あの会社の働き方改革はなぜ成功しているのか? ワークスタイル変革オンラインセミナーレポート

新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向け、国や自治体からテレワークを基軸とした新しい働き方が推奨されています。近年の働き方改革において注目されていたテレワークですが、先が見えないウィズ・コロナの日々が続くなか、単に「仕事を自宅に持ち帰る」のではなく、万全な事業継続性の下でテクノロジーを活用した「新しい働き方」をデザインすることが求められています。

2020 年 5 月 27 日に開催されたオンラインセミナー「Digital × Work Style Seminar 事業継続を実現するテレワークとドキュメントのデジタル化」では、緊急事態宣言下で全社員のリモートワークを進めたサイボウズ 青野慶久氏、2008 年からモバイルワーク、2011 年からペーパーレス化に取り組んで来たソフトバンク 長崎 健一氏を迎え、アドビの北川和彦が「いま、企業が取り組むべきワークスタイル改革成功のポイント」を紹介しました。

サイボウズに学ぶ「ワークスタイル変革」の肝

基調講演に登壇したサイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏が「働き方の多様化」に取り組み始めたのは、2005 年のことでした。長時間労働が常態化し、離職率が 28%になったことがきっかけだったそうです。

サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏

「退職する人にヒアリングすると、さまざまな理由で辞めることがわかりました。そこで『100 人いれば 100 通りの人事制度がある』という考えの下、社員一人ひとりが望む働き方、いわばパーソナライズした人事制度を実現し、離職率に歯止めをかけようと考えたのです」と青野氏は説明します。時短勤務やリモートワーク、週 3 日の出社など、社員の要望に応える形でさまざまな制度を作りました。

その結果、離職率は大幅に低下。2020 年現在、8 年連続で離職率は 5%未満となり、社員のモチベーションが上がったことで、売上も右肩上がり、顧客満足度やパートナー満足度、カスタマーセンターの評価も上がるといった成果が出ました。「楽しく働ける環境を作ることで、ビジネス的にもメリットが生まれます」と青野氏は語ります。

そんな青野氏が、新しいワークスタイルを推進・定着させる成功ポイントとして挙げたのは、制度・ツール・風土の 3 点です。制度に関しては、当初は厳格なルール設定を課していましたが、管理コストの増大を招いた結果、現在は「社員の自主性に任せる」というスタイルが基本。ツールに関しては、ビデオ電話やチャットなどの「同期型」と、データベースやグループウェアなどの「非同期型」を組み合わせることで、「チームのリアルなコミュニケーションと円滑な情報共有を図り、テレワークの効率性を挙げています」と説明します。

そして最も重要なのが自主性に任せた多様な働き方を認める「風土」作りです。サイボウズは「企業理念の共有」「多様性の許容」「嘘はつかない、公明正大」「自立性」を掲げ、社員に浸透させることで、今回全社 100%のテレワークを実現しました。同社はこれからも引き続き、時代に応じた柔軟な働き方を推進していくそうです。

どんな状況でも事業継続性を確保するソフトバンクの働き方改革

特別講演に登壇したソフトバンク 人事総務統括 人事本部 本部長 兼 総務本部 本部長 長崎健一氏は、これまでの同社の働き方改革の取り組みや、新型コロナウイルス対策を振り返りながら、「今後、個人の生産性と企業の生産性を最大化するには、どのようなワークスタイルがベストなのかを考えることが、経営課題となると思います」との見解を示します。

ソフトバンク 人事総務統括 人事本部 本部長 兼 総務本部 本部長 長崎健一氏

ソフトバンクでは2008 年、当時同社が国内で初めて取り扱いを開始したiPhone を活用し、モバイルワークを進めてきました。iPad も業務に取り入れ、情報共有と意思決定のスピードを速めると共に、2011 年にはペーパーレス化を推進。クラウドに情報を保管することで、全社一気にペーパーレス化を実現したそうです。

これにより、在宅勤務やサテライトオフィスの活用もスムーズに導入することが可能に。2019 年は台風による電車の計画運休がありましたが、影響を受けることなく事業を継続できました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全社的に在宅勤務に切り替えましたが、業務に支障はなく、「早くからモバイルワークとペーパーレス化や在宅勤務制度の導入などの働き方改革を進めていたためだと思います」と長崎氏は説明します。

生産性はどうでしょうか。

5 月下旬に社員アンケートを取ったところ、多くの社員が「個人の生産性が上がった」と感じており、また組織の生産性に関しても、「変化なし/上がった」との回答が約 7 割を占めたそうです。長崎氏は「個人と組織の生産性のバランスを最適化することがポイントになります」と話し、今秋に移転を予定している新本社オフィスは、「リアルな場でコラボレーションを生み出すことをコンセプトに設計を進めています」といいます。

なお生産性が下がらなかった理由としては、「テクノロジーを有効活用できたこと」と長崎氏は見ています。GoogleのG Suite や Zoom を使い、情報共有やコミュニケーションを促進したほか、ドキュメントの共有にはどのデバイスからでも扱いやすいPDFを活用することで、場所を選ばず安心・安全にドキュメントをやり取りしているそうです。

長崎氏は最後に「最初は失敗もありますが、働き方改革は試行錯誤を重ねること、テクノロジーを活用すること、そしてやると決めたら徹底的にやることを念頭に、新しい働き方に取り組んでください」とアドバイスし、講演を締めくくりました。

アドビが提唱、「最低 3 つのポイントで働き方は変えられる」

実はアドビも、2020 年 3 月下旬から全社テレワークに切り替わっています。

セミナーに登壇したマーケティング本部 執行役員の北川和彦は、「アドビでは従来から在宅勤務を一部認めていましたが、全社テレワークになったのは今回が初めてです。それでもさほど混乱はなく、比較的にスムーズに業務を切り替えることができました」と振り返ります。

アドビ マーケティング本部 デジタルメディア ビジネスマーケティング 執行役員 北川和彦

そのポイントして北川が示したのは、「テレワークに必要となる 7 つの要素」です。具体的には(1)ドキュメントのデジタル化、(2)コミュニケーションの維持、(3)環境整備の充実、(4)シームレスな連携、(5)セキュリティ、(6)顧客など外部との対応、(7)リーダーのサポートと信頼の 7 点です。

アドビはそもそもAdobe Document Cloud というドキュメントソリューションの開発元なので、デジタルドキュメントを中心にしたワークフローやコミュニケーションが確立していました。Document Cloud はサイボウズの kintone など主要クラウドサービスとも連携し、タブレットやスマートフォンでもスムーズに仕事ができます。またAdobe Sign を使えば契約業務もオンラインで完結しますし、セキュリティも万全で、紙の書類に付き物の破損や廃棄のリスクもありません。こうした環境やプロセスを確立したうえで、リーダーが現場をけん引することで、「組織全体に新しいワークスタイルが浸透していきます」と北川は説明します。

「ドキュメントのデジタル化、コミュニケーションの維持、セキュリティの 3 つだけでも取り入れれば、仕事のやり方はかなり変わるはず。Acrobat DC を導入すれば、自動的にこの 3 つの要件を満たし、新しい仕事のやり方に挑むことができます。これを機にあらゆる企業が、New Normal(新しい生活様式)に則った新たなワークスタイルに取り組むことを期待しておりますし、またアドビはそうした企業を全力でご支援します」と話し、アドビがあらゆる企業の働き方のNew Normal をサポートする姿勢を示しました。