Make Up is not a Mask:自己表現としてのメイク – 隠す手段から、芸術的表現へ #Adobe Stock

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「メイクアップ、メーキャップ(make-up)」という言葉は、1920年にMax Factor氏によって作られました。「もっと美しい表情を(to make up (one’s) face)」という氏の口癖に由来した言葉です。元々は動詞として使用されていたものの、舞台芸術の業界で名詞に転用され始めました。当時は品位にかけると思う人も多かったといいます。それから100年が経ち、舞台メイクの過剰な表現は、今や化粧品業界では常識となりました。ソーシャルメディアで活躍するアーティストの中には、過激で派手な表現を信条とし、ジェンダーフルイドな美の感覚を発信して支持を集めている人もいます。化粧品は、化粧する人を「より良く」見せるためのものではなく、画家のパレットのように表現のための手段となってきているのです。かつてはVogue誌も、前衛的なサブカルチャーを取り上げることには難色を示していました。ハイエンドで高級志向な基本方針に合わなかったのでしょう。今では「エクストリームビューティー」というビデオシリーズがあり、変化の様子がうかがい知れます。

ちょっと前ですが、4月26日のノーメイクデーをきっかけに、アドビはこれまでの化粧品の役割、そして化粧をすることの意味がどのように変容したのかを考えてみました。新進気鋭の現代の美容家にとって、メイクは素顔を隠すための仮面ではなく、個性、スキル、芸術性を発揮する手段になっています。

「ドール」に「モンスター」、新しいスタイルの誕生

Adobe Stock / Julia K / Stocksy

近年、サブカルチャーの分野で「リビングドール(生きたお人形さん)」、「ジェンダーレスモンスター(無性別モンスター)」と呼ばれるスタイルが登場し、知名度が高いアーティストやパフォーマーも現れました。このスタイルの特徴は、身体をキャンバスになぞらえ、メイクを駆使して自分自身を生きる芸術作品に変えてしまうという点です。このようなメイクは何かを隠そうとする仮面ではなく、アーティストが意図した過激な自己表現の方法だといえるでしょう。

「リビングドール」は人を人形のような見た目に近づけようとするスタイルで、常識に一石を投じたり、世の中の注目を集めたりする狙いがあります。

「人形というコンセプトが好きですね。何の色もついていないので」とヴェリは語ります。ヴェリは「リビングドール」コミュニティに属しており、「TheCut」の動画にも出演しています。「でも見た目を人にからかわれるのは嫌ですよ」。

「リビングドール」をはじめとする「ジェンダーレスモンスター」は、既存のコンセプトを変身のモチーフにすることがよくあります。外見を人間ではなくモンスター風にすることで、男か女かという性別の境を飛び越えようという意図があるのです。ベルリンを拠点とするアーティストHungryは、自らのアートを「歪んだ女装」と表現。コンセプトは「昆虫顔の女性と80年代ビジネスウーマンの掛け合わせ」です。その芸術スタイルは、節足動物のような人工的な顔面彫刻と、ペイントや改造を施された艶のあるモダンな衣装の組み合わせで構成されています。

芸術的なメイクに大がかりな小物を合わせてコーディネートするケースも増えてきました。高級ブランドにもその傾向は表れています。グッチの2018年秋冬コレクションでは、(切断された)自分の頭のレプリカを手にもったモデルや突然変異した人工の角が生えたモデル、「第三の目」がついているモデルが登場しました。ただクリエイターのほとんどは個人で活動しています。例えばInstagramで活躍する2人組「@matieresfecales」は、Steven Raj Bhaskaran氏とHannah Rose Dalton氏からなるユニットで、ハイパーリアリズムの手法を用い、人魚や足のかかとが膨れたエイリアン風の生き物に変身することで知られています(matieresfecalesのウェアラブル作品は一般向けに販売しています。現在の小売価格は10,000ドルですが、将来的には低価格版が発売されるかもしれません)。

デジタル加工したデザインの発達

Adobe Stock / Archan Nair.

