustrator、Cinema4D、DaVInci Resolveといったツールを網羅し、広告映像、MV、Amazarashiのライブ映像の演出も手掛ける。