刺激に満ちたCreative Residencyプログラム1年を振り返る #AdobeResidency #CreativeResidency

連載

Creative Residency

2019年5月から開始した2019年度 Adobe Creative Residency プログラムに参加したクリエイターが2020年4月30日をもってプログラムを修了しました。本記事では参加した2名の日本人クリエイター、福田 愛子中田 拓馬の1年間の活動の振り返りインタビューをお届けしたいと思います。

Adobe Creative Residentsの発表となった2019年の5月にNew Yorkで開催されたクリエイティブキャリアリソース・カンファレンスの「99U Conference」でのLive Streamingの様子


福田 愛子/ Illustrator & Visual Artist

ファッション誌、ラグジュアリーブランドの広告などで活躍するイラストレーター/アーティスト。アーティストとしてのキャリアを歩んでいく上で、アーティスト性を高めたいという思いからでCreative Residencyに参加しました。過去にも海外クライアントとの仕事やNew Yorkでの個展などを行ってきましたが、本格的に活動の軸足を海外に移すことを目指し、(海外マーケットで必須となる)自身のアーティスト性を磨くことだけではなく、作品をきちんと言語化するためのプレゼンテーション能力を習得することを目標としていました。


中田 拓馬 / Motion & Experiencial Designer

京都を拠点とするインタラクティブデザイナー/リアルタイムグラフィックスデザイナー。国内外でのインスタレーション作品の制作のほか、広告やアーティストのMV作品の制作など、テクノロジーを軸に多岐にわたる活動をしてきました。Creative Residencyに参加する上では海外でのプレゼンスを高めるためにも自身の代表作となるような作品を制作することを目標に掲げていました。

Creative Residency プログラムがスタートした際の取材記事については、こちらのインタビュー取材記事をご確認ください。

世界で活躍するビジュアルアーティストへ。イラストレーター・福田愛子のクリエイティブが向かう先
技術だけでなく「表現」で勝負できるテクノロジストへ。リアルタイムグラフィックスデザイナー、中田拓馬

Creative Residency のプログラムの中でターニングポイントとなったのがロサンゼルスで開催されたクリエイターの祭典、Adobe MAX 2019。福田さんは Creative Residency のオフィシャルブースの空間デザインやグッズに掲載されるのイラストレーションを、中田さんはインスタレーション作品「The Boundry」をそれぞれ制作。現地の参加者やクリエイターからも好評を得ました。Adobe MAX 2019の様子はこちらからご覧いただけます。

Adobe MAX 2019で作品を発表。2人のクリエイターが考える、世界で通用するキャリアの描き方

そのほか、海外のレジデントメンバーとの交流や、世界で活躍するクリエイター達のスタジオヴィジットなど刺激的な日々を送ってきました。またクリエイティブ面だけではなく、英語でのコミュニケーションやメディアへの受け答えの作法など、ビジネス面で求められるスキルについてもトレーニングを重ねました。そんな2人が、この1年間の活動を総括します。

CC道場スペシャル「海外で活躍するクリエイターが考えるこれからのキャリア」

その舞台となったのが、Creative Residency プログラム最終日となる4月30日に行われた「Creative Cloud 道場」。この回は特別に Creative Residency スペシャルと題し、2人が Creative Residency の1年間の活動を振り返りました。

前半は福田さん、中田さんの2人によるプレゼンテーション。後半は「これからのキャリア」について、お金、営業、コミュニティといった様々な切り口からのクロストーク。COVID-19によって世界中のクリエイターが働き方をの変更を余儀なくされる中、どのような戦略をとっていくべきか、2人が Creative Residency で得た知見を交えながらディスカッションを行いました。ここでは、時間の都合上お伝えすることができなかった部分を補足の上、トークのハイライトをお届けします。

クリエイティブとお金の関係

まず最初のトピックは「お金」について。フリーランスで活動するクリエイターは、同時に1人の経営者でもあります。活動を継続していく上では安定したマネタイズも重要な視点。クリエイティブとお金のバランスについて、2人はどのようなことを意識しているのでしょうか。

福田:「自分のクリエイティブにかかる時間とコストを意識することの大事さはこの1年で学びましたね。今までは自分が納得いくまで時間をかけて1つの作品を作ることに注力していたので、必然的に仕事を断らないといけないという課題があったのですが、ワークフローや対価に対する価格設定をメンターシップ制度を通じて見直すことができました。また、ラフ段階での修正回数を決めるなど、仕事をスムーズに進めるために契約内容を話し合うこともより良い仕事するためには重要ですね」

中田:「お金に関しては参加当初から考えていました。海外の案件は日本と比較して予算規模が大きい。そのため、1つの作品制作にかけられる時間が長くなり、質も向上する。そうしたいい循環の中で長期的に活動していくためには海外での仕事を獲得していかなければいけないので。海外で仕事をする上で自分の代名詞となるような作品をつくりたいという目標を持って Creative Residency に参加しましたが、結果的に1年間で3つの作品を完成させることができたので、目標は達成できたと感じています」

ポートフォリオは最大の営業ツール。制作プロセスを公開するのがポイント

続いてのトピックはフリーランスクリエイターの「営業」について。海外クライアントと仕事をする中で、SNSを通じてのオファーは少なくありません。特にBehanceが主な流入経路になっていると福田さんは話します。ポートフォリオをつくる上で意識するべきポイントはどのようなことでしょうか?

