心の声を大切にし表現すること – Express Yourself #Adobe Stock
Adobe Stock ビジュアルトレンド
自分は何者か、どう感じているか。人類は自分自身への問いかけによって、創造性や芸術性、創意工夫の精神を発揮してきました。近年のソーシャルメディアの普及により、公の場で自分をアピールしたり、出来事をシェアしたりする機会がかつてないほどに増えています。不特定多数のユーザーに向けたこうした情報発信は、SNSの登録者数を考えると、およそすべての他者を相手に自己開示をしていると言えるかもしれません。昨年は、Instagramだけで月間利用者数が10億人を超えました。しかも、利用者の多くは、オンラインで積極的に自己表現をするアクティブなユーザーです。
Adobe Stockのビジュアルトレンド部門を率いるBrenda Milis氏は、このような時代の趨勢から、2020年のビジュアルトレンドとして「Express Yourself – ありのままの感情表現」というコンセプトを打ち出しました。「ビジュアルトレンドとは、ユーザーから支持され、時代を表す特徴を持つ画像のことです」とBrendaは述べています。「短期的な流行ではなく、商業的な需要が十分に高まった時点でトレンド化して、定番となっていくものです」
「定番」とは、「静」的な状態を意味するわけではなく、むしろ相対する概念と言えるでしょう。自己表現の方法とトレンドは近年劇的に変化し、どこまで自分を開示しても「安全」か、「やり過ぎ」か、その線引きも変わってきています。最近ではオンライン(またはオフライン)の行動を取捨選択せず、良いことも悪いこともありのままに表現することを良しとする風潮に変わってきました。
(左)Adobe Stock / Filipe Mendes / EyeEm(右)Adobe Stock / Jadiezlo / Stocksy United
ストイックな完璧主義者で弱音をはかない人は、燃え尽きやすく、鬱にもなりやすいことが研究によりわかっています。思い通りにいかない現実を受け入れることは、必ずしも悪いことばかりではありません。立ち直る力は今や社会的スキルとして認知されており、「失敗」はタブーではなくなってきています。2018年、MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生グループが「FAIL(失敗)」と題した一連のカンファレンスを開催。著名な学者を招き、学術上の成功に到達するまでに経験した苦労と失敗について話してもらいました。
つらい経験を糧にする
かつては自分のことを赤裸々に語ることなど言語道断でしたが、今では支持する声も徐々に増えてきました。世界的に有名なクリエイティブたちが、公の場で波瀾万丈な人生を語っていることも追い風となっています。J.K.Rowling氏は『ハリー ポッター』シリーズの著者として有名ですが、「現代のイギリスで考えうる最も貧しい生活で、路上生活者すれすれの暮らしをしていた」と語っています。また大人気ラッパーで起業家のJay-Z氏は、かつて「あらゆるレコード会社をまわったものの、『話にならない、出直して来い』と門前払いされた」経験を語っています。
Adobe Stock / Archan Nair.
Oprah Winfrey氏は、冠番組のトークショーで億万長者となる前、テレビ放送の初仕事で解雇に遭遇。「テレビニュースに向いてない」と言われたことを打ち明けています。「そのときは、自分の置かれている状況が理解できず、大人になって大成功するとは夢にも思いませんでした」(2011年Baltimore Sun紙)と語っています。「自分の存在が根底からぐらついていましたが、当時は自分が不安定であることにさえ気づいていませんでした」
人間は、身の上話を聞いてもらいたいという強い欲求と、経験を打ち明けることで他者とつながり、幅広い視聴者を感化したいという願望を秘めています。ここ最近では、リアルな実話が人気を博し、脚本ありきの作為的なコンテンツは影を潜めてきました。Target社の最近の広告キャンペーンでは、パーソナルケア製品ライン「The Honey Pot」を展開する実業家のBea Dixon氏を起用し、製品ラインの誕生プロセスを率直に語るコマーシャルを流しました。Beaは、事業の成功は自分のためだけではないと語っています。「今は、黒人の女の子がすばらしいアイデアを思いついても、なかなか実現まで持ち込めない風潮があります。ですので、The Honey Potが成功することで現状を打破し、道を切り開いていきたいのです」
コマーシャルが放映されると、Beaの力強い発言が人種差別的な反発を招きました。ところが逆風はむしろ支持を生みます。なんと、彼女のサポーター、使命感、製品により売り上げが50%増加したのです。
Adobe Stock / Fancy Bethany
Brendaは日頃ビジュアルトレンドを調査する中で、テレビの視聴率からファッションニュースにいたるまで入念にチェックし、Beaのような大きな変換を起こしている事例に着目しています。「クリエイティブ業界はすべて調査していますね」とBrenda。「それと多くの他業種も。一見関連がなさそうに見えて、実は関連があるというパターンを探しています。変化という点では、社会、政治、文化、どの分野においても強い類似性があるので」
離れていながら、人とつながる
現在、最も懸念されている社会問題が、COVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミックであることは疑問の余地がありません。感染率と死亡率の急増に伴い、ウイルスの伝染を止めるために、渡航制限や屋内退避命令が世界中で発令されました。自粛生活が続く中、私たちはお互いにどのように連絡を取り、何を伝えるべきでしょうか。様々なコミュニケーションが生まれてきています。