AR(拡張現実)ツールが普及してきたことで、フィルターアプリで加工した顔をトレードマークにするサイバー系アーティストも台頭してきました。

ARフィルターは欠点をぼかしたり使用者をより魅力的に見せるためのツールではなく、キラキラ感と派手な演出を楽しむためのツールです。Beauty3000はその筆頭といえるでしょう。Johanna Jaskowska氏が作成したアプリで、顔を乳白色のフィルムでキラキラとコーティングしたような効果が特徴です。顔全体ではなく、特定の部位をピンポイントでデジタル加工するフィルターもあります。Paige Piskin氏は(2020年3月現在)60のフィルターを開発。代表的なフィルターは「Lil Icey Eyes」で、海外ドラマの人気シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するワイトのように虹彩を明るく加工します。またデジタル加工技術の目線でいうと、Dazed誌の2019年2月版に、AIフィルターを適用して顔の一部に特殊加工を施した画像が掲載されました。Kylie Jenner氏の画像を被写体にした画像で、化粧した顔の半分が溶けて歪んだような加工が施されているのがわかります。

反対に、フィルター加工された画像をIRL(現実世界)で再現し、デジタルの造形表現を実写化するという逆のトレンドも生まれています。このトレンドの特徴は大胆なグリッター、ステッカー、装飾小物の使用です。元々はInstagramやTikTokのフィルターだった効果を現実世界に移植しています。ほかには「ピアッシングチャレンジ」という流行も生まれました。フィルターがランダムに生成するピアッシングを、ユーザーが現実世界で再現するものです(#piercingchallengeは現在TikTokで9,800万個のハッシュタグが付いています)。

商品を展開する企業の中には、「IRLフィルター」のアイデアを自社の方針に取り入れ、機能にファッション性を付与しているところもあります。例えばスターフェイスは美容系のスタートアップ企業で、絵文字文化にインスパイアされたかわいいデザインの抗ニキビパッチを販売しています。

化粧は皆のためのもの

Adobe Stock / Thais Ramos Varela / Stocksy

近年、女性以外でも化粧に関心を持つ人が増え、個性を表現するために化粧するという人が増えてきました。性別による偏見も昔ほど強くありません。元々こうした自由な価値観はアーティスティックなコミュニティで育まれてきましたが、ブランド企業も注目するようになってきました。「ビヨンドバイナリ」、「ジェンダーフルイド」、「ジェンダーニュートラル」という表現は、メイク業界でも浸透してきています。

Jeffree Star Cosmetics社は、メイクアップアーティストでもある創業者の名前を冠して設立されたブランドで、多様な性を持つモデルを起用しています。有名なアイシャドウパレット「Androgyny」(「両性具有」の意)は、Jeffree自身の「人生のテーマ」にちなんで名付けられました。同社の化粧品は、飽和感が高く、マットな質感で、軽い付け心地のハイライターが特徴です。

同じく、「Makeup for Everyone(あらゆる人にメイクを)」をキャッチフレーズに展開するブランドFluide社は、きらびやかで明るいカラーリング、着色性の高いリップ製品を販売しています。 Adveket社は「ビヨンドバイナリ」を地で行くスキンケア・美容ブランドで、ライナー、口紅、リップクレヨン、リップグロスを幅広く取り揃え、ヌードカラー、赤、ピンクなどパレットのカラー展開も豊富です。トレンドは今や欧米だけではありません。LAKA社は、2018年に設立された初の韓国産ジェンダーニュートラル化粧品ブランド。落ち着いた色味とミニマルな美しさが特徴で、マットな色合い、頬紅、アイシャドウパレットをはじめ、様々な製品を展開しています。

メイクで祝う、ノーメイクの日

ノーメイクの日を祝うというのに、顔にとことんメイクをするとはいかがなものか。そのような見方は、化粧を毎日の日課で、素顔を隠すための義務としてしか見ていないかもしれません。近年、メイクブランドはプロモーションで「しなやかさ」と「ナチュラルさ」を声高にアピールしています。しかしそれは、化粧品を使用するモデル自身の「自然な美しさ」があってこそ。ノーメイクが公平だとは肯定したがいところです。自分の顔を芸術作品のキャンバスにして、自分をありのままに表現したいと願うのは従来の美容の価値基準に反しているかもしれません。ですが、ノーメイクもかつては(おそらくそれ以上に)許されない時代がありました。

ノーメイクデーの「ノー」は、必ずしも化粧品を使用しないことを意味するのではなく、毎日の義務的な日課、欠点隠しのメイクに対する「ノー」ともいえるのではないでしょうか。

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この記事は2020年4月24日Angelica Freyにより作成&公開されたMakeup-is-not-a-mask-but-a-tool-for-self-expressionの抄訳です。