福田:「この1年の間に海外のアートディレクターからの依頼や、海外ブランドの日本支社からの依頼をBehanceを通じて受け取りました。日本のスタッフの方だったんですが英語でポートフォリオを作っていたことが功を奏して、本国のクリエイティブチームにもスムーズに提案していただけたようです。ポートフォリオを編集する際に重視しているのは最初に目に入る事例です。一目見て相手に響かなければ、それ以上ポートフォリオは見てもらえません。全体に気を配りつつも、ファーストビューを何より意識しています」

一方で、その他のソーシャルメディアでは完璧を目指さずに、カジュアルな投稿を高い頻度で更新しているそうです。この姿勢は、レジデントメンバーのオクタビアから学んだもの。

福田:オクタビアはセルフケアの大事さといったTipsや日常の些細な出来事をイラストにして投稿しています。私の場合は、完成度の高い『傑作』を作らなければいけないとハードルを自分で設定をしてしまい、初めはなかなか投稿できずにいたのですが、もっと力を抜いてもいいんだなって。今は自分の制作の様子をシェアしたり、アトリエを公開したり、フォロワーの方とコミュニケーションする場所として利用しています」

福田 愛子さん Instagram @aikofukudadraw

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A post shared by Aiko Fukuda 福田 愛子 (@aikofukudadraw) on May 1, 2020 at 8:42am PDT

中田:「SNSを特別なものではなく日常化するというのは大事ですよね。僕もあまり更新頻度が高い方では無かったのですが、毎日1作品を作って掲載するようにしています。未完成のものを掲載することに最初は抵抗があったんですが、小説家がツイッターに文章を書いてもそれが小説になるわけではないし、作品の価値を下げるものではないと気づいたんですよね。SNSのコンテンツと作品を自分の中でしっかり切り分けて更新をするようにしています」

中田 拓馬さん Instagram @takuma.nakata

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A post shared by Takuma Nakata (@takuma.nakata) on Dec 31, 2019 at 3:14am PST

知識は減らない。クリエイティブコミュニティを育てるシェアの精神

続くトピックは「コミュニティ」について。クリエイティブコミュニティの創出、支援はAdobeにとって重要なテーマでもあるため、Creative Residency ではナレッジシェアに力を入れてきました。個人の経験を共有し、コミュニティに貢献することが、クリエイター個人にとってもポジティブな効果をもたらすと中田さんは話します。

中田:「僕は1人の技術者として常に自分の関わるコミュニティに貢献することを重要視しています。ナレッジをシェアしたりプロセスを公開していかないと、僕がどんなスキルを持っているのか、どんなスペシャリティがあるのかというは伝わらないんですよね。今後はよりテクニカルの知識をシェアしたり、若手のクリエイターを支援していく体勢を整えていきたいです」

そうした技術者のコミュニティとは異なり、イラストレーターの間ではその知見を共有する文化があまり浸透していません。特に営業やお金に関するTipsはブラックボックスとなっており、イベントに登壇した際は最もよく聞かれる分野の一つだそう。こうした状況を改善するために今後は積極的にティーチングの機会を持ちたいと福田さんは話します。

福田:「営業ノウハウと制作プロセスはイラストレーターにとって企業秘密な部分だと思っていたんですよね。でも話すことによって何かを失うわけでもないし、むしろ人に説明することで無意識にやっていることを意識化できることに気付きました。私も独立直後に苦労した部分でもあるので、今後はどんどん発信していきたいと思います」

愛子さんのメンターのIC4DESIGN, カミガキヒロフミさん

拓馬さんのメンターのRhizomatiks Research, 真鍋 大度さん

クリエイターのキャリアを次のステージへ

トークの最後に、2人は Creative Residency の一年間を経て成長したこと、学んだことについて振り返りました。

福田:「一番大きかったのは、仕事をする上でのマインドが変わったこと。今思うと、クライアントの要望に答えることを優先しすぎて自分らしさがあまり表現できていなかった。レジデンシーでも、最初要望に応え過ぎてうまく持ち味を発揮できていなかった。でも、海外のデザイナーとやり取りする中で、自分のアーティスト性を立たせることこそが求められていることだと実感したんです。私の世界観を評価してくれる人と仕事ができるよう、よりアーティストとしての個性を磨いていきたいですね」

中田:「この1年の中ではLAとインドでインスタレーションを発表できたことが何よりの収穫でした。僕が目標としていたライゾマティクスの真鍋さんやザック・リバーマンといったアーティストがかつて立っていた舞台に僕自身もやっと登ることが出来たのだと自信がつきましたね。これまでの10年は自分の実力をつけるため期間。今後はより広く活躍していくために、より作家性を磨いていきたいと考えています」

ぜひ今後も、Creative Residency プログラムの先輩としてコミュニティの中心となってクリエイティブを牽引してくれるリーダーとして将来のクリエイティブを担ってもらいたいと思います。1年間活躍ありがとうございました!

(インタビュー/編集:高橋 直貴

Adobe Creative Residency Community Fund

Adobe Creative Residency プログラムでは、COVID-19による影響を受けたクリエイターの創作活動をサポートするためにグローバルで 1億円ファンドを用意し、個人の「クリエイティブプロジェクト」と「アドビ委託プロジェクト」を募集しています。選考を通ったプロジェクトには、5~50万円のCommunity FundやCreative Cloudの1年間ライセンスなどを提供します。申請は毎月ありますが、最終締め切りは2021年3月までとなります。(※次回の申請は7/31まで)

1人でも支援できるよう運営を行っていきますので引き続き、クリエイターのみなさんはチェックをお願いいたします!

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