最も深刻な被害に見舞われた国のひとつ、イタリアでは、バルコニーで合唱したり、窓ごしにテニスをしたりして過ごしている人々もいるようです。陽が沈めば、建物の側面に往年の名作映画が投影され、楽しむことができます(ダンス好きにはダンスも推奨)。また、アトランタでは午後8時、バンクーバーとニューヨークでは午後7時など、大勢の人が時刻を合わせ、各々自宅の玄関、窓、ポーチ、屋上から医療従事者に拍手と感謝のエールを送る動きも広がっています。
Adobe Stock / Guglielmo Mangiapane / Reuters
ユーモアも忘れてはいけません。最近では、「チャレンジ」と称する投稿の連鎖が広がりを見せています。ソーシャルメディアでの腕立て伏せチャレンジをはじめ、力比べ(ソファーを持ち上げる)、ペットの癒し動画など。友人をタグ付けして投稿し、運動を拡散するのが決まりです。「ソーシャルディスタンシング」というFacebookグループでは、有名な絵画をパロディ化して投稿するスレッドが立ち上がり、現在の感染流行を風刺するような加工を施しています。例えば、Grant Wood氏の著名な絵画「アメリカンゴシック」では夫婦が家の中に入っていたり(くわは庭先に置かれたまま)、Edward Hopper氏の食堂を描いた作品「ナイトホークス」では店内に誰もいなかったり。
感染者自身でさえユーモアを発しています。ニューヨークでCOVID-19に感染したと思しき3人のルームメートが、即興バンドを結成して、コロナウイルスについてのおかしくも殊勝な啓発メッセージを発しています。
困難な時代、やり場のない思い
現状を笑い飛ばすのは一時の癒しにはなりますが、それで現実が変わるわけではありません。COVID-19は今も世界中のコミュニティを破壊し、肉体的にも心理的にも苦しい犠牲を人類に強いています。コロナ禍における自己表現は強力で、世界的な有事に対して非常に人道的なモノの見方を問いかけてきます。3月28日、AP通信社はイタリア人医療従事者たちの衝撃的なポートレートシリーズを公開しました。この写真からは、被写体がみな深いショックと疲労に包まれている様子が見てとれます。その後、医療従事者によるバイラルキャンペーンが発足。全身防護服に身を包んだ姿など、ソーシャルメディアに医療チームの写真を投稿し、手にはメッセージを掲げていました。「私たちはみなさんのためにここに留まります。みなさんは、私たちのためにどうか家に留まってください」
Adobe Stock / Nilserk Vasquez / EyeEm
医療の専門家も、ソーシャルメディアを利用してパンデミックの重大さと生活への影響に対して警笛を鳴らしています。シアトルのLisa Miller医師は、同僚の麻酔科医、John Henao氏が間に合わせのフェースバリアを着用している写真をTwitterに投稿。医療従事者用の防護具が不足することがいかに危険かについて、詳しい説明も付け加えています。彼女のツイートは、ほかの医師、看護師、補助スタッフのメッセージと共に_The Guardian誌_で取り上げられました。「恐怖を感じます」とLisaは綴っています。「自治体の関係者に電話、メール、ツイートなどでコンタクトを取り、安全に治療するため医療従事者に適切な防護具が与えられるようぜひ要求してください」と、ハッシュタグ#getmePPE(防護具をください)で締めくくっています。
被害がまだそれほど深刻でない国でも、COVID-19の陽性患者はソーシャルメディアを利用して自らの経験を共有しています。年齢、人種、性別、居住地も様々な中、著名人からも声が上がっており、人々の共感をよんでいます。3月17日、俳優のIdris Elba氏が動画をツイートして、COVID-19に感染したことを報告しました。妻のSabrina Dhowre氏が隣りに座っているその動画で、「みなさん、我々は離れることを余儀なくされています」とIdrisは語っています。「しかし、今は結束の時です。互いのことを思いやりましょう。多くの人々の生活が脅かされている今こそ」。ウイルス感染を公表した著名人には、ほかにもTom Hanks氏、Daniel Dae Kim氏、Slim Thug氏、Kristofer Hivju氏などがいます。
刻一刻と不安がつのり、先の見えない恐怖の渦中にあっても、クリエイティブな精神は息づいています。歯科医からアーティストに転身したSara Shakeel氏は、蛇口の水や石けんの泡にグリッターエフェクトを追加した手洗い励行の写真を投稿。イタリアのイラストレーター、Giulia Rosa氏は自作のシュルレアリスム風ポートレートにマスクを重ねた画像を投稿しています。
「必要」が「発明」を産む
隔離生活と連帯感の必要性が、新たにアーティスティックなコラボレーションを生み出しました。作曲を学ぶ学生、Shelbie Rassler氏は、コミュニティで離ればなれの人たちを結束させる必要性を感じ、ほかの音大生に呼びかけてバーチャルオーケストラを結成。「What the World Needs Now Is Love(世界は愛を求めている)」をアレンジしたアンサンブルを演奏しました。60年代にヒットしたBurt Bacharach氏の名曲ですが、瞬く間に話題となり、なんとBurt本人の耳にも入ったそうです。Burtは、NPRの記者Elizabeth Blair氏に「光栄ですね。誇りに思います」と感想を語り、芸術と安全を守る活動を次のように称えています。「クリエイティブでお互いがつながる創意工夫の心が素晴らしい。ソーシャルディスタンスもきちんと維持してますしね」
Adobe Stock / Obiageli Adaeze
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この記事は2020年4月13日にRF Jurjevucsにより作成&公開されたSo, How Are You Feeling?の抄訳です。